日本企業の業務のうち、およそ4割以上が「定型業務」に費やされているといわれています。
データ入力や請求処理、勤怠集計、問い合わせ対応など、日々繰り返される作業は欠かせない一方で、社員の貴重な時間を奪い、生産性向上の大きな壁になっています。
こうした定型業務を削減できれば、空いたリソースを戦略立案や顧客価値の創出といった本来注力すべき業務に振り向けることが可能です。しかし現実には「RPAを導入したけれど思ったほど効果が出ない」「属人化した業務が多く手がつけられない」といった課題を抱える企業も少なくありません。
本記事では、定型業務削減のメリットや具体的な進め方、そして最新の生成AI活用による削減効果について、成功事例も交えながら解説します。
ツール導入だけでは不十分。成果を最大化するには、全社的なロードマップ設計と社員のAIリテラシー向上が不可欠です。
定型業務の基本的な定義や特徴はこちらで詳しく解説しています。
定型業務とは?効率化と自動化の手順・RPA活用まで徹底解説
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定型業務とは?なぜ削減が必要なのか
定型業務は、企業活動に欠かせない一方で、過剰に時間を奪うことで社員の生産性を阻害する要因にもなります。
まずは「定型業務とは具体的にどのような作業なのか」を整理し、非定型業務との違いや、なぜ今その削減が求められているのかを確認していきましょう。
定型業務の定義
定型業務とは、あらかじめ手順が決まっており、誰が行っても同じ結果になる作業を指します。
たとえば、データ入力や請求書処理、勤怠管理、顧客対応の一次受付などが代表例です。これらは繰り返し性が高く、ルール化が容易で、マニュアル化すれば誰でも実施できるという特徴を持っています。
一方で、属人化しやすく「特定の社員しかできない」状態になりやすい点も課題です。
非定型業務との違い
非定型業務は、状況に応じた判断や創造性が求められる業務です。新規サービスの企画、顧客への提案、経営戦略の立案などが該当します。
つまり、定型業務=ルールで処理できる作業/非定型業務=付加価値を生む思考的な作業と整理できます。
定型業務を削減することは、社員が非定型業務に集中できる環境を整えることにつながります。
削減が求められる背景
なぜ今、定型業務の削減が強く求められているのでしょうか。その背景には以下の社会的要因があります。
- 人手不足の深刻化:少子高齢化により労働人口が減少。限られた人材を有効活用する必要がある。
- 労働時間規制の強化:働き方改革関連法により、残業時間に上限規制が設けられた。定型業務の削減なしでは対応困難。
- 競争力強化の必要性:市場環境の変化が早く、非定型業務(企画・戦略)への投資時間を確保できるかが差別化要因になる。
- AI・自動化技術の普及:RPAや生成AIの登場により、従来は「人がやるしかない」とされていた作業も削減可能になった。
つまり、定型業務の削減は「効率化のための選択肢」ではなく、生き残りをかけた必須戦略になっているのです。
定型業務の代表例
定型業務は「事務作業」だけに限られるわけではありません。企業活動のあらゆる領域に存在しており、部門ごとに異なる形で繰り返されています。ここでは、代表的な領域ごとに見ていきましょう。
バックオフィス業務
- データ入力:顧客情報や経費データをシステムに入力する作業
- 請求処理:毎月発生する請求書の発行や支払い確認
- 勤怠集計:タイムカードや打刻データの確認・集計
バックオフィスは典型的な定型業務の宝庫であり、効率化や自動化の余地が大きい領域です。
フロント業務
- 問い合わせ一次対応:FAQに基づいた定型的な回答や取次ぎ
- 顧客情報更新:住所変更や契約内容修正など、決められたルールに沿った登録作業
フロント業務でも、定型化できるタスクは多く存在します。顧客接点の初期段階を自動化することで、担当者はより高度な対応や提案業務に集中できます。
マネジメント業務
- 会議議事録の作成:決まったフォーマットで要点を記録する作業
- レポート作成:売上データや稼働状況を集計・整理して提出
管理職やリーダー層の業務にも、繰り返し性の高い作業が含まれます。これらを削減できれば、戦略策定や人材育成など、より付加価値の高い活動に時間を振り向けられます。
