「ChatGPTを社内で使いたいが、情報漏洩が心配」「ポリシーを作らなければいけないが、何を書けばいいか分からない」という状況は、多くの企業の担当者が直面しています。ルールがないまま利用を黙認すると、顧客情報や社外秘データが外部AIサービスに送られ、学習データに取り込まれるリスクが残ります。一方で全面禁止にすると、現場は私物端末やアカウントで隠れて使う「シャドーAI」に流れ、かえって統制が効かなくなります。
AI利用ポリシーに最低限盛り込むべきは、①目的・適用範囲 ②利用を許可・禁止するツール ③入力してはいけない情報 ④生成物の取り扱いと最終確認 ⑤違反時の対応 ⑥相談・問い合わせ窓口の6項目です。本記事では、この6項目を満たす基本文例をそのままコピペできる形で用意し、部門別・業界別の追加ルール、策定5ステップ、著作権法や個人情報保護法といった法的観点までをまとめています。
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AI利用ポリシー 例文:そのままコピペできる基本テンプレート
最低限の6項目を満たした基本文例です。会社名・部署名・連絡先を自社の情報に置き換えるだけで、最初の一版として運用を始められます。まずは全社共通の土台として使い、後述の部門別・業界別ルールを必要に応じて追加してください。
以下のテンプレートは、特定のツール名に依存しない汎用的な構成にしています。自社で利用するツールが決まっている場合は、第3条の「許可ツール」に具体名を記載してください。
生成AI利用ポリシー(基本版)
第1条(目的)
本ポリシーは、当社における生成AIの安全かつ効果的な利用を目的とし、
従業員が遵守すべき基本ルールを定めるものです。
第2条(適用範囲)
本ポリシーは、当社のすべての役職員(正社員・契約社員・派遣社員・
業務委託先を含む)が、業務上で生成AIを利用するすべての場面に適用します。
第3条(利用を許可するツール)
業務での利用を許可する生成AIツールは、会社が指定したものに限ります。
許可ツール:(例:Microsoft 365 Copilot、社内提供のAIチャット 等)
未承認のツールを業務で利用する場合は、事前に情報システム部門へ申請し、
承認を得てください。
第4条(入力してはいけない情報)
次の情報を生成AIに入力することを禁止します。
・顧客や取引先の個人情報、および個人を特定できる情報
・社外秘情報、機密情報、未公開の経営情報
・ソースコードや設計書など、外部流出が事業リスクとなる情報
・第三者の著作物を、権利者の許諾なく入力する行為
なお、入力データが学習に利用されない設定(オプトアウト等)が
確認できているツール・契約形態を利用してください。
第5条(生成物の取り扱いと確認義務)
生成AIの出力には、誤りや古い情報、第三者の権利を侵害する内容が
含まれる場合があります。生成物を業務に用いる際は、必ず担当者が
内容の正確性・適法性を確認し、最終的な判断と責任は人が負います。
第6条(違反時の対応)
本ポリシーに違反した場合、就業規則に基づき必要な措置を講じます。
違反のおそれを認識した場合は、速やかに下記窓口へ報告してください。
第7条(相談・問い合わせ窓口)
本ポリシーに関する相談、未承認ツールの利用申請、違反の報告は、
(例:情報システム部 ai-policy@example.co.jp)まで連絡してください。
附則 本ポリシーは20XX年X月X日より施行します。
この基本版は、現状の利用実態に合わせて条文を増減できます。たとえばツールを1種類に限定している企業は第3条をシンプルに、複数ツールを併用する企業は許可リスト形式に拡張してください。条文番号を振った正式な規程フォーマットにしておくと、就業規則や情報セキュリティ規程との参照関係を明示しやすくなります。
AI利用ポリシーとは?企業に今すぐ必要な3つの理由
AI利用ポリシーとは、従業員が生成AIを業務で使う際の「やってよいこと・いけないこと」「責任の所在」「許可されたツール」を明文化した社内ルールです。情報漏洩や著作権侵害、法規制への対応リスクが現実化しているいま、ルール不在のまま利用を続けることが最大のリスクになります。ここでは整備を急ぐべき3つの理由を整理します。
情報漏洩・著作権侵害リスクが急増しているから
