「食のDX」という言葉を耳にする機会は増えてきましたが、その全体像はまだはっきりと見えていないのが現状です。何から変えていくべきなのか、どこに価値が生まれるのか。多くの企業が模索を続ける中、オイシックス・ラ・大地株式会社の取り組みは、その問いに明確なヒントを与えてくれます。

同社が目指しているのは、単なる業務のデジタル化ではありません。生活者の「食の体験」をより良く、より豊かにしていくことを軸に、買い物の煩わしさを軽減し、一人ひとりに合った提案を行い、裏側の膨大なオペレーションをデータとAIで支える取り組みを進めています。

さらに注目すべきは、この変革がトップダウンではなく、社員の自発的な参加によって動き出した点です。各部署から「やってみたい」というメンバーが集まり、知見を共有し、成功事例が広がっていくことで、AI活用が組織文化として根づいていきました。

現在では、生成AIの活用はバリューチェーン全体へと広がり、効率化にとどまらず、「これまでできなかったことができるようになる」という価値創出にもつながっています。

本記事では、オイシックス・ラ・大地が描く「食のDX」の核心と、その文化づくり・実践・成果についてエンジニアリング本部/Data Management Office 部長の中野高文氏、経営企画本部/生成AI活用プロジェクトリーダーのユセコ美里氏、エンジニアリング本部 SREセクションの青木芽衣氏の3名にお話を伺いました。

中野高文

オイシックス・ラ・大地株式会社
エンジニアリング本部 Data Management Office 部長

イギリス・Cambridge大学修士課程修了(応用数学)、カナダ・Waterloo大学博士課程(量子情報論)。CRITEO、DataRobot Japanを経て2022年より現職。 データ活用専門組織DMO(Data Management Office)の立ち上げに携わり、AIを用いた需要予測システムをローンチ。

ユセコ美里

オイシックス・ラ・大地株式会社
経営企画本部
生成AI活用プロジェクトリーダー

女子栄養大学客員研究員として食行動学の研究、自治体での学校給食運営を経て、2016年オイシックス・ラ・大地に入社。サービス企画やサプライチェーン全体のオペレーション構築経験から全社の生成AI活用を推進。

青木芽衣

オイシックス・ラ・大地株式会社
エンジニアリング本部
Oisixエンジニアリング部 SREセクション

2019年にオイシックス・ラ・大地へ入社。前職ではSIerにてインフラエンジニアとして従事。現在はSREとして、食品宅配サービス「Oisix」の安定稼働を支えるとともに、社員が生成AIを安全に利用するための環境基盤の構築・運用に従事。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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食のDXの核心──生活者体験の「再設計」から始まる変革

オイシックス・ラ・大地が推進する「食のDX」は、単なる社内業務の自動化ではありません。その核心は、生活者の「食の体験」そのものをより良く、より豊かにアップデートすることにあります。

「これまでは、スーパーに行って買い物をする際、子どもが叫ぶ中で頑張って買い物をしなければならない場面もありました。そうした体験を、家で簡単に、クイックに済ませられるように変えていく。それが私たちが目指すデジタルの活用です」(中野氏)

同社では、お客様一人ひとりのデータを深く理解し、「このお客様にはこの商品が合うはずだ」というピンポイントな提案を行うことで、買い物の煩わしさを解消し、満足度を高める取り組みを進めています。また、これを裏側で支えるオペレーションの改革も不可欠です。

「例えばミールキット一つをとっても、これは中華なのか、和食なのか、エスニックなのかといったタグ付け作業を、これまでは全部人力で実施していたんです。そうしたアナログな作業も含めて、データを用いて自動化していくことが大きな課題でした」(中野氏)

こうした膨大なマニュアル作業を、AIを含めたデータ活用によって自動化し、サプライチェーン全体を最適化していくこと。これこそが、同社が目指す「食のDX」の全体像です。

自発性から始めるDX──ボランティア制が文化を動かした理由

同社の生成AI導入において特筆すべきは、トップダウンの強制ではなく、ボトムアップ型の「ボランティア制プロジェクト」という形式でスタートした点です。もちろんトップダウンの号令はありましたが、実際に動かすメンバーは全社から「やりたい人」を募集しました。

