高齢化が進む介護業界では、深刻な人手不足と業務負担の増加が課題です。現場のスタッフは日々多忙を極め、質の高いケアを維持することが難しくなってきています。こうした中、注目を集めているのが「AI(人工知能)」の活用です。

AIは、転倒予防の見守りや介護記録の自動作成、スタッフの業務配分の最適化など、現場のさまざまな課題をサポートしています。この記事では、実際に介護現場で活用されているAI事例9選をご紹介します。

現場の課題と照らし合わせながら、どのような業務にAIが役立つのか、導入のヒントを探っていきましょう。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

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目次
  1. なぜ介護業界にAIが必要なのか?
    1. 慢性的な人手不足と高齢者の増加
    2. スタッフの肉体的・精神的負担の増加
    3. 書類業務やスケジュール管理など、対人以外の業務の肥大化
  2. AIが介護業界で活用されている領域とは?
    1. 転倒や徘徊のリスクを軽減し、安全性が向上する
    2. 記録業務の負担が減り、ケアの時間が確保できる
    3. 人員配置の最適化で業務が効率化される
    4. 急変の兆候を予測でき、早期対応につながる
  3. 介護業界におけるAI活用事例9選
    1. 事例1.見守り・転倒予防AI
    2. 事例2.介護記録の自動化
    3. 事例3.ケアプラン作成支援
    4. 事例4.認知症予測・ケアアセスメント
    5. 事例5.コミュニケーションロボットによる精神的ケア
    6. 事例6.送迎計画の最適化
    7. 事例7.感染症対策・衛生管理
    8. 事例8.リハビリ支援・運動提案
    9. 事例9.転倒検知・徘徊検知
  4. 介護業界でAIを導入する際に注意しておきたい2つのポイント
    1. ポイント1.初期費用・ランニングコストに注意が必要
    2. ポイント2.現場に浸透させるには職員教育が不可欠
  5. 介護業界でAIを導入するための4つのステップ
    1. ステップ1.課題を明確にする
    2. ステップ2.小規模な試験導入から開始
    3. ステップ3.現場スタッフへの教育と運用マニュアル整備
    4. ステップ4.導入後も定期的な効果検証と改善
  6. まとめ|介護業界のAI活用事例を参考にして現場の課題を解決しよう
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なぜ介護業界にAIが必要なのか?

AIは業務を効率化し、スタッフの負担軽減やサービスの質向上に役立つ技術です。まずは介護現場が抱える主な課題を整理しましょう。

慢性的な人手不足と高齢者の増加

介護の現場では、長年にわたって人手不足が続いています。特に、若い世代の介護職への就職が減っている一方で、高齢化の影響により介護を必要とする人の数は今後も増える見込みです。

その結果、一人の職員が担当する業務量が年々増加し、余裕を持ったケアが難しくなっています。また、慢性的な人手不足は、職員の疲労や離職にもつながり、さらに人手が足りなくなるという悪循環が生まれてしまうでしょう。

このような状況に対処するには、業務の効率化や人員に頼らない仕組みの導入が求められています。

スタッフの肉体的・精神的負担の増加

介護の仕事は、身体的にも精神的にも大きな負担がかかります。たとえば、入浴や排泄、ベッドからの移動介助など、力仕事が日常的に求められます。

また、利用者やそのご家族とのやり取り、さらには夜勤業務などもあり、精神的なストレスも非常に大きいのが現状です。こうした過重労働が続くと、心身ともに疲弊し、結果として離職者が増える原因になります。

スタッフが安心して長く働ける環境を整えるためにも、業務の一部を支援できる仕組みや負担軽減の工夫が必要です。

書類業務やスケジュール管理など、対人以外の業務の肥大化

介護現場では、直接利用者に対応する業務だけでなく、ケア記録の作成・シフトの調整・職員間の情報共有など、さまざまな間接業務も発生します。これらは時間も手間もかかるうえ、ミスが許されない重要な作業です。

しかし、日々の介護の合間に対応するには負担が大きく、本来注力すべき「利用者との関わり」の時間が削られてしまいます。業務全体のバランスが崩れ、非効率な働き方が続くことで、職員のモチベーションやサービスの質にも悪影響を与えるおそれがあります。

AIが介護業界で活用されている領域とは?

