画像認識AIは、製造・物流・医療など、さまざまな業界で活用が広がっています。目視検査の限界や人手不足といった課題に直面する企業にとって、AIの導入は大きな業務改善の鍵となるでしょう。
本記事では、画像認識AIの仕組みや活用できる技術の種類をわかりやすく解説するとともに、業界別の最新活用事例11選をご紹介します。導入メリットや課題、PoC(概念実証)や無料ツールの活用方法まで、初めてAIを検討する方にもわかりやすく網羅しています。
なお、自社へのAI導入を検討している方や、より深い知識を得たい方は、企業向けにAI研修・導入支援を行っている【SHIFT AI】の無料相談がおすすめです。まずは気軽に、現場の課題や実現したいことを相談してください。
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AI画像認識とは?仕組みとできること

カメラやスマートフォンで撮影された画像や映像を、AIが分析・理解する「画像認識」は、近年大きな注目を集めています。ディープラーニング(深層学習)技術の進化により、認識精度が飛躍的に向上し、さまざまな業界で活用が進んでいます。
ここでは、画像認識AIの基本的な仕組みと開発手段についてみていきましょう。
そもそもAI画像認識とは
AI画像認識とは、画像や映像から人物・物体・文字などの情報をAIが自動で読み取り、分類・検出・分析する技術です。以下に、画像認識AIで実現できる代表的なタスクを一覧でまとめました。
項目 | 内容の概要 | 活用例 |
画像分類 | 画像全体を特定のカテゴリに分類 | 商品分類、動物の種類判別など |
物体検出 | 画像内の特定物体の位置を検出し、ラベルを付ける | ナンバープレート検出、不良品検出など |
セグメンテーション(領域分割) | 画像をピクセル単位で分割し、領域ごとに分類 | 医療画像の腫瘍識別、道路構造の抽出など |
顔認識 | 人物の顔を検出・照合し、個人を特定 | 出退勤管理、セキュリティ監視など |
OCR(文字認識) | 画像内の文字を抽出してテキスト化 | 書類デジタル化、伝票読取など |
異常検知 | 正常と異なるパターンを自動で発見 | 外観検査、設備トラブルの兆候検出など |
行動解析 | 動作や姿勢の変化をAIが追跡し、内容を判断 | 転倒検知、スポーツフォーム分析など |
この技術は、ディープラーニングをベースにしており、人間の目に近い精度でパターンを見分けることができます。現在では、製造業のキズ検出や小売業の棚管理、医療分野での診断支援といったさまざまな業界で活用が進んでいます。
AI画像認識の開発手段|自社開発・外部委託・SaaS比較
画像認識AIを導入する方法は主に3つあります。
ひとつは、自社のエンジニアがモデルを構築する「自社開発」。高度なカスタマイズが可能ですが、専門知識や学習データの整備が必要です。
次に、AI開発会社へ依頼する「外部委託」。一定の費用はかかるものの、高精度なモデルを効率よく構築できます。
そして、最近増えているのが「SaaS型AIサービス」の活用です。初期投資が少なく、ノーコードで導入できる手軽さが魅力です。
それぞれの特徴を理解し、自社の目的・体制に合った方法を選ぶことが重要です。
業界別に見るAI画像認識の活用事例11選

画像認識AIは、多様な業界で実務レベルの成果を上げており、その用途も年々広がっています。製造業の品質検査から、小売業の在庫管理、医療・建設・インフラ分野の安全管理まで、導入目的はさまざまです。
ここでは、実際に企業や自治体などで導入された事例を業界別にご紹介します。
事例1. 製造業|画像認識AIによる食材・部品の自動選別で品質安定化と効率化
食品メーカーのキユーピーでは、ベビーフード製造工程において、AIによる画像認識技術を活用した自動選別システムを導入しています。ダイスポテトの形や色をカメラで撮影し、AIが正常品と異常品を瞬時に判別することで、不良品を自動的にラインから除外できる仕組みです。
これにより、熟練作業員による目視選別に頼っていた工程が自動化され、品質のばらつきが解消されました。また、作業効率の向上や人手不足の解消、衛生管理の強化にもつながっています。
画像認識AIは、加工食品のように微細な見た目の違いを高精度に識別する用途において、非常に高い効果を発揮しています。
出典元:ニュースイッチ「キユーピーがAI画像認識でポテト選別」
事例2. 小売業|棚画像の自動認識で品出し・在庫管理を効率化
小売業界では、商品の陳列状況をAIが画像で自動認識し、売り場の最適化を支援する取り組みが進んでいます。イオンリテールでは、店舗内の棚を撮影した画像をもとに、AIが商品ごとの在庫状況や欠品箇所を自動で判別するシステムを導入しました。
