ChatGPTを使う企業が増える中で、「どこまで入力していいのか分からない」「誤って機密情報を入れてしまった」という相談が急増しています。
とくに中小企業では情報管理の担当者が少なく、“入力後に気づくリスク”が見落とされがちです。

この記事では、ChatGPT利用で生じる情報漏洩リスクを整理し、入力の可否を判断する基準と、誤って入力したときの実務的な対応フローをまとめました。
「社員の判断をそろえたい」「ChatGPTを安全に使いたい」という中小企業の経営者・管理職・情シスの方に向けた内容です。

安全な生成AI活用の基盤づくりに、ぜひ役立ててください。

AI活用で“つまずく企業”の共通点とは?
失敗事例から学ぶ6つの注意点
目次
  1. まず押さえておきたい“ChatGPTの仕組み”|誤解されやすい3つのポイント
    1. ① 入力内容が“学習に使われる/使われない”の誤解
    2. ② チャット欄に入力した内容は「内部的には一定期間保持される」
    3. ③ 情報漏洩の多くは「仕様」ではなく“人の判断ミス”から起きている
  2. これはアウト?セーフ?ChatGPTに入力してよい情報・ダメな情報の境界線
    1. ① セーフ:入力しても問題になりにくい情報
    2. ② グレー:入力次第でアウトにもなる“判断が難しい情報”
    3. ③ アウト:絶対に入力してはいけない情報
  3. 入力してしまった直後にやるべき“事故対応フロー”|最初の30分で何をするか
    1. ① 入力した内容を正確に思い出し、分類する(重大度判定)
    2. ② 必要な人にだけ、正しい順番で共有する
    3. ③ 一時的にChatGPTの利用を止め、当該スレッドを閉じる
    4. ④ 顧客や取引先の情報を含む場合は、影響範囲を棚卸しする
    5. ⑤ 再発防止のために、入力時の判断基準とフローを見直す
  4. 事故を防ぐ企業が実践している“判断フロー”のつくり方|情シス不在でもできる方法
    1. ① 情報区分を3レベルで整理する(判断の出発点)
    2. ② それぞれのレベルに「判断者」を割り当てる
    3. ③ 承認フローを“最短2ステップ”に設計する
    4. ④ Slack・Teamsに“相談テンプレ”を置くだけで運用が回る
    5. ⑤ 判断フローの「例外」を決めておくと運用が安定する
  5. ケース別|“よくある入力内容”はアウトか?中小企業の判断例を解説
    1. ケース①:企画書の骨子(数字なし)
    2. ケース②:顧客の属性情報(年代・エリア・利用サービスなど)
    3. ケース③:会議の議事メモ(名前を伏せても)
    4. ケース④:見積もりの一部(単価を抜いた状態)
    5. ケース⑤:社内メールの相談文(状況説明・背景)
    6. 判断には“3つの視点”。迷ったらこの3つを確認すればOK
  6. まとめ|ChatGPTのリスクは“判断 × フロー × 教育”で確実に減らせる
  7. よくある質問(FAQ)|ChatGPTの情報漏洩が不安な中小企業からの相談まとめ

まず押さえておきたい“ChatGPTの仕組み”|誤解されやすい3つのポイント

ChatGPTの情報漏洩リスクを正しく理解するためには、まず「ChatGPTが入力内容をどのように扱うのか」を押さえる必要があります。
多くの企業がトラブルに直面するのは、設定の問題よりも、仕様そのものが誤解されていることが大きな原因です。

ここでは、中小企業で特に誤解されやすい3つのポイントを整理します。

① 入力内容が“学習に使われる/使われない”の誤解

「ChatGPTは入力した内容を勝手に学習する」と思われがちですが、これは半分正解で半分誤解です。

  • Free版:学習に利用される仕様が基本(※設定でオフ可)
  • Team版/Enterprise版入力内容は学習に利用されない
  • API利用時:モデルの学習には使われない(※保存される場合は目的が異なる)

特にFree版の場合、設定を理解していないとリスクが高まります。
中小企業で“気づかないうちに機密を入れていた”ケースが多いのは、設定とプランの違いが把握されていないことが背景にあります。