介護現場ではAIの導入によって、さまざまな業務がスムーズになりつつあります。人手不足や作業負担の軽減だけでなく、安全性やケアの質を向上させる効果も期待されています。

ここでは、実際にAIを取り入れることで得られる主な4つの効果をみていきましょう。

転倒や徘徊のリスクを軽減し、安全性が向上する

介護施設では、高齢者の転倒や徘徊による事故が大きなリスクとなっています。AIと連携したセンサーやカメラを活用することで、利用者の行動をリアルタイムに見守り、異常な動きや転倒の予兆を事前に検知できます。

これにより、スタッフがすぐに対応できる体制が整い、事故の発生を防ぐことが可能です。特に、夜間など人手が限られる時間帯には、巡回の負担も軽減され、安全性と業務効率の両立が期待されています。

記録業務の負担が減り、ケアの時間が確保できる

介護職員は日々のケアに加え、詳細な記録作業も求められます。AIを活用した音声入力や画像認識の技術を使えば、職員が話す内容を自動で文字に変換し、記録として残すことが可能です。

これにより、手書きやパソコン入力にかかっていた時間が大幅に削減されます。その結果、職員は利用者と直接向き合う時間を増やすことができ、より丁寧で質の高い介護を実現できるようになります。

人員配置の最適化で業務が効率化される

日々変化する利用者の状況や職員の勤務状況に合わせて、適切な人員配置を行うのは簡単ではありません。AIは、過去の勤務データや業務の傾向を分析し、どの時間帯にどのくらいの人員が必要かを予測して提案します。

これにより、業務の偏りがなくなり、特定のスタッフに負担が集中するのを防げます。効率的な人員配置は、スタッフの働きやすさと施設全体の運営効率の向上も期待できるでしょう。

急変の兆候を予測でき、早期対応につながる

高齢者は体調の変化が急に起こることがあり、早めの発見と対応が重要です。AIは、バイタルデータ(体温・脈拍・血圧など)や日々の行動記録をもとに、体調の異変をいち早く察知できます。

たとえば、普段と異なる動きや食事量の変化などをAIが見逃さず、スタッフに通知してくれます。こうした仕組みにより、病気や事故のリスクを減らし、利用者の命を守れるでしょう。

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介護業界におけるAI活用事例9選

AIは介護現場の課題解決に役立つ技術として注目され、実際にさまざまな施設で導入が進んでいます。ここでは、AIがどのように使われているのかを具体的にイメージできるよう、実際の活用事例9選をご紹介します。

事例1.見守り・転倒予防AI

介護施設では、高齢者の転倒や徘徊が大きなリスクです。AI搭載のセンサーやカメラを活用することで、利用者の動きをリアルタイムで見守り、転倒の予兆や徘徊の可能性を早期に検知できます。

たとえば、起き上がりや異常行動をAIが判断し、スタッフに自動通知することで、迅速な対応が可能です。夜間や人手が少ない時間帯にも高い効果を発揮し、巡回業務の負担軽減にもつながります。

こうしたAI見守りシステムは、安全性の向上だけでなく、職員の精神的な安心感にも貢献しています。

出典:モルフォAIソリューションズ「介護/医療施設の転倒防止や見守りにAIカメラ活用を-安全と効率がアップする未来-」

事例2.介護記録の自動化

介護職員は、ケアの合間に記録業務を行う必要があり、手書きやパソコン入力に多くの時間が取られてしまいます。AIを活用すれば、音声入力やセンサーによるデータをもとに自動で記録を作成できます。

たとえば、入浴や食事の内容を話すだけで記録に反映できるため、手間を大きく減らせるでしょう。これにより、職員は利用者との時間をより多く持てるようになり、ケアの質向上にもつながります。

特に、ICT機器に不慣れな職員にとっても、直感的に使えるのが大きなメリットです。

出典:PR TIMES「医療・介護業界の記録業務をAIで圧倒的効率化!音声テキスト化AI「ミルモレコーダー」を株式会社ウェルモが正式リリース」

事例3.ケアプラン作成支援

ケアプランは、利用者一人ひとりの健康状態や生活背景をふまえて作成されますが、非常に時間と手間がかかる作業です。AIを活用すれば、バイタルデータや日常生活の記録をもとに自動で分析し、適切なケアプランを提案できます

