少子高齢化による人手不足や、法改正・制度変更への対応を迫られる中、経理部門には業務効率化とDX推進の必要性が急速に高まっています。こうした時代の要請を受け、AIを活用した経理業務の見直しが企業にとって重要なテーマとなりつつあります。

本記事では、AI導入の具体的なメリットや事例、進め方を解説しているのでぜひ参考にしてください。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

また、SHIFT AIでは、経理業務に特化したAI導入の実績をもとに、現状分析からツール選定、導入後の定着支援までワンストップで対応が可能です。経理DXを検討する企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

AIを経理業務に導入する具体的なメリット

AIを経理業務に導入することで、多くのメリットが得られます。下記では3つの利点をまとめました。

  • 作業する時間を削減できる
  • 人為的ミスを減らせる
  • 従業員の生産性を向上できる

作業する時間を削減できる

仕訳入力や経費精算といった繰り返しの作業をAIが自動化することで、経理業務の処理スピードが大幅に向上し、結果として業務効率の改善とコスト削減を実現します。

単純作業にかかる時間が減り、人件費や残業代の削減にもつながり、担当者はより重要な業務に注力できるようになります。

実際に、ある企業では領収書処理にかかる時間が1件あたり5分から1分に短縮され、年間約1万件の処理で666時間もの作業時間削減を達成しました。

人為的ミスを減らせる

AIは一貫したルールに基づいて処理を行うため、人手による入力ミスや計算の誤りを防ぐ効果があります。特に仕訳や請求書の処理など、正確性が求められる作業においては、ヒューマンエラーの削減が大きなメリットとなります。

さらにAIは24時間稼働できるため、深夜や繁忙期における担当者の疲労による判断ミスや操作ミスも回避できます。業務の精度が向上し、チェックや修正に費やしていた時間や工数の削減にもつながるでしょう。

従業員の生産性を向上できる

定型的な入力作業をAIに任せることで、経理担当はチェックやデータ分析、将来予測などの付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。

さらに、社内からの経理に関する問い合わせ対応にチャットボットを導入すれば、ありがちな質問を自動で処理でき、人的リソースを節約できるでしょう。実際に、ある企業ではチャットボットの導入により経理部門への問い合わせ対応件数が50%減少し、担当者が本来の業務に集中できるようになったという報告もあります。

AIが得意とする経理業務領域

AIの進化により経理業務の自動化が進んでおり、定型的な処理や大量データを扱う業務で効果を発揮します。ただし、すべての業務がAIで代替できるわけではなく、判断を要する業務には人間の関与が欠かせません。ここではAIが得意とする経理業務領域を詳しく解説します。

仕訳・データ入力の自動化

紙の請求書や領収書をAI-OCRで読み取ることで、日付や取引先、金額、勘定科目などの情報を自動でテキスト化し、会計ソフトへ仕訳入力できます。

さらに、過去の取引データを学習したAIが最適な勘定科目を提案するため、担当者が一つひとつ確認する手間が省けます。

例えば、クレジットカード明細から交通費を自動で判別し、「旅費交通費」に仕訳するといった処理も可能になり、伝票起票や入力作業の時間を大きく短縮できます。

経費精算の自動化

スマートフォンの経費アプリなら領収書を撮影するだけで、AIが日付・金額・支払先などの情報を自動で読み取り、データ入力の作業を省略できます。

さらに、AIは社内の経費ルールを学習し、「会食は1人5,000円まで」などの条件を付けられます。それに違反している申請を自動で検知し、管理者に通知することも可能です。これにより、経費精算の手間が大幅に減り、不正やミスの防止にもつながります。

決算業務・財務分析の高度化

AIは大量の取引データを瞬時に分析し、通常と異なる金額や処理ミスといった異常値を自動で検出できます。人の目では見落としがちな誤りにも迅速に対応でき、決算書の正確性が高まります。

さらに、仕訳データをもとにAIが貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などの決算書類を自動で作成することも可能です。