生成AIに顧客情報や社外秘データを入力すると、その内容が外部のサーバへ送信され、設定次第ではモデルの学習データに取り込まれる場合があります。また、生成された文章や画像が第三者の著作物に酷似していた場合、知らずに権利侵害を起こすおそれもあります。ルールで「入力してはいけない情報」と「生成物の確認義務」を定めておくことが、漏洩と侵害の両方を防ぐ最初の一手になります。
AI関連の法規制が世界的に強化されているから
EUでは2024年に「EU AI Act(AI規則)」が成立し、リスクの高いAI利用に段階的な義務が課されています。日本国内でも、個人情報保護法のもとで個人データをAIに入力する際の取り扱いが論点になります。海外拠点を持つ企業や、EU市場向けにサービスを提供する企業は、規制対象に該当しないかを確認し、ポリシーへ反映してください。EU域内の顧客データを扱う場合は、基本テンプレートの第2条(適用範囲)に海外拠点を明記し、第4条(入力禁止情報)にEU域内の個人データを加えてください。法規制の詳細は後述の「知っておくべき法的観点」で整理します。
ルールなしでは業務効率が逆に低下するから
ルールがないと、従業員は「この情報を入れていいのか」「このツールを使っていいのか」を都度判断できず、利用に踏み出せません。結果として、AIを使える人と使わない人の差が広がり、現場では私物アカウントでの利用(シャドーAI)が常態化します。ポリシーで安全な使い方の境界を示すことが、かえって安心して使える環境をつくり、全社の活用度を底上げします。
【部門・職種別】AI利用ポリシー例文
全社共通ルールに加えて、扱う情報や業務内容が異なる部門には追加ルールを設けると実効性が高まります。基本テンプレートの第4条(入力禁止情報)に、各部門固有の禁止事項を上乗せする形で運用してください。ここでは代表的な4部門の追加文例を示します。
部門別ルールは「全社ルールを上書きするもの」ではなく「全社ルールに足すもの」として設計するのが要点です。共通ルールを土台に、部門特有のリスクだけを追記すれば、現場が覚えるべきルールが最小限で済みます。
営業部門の追加ルール文例
【営業部門 追加ルール】
・顧客名、商談内容、見積金額など、取引先を特定できる情報を
そのまま生成AIに入力してはいけません。固有名詞は伏せて入力します。
・提案書やメール文面の生成は可としますが、送信前に
事実関係(金額・納期・固有名詞)を必ず人が確認します。
開発部門の追加ルール文例
【開発・エンジニア部門 追加ルール】
・自社プロダクトのソースコード、認証情報、サーバ設定を
未承認のAIツールに入力してはいけません。
・AIが生成したコードは、ライセンスとセキュリティの観点で
レビューを経たうえでマージします。
人事・管理部門の追加ルール文例
【人事・管理部門 追加ルール】
・従業員や応募者の個人情報(評価、健康情報、給与等)を
生成AIに入力してはいけません。
・採用や評価に関わる最終判断をAIの出力のみで行ってはいけません。
法務部門の追加ルール文例
【法務部門 追加ルール】
・契約書や係争に関する未公開情報を、外部AIツールに入力する場合は
法務責任者の承認を必須とします。
・AIが生成した法的見解は参考情報にとどめ、最終判断は有資格者が行います。
これら4部門の文例に共通するのは、「固有名詞・機密情報は入れない」「最終判断は人が負う」という2点です。部門ごとに守る情報の種類は違っても、この原則を軸に追加ルールを組み立てれば、現場が迷わない一貫したポリシーになります。
【業界別】AI利用ポリシーで押さえるべき例文・注意点
規制業種では、全社共通ルールだけでは不十分なケースがあります。金融・医療・製造・士業など、扱う情報や法規制が特殊な業界では、入力禁止情報の範囲と確認体制を業界特性に合わせて強化してください。ここでは4業界の注意点と、基本テンプレートに上乗せできるコピペ可能な追加条文を示します。
業界別の調整は、主に「入力してはいけない情報の定義」と「人による確認をどこまで厳格にするか」の2点に集約されます。下表で業界ごとの重点を確認してください。
| 業界 | 特に注意すべき入力禁止情報 | 重点的に強化する運用アクション |
|---|---|---|
| 金融 | 口座情報、与信情報、インサイダー情報 | 利用ログ(利用者・日時・ツール)を1年間保持し定期点検する |
| 医療・ヘルスケア | 患者の診療情報、要配慮個人情報 | 生成物に有資格者(医師・薬剤師)の最終確認サインを必須にする |
| 製造 | 設計図面、製造ノウハウ、特許前の技術情報 | 営業秘密管理規程の「機密」区分と入力禁止情報の定義を一致させる |