これにより、ケアマネージャーの負担を大きく軽減し、より個別性の高い支援が行えるようになるでしょう。また、AIによる分析結果を参考にすることで、職員間の意見のすり合わせもスムーズに進みます。

出典:CARE DESIGN INSTITUTE「SOIN」

事例4.認知症予測・ケアアセスメント

認知症の進行は緩やかで気づきにくく、対応が遅れると本人や家族、職員の負担が増します。AIは、会話の内容や日常の行動パターンを継続的に分析し、認知機能の変化や心理状態の異常を早期に検知できます。

たとえば、「話す内容が急に減った」「動きに変化が出た」といった微細な変化を捉えることが可能です。これにより、早めの対応や専門医との連携がしやすくなり、利用者の安心にもつながります。

出典:セントケアDX株式会社「認知症ケア補助AI(DeCaAI)を利用した、新しい在宅介護の取り組みを開始」

事例5.コミュニケーションロボットによる精神的ケア

介護施設では、会話やふれあいを求める利用者が多い一方で、スタッフの人数が足りず十分に対応できない場合があります。そこで活用されているのが、AI搭載のコミュニケーションロボットです。

ロボットは雑談やレクリエーションを通じて、利用者の孤独感や不安をやわらげる役割を果たします。認知機能の維持や感情の安定にも効果が期待でき、職員の精神的負担も軽減されるでしょう。

ロボットを通じた関わりが、笑顔の増加にもつながっています。

出典:レバウェル介護「介護施設での会話やレクをサポートするロボット【富士ソフト株式会社】」

事例6.送迎計画の最適化

通所介護(デイサービス)では、毎日の送迎が必要ですが、複雑なルート調整や人員配置はスタッフにとって大きな負担です。AIは、利用者の居住地やスケジュール、車両の空き状況などをもとに、最適な送迎ルートを自動で作成します。

これにより、移動時間の短縮や燃料費の削減が可能になり、業務効率が大幅に向上します。また、送迎計画作成の属人化を防ぎ、急な職員の欠勤時にも柔軟な対応が可能です。

出典:週間CARE KARTE「複雑な送迎計画の作成から解放!|AIの活用で新規利用者獲得とサービス品質向上を実現する方法とは?」

事例7.感染症対策・衛生管理

感染症対策が重要な介護・医療現場では、DNPの「手洗いAIサービス」が注目されています。AIが手洗い動作をリアルタイムで判定し、不十分な場合はその場で正しい方法を映像で指導します。

手洗い履歴も自動記録され、衛生管理の精度向上が期待できるでしょう。ATP測定による衛生効果も実証されており、食品や医療など多様な現場で導入が進んでいます。

記録業務の効率化と感染リスク低減を両立する仕組みとして期待されています。

出典:DNP「コロナ禍における Security & Safety「AIや非接触認証技術が変える感染症拡大防止策」」

事例8.リハビリ支援・運動提案

リハビリは継続することが大切ですが、高齢者一人ひとりに合った内容を考えるのは困難です。AIは、利用者の身体機能や過去の運動記録をもとに、無理のないリハビリメニューを自動で提案します。

運動内容の記録・分析もできるため、成果の見える化も可能です。これにより、本人のモチベーションが上がり、リハビリの継続率も高まります。自立支援を目指す介護の現場で、有効なサポートとなっています。

出典:AI介護相談「次世代のリハビリテーションを支える革新 – 「AI理学療法士アドバイザー2」を発表」

事例9.転倒検知・徘徊検知

顔認証カメラとAIを組み合わせたシステムでは、許可のない外出や異常な動きを即時に検知できます。たとえば、立ち上がりや転倒動作を認識した際、自動で職員のスマートフォンに通知を送ることが可能です。

これにより、重大な事故を未然に防げるだけでなく、限られたスタッフでも安全に見守る体制が実現します。特に、認知症の方が多い施設では、大きな安心材料となっています。

出典:VALTEC「高齢者施設のAI転倒検知・徘徊検知システム」

介護業界でAIを導入する際に注意しておきたい2つのポイント

AIは介護現場にさまざまなメリットをもたらしますが、導入すればすぐに効果が出るわけではありません。事前に準備しておくべきことや、導入後の運用で注意すべき点もあります。