このように定型業務はバックオフィスにとどまらず、顧客対応やマネジメント領域にも広がっているのが現状です。だからこそ、組織全体での効率化を視野に入れることが重要なのです。
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定型業務削減のメリット
定型業務を削減することは、単なる効率化にとどまりません。企業の競争力や社員の働き方に直結する、多面的なメリットがあります。ここでは主要な4つの効果を見ていきましょう。
生産性向上と付加価値業務へのシフト
定型業務に割かれていた時間を削減することで、社員は新規提案や顧客フォローなどの非定型・付加価値業務に集中できます。
例えばある製造業では、請求処理をRPAで自動化した結果、年間約1万時間の作業削減を実現。空いたリソースを新規事業の企画チームに再配置し、売上増加につなげました。
ミス削減と品質安定化
人手による繰り返し作業は、入力ミスや確認漏れといったヒューマンエラーを生みやすいものです。自動化を導入すれば、ルール通りに処理されるため品質が安定します。
例えば金融業界では、帳票処理の自動化によってエラー率を70%以上低減した事例もあります。
人件費・残業代削減によるコスト効果
定型業務は「時間=コスト」に直結しています。自動化やAI活用によって作業時間が短縮されれば、その分の残業代や人件費を削減できます。
あるサービス業の企業では、問い合わせ対応にAIチャットボットを導入した結果、工数を50%以上削減し、年間数百万円規模のコスト削減につながりました。
従業員満足度向上と離職防止
単調な業務が減ることで、社員の心理的負担も軽減されます。「やらされ感」の強い定型業務から解放されることで、働きがいが高まり、離職率の低下にもつながります。
実際に、人材サービス業界の調査では「自動化によって単純作業が減ったことで、業務満足度が上がった」と回答した社員が6割以上にのぼるという結果も出ています。
このように、定型業務削減は時間・コスト・品質・人材のすべてに効果を及ぼします。単なる効率化ではなく、経営戦略としての価値を持つ取り組みなのです。
定型業務を削減する方法
定型業務の削減を進めるには、思いつきでツールを導入するのではなく、計画的なステップが必要です。ここでは代表的な方法を整理します。
業務棚卸しと優先順位付け
まずは、社内で行われている業務を洗い出し、「頻度が高い」「工数が大きい」「標準化しやすい」ものを削減候補としてリスト化します。
例えば「毎日1時間かかっているデータ入力が月20日で20時間、年間240時間」など、定量化するとインパクトが明確になります。
標準化とマニュアル化
同じ作業でも担当者によってやり方が違うと効率が落ち、属人化の原因になります。業務フローを標準化し、マニュアルを整備することで、誰でも同じ品質で遂行できる体制を作れます。
標準化の過程で「そもそも不要な業務」も見えてくるため、削減効果がさらに高まります。
外注・BPOの活用
単純作業のすべてを社内で抱える必要はありません。データ入力や書類整理などを外部のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に委託することで、社員の時間をコア業務に振り向けられます。
ただし、委託範囲や品質管理を適切に設計しなければ、コストが膨らむリスクもあるため注意が必要です。
自動化ツール(RPA)の導入
RPA(Robotic Process Automation)は、定型業務削減の代表的な手段です。請求書発行、データ入力、システム間連携など、人が手作業で行っていた処理を自動化できます。
実際に、ある金融機関ではRPA導入により年間数千時間の削減を実現しています。
ただし、ここで止まってしまう企業も少なくありません。「RPAを入れたが運用が続かない」「期待したほど削減できない」という失敗例も多く見られます。
ここから先の「生成AIを活用した新しい削減アプローチ」を取り入れることが、他社との差をつけるポイントです。
生成AIで削減できる定型業務のユースケース
従来、定型業務削減といえば「RPAによる自動化」が主流でした。しかし近年は、生成AIの普及によって、より幅広い業務が削減可能になっています。ここでは特に効果の大きいユースケースを紹介します。
