飲食店の出店・開業支援サービス「飲食店ドットコム」などを展開する株式会社シンクロ・フードは、日本の飲食業界においてITインフラを支えるリーディングカンパニーのひとつです。

同社は2023年4月という早期に生成AI活用に向けたプロジェクトチームを発足させ、全社的なAI推進を加速させています。

そのAI推進の歩みは技術先行から業務変革へと進化を遂げ、今では非エンジニアの社員までがAIを使ってコードを書き、自らの業務を最適化するという文化を築き上げています。

同社がAI活用に注力する背景には、恒常的な人手不足やコスト高騰といった、飲食業界全体の深い課題があります。

今回は、代表取締役の大久保氏に、AI推進の具体的なプロセスや、その中で見えてきた戦略上の学び、そして同社が飲食業界の未来に届けたい「AIエージェント」構想について詳しく伺いました。

大久保俊
大久保俊氏

株式会社シンクロ・フード
代表取締役

2008年にシンクロ・フードへ入社し、「飲食店ドットコム」をはじめとする飲食店向けプラットフォームの開発・運用を牽引。2015年に執行役員開発部長、2018年に取締役、2025年12月に代表取締役に就任。現在は、新規事業であるショート動画求人サービス「グルメバイトちゃん」や生成AIを活用した業務効率化プロジェクトの立ち上げ・推進をリード。飲食業界の課題解決と新たな価値創出に取り組んでいる。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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技術調査と業務計測からAI推進がスタート

シンクロ・フードがAI活用の取り組みを開始したのは2023年4月。最初に立ち上がったのは「GPTプロジェクトチーム」です。

大久保氏

「2023年の段階ではどちらかというと技術先行で、話題の技術である生成AIについてしっかりと知っておきたいという共通認識からGPTプロジェクトチームが設立されました。元々技術投資は常にやっているので、その一環としてエンジニアを主体で進めていきました」

そして2025年4月、取り組みは次のステージへと移行します。

大久保氏

「技術調査を主体とするプロジェクトは今も動いていますが、それとは別にAI推進を行うプロジェクトが全社横断で立ち上がりました」

全社推進プロジェクトが最初に取り組んだのは、AI活用以前の「業務計測」の徹底でした。AIの強みである「生産性改善」にわかりやすくつなげるため、まずは現場の業務時間を正確に把握することが必要だったのです。

この計測によって「どこを削減すべきか」を見極め、価値創造にあてる時間を最大化するための下準備が行われました。

大久保氏1

「計測・学習・適用」の3ステップで進める全社AI活用

シンクロ・フードのAI活用は、計測・学習・適用の3ステップで進められています。

最初の「計測」は前述の通り、全社員のタスク計測を徹底し、業務時間の現状把握を行うステップです。

続く「学習」のステップでは、全事業チームから選出されたAI推進プロジェクトのメンバーに対して、AIをより深く理解してもらうための取り組みが行われました。

外部の研修を活用したり、メンバー同士でAIの活用方法について議論する場を設けたりと、全社展開に向けた知識と意欲の底上げを図りました。

大久保氏

「プロジェクトメンバーには通常のメンバーよりもAIに詳しくなってほしかったので、プロンプトエンジニアリングの講座を受けてもらいました」

そして3ステップ目となる「適用」フェーズでは、実際にAIを各部門の業務に導入し、業務の置き換えを進めていきます。

バックオフィス業務をはじめ、同社の主幹サービス「飲食店ドットコム」における顧客対応や原稿修正などに次々とAIを導入していきました。

大久保氏

「顧客対応と文章作成。この2つは大規模な業務効率化が達成できる分野だと捉えています」

また、時給計算などのデータ化が必要な業務についても、AIによる入力作業の置き換えを試みるなど、多角的な推進を行っています。

全社AI推進プロジェクトの具体的な目標については、中期経営計画で掲げている「3年後に業務時間を30%削減」に基づき、「今期は10%くらい削りたい」と大久保氏は語ります。

大久保氏2

AI活用をミッションに組み込み浸透を促進

AIを全社的に浸透させるうえで、現場社員の巻き込みは多くの企業で課題となります。

シンクロ・フードでは、既存業務で多忙な社員にAI活用を促すため、AI活用自体をミッションに掲げているといいます。

大久保氏

「AI推進の中心メンバーに関しては、“AIを使う時間”の目標値を最初から定めています。私たちは期初に毎回ミッションを定めていますが、そのミッションの中に『業務の何%にAIを使う』といった内容があり、活用に時間を割くことは業務の前提になっています」

また、AI活用にネガティブな社員に対しては、推進メンバーが成功事例を自ら作り、メリットを体現して見せることで、現場のモチベーションを引き出すことを重視しています。

大久保氏

「AIを活用すれば結果的に絶対楽になるので、その楽になる姿を率先して見せています」

さらに、全社プロジェクトが発足する前から自発的にAI活用を行っていた社員をプロジェクトメンバーにアサインするなど、「会社全体がAI活用を推奨している」というメッセージを発信することにも力を入れていきました。

生成AIが引き出した、非エンジニアの創意工夫

AIの浸透施策を進める中で、大久保氏は予期せぬ大きな成果が得られたと語ります。

大久保氏

「意外だったのは、ブラウザの拡張機能やGoogle Apps Scriptなどを活用して自分の業務で使うウェブサイトを改造したり、自分用のツールを作成したりする非エンジニアの社員が増えたということです。本来はプログラムが書けないと難しい領域ですが、コードをAIに書いてもらうことで、非エンジニアでもそういった作業が可能になりました」