| 士業(法律・会計) | 依頼者の機密情報、係争情報 | 外部AIへの入力に担当有資格者の事前承認を必須にする |
金融業界では、口座情報や与信情報の入力を明確に禁止したうえで、誰がいつどのツールを使ったかを追跡できる監査ログの保持を条文に加えます。医療・ヘルスケアでは、患者の診療情報が個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当するため、原則として外部AIへの入力を禁止し、生成物の医学的妥当性は専門職が確認する体制を定めます。
製造業では、設計図面や特許出願前の技術情報が「営業秘密」にあたるため、不正競争防止法の観点からも入力禁止情報として明記し、既存の営業秘密管理規程と整合させます。士業では、依頼者から預かった機密情報の守秘義務が前提となるため、外部AIツールへの入力には有資格者の承認を必須とし、生成された見解は必ず人が検証してから用います。いずれの業界も、共通テンプレートの第4条と第5条を業界特性に合わせて厚くするのが基本方針になります。
以下に、4業界それぞれの追加条文テンプレートを示します。基本テンプレートの第4条・第5条の下に「業界別追加条項」として差し込むだけで使えます。自社の既存規程の名称や監督指針に合わせて、丸括弧内を置き換えてください。
金融業界の追加条文文例
口座情報・与信情報・インサイダー情報の入力禁止と、誰がいつ何を入力したかを追跡する監査ログの保持を条文化します。金融分野は監督指針でデータの取り扱いと記録保持が問われるため、確認体制まで条文に落とし込んでください。
【金融業界 追加条項】
第4条の2(金融情報の入力禁止)
顧客の口座情報、残高、与信・審査情報、未公表の重要事実
(インサイダー情報)を生成AIに入力してはいけません。
顧客資産に関する情報は、社内承認を得た契約形態のツール以外で
取り扱ってはいけません。
第4条の3(監査ログの保持)
生成AIの利用ログ(利用者・日時・利用ツール)を取得し、
最低1年間保持します。情報セキュリティ部門は、定期的に
ログを点検し、未承認ツールの利用がないかを確認します。
医療・ヘルスケア業界の追加条文文例
患者の診療情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたるため、外部AIへの入力を原則禁止とし、生成物は有資格の専門職が最終確認する体制を条文化します。医療情報システムの安全管理ガイドラインとの整合も明記してください。
【医療・ヘルスケア業界 追加条項】
第4条の2(診療情報の入力禁止)
患者の氏名・病歴・診療記録・検査結果などの診療情報、
および要配慮個人情報を、外部の生成AIに入力してはいけません。
患者を特定できる情報は、匿名化したうえでも入力を原則禁止とし、
利用する場合は院内の個人情報保護責任者の承認を必須とします。
第5条の2(医学的妥当性の確認)
生成AIが出力した診断補助・服薬・治療に関する情報は、
有資格者(医師・薬剤師等)が最終確認のサインを行うまで
患者対応に用いてはいけません。
製造業の追加条文文例
設計図面・製造ノウハウ・特許出願前の技術情報は「営業秘密」にあたるため、不正競争防止法の観点から入力禁止情報として明記し、既存の営業秘密管理規程と連動させます。秘密区分の参照関係を条文に残してください。
【製造業 追加条項】
第4条の2(技術機密の入力禁止)
設計図面、CADデータ、製造プロセスのノウハウ、特許出願前の
技術情報を生成AIに入力してはいけません。これらは
営業秘密管理規程の「機密」区分に準じて取り扱います。
第4条の3(協力会社情報の取り扱い)
取引先・協力会社から預かった図面・仕様情報を、
当該取引先の同意なく生成AIに入力してはいけません。
共同開発に関する未公開情報も同様に取り扱います。
士業(法律・会計)の追加条文文例
依頼者から預かった機密情報には守秘義務が及ぶため、外部AIツールへの入力には有資格者の承認を必須とし、生成された見解は必ず人が検証してから用いる体制を条文化します。守秘義務違反のリスクを条文の主語に据えてください。
【士業(法律・会計)追加条項】
第4条の2(依頼者情報の入力禁止)
依頼者から受任した案件の機密情報、係争中の情報、
未公開の財務情報を、外部の生成AIに入力してはいけません。
守秘義務の対象となる情報の入力には、案件の担当有資格者の
事前承認を必須とします。
第5条の2(有資格者による検証)
生成AIが出力した法的見解・会計処理に関する情報は
