電子材料メーカーとして世界で事業を展開するデクセリアルズ株式会社。

同社では、2020年からDXを本格推進し、DX基礎講座の受講率95%、全社員へのMicrosoft Copilot付与など、製造業としては稀有なスピードで生成AI活用を進めてきました。

生成AI活用は、議事録作成やメール、文書要約といった日常業務に留まらず、技術シーズ探索、品質問い合わせの分析、製造マニュアルの自動生成へと広がりつつあります。

「変化の激しい時代において、最大のリスクは“変化しないこと”である」

このトップメッセージを原動力に、同社は“AIを例外ではなく日常にする”組織づくりを加速してきました。

そして今、同社が見据える次のステージは、2026年度以降に構想する“AIエージェント同士が連携し合う未来の業務設計”です。

AI活用の現在地と、その先に描く変革の全貌をDX企画推進部 統括部長の大河原秀之氏に伺いました。

大河原 秀之

デクセリアルズ株式会社 DX企画推進部 統括部長

全社的なDX推進とAI活用をリード。2022年末のChatGPT登場以降、全社員へのCopilot付与など、AIを前提とした働き方への変革を牽引。

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DX推進の文脈と、生成AI導入の背景

デクセリアルズが生成AI活用に乗り出したのは、ChatGPT-3.5が登場した2022年末頃。多くの企業が慎重に様子を見守る中、同社は早期に「AIを前提に働き方が変わる」と確信し、導入を進めました。

背景には、2010年代後半から取り組んできたDX推進があります。同社はDXを、

  1. 業務基盤のデジタル化(社内システムのデジタルプラットフォーム化)
  2. データ活用の定着(データのインテリジェント化活用)
  3. 新しい価値創造(お客様への新たな価値提供)

という3層構造で位置づけ、着実にステップアップしてきました。生成AIは、これらすべてのステップをさらに加速・深化させる共通基盤として導入されました。

大河原氏は、トップからのメッセージをこう振り返ります。

「最大のリスクは“変化しないこと”──これは当社トップが継続的に発信してきたメッセージです。この価値観が、生成AI導入の判断を後押ししました」

最初は技術探索のプロジェクト内でAI活用が進められ、そこから全社展開へと一気に広がっていきました。

現在は、全社員の標準としてCopilotを付与し、ChatGPTは希望者に利用権限を付与する仕組みを整えています。

議事録から提案業務まで、働き方はどう変わったのか

最も大きな変化が現れたのは、「文書作成」と「情報整理」の領域です。議事録、報告書、メール、文書要約など、これまで時間を要していた作業がAIによって大幅に短縮されました。

「Teamsの自動文字起こし機能を活用すれば、会議後に1時間かけていた議事録が、数分で整理できるようになりました」

各部門で、資料作成時間が削減されたことで、提案内容を深めるための思考の時間が生まれています。

「従来は“やること(作業)で精一杯”だった業務が、いまは“考える余白”を伴うものへと変化しています」

部署ごとに異なるAI活用──製造・品質・営業・開発のリアル

生成AIの活用は、白い紙の上で文章を書くような事務作業だけに留まりません。製造業ならではの現場知の領域にも浸透し、独自の広がりを見せています。

製造部門:動画からマニュアルを自動生成
製造現場では、作業動画を撮影し、AIにマニュアル化させる取り組みが始まっています。熟練者が手作業で作っていたマニュアルを、AIが構造化し、文章化。

人に依存していた技術継承が大幅に効率化されています」

品質保証:過去データをAIで分析し、開発へフィードバック
品質保証部門では、お客様からの膨大な問い合わせ履歴をAIが分析。問い合わせの傾向を抽出し、開発部門へ改善提案として返す取り組みが進んでいます。

「以前はただ“データが溜まっているだけ”の状態でしたが、AIのおかげで“活用できる資産”に変わりつつあります」

営業:提案構想の質が向上
メール返信、議事録や報告書の作成が効率化されました。その結果として、“提案の幅を広げるための思考の時間”が生まれています。

「お客様に提供する製品を1品種から複数品種へ拡大していくソリューション発想が広がるようになりました」

開発(R&D):特許・論文要約、技術探索が高速化
特許や論文を読む時間が短縮され、情報収集にかかる時間が短縮。開発者が“創造的な時間”に集中できるようになってきました。

「従来は、一部の熟練エンジニアだけが把握していた技術の可能性を、AIが客観的に示してくれるようになりました。結果として、“その人だけが知っていた領域”が開放され、新しい用途アイデアが次々と生まれるようになっています」

R&D領域(研究開発)の最先端──シーズ×ニーズをAIが自動マッチング

デクセリアルズが特に強みを持つのが、R&Dにおける高度なAI活用です。三菱総合研究所やストックマークと共同で、以下の2つの仕組みを構築しています。

① 技術開発領域の可視化システム
膨大な論文・特許をAIが読み込み、要素技術、技術領域、相関関係を自動で可視化する仕組みです。

【関連情報】 生成AIによる「技術開発領域可視化システム」構築を開始 -新規領域の製品・技術開発に有望な要素技術を迅速に探索-

② 市場ニーズ×自社シーズの自動マッチング
「市場から収集される情報と自社に蓄積された市場情報(ニーズ)」と「自社の技術資産(シーズ)」をAIが比較し、“どの市場で自社技術が活かせるか”を探索します。

