コンテンツ配信や店舗・施設ソリューションを手がけるUSEN&U-NEXT GROUPのAI活用は、グループ全体で約6,000名の従業員を巻き込み、極めて高いエンゲージメントを実現していることが大きな特徴です。グループ全体のAI利用率80%、月間約8,700時間の業務時間削減という驚異的な成果をあげています。
その旗振り役を担っているのが、2023年に発足したAI業務改革支援部です。現在は「株式会社USEN WORK WELL」として分社化され、社内専用の生成AIツールである「Buddy」の提供から全国の支店を回る地道な教育活動まで、多角的な支援を行っています。
セキュリティを最優先に考えた独自開発や、お酒を飲みながら行われるAIワークショップなど、その手法は極めて独自性が高く、かつ戦略的です。
今回は、株式会社USEN WORK WELLの代表取締役社長を務める住谷氏に、AIプロジェクトの全貌と、高い利用率を支えるための確実な浸透施策、そしてAIがもたらす新しい働き方の哲学について伺いました。

株式会社USEN WORK WELL
代表取締役社長
1999年、株式会社大阪有線放送社(現U-NEXT HOLDINGS)入社。人事・営業領域の責任者を歴任し、情報セキュリティ責任者としてDXや生成AI活用を推進するなど経営基盤の高度化に携わる。2024年4月より愛知県豊田市CDO補佐官として地方DXに参画。2024年9月、株式会社USEN WORK WELL代表取締役社長に就任。

株式会社USEN WORK WELL
AI Lab 企画部長 兼 開発部長
2023年、株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(現U-NEXT HOLDINGS)入社。グループ全体におけるAI活用を軸とした業務改革の推進を担当し、業務プロセスの高度化および生産性向上施策の企画・実行に従事。2024年9月、株式会社USEN WORK WELLの発足に伴い同社へ異動。2025年9月にAI Lab 企画部長に就任し、2026年1月より開発部長を兼務。新規事業・サービスの立ち上げと運営、グループ内生成AI活用を推進。特に法人向け生成AIサービス「U-Buddy Chat」、社内生成AIツール「Buddy」の企画・開発に注力。
※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。
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パソコンの歴史に重ねるAIのインフラ化までの道のり
住谷氏は、現在のAIの普及状況を30年前のパソコン導入期に例えて語ります。

「1995年にWindows 95が登場し、オフィスへパソコンが入り始めました。完全に普及するまでには10年ほどの時間がかかっていたかと思います。
1999年に私が入社した当時は、8人の部署にパソコンが2台しかありませんでした。今のAIもかつてのパソコンと同じように、ビジネスのインフラになっていく過渡期にあるのだと考えています。
当時のパソコンもそうでしたが、AIも普及しきるまでには一定の年月が必要です。ただし、今回は以前のような長い時間はかからず、3〜4年という短い期間で当たり前のインフラになると予想しています」
グループ代表のビデオメッセージを機に始まったAI改革
USEN&U-NEXT GROUPにおいてAI業務改革が本格的に動き出したのは2023年の春頃です。当時は社会全体で生成AIへの関心が急速に高まり始めたものの、具体的な活用に踏み切っている企業はまだ多くないという時期でした。

「グループの代表取締役社長である宇野は、グループ全体に向けてビデオメッセージを配信しているのですが、2023年4月のビデオメッセージで『みんなもAIを使いましょう』という呼びかけがありました。宇野は非常に先見性のある経営者で、グループ内での影響力も大きく、このメッセージをきっかけに一気にAI活用の機運が高まっていったと思います」
トップからのメッセージがすべての起点となったのです。当時ホールディングスのコーポレート部門で担当役員を務めていた住谷氏のもとにAI専門部署が作られることになり、2023年9月に正式な部門として「AI業務改革支援部」が発足しました。

独自開発の生成AI「Buddy」がもたらす安心感と利便性

「2023年時点の状況を考えてみると、ChatGPTなどの外部ツールをそのまま仕事で使うには大きな制約がありました。データが学習に使用されてしまうといったセキュリティ上の懸念があり、内製ツールが必須だと考えたのです」
AIの全社展開にあたり、外部サービスの導入ではなく独自のUIおよびUXを備えた社内向けの生成AI「Buddy」の開発を選択しました。
セキュリティが担保された環境を自社で整えることが、安心してAIを使えるようにするための絶対条件だったのです。「Buddy」の存在により、社員は責任の所在を気にすることなく、安全に業務データを扱うことが可能になりました。
ネーミングに込められた思いと社内公募による100本ノック
社内ツールの名称である「Buddy」という言葉には、単なる道具ではなく「仕事の相棒」であるという意味が込められています。

「ネーミングをするとき、私は100本ノックをよくやります。100個ほど案を出して、そこからみんなでどれがいいかを話し合って決めていきました」
集まった多くの案の中から、最終的に「Buddy」が選ばれました。仕事におけるAIの捉え方として、ミスをせず、いつでも答えてくれる非常に優秀な部下ができたというイメージを重視したのです。
この呼び名は社員にとっても親しみやすく、かつAIがもたらす新しい働き方の象徴として定着することとなりました。
社員検索やナレッジ参照を統合した「Buddy」の多機能性
「Buddy」にはシンプルなチャット機能以上の価値が組み込まれています。その代表的な機能のひとつが「社員検索」です。
6,000名規模の同グループでは仕事で繋がった社内の相手の経歴や所属を調べたいというニーズが高く、これを「Buddy」に搭載したことで利便性が飛躍的に向上しました。