② チャット欄に入力した内容は「内部的には一定期間保持される」

ChatGPTは「学習しない=データが残らない」ではありません。

学習には使われなくても、

  • 不正利用の検知
  • モデル改善のための安全監視
  • 法的要請への対応

などの目的で、内部的には一定期間保持される仕組みがあります。

ここが誤解される理由です。

“学習しない=完全に消える”ではない。

だからこそ、入力してよい情報の基準を誤ると、設定に関わらず事故の可能性が残ります。

③ 情報漏洩の多くは「仕様」ではなく“人の判断ミス”から起きている

上位ページを見ると「設定」「社内ルール」「禁止情報」の話が中心です。
しかし、実際に事故が起きている企業をみると、最も多い原因は次の2つです。

  • “このレベルなら大丈夫だろう”と判断して入力してしまう
  • 情報の区分が曖昧なまま使っている

つまり、多くの漏洩事故は、ChatGPTの仕様ではなく、“人が判断しきれない”ことが原因で起きている。

だからこそ本記事では、「どこまでがセーフか」「どこからアウトか」の判断基準を明確にすることを中心にまとめています。

これはアウト?セーフ?ChatGPTに入力してよい情報・ダメな情報の境界線

ChatGPTの安全な利用には、「入力していい情報なのか」を瞬時に判断できる基準が欠かせません。
しかし、多くの中小企業では 情報の分類が曖昧なままAIを使ってしまうため、気づかないうちに機密情報を入力してしまうケースがよくあります。

ここでは、読者が“その場で判断できる”ように、セーフ/グレー/アウトの3段階で区分した判断基準をまとめました。

① セーフ:入力しても問題になりにくい情報

特徴:誰が見ても外部に公開されている・個人を特定できない・企業の損失に直結しない情報

  • 公開済みの会社情報(HP掲載内容、採用情報)
  • 一般的な業務プロセス(営業フローの概要など)
  • 匿名化したデータ(年代・性別のみ など)
  • 文章の構成相談やキャッチコピー案
  • 完全にフィクションとして作った内容

ポイント
“誰が読んでも外部公開されている”ことが確認できればセーフ。
ただし、匿名化は「特定の個人や企業」が推測されないレベルまで必要。

② グレー:入力次第でアウトにもなる“判断が難しい情報”

特徴:個人や企業が特定できる可能性がある/数字や固有名が含まれる/推測されるリスクがある

  • 顧客属性(地域・年代・職業など)の組み合わせ
  • 社内文書の一部(固有名詞を消しても背景から分かるケース)
  • 見積り項目の一部(単価を外しても案件が特定される可能性)
  • 会議の議事メモ(人物・状況から個人が推測できる)
  • 案件名の伏せ字化が不十分なケース

グレー判定が生まれやすい理由
ChatGPTは文章構造から背景を推測するため、「固有名詞を消しただけ」では匿名化にならない

ここで判断ミスが最も起きやすい。

③ アウト:絶対に入力してはいけない情報

特徴:漏洩した場合、企業・顧客・取引先に実被害が出る情報

  • 個人情報(氏名・住所・電話番号・メールアドレス)
  • 顧客データ・患者情報
  • 金額・取引条件・未公開の数値
  • 社外秘の企画書、仕様書、契約書
  • 取引先名と関連情報のセット
  • 内部不正・トラブル情報

理由:これらは“情報そのもの”が機密性を帯びているため、セーフ・グレーという段階は存在せず、即アウト。

特に中小企業では、“このくらいなら大丈夫だろう”という判断で入力し、後から重大な問題に発展するケースが多く見られます。

入力してしまった直後にやるべき“事故対応フロー”|最初の30分で何をするか

ChatGPTに誤って機密情報を入力してしまったとしても、すぐに大きなトラブルにつながるとは限りません。
しかし、初動を誤ると、内部の信頼低下、顧客への影響、法的な問題に発展する可能性があります。

重要なのは、「何を入力したか分からないまま放置する」のが最も危険ということです。
ここでは、事故発覚直後の“最初の30分で行うべき行動”を、実務者向けに整理しました。

① 入力した内容を正確に思い出し、分類する(重大度判定)