自分の業務環境をAIの力を借りてカスタマイズする体験が、社員の間に広まったのです。

エンジニアではない社員がスプレッドシートを複雑に動かすプログラムを書いたり、自分用のツールを作ったり、さらにはPythonをインストールして使い始めたりするまでになり、生成AIは「自分の仕事を自力で改善するための手段」とも認識されるようになっていきました。

飲食業界におけるAI活用の可能性を探る取り組み

シンクロ・フードでは、飲食業界が抱える構造的な課題に対し、AIをどのように活用できるかを検討しています。その中で大久保氏は、AIが比較的力を発揮しやすい領域の一つとして、店舗オペレーションを挙げます。

大久保氏

「アルバイトのシフト作成や仕入れの調整、予約サイトの枠数管理、SNS運用など、多忙な店長が日常的に担っている業務の中には、AIの活用によって負担を軽減できるものもあるのではないかと考えています。一般的な企業でもすでに取り組みが進んでいる領域であれば、飲食店でも応用の余地があるはずです」

一方で、店舗オペレーションの課題は決して単純ではありません。シフト管理ツール、予約サービス、仕入れ発注システムなどが個別に導入されており、データを横断的に把握しにくい点が、現場でのAI活用やDX推進を難しくしています。

こうした背景から同社では、まず飲食店で日々蓄積されている各種データを整理・可視化し、AIが活用しやすい環境を整えることが重要だと捉えています。この課題認識を踏まえ、将来的な方向性の一つとして、店舗ビジネスに特化したエージェントの可能性も視野に入れています。

経費精算のような汎用的な業務支援にとどまらず、飲食業界特有の業務やデータを踏まえ、複数のツールを横断しながら業務を支援できる可能性があるのではないかと大久保氏は語ります。

もっとも、こうした取り組みの実現には、既存業務の整理や可視化など、時間と労力を要するプロセスが欠かせません。

同社では、これまで培ってきたAI技術と飲食業界への知見を活かしながら、現場に即した形でのAI活用について、段階的に検討を重ねていく考えです。

シンクロフード本社

シンクロ・フードに学ぶ5つのポイント

株式会社シンクロ・フードのAI活用は技術トレンドへの早期対応から始まり、全社的な業務変革、そして業界課題の解決へと向かっています。

以下に、他社でも再現可能な取り組みを5つのポイントに整理しました。

1. AI活用を「投資」と捉え、メンバーのミッションに組み込む
AI活用を「個人の努力」に委ねるのではなくミッションとして明確に位置づけ、多忙な中でもAI活用に取り組む時間を確保しています。AI推進を本気で加速させるには、こうしたトップダウンのコミットメントが不可欠です。

2. AI活用を促す前に「業務計測」と「業務整理」を徹底する
AI導入の第一歩を「AIによる業務削減」ではなく、「業務計測」に置いたことで、「どこを削るべきか」という判断の精度を高めています。また、置き換えを検討する際に「そもそもその業務は必要なのか?」と問い直すプロセスは、AIを導入する本質的な価値を高めます。

3. 「成功の体現」でボトムアップのモチベーションを引き出す
AI活用に後ろ向きな社員に対して、推進メンバーが自ら成果を出し、「こうすれば楽になる」という姿を率先して見せることで、現場の自発的なモチベーションを引き出しました。ルールや義務感ではなく、メリットを可視化することが、文化としてAIを浸透させる鍵です。

4. 非エンジニアによる成功体験にフォーカスする
生成AIの活用により、非エンジニアの社員が自分の業務に合わせてツールや業務環境を工夫する動きが広がりました。コーディングをAIに任せることで、専門知識がなくても業務用のツール作成や改善に挑戦できるようになり、生成AIは「自分の仕事を自力で改善するための手段」として認識されるようになっています。

5. 業界特化の知見を活かした「AIエージェント」構想を描く
AI活用を自社の業務改善に留めず、自社が特化する飲食業界の課題を解決するエージェントの開発を目指しています。業界のペインポイントに深く根ざしたAIソリューションを目指す姿勢は、BtoB事業を展開する企業にとって重要な視点です。

もちろん、ここで紹介した取り組みは、シンクロ・フードの企業文化や事業特性があってこそ実現できたものでもあります。

重要なのは、「仕組みそのものを真似ること」ではなく、自社の目的や文化に合った形でAIの活用を設計することです。AIを導入すること自体がゴールではなく、社員一人ひとりが自然に使いこなせる環境を整えることが本当の成果につながります。

しかし、実際に自社でこれを実践しようとすると、

「うちの組織に合ったAIの活用方法は?」
「社内に広げるには、どんな人材が必要?」
「成果をどうやって可視化すればいい?」

といった壁に直面する企業も少なくありません。多くの組織が同じ悩みを抱えています。

私たちSHIFT AIは、こうした「導入したが定着しない」という課題解決を得意としています。

貴社の文化や業務内容に合わせた浸透施策の設計から、社員のスキルを底上げする伴走型研修、活用成果を“見える化”する仕組みづくりまで、AI活用の定着に必要なプロセスを一気通貫で支援します。

「AIを導入したのに現場で使われていない」「成果をどう評価すれば良いかわからない」そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。

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