議事録の自動生成(従来1時間 → 10分)
会議の音声をAIに読み込ませることで、自動的に議事録を生成できます。従来は1時間以上かかっていた作業が、AIを活用すればわずか10分程度に短縮可能です。
さらに要点の抽出やアクションアイテムの整理まで自動化できるため、管理職やプロジェクトリーダーの時間を大幅に削減できます。
メール・文書の要約・下書き作成
日常的に発生するメール対応や報告書作成も、生成AIの得意分野です。受信メールを要約し、返信文の下書きをAIに生成させることで、担当者は確認と調整に専念できます。
ある企業では、メール作成にかかる工数を40%以上削減した事例もあります。
FAQ・問い合わせの自動応答
顧客や社員からの定型的な問い合わせは、AIチャットボットが一次対応を担うことが可能です。FAQデータを学習させることで、24時間365日、即時回答が可能になります。
導入企業の中には、問い合わせ対応工数を50%以上削減したケースも見られます。
データ集計・レポート作成
日々発生する売上データや業務実績を集計し、レポートをまとめる作業もAIが支援できます。膨大なデータを瞬時に分析し、グラフやレポートの雛形を自動作成することで、従来の作業時間を大幅に削減できます。
単なる数値の整理にとどまらず、改善提案や傾向分析まで自動化できる点がRPAとの差別化ポイントです。
ツールを導入するだけでは“削減効果”は限定的です。
成果を最大化するには、生成AIを実務で使いこなせる社員を育成することが欠かせません。
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定型業務削減の成功事例
定型業務の削減は、理論上のメリットにとどまりません。実際に多くの企業が自動化やAIを導入し、大幅な工数削減を実現しています。ここでは代表的な3つの事例を紹介します。
製造業A社:RPAで請求処理70%削減、戦略部門に人員再配置
製造業A社では、毎月数千件発生する請求書処理をRPAに任せたところ、処理工数の約70%を削減することに成功しました。
浮いたリソースは戦略企画部門に再配置され、新製品開発のスピードアップにつながっています。
サービス業B社:AIチャットボットで問い合わせ工数50%削減
サービス業B社では、顧客からの定型的な問い合わせが膨大に発生していました。AIチャットボットを導入した結果、問い合わせ対応工数を50%以上削減。
社員は複雑なケース対応や顧客満足度向上に注力できるようになり、顧客満足度調査のスコアも改善しました。
金融業C社:帳票処理を自動化、年間1万時間の削減
金融業C社では、帳票の入力・整理・報告に多くの時間が費やされていました。RPAとAI-OCRを組み合わせることで、年間1万時間の作業削減を実現。
削減効果は人件費だけでなく、残業時間の削減や従業員満足度向上にも波及しました。
これらの事例から分かるように、定型業務削減の効果は時間削減→リソース再配分→企業成長という好循環を生み出します。
「効率化」だけでなく、企業の競争力強化につながる点が大きな価値です。
定型業務削減を失敗させないためのポイント
定型業務の削減は、多くの企業が取り組むテーマですが、必ずしも成功するとは限りません。実際には「期待したほど効果が出なかった」「導入しても現場に定着しなかった」という声も多く聞かれます。ここでは失敗を避けるための重要なポイントを整理します。
形だけのツール導入に終わらせない
「とりあえずRPAを導入したが、使われなくなった」というケースは少なくありません。現場の業務プロセスを棚卸しせずにツールを導入すると、対象業務が不適切で、効果が限定的になってしまいます。
業務フロー全体の見直しが必要
定型業務は単体で存在しているわけではなく、前後の業務プロセスと密接につながっています。部分的に自動化しても、ボトルネックが別の場所に移るだけで、全体の効率化につながらないこともあります。
削減を成功させるには、業務全体を俯瞰して最適化する視点が欠かせません。
社員が使いこなせなければROIは出ない
最新のツールを導入しても、社員が活用できなければ投資は無駄になります。操作方法を知るだけでなく、「どの業務にどう活かせるか」を理解し、自分の業務に取り込める状態になって初めてROI(投資対効果)が出ます。