「社員検索は大きなグループならではのニーズかもしれませんが、調べたい人の苗字をBuddyに入力すれば、登録されている情報がすぐに出てくるようになっています」
さらに、「Buddy」には社内の各種規定や営業マニュアル、人事関連のルールなどを参照できる仕組みも備わっています。
これにより、従来は総務や人事にメールやチャットで直接問い合わせていたような細かな疑問も「Buddy」に聞くことで自己解決できるようになりました。
AI浸透に最も効果があったのはアナログな普及戦略
AIをただ導入しただけでは浸透しないと考えた同グループは、非常にアナログで血の通った普及施策を展開しました。

「AIの利用率向上に一番効果があったと思うのは、活用推進チームが地方の支社を回る『Buddyゼミ』という取り組みです。意外にもアナログな手法ですが、18時以降にお酒を飲みながらワイワイとAIを体験してもらう、ビアバッシュのようなワークショップを行ったのです」
『Buddyゼミ』が極めて効果的だったのは、オンラインでの発信だけでは伝わらないAIの便利さを、社員が手を動かして実感できたためです。
札幌、仙台、名古屋、大阪、広島、福岡と全国を回る中で各支社にAIを使いこなすアーリーアダプターが現れ、彼らが周囲に広めるエバンジェリストとしての役割を果たすようになっていきました。

人間に残る最後の領域は「ジャッジメント」である
AIによって創出された時間の使い道こそが、これからの時代において重要だと住谷氏は考えます。

「雑務や事務作業を代替することで生まれた時間は、よりクリエイティブな価値創造の仕事に充てることができます。より広く考えると仕事に限らなくても良いと思っていて、家族と過ごす時間やボランティア、趣味や推し活に充てるのも豊かな人生を送るうえで良い選択だと思っています」
住谷氏は、AIが人間の時間創出に大きく貢献すると考える一方で、AIがどれほど進化しても、人間には「ジャッジメント」すなわち判断をする役割が残されると確信しています。

「AIから出力された情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、それをいつ誰にどのように伝えるのか、その内容に責任を持って発信するのかを判断するのは常に人間です。上司が部下のアウトプットをチェックして最終的な決定を下すように、人間はAIという極めて優秀な部下をマネジメントし、意思決定に注力する働き方へとシフトしていくことになるのではないでしょうか」
成功体験をベースにした法人向けソリューションの展開
社内での徹底的な活用と実績を背景に、同グループは「Buddy」をベースとした法人向けAIソリューションとして、生成AIチャット「U-Buddy Chat」や、生成AI活用の定着を支援する実践的な研修プログラムの提供も開始しました。

「AIをビジネスインフラとして導入したいと考えている企業様へ、しっかりとその価値を提供していきたいと考えています」
今後はAIを人事マネジメントや組織運営のあり方そのものを変革する技術として捉え、さらなる進化を追求していく構えです。

USEN&U-NEXT GROUPに学ぶ5つのポイント
USEN&U-NEXT GROUPの事例は「ツールを導入するだけでなく、いかにして組織に定着させるか」というDXの本質を突いています。
多くの企業が直面する「導入後の定着」という壁をどう乗り越えたのかを、5つのポイントにまとめました。
- 経営トップによる明確なメッセージ
同グループでは、代表自らがビデオメッセージでAI活用に前向きな姿勢を示しました。トップがAIを未来のビジネスインフラと定義したことで、組織全体の導入に向けた心理的なハードルが一気に取り払われました。 - セキュリティ最優先の考え
機密情報の漏洩リスクを最小限に抑え、社員が安心して業務に集中できるよう、独自ツールを開発しました。自社に適した環境を整えたことが、高い利用率に繋がっています。 - 飲食を交えたアナログな体験会による心理的ハードルの打破
全国の拠点を回る「Buddyゼミ」を通じて、AIに触れる楽しさを直接伝えました。お酒を交えたカジュアルな雰囲気の中で実際に手を動かす場を作ったことで、各拠点のエバンジェリストを育成することにも成功しました。 - AIの役割を優秀な部下と位置づける
AIを、仕事を奪う脅威ではなく「非常に優秀な部下」として定義しました。人間は指示を出し、AIによるアウトプットを評価・判断するという関係性を明確にしたことが、前向きな活用を加速させました。 - 創出された時間の価値を再定義する
AIによって削減された時間を何に使うのかという問いに対し、クリエイティブな仕事や私生活の充実といったポジティブな選択肢を提示しています。効率化そのものをゴールにするのではなく、人間が人間にしかできない高度な判断に集中できる環境を作ることが、組織全体の価値向上に繋がるという思想を貫いています。
もちろん、ここで紹介した取り組みは、USEN&U-NEXT GROUPの強力な企業文化があってこそ実現できたものでもあります。
重要なのは、仕組みをそのまま真似ることではなく、自社の文化に合った浸透施策を設計することです。
AIを導入して満足するのではなく、社員一人ひとりがそれを自分の武器として自然に使いこなせる文化をどう作るかが真の競争力となります。
しかし、実際に自社でこれを実践しようとすると、どのようにして利用率を高めればよいのか、具体的な効果をどう測定すべきかといった課題に直面する企業も少なくありません。
多くの組織が、導入したものの使われないという悩みを抱えています。
私たちSHIFT AIは、こうしたAI導入後の定着における課題解決を得意としています。
貴社の組織文化や業務内容に合わせた浸透施策の設計から、エバンジェリストとなる人材の育成、さらには活用成果を定量・定性の両面で可視化する仕組みづくりまで、一気通貫で支援します。
AIを真に組織の力へと変えたいとお考えでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。
法人向け支援サービス
「生成AIを導入したけど、現場が活用できていない」「ルールや教育体制が整っていない」
SHIFT AIでは、そんな課題に応える支援サービス「SHIFT AI for Biz」を展開しています。
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