これまで時間がかかっていた手作業の決算業務が効率化され、月次や四半期ごとの決算をより早く終えられるようになります。

請求書処理(債務管理)の自動化

紙の請求書をAI-OCRで読み取ることで、取引先名・金額・支払期限といった情報を自動的に抽出し、会計システムへ入力する作業まで一括して処理できます。担当者が1件ずつ請求内容を確認し、手入力する手間が削減されるでしょう。

さらに、AIは支払期日を自動で管理し、未払いリストの作成やリマインド通知の送信も可能です。支払い漏れのリスクを低減できるだけでなく、債務管理の精度とスピードが向上し、キャッシュフローの安定化にもつながります。

【事例7選】AI導入で経理業務を向上させた企業

次に、実際に企業が経理業務にAIを導入した事例をいくつかご紹介します。AI-OCRによる書類処理の自動化、チャットボットや生成AIの活用、RPAとの組み合わせなど、さまざまな取り組みが行われています。

  1. マネーフォワード株式会社
  2. PwC税理士法人
  3. デロイト トーマツ
  4. 明治安田生命保険相互会社
  5. 花王ビジネスアソシエ株式会社
  6. 株式会社ZOZO
  7. C&Cビジネスサービス株式会社

マネーフォワード株式会社|クラウド会計による自動仕訳とGPT活用

マネーフォワードは、クラウド会計ソフトにAIを積極的に活用している企業です。同社のサービスでは、銀行やカード明細と自動連携し、AIが取引データから勘定科目を自動で提案します。

プランノーツ社では、毎月数時間で経理を完了できるまでに効率化が進み、埼玉ダイハツ販売ではAI-OCRにより経費申請の手間が削減されました。さらに2024年には、ChatGPTと連携した財務分析レポート自動生成ツールも発表し、経理業務の高度化を推進しています。

出典:『マネーフォワード クラウド』、「マネーフォワード クラウド 会計 for GPT」を提供

PwC税理士法人| AI-OCRと生成AIによる経理プロセス改革支援

PwC税理士法人は、大手企業の経理・税務分野でAI活用を支援しており、2024年には三菱商事の経理プロセスにおけるAI導入の実証実験を実施しました。

契約書や請求書の情報をAI-OCRで読み取り、支払調書の提出要否を生成AIで自動判定ができます。高精度な抽出結果を達成し、手作業の削減に成功しました。

PwCは他にも、経理や監査業務へのAI適用を進めており、生成AIを活用した業務効率化を数多く実現するリーディング企業です。

出典:AIが切り開く効率化の新時代!PwC税理士法人が三菱商事の業務プロセス改革をサポート

デロイト トーマツ| AIソリューション連携による経理DX支援

デロイト トーマツグループは、2024年に経理AIソリューションを手がけるファーストアカウンティング社と提携し、幅広い企業の経理DXを支援する体制を構築しました。

同社のAI-OCRツール「Robota」「Remota」を活用し、紙の請求書や領収書のデータ化から自動仕訳までを一貫して効率化も可能です。

これにより、経理業務の負担軽減と電子化を同時に実現しています。デロイトは生成AIの活用や税務分野でのAI導入支援にも積極的で、経理DXの推進役として注目されています。

出典:ファーストアカウンティングとデロイトトーマツ、経理DXのさらなる推進に向けパートナー契約を締結

明治安田生命保険相互会社|データ検証機能で経費精算を支援

明治安田生命保険相互会社では、SAPPHIREのデータ検証機能を利用した新たな経費精算プロセスを導入し、業務の効率化と統制強化を同時に実現しました。

約6万件にのぼる管理職による経費承認業務が原則廃止され、年間5,300時間以上の管理職の業務時間を削減。また、AIによるチェック体制の導入で二重精算などの不備も減少し、精度とスピードの両立が図られています。経理の負担軽減と業務品質向上が進んだ導入事例です。

出典:明治安田生命保険相互会社様では、SAPPHIREのデータ検証機能を活用した新たな経費精算プロセスを構築し、経費精算の効率化と統制強化の両立を実現しています。