最初にすべきことは、“どの種類の情報が入力されたのか”を把握すること。

以下の3分類でチェックするだけで、対応の難易度が大きく変わります。

  • セーフ:一般情報、公開情報
  • グレー:匿名化が不十分な情報、推測される可能性
  • アウト:個人情報、未公開の数値、取引先情報

特にアウトの情報であれば、即座に責任者に連絡が必要です。

② 必要な人にだけ、正しい順番で共有する

事故対応でよくある失敗は、「誰に伝えるべきか」が曖昧なまま全体に広げてしまうことです。

一般的には次の順番が安全です。

  1. 直属の上長
  2. 情シス・管理部門(存在しない場合は経営者)
  3. 必要な場合のみ、外部の関係者

中小企業では情シスが兼務の場合が多いため、“情報を極力広げずに、判断できる人へ”という視点が重要です。

③ 一時的にChatGPTの利用を止め、当該スレッドを閉じる

大きな理由は3つ。

  • 誤情報の連鎖入力を防ぐ
  • チャット履歴の分析・整理を容易にする
  • 他の社員が同じ誤入力を続けるリスクを止める

Team版やEnterprise版の場合は、管理者がログを確認し、影響範囲を特定できるため、
続く対応がスムーズになります。

④ 顧客や取引先の情報を含む場合は、影響範囲を棚卸しする

機密性が高い情報を入力してしまった場合、いきなり謝罪や通知を行う必要はありません。

まずは、次の観点で影響範囲を整理します。

  • 誰の情報だったか(個人名・企業名)
  • 入力内容から推測できる情報はあるか
  • 再現される可能性があるか
  • その情報が流出した場合の損害レベル

ここを整理しないまま「一斉に謝る」のは逆効果です。

⑤ 再発防止のために、入力時の判断基準とフローを見直す

事故を起こした本人を責めるのではなく、再発を防ぐ仕組みを整えることが重要です。

  • 判断基準(セーフ/グレー/アウト)の明確化
  • 情シス不在でも使える“ミニ承認フロー”
  • よくある誤入力の傾向を共有し、社内ルールに反映
  • 今回の事故で浮かび上がった曖昧さを修正

これらを整えることで、「属人化」から「仕組み化」へと進む第一歩になります。

事故を防ぐ企業が実践している“判断フロー”のつくり方|情シス不在でもできる方法

ChatGPTの情報漏洩対策は、「ルールを作ること」よりも「判断を統一すること」が重要です。

多くの中小企業で事故が起きるのは、禁止リストやマニュアルが整っていないからではなく、“判断の手順が人によって違う”ことが原因です。

ここでは、情シスが不在・兼務の企業でもすぐ導入できる「判断フローの作り方」をまとめました。

① 情報区分を3レベルで整理する(判断の出発点)

まずは、入力内容を次の3つに分類します。

  • レベル1:セーフ(公開情報・匿名化データ)
  • レベル2:グレー(推測される可能性が残る情報)
  • レベル3:アウト(個人情報・未公開数値・取引先情報)

この3段階にすることで、
誰でも判断を“同じ基準”で始められるようになります。

② それぞれのレベルに「判断者」を割り当てる

判断を属人化させないために重要なのが、
「レベルごとに誰が判断するか」を明確に決めること。

  • レベル1(セーフ) → 各担当者だけで入力可
  • レベル2(グレー) → 上長に相談(Slack・TeamsでOK)
  • レベル3(アウト) → 入力禁止(使用前に相談必須)

ここを曖昧にしたまま利用が進むと、誤入力が連鎖します。

③ 承認フローを“最短2ステップ”に設計する

中小企業の場合、判断フローを複雑にするほど現場は守りません。
重要なのは、「必要最低限」シンプルさです。

最短構成で十分です。

  1. 担当者が情報レベルを判断する
  2. グレー(レベル2)の場合だけ上長に相談

たったこれだけで、情報漏洩のリスクは劇的に下がります。

④ Slack・Teamsに“相談テンプレ”を置くだけで運用が回る

判断フローでつまずくのは「相談する文章をどう書くか」。
だからこそ、テンプレ化が効果的。

(相談テンプレ例)

【ChatGPT入力前の確認】
・入力しようとしている内容:
・情報区分:レベル2(グレー)
・特定個人/企業が推測される可能性:あり/なし
・目的:
入力の可否をご確認ください。

これだけで、相談が数秒で済み、判断の再現性が高まります。

⑤ 判断フローの「例外」を決めておくと運用が安定する

すべてを判断するのは現場に負担がかかりがちなので、次のような「例外許可」を決めておくと運用が回るようになります。

  • 匿名化済みの営業データは入力可
  • 過去公開済み資料の要約は入力可
  • 契約内容は入力不可(例外なし)
  • 新規プロジェクト情報は必ず管理職判断

こうした“例外ルール”を最初に作ることで、判断フロー全体がスムーズに機能し始めます。

ケース別|“よくある入力内容”はアウトか?中小企業の判断例を解説

「この程度なら入力しても大丈夫だろう」

そんな思い込みによって情報漏洩が起きることは少なくありません。

実際に中小企業の現場でよく相談される内容をもとに、“セーフ/グレー/アウト”の判断例をケース別にわかりやすく整理しました。

判断方法の癖や迷いやすいポイントが見えるので、社内ルールよりも実践的に使えるセクションです。

ケース①:企画書の骨子(数字なし)

→ 多くの場合はセーフだが、文脈次第でグレーに変わる

セーフ理由

  • プロジェクト名を伏せている
  • 外部公開資料に近い抽象度
  • 競合が推測できないレベル

グレーになる条件

  • 社内の固有名や指針が含まれている
  • 取引先を推測できる単語が散りばめられている

ポイント
→ 抽象度が低すぎる企画書は“骨子でもグレー”。

ケース②:顧客の属性情報(年代・エリア・利用サービスなど)