「やっぱり現場で働く方のほうが、AIで解決できるような課題をどう解決できるのか、といった実情を理解しています。そうしたメンバー同士の自発的な学びをサポートすることで、組織文化を良くしていこうという背景がありました」(青木氏)

このアプローチを採用した理由は明確でした。「やらされるDX」ではなく、社員が自発的にAIに触れ、学び合うコミュニティが生まれたことで、組織文化に大きな変化が起きました 。当初は活用に戸惑う声もありましたが、異なるバックグラウンドを持つメンバーが成功事例を共有し合うことで、熟練社員にも新たな気づきが生まれたといいます。

「業務に慣れている職人のような方にとっては、AIを使うより自分がやった方が早い場合もあります。ですが、『こういうワードを使ったらいいんだ』『こういう視点があったんだ』という、新しい引き出しを得るための使い方としても、AIがすごく面白かったという意見がありました」(ユセコ氏)

経営企画本部・生成AI活用プロジェクトリーダーのユセコ氏が述べたベテラン社員の気づきは結果として、ボトムアップで具体的な改善アイデアが次々と生まれる土壌を整えたのです。

広がる生成AI活用──食のバリューチェーンを貫く実践事例

現在、同社では食のバリューチェーンの至るところで生成AIの実装が進んでいます。例えば、メルマガやテキスト作成支援の領域では、過去にパフォーマンスの良かったメールの傾向をAIに学習させ、商品の魅力が伝わる文章を作成させています。

「過去にパフォーマンスの良かったメールの文章をベースに、この商品の紹介をするようなメルマガを書いてください、と指示を出します。良い例をAIと壁打ちすることで、『こういう商品ならこういう言葉を使いたい』という質の高いインプットが得やすくなるんです」(ユセコ氏)

また、クリエイティブ制作の面でも変化が生まれています。商品画像や動画の生成においてAIの精度が向上したことで、全社的なアウトプットのスピードと質が向上しました。

「これまでデザイナーさんしかできなかったことが、簡単なクリエイティブであれば、非デザイナーでもできるようになってきました。売り場で作るものはデザイナーさんが手がけますが、それ以外のイベント資料などは『デザイナーさんに頼むまでもないな』というものが自分たちでできるようになり、知見の横展開が進んでいます」(ユセコ氏)

これらの知見はSlack上の専用チャンネルを通じて部署を超えて共有され、特定の部署だけでなく全社的な「集合知」としてAI活用が広がっています。

成果は工数削減だけではない──「できることの上限」が引き上がった組織

生成AI活用の成果について、同社は「工数削減」以上の価値を実感しています。

「工数削減ができたからといって、単に空いた時間で別の作業をするというよりも、『これまでここまでしかできなかったのが、その上限が上がった』というイメージです。どんどんプラスなものが作れるようになりました」(ユセコ氏)

単に時間が空いたから別の作業をする、というだけではありません。これまではリソースの限界で「1パターン」しか作れなかった販促案を、AIを使えば「10パターン」検討できるようになります。ユセコ氏は生成AI活用の効果について述べます。

「ただ単なる自動化というよりも、新しい領域へのチャレンジという文脈で活用しています。これまでは人手がかかるため手をつけられなかった調査に時間をかけたり、パーソナライズの分岐を広げたりと、ソリューションの幅が増えました」(ユセコ氏)

マイナスをゼロにするだけでなく、これまでできなかった「プラスアルファ」のチャレンジができるようになったことこそが、最大の成果といえます。

未来を共に描く存在へ──生成AIが導く「食の新しい当たり前

オイシックス・ラ・大地が見据えるのは、生成AIが「食の未来を考える仲間」として機能する世界です。食の産業は、季節や天候による収穫量・品質の変動、賞味期限や品質の変化、トレンドや文化的背景など、コントロールが難しい不確定要素が多く存在します。

また、サプライチェーンが複雑であり、生産者から消費者まで多段階の流通構造(つくる→売る→食べるのなかに、複数のステップがある)になっていることや、従来の手作業による業務プロセスが多く存在しています。だからこそ、AIというパートナーの存在が不可欠になります。

「食の領域には、文化やトレンド、天候など、いろんな要素がたくさんあります。なかなかDX化が難しいと言われていますが、AIを取り入れることで、これまでできなかったことがやっぱりできるようになるんじゃないか、という期待が一番大きいです」(ユセコ氏)