ここでは、特に重要な2つのポイントを解説します。失敗しないAI導入のために、これらをしっかり押さえておきましょう。

ポイント1.初期費用・ランニングコストに注意が必要

AIシステムを導入するには、初期費用として機器の購入費やシステムの導入費用がかかります。また、導入後も定期的なソフトウェアの更新や保守費用、クラウド利用料などのランニングコストが発生することがあります。

導入前に必要な費用をしっかりと試算し、自施設の予算内で継続できるかを確認することが大切です。補助金制度や助成金の活用も検討し、無理のない導入計画を立てましょう。

ポイント2.現場に浸透させるには職員教育が不可欠

AIは便利なツールですが、使いこなすには職員が仕組みを理解し、正しく操作できることが前提です。特に、ICT機器に不慣れなスタッフが多い場合、初期段階での丁寧な研修やサポート体制が重要になります。

また、導入後も操作方法やトラブル対応を共有するマニュアルを整備し、職員間で共通の理解を持つことが大切です。AIをただの機械としてではなく、現場の一員として定着させるためには、教育と継続的なフォローが欠かせません。

介護業界でAIを導入するための4つのステップ

AIの導入を成功させるには、ただシステムを導入するだけでは不十分です。現場の状況に合わせた準備や運用体制づくりが欠かせません。

ここでは、介護施設がAIを導入する際に踏むべき基本的な4つのステップをご紹介します。無理なく、効果的に活用するための流れを確認しておきましょう。

ステップ1.課題を明確にする

AI導入を検討する前に、まずは「自分たちの施設ではどの業務にどんな課題があるのか」を整理しましょう。「記録作業に時間がかかっている」「夜間の見守りが負担になっている」など、現場の悩みを具体的に言語化することで、AIを使って何を改善したいのかが明確になります。

目的がはっきりすれば、導入するAIツールの選定ミスも防げますし、現場の納得感も得やすくなります。

ステップ2.小規模な試験導入から開始

AIは便利な技術ですが、最初から全施設で一気に導入するのはリスクが高い場合があります。まずは「PoC(概念実証)」として、小さな範囲や特定の業務で試験的に導入し、使い勝手や効果を確認しましょう。

その中で、現場の負担が増えないか、想定した課題が解決されているかなどを見極めることが大切です。試験導入の結果を踏まえて、導入範囲や運用体制を調整していくことで、スムーズな本格導入につながります。

ステップ3.現場スタッフへの教育と運用マニュアル整備

AIを導入しても、現場のスタッフが使いこなせなければ意味がありません。AIを効率よく使いこなすには、導入前後にわかりやすい研修を行い、基本操作や注意点を丁寧に伝えることが大切です。

また、誰が見てもわかるような運用マニュアルを整備することで、スタッフ間の情報共有がスムーズになります。使い方に差が出ないようにし、現場全体で安心して使える環境を整えることが成功のポイントです。

ステップ4.導入後も定期的な効果検証と改善

AIを導入して終わりではなく、その後の運用が重要です。定期的に「導入したAIが現場に合っているか」「効果が出ているか」「スタッフの負担が増えていないか」などをチェックする必要があります。

そして、必要に応じて設定の見直しや使い方の改善を行いましょう。継続的に効果を検証し、スタッフの声を反映しながら運用改善を重ねることが、長期的な成功につながります。

まとめ|介護業界のAI活用事例を参考にして現場の課題を解決しよう

介護現場では人手不足や業務の負担が大きな課題となっていますが、AIの導入によって少しずつその状況が改善され始めています。見守り、記録、スケジュール管理、健康予測など、AIはさまざまな場面で活用でき、職員の負担を軽減しながらサービスの質を高める手助けをしてくれます。

導入の際は、目的や課題を明確にし、試験導入や職員教育をしっかり行うことが成功のポイントです。実際の活用事例を参考に、自施設に合った導入方法を検討してみましょう。

なお、SHIFT AIでは、介護業界をはじめとしたさまざまな現場向けにAI研修を実施しています。AIの基本的な使い方から、実際の業務への応用方法まで、実践的な内容をわかりやすく学べるプログラムです。無料相談も受け付けていますので、AI活用をお考えの方はぜひお気軽にお問い合わせください。

「AI導入、どう進める?」と上司に聞かれたら、この5ステップで解決!
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