→ 組み合わせによっては特定可能。グレー寄りが基本

セーフライン

  • 年代だけ
  • 都道府県だけ
  • サービスカテゴリだけ

グレーライン

  • 年代 × エリア × サービス利用歴
  • 特殊な条件の組み合わせ
  • 地域が狭すぎる(市町村レベル)

ポイント
→ 組み合わせが増えるほど“個人が推測される”可能性が上がる。

ケース③:会議の議事メモ(名前を伏せても)

→ 多くの場合はグレー。内容によりアウトもあり得る

グレー理由

  • 役職の特徴や発言内容で人物が推測できる
  • 案件の背景から企業名が推測できる

アウトになる条件

  • 特定の社員の評価・不調・人事情報
  • クレーム・トラブルに関する発言

ポイント
→ “匿名化=名前を消すこと”ではないことを社内に浸透させる。

ケース④:見積もりの一部(単価を抜いた状態)

→ 単価がなくても取引先や案件が特定されればアウト

セーフライン

  • 協力会社が多数存在する一般的な項目
  • 外部公開資料と整合が取れる部分

アウトライン

  • 特殊な製品名・仕様書番号
  • 数量や取引条件で案件が特定される

ポイント
→ 「単価さえ消せばいい」は誤解。背景情報も同時に見直す。

ケース⑤:社内メールの相談文(状況説明・背景)

→ 最も事故が起きやすい。基本はグレー〜アウト

アウト例

  • 顧客・取引先の名称が残っている
  • 誰が読んでも業界内で一意に分かる案件名
  • 社内トラブル・内部判断の記載

グレー例

  • 状況だけを抽象化した相談
  • 業務一般の手順に関する問い合わせ

ポイント
→ “メールの文章そのもの”を入力する運用は避けるのが安全。

判断には“3つの視点”。迷ったらこの3つを確認すればOK

ケースごとの個別判断は複雑に見えますが、
以下の3つがすべて 「No」 ならセーフ寄りと考えられます。

  1. 復元されたら困る情報か?
  2. 公開情報だけで再構築できないか?
  3. 誰か・どこかが特定される手がかりが残っていないか?

これらを基準にすることで、判断の再現性が高まり、社内での判断統一が進みます。

まとめ|ChatGPTのリスクは“判断 × フロー × 教育”で確実に減らせる

ChatGPTの情報漏洩は、派手なサイバー攻撃ではなく、「入力していいかどうかの判断ミス」によって起こることがほとんどです。

この記事で整理したように、安全に使うために必要なのは、次の3つの土台です。

  • 判断基準:セーフ/グレー/アウトを明確にする
  • 判断フロー:迷ったときに相談できる手順をつくる
  • 教育:社員全体で判断の“基準”をそろえる

この3つが揃うと、現場で「なんとなく入力してしまう」リスクが急激に減り、ChatGPTの活用が“安全な生産性向上”へ変わっていきます。

実際、事故が起きない企業は、設定やルールだけでなく、判断力を全員で共有できている組織です。

判断できないまま使うのは、どれだけ便利なツールでも危険があります。
けれど、判断の基準とフローが整っていれば、ChatGPTは強力な業務効率化の味方になります。

AI経営総合研究所では、生成AIを導入だけで終わらせず、成果につなげる「設計」を無料資料としてプレゼントしています。ぜひご活用ください。

AI活用を成功へ導く 戦略的アプローチ5段階の手順をダウンロードする
※簡単なフォーム入力ですぐに無料でご覧いただけます。

よくある質問(FAQ)|ChatGPTの情報漏洩が不安な中小企業からの相談まとめ

Q
ChatGPTの「会話履歴オフ」にすれば情報は残らないのですか?
A

履歴オフにしても、“内部的な保持”は完全にゼロにはならない。
不正利用検知やモデルの安全性向上のために一定期間保管されるため、「履歴オフ=何を入れても安全」ではない。

Q
名前や会社名を伏せたら匿名化になりますか?
A

いいえ。
役職や文脈、業界特有の背景から “誰のことか” 推測されるケースは多い。匿名化=固有名詞を消すこと、ではない。

Q
社内メールをChatGPTに添削させるのは危険ですか?
A

基本はグレー〜アウト。
背景やプロジェクト名、過去のやり取りから特定されるため、“そのままコピペ”での入力は避けるのが安全です。

Q
一度入力してしまった機密情報は削除できますか?
A

利用者側で完全削除する方法はない。
ただし Team/Enterprise版なら管理者がログ・履歴を確認できる ので、誤入力を特定して影響範囲を把握しやすい。

Q
APIなら情報漏洩の心配はありませんか?
A

モデル学習には使われないが、 扱い方を誤れば漏洩の可能性はゼロではありません。
API側のログ保持・アクセス権限・利用環境の管理が必要です。