例えば、カスタマーサポートにおいて、AIが即座に状況を判断し、解決策を提示できるようになれば、お客様をお待たせすることなく、ストレスフリーな体験を提供できます。AIに任せるべき領域と、人が介在して温かみや安心感を届けるべき領域。このベストミックスを追求することで、食のDXを加速させていきたいと同社は考えています。

「会社としてより良い食の体験を実現する上で、生成AIは非常に大きな武器になります。すごいスピードで進化している技術を、会社としても最大限に活用しながらやっていきたいですね」(中野氏)

オイシックス・ラ・大地が掲げるミッション「食の社会課題をビジネスの手法で解決する」を実現するために。同社はこれからも、AIを単なるツールとしてではなく、人と共に進化し、新しい「食の当たり前」を創り出すインフラとして育てていく方針です。

オイシックス・ラ・大地から学ぶ5つのポイント

オイシックス・ラ・大地のAI活用は、特別な技術力や巨額の投資に頼るものではありません。むしろ、多くの企業がすぐに取り入れられる“再現性の高い取り組み”で構成されていることが特徴です。

その実践知は、AIを単なるツールではなく、組織文化として根づかせるためのヒントにあふれています。その再現可能な学びを5つのポイントに整理してご紹介します。

1. DXの起点を「業務効率」ではなく「生活者体験の再設計」に置く
多くの企業がDXを「業務改善」から始める中、同社は最初から生活者の食体験をどうアップデートできるかに照準を定めています。

ミールキットのタグ付けのような作業も、「体験の質を左右する要素」として捉え、データとAIで最適化している点が独自性です。

2.トップダウン × ボトムアップの掛け合わせで、「自発性」を文化にする
AIプロジェクトを「ボランティア制」ではじめたのは特徴的です。やらされるのではなく「やりたい人から動く」体制を敷いたことで、現場が主体的にAIを学び、気づきを共有し、文化として定着する循環
が生まれました。

これは同社が強調していた「現場が主語になるAI活用」と同質の成功要因です。

3.AI活用を部署単位に閉じず、バリューチェーン全体へ「横展開」する
メルマガ、クリエイティブ、サプライチェーン、オペレーション――AI活用が一部の部署に留まらず、食のバリューチェーン全体に広がっていることが大きなポイントです。

Slackでの知見共有や、非デザイナーによるクリエイティブ生成など、属人性を超えた“集合知”の形成が進んでいます。

4. 工数削減は通過点──「できることの上限」を引き上げる発想
AI導入の成果として同社が強調しているのは、単なる業務効率ではなく, 「プラスアルファの挑戦が可能になること」です。

・1案→10案に増える企画力
・これまで手が回らなかった調査ができる
・パーソナライズの幅が広がる

など、AIが「価値創出の上限を押し上げる存在」として機能しています。

5. 生成AIを「未来をともに描くパートナー」として位置づける姿勢
食産業は不確実性が高く、天候・文化・トレンドなど制御しづらい要因が多い世界です。その中で同社はAIを「人間とともに未来を描く存在」として捉えています。

CSの即時対応、パーソナライズされた体験設計など、 AIと人の「ベストミックス」を追求する姿勢は、AIを単なる効率化ツールとせず、事業の根幹に組み込む意思の表れです。

***

しかし、自社でこれを実践しようとすると、

「うちの組織に合ったAIの活用法が分からない」
「現場にどうやってAIを浸透させればいいのか?」
「AI導入後の定着をどうサポートすればいいのだろう?」
「効果的な研修プログラムをどう設計すればいい?」

といった壁に直面するケースも少なくありません。実際、多くの企業様から同様のご相談をいただいています。

私たちSHIFT AI(AI経営総合研究所)は、こうした「研修を実施したが定着しない」「知識はついたが業務活用が進まない」という課題解決を得意としています。

貴社の業界特性や組織文化に合わせた研修プログラムの設計から、社員のスキルレベルに応じた段階的な育成プラン、研修後の定着を促す伴走型サポート、成果を見える化するKPI設計まで、生成AI活用に必要なプロセスを一気通貫で支援します。

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