参考情報にとどめ、有資格者が内容を検証し、最終判断を
行ったうえでなければ依頼者への成果物に用いてはいけません。
これら4業界の追加条項は、基本テンプレートに足して完結します。自社が複数業界にまたがる場合は、該当する条項を組み合わせて第4条・第5条の直後に配置してください。
AI利用ポリシーに盛り込むべき項目【チェックリスト】
ポリシーに盛り込むべき項目は、大きく6つのカテゴリに整理できます。自社のドラフトを点検する際は、下のチェックリストで抜け漏れを確認してください。1つでも欠けると、現場が判断に迷う「グレーゾーン」が生まれます。
冒頭で示した基本テンプレートは、この6項目をすべて満たす構成にしています。自社で独自に作成する場合も、最低限この6項目をカバーしているかを確認することが出発点になります。
- 目的・適用範囲:何のためのルールか、誰に適用されるか
- 許可・禁止ツール:使ってよいツールと申請手続き
- 入力禁止情報:個人情報・機密情報・著作物の扱い
- 生成物の取り扱い:確認義務、責任の所在、著作権
- 違反時の対応:違反時の措置と報告ルート
- 相談・問い合わせ窓口:申請や相談の連絡先
各カテゴリと基本テンプレートの対応条文は下表のとおりです。
| カテゴリ | 盛り込む内容 | 基本テンプレートの対応条文 |
|---|---|---|
| 目的・適用範囲 | 何のためのルールか、誰に適用されるか | 第1条・第2条 |
| 許可・禁止ツール | 使ってよいツールと申請手続き | 第3条 |
| 入力禁止情報 | 個人情報・機密情報・著作物の扱い | 第4条 |
| 生成物の取り扱い | 確認義務、責任の所在、著作権 | 第5条 |
| 違反時の対応 | 違反時の措置と報告ルート | 第6条 |
| 相談・問い合わせ窓口 | 申請や相談の連絡先 | 第7条 |
この6項目に加えて、運用を続けるなかで「教育・研修の受講義務」「定期見直しの頻度」を追記すると、ポリシーが形骸化しにくくなります。最初から完璧を目指すより、6項目を満たした版を早く施行し、運用しながら追記していく進め方が現実的です。
ゼロから始めるAI利用ポリシーの作り方5ステップ
AI利用ポリシーは、現状調査から定期見直しまでの5ステップで策定できます。完璧な規程を一度で作ろうとせず、基本版を施行してから改定を重ねる進め方が、結果的に実態に合うルールを早く整えます。各ステップの要点を順に解説します。
ステップ1:現状の利用実態を調査する
まず、社内で誰がどのツールをどんな業務に使っているかを把握します。すでにシャドーAIが広がっているケースも多く、実態を踏まえずにルールを作ると、現場の利用と乖離した「守られないポリシー」になります。アンケートやヒアリングで、利用ツール・利用目的・入力している情報の種類を洗い出します。
ステップ2:関係部署を巻き込んで論点を整理する
情報システム、法務、人事、各事業部門を巻き込み、それぞれが懸念する論点を洗い出します。情報システムはセキュリティ、法務は著作権や契約、人事は労務の観点を持っています。早い段階で関係部署の合意を取っておくと、後の承認プロセスがスムーズになります。
ステップ3:基本テンプレートをもとにルールを起案する
本記事冒頭の基本テンプレートを土台に、自社の利用ツール・禁止情報・運用体制を反映してドラフトを作成します。部門別・業界別の追加ルールも、必要な範囲でこの段階で組み込みます。ゼロから書き起こすより、テンプレートを編集する方が抜け漏れを防げます。
ステップ4:法務チェックと役員承認を経る
ドラフトができたら、法務部門または顧問弁護士に、著作権法・個人情報保護法・自社の業界規制との整合をチェックしてもらいます。そのうえで役員の承認を得て、全社ルールとして正式に発効させます。承認のプロセスを記録しておくと、ポリシーの正当性を社内外に説明しやすくなります。
ステップ5:全社発表と定期見直しの仕組みを作る
策定したポリシーは、全社説明会や研修とセットで周知します。条文を配布するだけでは定着しないため、「なぜこのルールがあるか」を具体例で伝えることが要点です。あわせて、ツールの進化や法改正に合わせて少なくとも半年〜1年ごとに見直す体制を定め、改定履歴を残します。
以下の資料では、AIの運用ルール設計やリスク対策など、適切なポリシー作成に役立つ知識を得られます。安全な運用の第一歩になる内容です。
AI利用ポリシーを確実に運用する社内体制の作り方