花王ビジネスアソシエ株式会社|「Remota」の導入で経理業務デジタル化

ファーストアカウンティングは、花王グループの経理業務の高度化を目的に、AIソリューションRemotaの提供を開始しました。

Remotaは95%以上の高い読取精度を誇り、従来の帳票処理で必要だった座標設定を不要とし、深層学習を活用することで文字認識の精度を向上させています。

確認作業の最大7割を削減し、AIによる勘定科目の自動仕訳で経理業務全体の効率化と負担軽減を実現しています。

出典:ファーストアカウンティング、花王グループの経理業務の高度化を目指す

株式会社ZOZO|請求書処理のAI自動化

株式会社ZOZOおよびZOZOテクノロジーズは、経理業務の効率化と決算の早期化を目的に、受取請求書の自動処理サービスsweeepを導入しました。

経理に特化した使いやすいインターフェースと高いコストパフォーマンスが評価され、紙の請求書処理が削減されました。その結果、月次締めは従来の7営業日から3.5営業日に短縮され、債務計上業務の標準化・一元化が進み、残業時間の削減にも成功しています。

さらに、ペーパーレス化とリモート業務の推進にも貢献できた導入事例です。

出典:月次決算を3.5日早期化したZOZO導入事例を公開。「sweeep」受取請求書の自動処理クラウド

C&Cビジネスサービス株式会社|

C&Cビジネスサービス株式会社は、経理・会計部門の問い合わせ対応を効率化するため、AIチャットボットを導入しました。使用しているのは、同じJBグループのJBCC株式会社が提供する「CloudAIチャットボット」で、IBM Watsonを活用したクラウド型のシステムです。

事前にFAQを学習させることで、AIが経理業務に関する質問に自動で回答できる体制を構築。担当者の対応負荷が軽減され、社内業務の効率化と情報共有の円滑化が可能になりました。

出典:業務を洗い出し、不要業務を廃止。業務DXの実践で、生産性向上へ

AI導入時の課題と注意点

メリットの大きいAI導入ですが、実施にあたってはいくつか乗り越えるべき課題も存在します。ここでは経理部門がAIを導入・運用する際によく直面する課題と、注意点を整理します。

まとまった初期投資が必要

AIツールやシステムを導入する際には、ソフトウェアの導入費やインフラ整備など、まとまった初期投資が必要になります。さらに導入後も、クラウドサービスの利用料や保守・メンテナンスといった継続的なコストがかかるため、費用負担は一度きりではありません。

そのため、導入を検討する段階でROI(投資対効果)のシミュレーションを丁寧に行い、実際に得られる効果と支出のバランスを明確にしておくことが重要です。予算管理と費用対効果の継続的な検証も欠かせません。

データ管理とセキュリティ対策が必要

AIを効果的に活用するには、まず高品質なデータの整備が不可欠です。紙の伝票や請求書が多い場合は、OCRなどを使って文書をデータ化し、正確に保管・管理します。

また、AIに取り込む情報には機密性の高い内容が含まれるため、適切な保存方法やアクセス制限などのセキュリティ対策が重要です。不適切な管理は情報漏えいや改ざんといったトラブルを招くおそれがあるため、社内規定や法令を遵守し、万全な体制で運用することが大切です。

業務プロセスの見直しが必要

現行の経理業務が紙や手作業に依存している場合、AIを導入するには業務プロセスそのものを見直す必要があります。帳票の電子化や承認フローの統一など、手順を標準化・簡素化しない限り、AIの効果を十分に発揮できません。

また、既存の基幹システムや会計ソフトとAIツールをどう連携させるかも重要な課題です。ただツールを導入するだけではなく、業務全体の流れを最適にする戦略的な設計が必要になります。そのため、IT部門と密に連携しながら、目的に応じた導入パターンを検討しましょう。

担当者側のリテラシー向上が必要

AI導入を成功させるには、経理担当者自身のリテラシー向上が必要です。新しいツールやシステムに適応するためには、経費処理や会計、財務、経営に関する知識だけでなく、AIやデータ活用に関する基本的な理解や学習技術も求められます。