【関連情報】生成AI による用途アイデア創出を実現、システム構築を開始-市場情報と当社技術をマッチング、網羅的に提案-

「AIは研究開発者の思考を置き換えるものではなく、考えるための材料を圧倒的な量とスピードで揃えてくれる存在です。その積み重ねが、将来の新しい価値創造につながると考えています」

AI浸透を支えた、ガイドライン・教育・ロールモデルの三本柱

「使える人だけが使う」状態では、全社浸透は起こりません。同社は、以下の三本柱で“例外ではなく日常”の文化を作ってきました。

① ガイドライン整備(4つの鉄則)
機密情報は入力しないこと、倫理的に不適切な内容は扱わないこと、著作権に配慮することに加え、ハルシネーション(不正確な情報)を前提に「必ず検証する」ことを徹底しています。

② 部署別eラーニング(営業/開発/製造専用の教材)
「部署ごとに“使いどころ”が違うため、汎用的な教育では浸透しない」という考えに基づき、職種別に特化したAI学習コンテンツを整備しています。

③ ロールモデルの配置
各部署に「AI活用に精通したロールモデル」を育成し、現場に寄り添いながら成功事例を横展開。さらにTeams上には「AIコミュニティ」を創設し、誰でも質問や共有ができる環境を作っています。

「浸透の要は、仕組みと伴走です。“できる人だけができる状態”を抜けていくために、現場のそばで支援する体制を作ってきました」

AI活用の「現在地」と「見えてきた課題」

プロンプト品質とRAG基盤(※)活用が進む一方、現状の成果と課題が見えてきています。

(※)RAG(Retrieval-Augmented Generation) 外部データを検索・取得し、その情報をもとに生成AIが回答を補強する仕組み。社内文書やナレッジを活用する際に使われる技術。

  • AI活用によって得られた効果
    時間効率化が進み、考える時間が増えたほか、新人でも検索・調査が高速化されました。また、過去データの価値が可視化されたことも大きな成果です。
  • 現在直面している課題
    プロンプト(質問)品質のばらつきが見られる点、そしてRAG基盤を整備するために社内文書やデータの整理が必要な点が課題です。

「ただファイルを入れれば良いわけではなく、AIが認識しやすい構造化が必要だと感じています。ナレッジ基盤の構築が重要です」

こうした課題を乗り越え、AIを“単なるツール”ではなく“相棒”として機能させるには、組織そのものの変革が不可欠となります。その戦略を次に示します。

未来を創る推進体制と構想。役割変化と「AIエージェント連携」の時代へ

AI前提の業務設計へと踏み出すため、デクセリアルズはまず、DX推進部の役割を“活用推進”から“AIと共創する組織づくり”へとシフトさせます。

この変革こそが、2026年度以降に構想する「AIエージェント連携」の実現に向けた第一歩です。

①DX推進部の役割変化──“推進”から“共創”へ
これまでのDX企画推進部は、「活用を促す」ことが主な役割でした。しかし今後は、以下の実現に向けた活動が求められます。

  • 部署ごとのAIエージェントの構築
  • エージェントを横断連携させる全社アーキテクチャ設計
  • 業務そのものの再構築:これにより、部署は“AIと共創する組織づくり”へと役割が変化していきます。

②未来構想──2026年度から始まる「AIエージェント連携」の時代へ
デクセリアルズが描く次のステージは、社員一人ひとりがAIエージェントと協働する世界です。

同社は2026年度からこの構想に本格着手し、AI前提の業務設計へ踏み出そうとしています。具体的には、AIエージェントの連携による高度な自動化を目指します。

  • 開発エージェント × 人事エージェント → 適材適所の人材配置
  • 営業エージェント × 法務エージェント → 契約書作成の自動連携

「AIは単なる“ツール”に留まらず、今後は複数の業務を担う“相棒”のような存在になっていくでしょう」

デクセリアルズから学ぶ3つのポイント

デクセリアルズの取り組みは、生成AIを単なる効率化ツールに留めず、“日常のインフラ”として根付かせるための再現性の高い学びを示しています。

① トップの明確なメッセージとスピード
「変化しないことが最大のリスク」。この価値観の共有が、早期の導入と全社展開を後押ししました。

② 現場に寄り添った浸透施策
部署別のeラーニング、ロールモデル配置、AIコミュニティといった組織的仕組みによって、 “例外的な活用”を“日常的な実践”へと変えていきました。

③ 製造業ならではの業務変革の広がり
研究開発、品質、製造といった高度な専門領域にまで広がり、 AIが業務の質・スピードを底上げする土台が整いつつあります。

デクセリアルズの事例が示すのは、AI活用は特別な技術投資だけでなく、仕組みづくりと文化づくりによって浸透するということです。そしてそのアプローチは、製造業に限らず 他業種でも応用可能な再現性 を備えています。

しかし実際には、

  • 「AIが導入されても現場で使われない
  • 「成果が見えず、次の投資判断ができない」
  • 「部署ごとにニーズが違い、全社展開が難しい」

といった壁に多くの企業が直面しています。ツール導入だけでは“日常化”は起きません。

SHIFT AIでは、貴社の業務内容や組織文化に合わせたAI浸透施策の設計から、現場のスキルを底上げする伴走型研修、活用成果の“見える化”まで、AIを“日常化”するためのプロセスを一気通貫で支援しています。

「AIが導入されても使われない」「成果が見えない」──そんな課題をお持ちの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

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