ポリシーは策定して終わりではなく、教育・運用チェック・違反対応の3点をセットで仕組み化することで初めて機能します。文書を作っただけで現場に浸透しなければ、シャドーAIは止まりません。ここでは運用を支える3つの仕組みを解説します。
運用設計で共通する考え方は「完全禁止しない・人が最終確認する」ことです。利用を一律に止めるのではなく、安全な使い方を教育で広げ、最終判断には必ず人が関与する。この思想を運用全体に通すことが、ルールを守られるものにします。
教育・研修プログラムを設計する
ポリシーの条文を読ませるだけでは、現場は「何が危険か」を実感できません。実際に起こりうる漏洩シナリオや、入力してよい情報・いけない情報の具体例を交えた研修を行うと、ルールが自分ごとになります。新入社員や中途入社者にも継続的に提供できるよう、研修を年間スケジュールに組み込み定例化してください。
定期的な運用チェック体制を整える
ポリシーが実際に守られているかを点検する仕組みを設けます。利用ログの確認、許可ツール以外の利用がないかのモニタリング、現場へのヒアリングなどを定期的に実施します。チェックの目的は処罰ではなく、ルールと実態のズレを早期に発見して改定につなげることにあります。
違反時の対処フローを明確にする
万一の違反に備え、報告ルート・調査手順・措置の基準をあらかじめ決めておきます。フローが曖昧だと、違反を認識しても誰も動けず、被害が拡大します。「気づいたら誰に報告するか」「どの程度の違反でどう対応するか」を就業規則と連動させ、第6条(違反時の対応)に明文化してください。
知っておくべきAI利用ポリシーの法的観点
AI利用ポリシーを実効性のあるものにするには、著作権法・個人情報保護法・EU AI Actの3つの観点をポリシーに織り込んでください。法律の全体を網羅する必要はなく、ポリシーに反映すべき実務上の注意点に絞って理解すれば十分です。要点を整理します。
法的観点は、自社だけで判断が難しい領域です。下記の整理を踏まえつつ、最終的には法務部門や顧問弁護士に自社の状況を確認することを前提に進めてください。
著作権法:生成物の権利と侵害リスク
生成AIの出力が既存の著作物に類似していた場合、権利侵害となるおそれがあります。また、他者の著作物を許諾なく入力する行為もリスクになります。ポリシーでは「生成物は人が確認してから使う」「第三者の著作物を無断で入力しない」を定め、侵害の両面を抑えます。
個人情報保護法:入力データの取り扱い
顧客や従業員の個人情報を生成AIに入力する行為は、個人情報の第三者提供や利用目的の問題に触れる可能性があります。特に医療情報などの要配慮個人情報は取り扱いが厳格です。ポリシーで個人情報の入力を原則禁止とし、入力データが学習に使われない契約・設定のツールを選ぶことが基本になります。
EU AI Act:海外展開企業が確認すべき点
EU AI Actは、EU域内でAIシステムを提供・利用する事業者に適用される規則です。リスクレベルに応じた義務が課されるため、EU市場向けにサービスを展開する企業や海外拠点を持つ企業は、自社の利用が規制対象に該当するかを確認してください。規制対象に該当する場合は、基本テンプレートの第2条(適用範囲)に海外拠点を含め、EU域内の顧客データを第4条(入力禁止情報)に明記する形でポリシーへ落とし込んでください。国内のみで利用する企業も、今後の国内規制動向の先行事例として把握しておく価値があります。
他社の取り組み|Finatextホールディングスとアンダーソン・毛利・友常法律事務所に学ぶポリシー運用
ルールをどう設計し、運用に乗せるかは、すでに整備を進めた企業の実例が参考になります。AI経営総合研究所が独自に取材した先行企業の活用実態から、ガイドラインを継続改定するIT企業と、士業として早期にルールを整えた法律事務所の2社を紹介します。
株式会社Finatextホールディングス|ガイドラインを継続改定し「ガードレール」で運用
Finatextホールディングスでは、「今後は開発エージェントをより広範囲に活用し、業務のライフサイクルを自動化していきたいと考えています。そのために重要になるのが、AIの暴走を防ぐためのガードレールをしっかりと作り上げることです。新卒の社員をサポートする仕組みと同じように、AIに対しても適切な制御をかけていきます」という考えのもとで運用を進めています。同社は自社AIガイドラインを2023年3月の初版以降、継続的に改定し、複数AIモデルを一画面から選べる社内ツール「Alfred」を開発しました。セキュリティと信頼性を求められる金融分野で、生産性向上を両立させるための取り組みです。