そのため、社内研修や実務を通じた習熟のための時間やコストをあらかじめ確保する必要があります。

また、AIによる業務自動化が進むことで、「自分の仕事がなくなるのでは」といった不安を抱く担当者も少なくありません。

こうした心理的な心配を和らげるためにも、「AIは補助的な役割で、コンプライアンスや判断を伴う複雑な業務では人の関与が必要」ということを丁寧に説明しなくてはなりません。

ダブルチェック体制が必要

AIは膨大なデータをもとに高精度な処理を行いますが、その判断が常に正しいとは限りません。特に学習データに偏りがある場合、仕訳提案や異常検知などで誤った結果を導き出すことがあります。

AIは過去のパターンを得意とする一方で、想定外の事象や例外処理には弱く、誤判断が最終的な業務に影響を与える可能性も否定できません。

そのため、AIの出力結果を鵜呑みにせず、人間によるダブルチェック体制を整えることが重要です。考える力や判断力を持つ方の視点を反映させることで、問題の見落としを防ぎ、個人情報や経営判断にかかわる業務にも安心してAIを活用できます。

経理部門でAI導入を成功させる進め方

経理部でAIを導入する際に失敗しないポイントをご紹介します。ぜひ参考にしてください。

導入する目的を明確にする

AIを導入する際は、何のために導入するのかという目的を明確にし、解決すべき課題を具体化することが重要です。

以下のような目標を立てるのもおすすめです。

  • 請求書処理の時間を50%削減する
  • 仕訳入力ミスを90%減らす

定型業務のどこに問題があるのかを洗い出し、数値化された目標(KPI)を設定することで、導入後の効果も判断しやすくなります。目的が曖昧なままでは、どの業務にどのAIを導入すべきかの意思決定が難しくなり、ツールの選定や運用にも迷いが生じます。

導入前に状況を徹底的に分析し、AIを使うべき業務領域と期待する成果をはっきりさせることが、成功への近道です。

適切なAIツールの選定

定型業務の自動化にはRPA(Robotic Process Automation)が適しており、自然言語処理にはChatGPTなどの生成AIがおすすめです。

その他にも下記でいくつかのAIツールを表にまとめています。

分類用途代表的なツール
RPA(業務自動化)定型業務(データ入力・帳票作成など)の自動化UiPath、BizRobo!
AIチャットボット問い合わせ対応の効率化、24時間体制での顧客対応CloudAIチャットボット、ChatGPT(API連携)
データ分析AI取引データの分析、異常検知、財務レポート作成支援freee会計(AI月次監査)、マネーフォワード GPT連携
AI-OCR紙の請求書や領収書の読み取りとデータ化Remota、sweeep、Robota
生成AI(自然言語処理)文章の自動生成・要約・会話形式の応答などChatGPT、Claude

上記を参考に、自社に合ったツールを選びましょう。

トレーニングや教育を実施

AI導入を成功させるには、現場の従業員が新たなシステムや業務フローに無理なく適応できるよう、丁寧なトレーニングと教育が必要です。

経理をはじめとした事務職だけでなく、営業や経営管理など他部門とも連携し、AIの導入目的や業務効率への効果を理解してもらうことで、現場の協力が得やすくなります。

担当者任せにせず、人材育成を組織全体の取り組みとして進めることが大切です。実務の中で役立つ知識を中心に据え、AI導入時にはスタッフに過度な負担がかからないよう注意が必要です。

まとめ:AI導入を進めて経理業務を効率化しよう

AI導入を成功させるためには、目的の設定と現状分析に基づく適切なツールの選定、段階的な導入と運用、効果を継続的に評価する仕組みが重要です。

特にオフィス業務では、データ処理の精度や作業スピードの向上が求められ、AIはその中心的な役割を担います。導入にあたっては、複数のツールや使い方を比較し、自社の業務やスキルレベル、経営方針に合ったプランを立てることが大切です。

これらを徹底することで、予想以上の業務効率化や人的リソースの最適化が期待できます。

SHIFT AIでは、これまでの豊富な導入実績を活かし、完全に自社に最適化されたAI導入を支援いたします。今後の業務改革に役立つパートナーとして、ぜひご相談ください。