だからこそ、社員研修によるAIリテラシー向上が不可欠です。ツール導入と並行して人材育成を行うことで、削減効果を最大化できます。
「定型業務削減を成功させるカギは“人材”にあります。生成AIを実務で活用できる社員を育成することで、ツール導入のROIが最大化されます。
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定型業務削減ロードマップ(実践ステップ)
定型業務を削減するには、ツール導入や外注といった単発の施策だけでは不十分です。全社的に成果を出すには、段階を踏んだロードマップを描き、継続的に改善していくことが不可欠です。以下に代表的な5つのステップを紹介します。
1. 業務棚卸しと削減対象の可視化
まずは現場の業務を洗い出し、どの業務がどれだけの時間を占めているかを可視化します。
「定量的なデータ」があることで、経営層や現場が共通認識を持ち、削減の必要性を合意しやすくなります。
2. 優先順位づけ(時間 × コストインパクト)
削減候補をリスト化したら、工数の大きさやコスト効果を基準に優先順位を決めます。
例えば「年間1,000時間かかっている作業」と「月数時間の作業」では、投資対効果が大きく異なります。まずはインパクトの大きい業務から着手するのが鉄則です。
3. 標準化・自動化の施策導入
優先順位の高い業務について、フローを標準化し、自動化や外注を導入します。
ここで重要なのは「部分最適で終わらせないこと」。対象業務だけでなく、前後のプロセスを含めた全体最適を意識する必要があります。
4. 社員研修・AIリテラシー教育
ツールを導入しても、社員が活用できなければ削減効果は限定的です。
生成AIやRPAを「自分の業務にどう活かすか」を理解できるよう、実務に即した研修を実施することで、定着率とROIが飛躍的に向上します。
5. 効果測定と継続改善
削減施策は一度で終わりではなく、効果を数値で測定し、改善を繰り返すことが成功の鍵です。
「年間で何時間削減できたか」「どの部署で効果が大きかったか」を定期的に評価し、他部署へ展開していくことで全社的な成果へつながります。
まとめ|定型業務削減は「ツール×人材育成」で最大化する
定型業務の削減は、単に「ムダな作業をなくす」ことがゴールではありません。空いた時間を戦略立案や顧客価値の創出といった付加価値業務へシフトさせることこそが本質です。
そのためには、RPAや生成AIといった自動化ツールを導入するだけでなく、それを現場で活かしきる人材育成が欠かせません。ツールと人材、この両輪がかみ合って初めて、本当のROI(投資対効果)が生まれます。
今後、AIはますます進化し、削減できる定型業務の領域は広がっていきます。企業に求められるのは「ツールを選ぶ力」ではなく「使いこなす力」を持つ組織づくりです。
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- Qどの業務から削減を始めるべきですか?
- A
頻度が高く、工数が大きく、ルール化しやすい業務から着手するのが効果的です。たとえば、請求処理や勤怠集計、データ入力などが代表例です。
- Q中小企業でも定型業務削減は可能ですか?
- A
可能です。クラウド型RPAやSaaS型の生成AIツールなら初期投資を抑えて導入できるため、中小企業でも十分に効果を実感できます。
- Q定型業務を削減すると人員削減につながりますか?
- A
必ずしもそうではありません。多くの企業は削減によって空いた時間を新規事業開発や顧客フォローといった付加価値業務に振り向けています。
- QRPAと生成AIはどう使い分ければいいですか?
- A
RPAは「ルールに基づく繰り返し作業」に強く、生成AIは「文章生成や判断補助」が得意です。請求処理やシステム連携はRPA、メール要約や議事録作成は生成AI、と組み合わせて活用するのが理想です。
- Q導入しても効果が出ないケースはありますか?
- A
はい。業務の棚卸しをせずにツールを導入した場合や、社員教育を行わずに使い方が定着しない場合はROIが出にくくなります。業務設計と人材育成をセットで進めることが成功の鍵です。
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