ポイントは、ポリシーを一度作って終わりにせず、新卒社員を育てるのと同じ発想で継続的に「制御の仕組み」を更新している点です。ルールを固定せず、ツールの進化に合わせて改定し続ける姿勢が、規制業種での安全な活用を支えています。
詳細は株式会社Finatextホールディングスのインタビュー記事で紹介しています。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所|士業として早期にAI利用ガイドラインを整備
アンダーソン・毛利・友常法律事務所では、「長年担当している大手クライアントとの仕事でも、いただいたご相談に対して、『今はその確認よりも、むしろこちらを優先して検討すべきではないでしょうか』と、一歩踏み込んだアドバイスをすることがあります」という形で、AIによって生まれた余白を本来の専門業務に充てています。同事務所は2023年3月に所内向けAI利用ガイドラインを策定し、弁護士だけでなくスタッフを含む全所員が生成AIを日常業務で活用できる環境を整えました。
ポイントは、守秘義務が厳格な士業でありながら、利用を禁止するのではなく早期にガイドラインを整えて活用を可能にした点です。ルールで安全の境界を引いたうえで全所員に開放する設計が、規制の厳しい業界でも活用を前に進めています。
詳細はアンダーソン・毛利・友常法律事務所のインタビュー記事で紹介しています。
2社に共通する設計思想:①利用を全面禁止せず、ルールで安全な境界を引いて活用を可能にしている ②ガイドラインを一度で完成させず、ツールや業務の進化に合わせて改定・運用し続けている ③最終的な判断と責任は人が負う前提を崩していない。自社のポリシーも、この3点を軸に「禁止」ではなく「安全に使える条件づくり」として設計することが、実態に合うルールへの近道になります。
まとめ|AI利用ポリシーで安全なAI活用を実現する
AI利用ポリシーは、①目的・適用範囲 ②許可・禁止ツール ③入力禁止情報 ④生成物の取り扱い ⑤違反時の対応 ⑥相談窓口の6項目を満たす基本版を、まず早期に施行することが出発点になります。本記事冒頭の条文テンプレートを自社情報に置き換え、部門別・業界別の追加ルールを必要な範囲で重ね、法務チェックと役員承認を経て発効させる流れで整備が進みます。
策定後は、教育・運用チェック・違反対応の3点をセットで仕組み化し、ツールの進化や法改正に合わせて定期的に改定します。先行企業の実例が示すように、「全面禁止せず、ルールで安全な境界を引き、最終判断は人が負う」という設計思想が、規制業種でも活用を前に進める鍵になります。
以下の資料では、運用ルール設計や報漏洩を防ぐ対策などを解説しています。適切な利用ポリシーを作成し、AIの安全な活用を手助けする内容です。成果を出すための第一歩になりますので、ぜひお気軽にご覧ください。
AI利用ポリシー策定に関するよくある質問
- QAI利用ポリシーの例文をそのままコピペして使っても問題ありませんか?
- A
基本テンプレートを土台に使うことは問題ありませんが、自社情報への置き換えと法務チェックが前提です。会社名・許可ツール・連絡先を自社の内容に変え、業界規制や既存規程との整合を法務部門または顧問弁護士に確認してから発効してください。
- Q小規模企業でもAI利用ポリシーは必要ですか?
- A
小規模企業ほど必要です。情報漏洩が一度起これば事業へのダメージが大きく、専任のセキュリティ部門を持たないケースが多いためです。本記事の基本テンプレート7条程度の簡易版から始め、利用実態に合わせて条文を追加していく形で十分に機能します。
- Q業界別の追加条文は基本テンプレートとどう使い分ければいいですか?
- A
全社共通の基本テンプレートを土台に、本記事の業界別追加条文(金融・医療・製造・士業)を第4条・第5条の直後に差し込んで使います。金融なら監査ログの保持、医療なら有資格者の最終確認サインといった業界固有の条項だけを足せば、現場が覚えるルールを最小限に保てます。複数業界にまたがる場合は該当する条項を組み合わせてください。
- Q既存の情報セキュリティ規程との関係はどうすればいいですか?
- A
AI利用ポリシーは、既存の情報セキュリティ規程の下位ルールとして位置づけるのが基本になります。入力禁止情報の定義などは既存規程の機密情報区分と整合させ、重複や矛盾がないように条文を参照させます。条文番号を振った正式フォーマットにしておくと、規程間の参照関係を示しやすくなります。