これにより、従来はスタッフの目視に頼っていた品出し判断が効率化され、欠品の見逃しや過剰在庫の発生を抑えることが可能になりました。また、棚割の傾向分析も容易となり、来店客の購買行動を反映した陳列改善や販促にもつながっています。
このように、画像認識AIは店舗運営の属人性を解消し、業務全体の精度とスピードを高めるツールとして注目されています。
出典:NEC「NEC、AIを活用し小売店舗のDXを支援する「NEC 棚定点観測サービス」の品出し通知機能などを強化 ~イオンリテール、東急ストアで先行採用~」
事例3. 医療業界|画像診断支援による早期発見と医師の負担軽減
新潟県三条市の津端内科医院では、胸部レントゲン検査や大腸内視鏡検査にAI画像診断技術を導入し、診断支援を行っています。
AIが画像を解析し、肺の異常所見や腸内の病変を自動で指摘することで、医師の見落としを防ぎ、早期発見に貢献。これにより、診断の精度が高まり、医師の負担軽減や患者の安心感の向上にもつながっています。
こうした取り組みは、地域の開業医にとっても現実的かつ効果的なAI活用例として注目されています。
出典元:WAM NETニュース「「画像診断AI」で病変を早期発見&見落とし防止!県内の医療機関でも導入、開業医の負担軽減にも」
事例4. 農業|AIアプリ「HeSo+」で土壌病害リスクを事前診断し防除の適正化を支援
農研機構とシステム計画研究所は、AIを活用して圃場の土壌病害リスクを事前に診断できるアプリ「HeSo+(ヘソプラス)」を開発し、2022年4月から提供を開始しました。このアプリでは、栽培地の土壌理化学性データや管理履歴などを入力すると、AIが根こぶ病や黒腐菌核病などの病害発生リスクを解析します。
診断結果は、発病ポテンシャルを3段階で可視化し、信頼度(自信度)もあわせて表示される仕組みです。予測精度は73.6〜86.5%と高く、土壌消毒剤の過剰使用を防ぐ手段としても有効とされています。
「HeSo+」は、人間の健康診断の考え方を応用した「ヘソディム」理論に基づき設計されています。農業現場における予防的な病害管理を支援する先進的ツールのひとつです。
出典元:農研機構「圃場毎の土壌病害の発生しやすさをAIで診断できるアプリを開発」
事例5. 建設業|安全対策としてのヘルメット着用検出システム
建設業界では、ヘルメットに装着する小型デバイスを活用し、作業者の安全管理を強化しています。
さらに、夏場には熱ストレスの度合いを検出して休憩を優先的に促す機能や、個別アラートでの即時通知機能も搭載。現場での迅速な対応と安全性の大幅な向上が期待されています。
収集データはCSVによる出力が可能。現場の安全対策や記録管理に役立っています。今後は無線給電や安全帯の着用検知など、機能拡充も予定されています。
出典元:建設業労働災害防止協会(建災防)「作業者安全モニタリングシステム」
事例6. 物流業|荷物の破損・仕分けミスをリアルタイム検知
物流業界では、NTTデータが開発した画像認識AI「物流画像判別AIエンジン」が注目されています。この技術は、高精度カメラで撮影した荷物画像をもとに、破損や荷姿、ラベル不備といった最大1,000種類の特徴をAIが自動で判別します。
検品や仕分け、積み降ろしといった現場作業の精度を高め、省人化と再出荷対応の削減が可能です。人手不足が深刻化する中、物流品質を維持しながら業務効率を高めるソリューションとして期待されています。
出典元:NTT DATA「AIを活用した「物流業務変革コンサルティングサービス」の提供を開始」
事例7. 鉄道業界|落とし物対応に画像解析AIを活用
Osaka Metroでは、LINEアプリと連携した落とし物検索サービス「落とし物クラウドfind」を導入しました。2024年10月からは、画像解析AIによって、利用者が送信した落とし物の写真を自動で解析し、データベースとのマッチングが行える全国初の仕組みを採用しています。
これにより、これまで電話やメールでは伝えにくかった特徴も正確に伝わり、返還率向上に貢献しています。駅・車内で預かった落とし物は写真付きでAIに登録され、問い合わせ対応の手間も大幅に軽減されました。
返還率と対応スピードの両立を実現した、利便性と業務効率の高い取り組みです。
出典元:Osaka Metro 「全国初!Osaka Metro が落とし物問い合わせに画像解析AIを導入~LINEアプリを利用した落とし物検索サービス「落とし物クラウドfind」を導入します~」
事例8. インフラ管理|AI ×ドローンで橋梁やトンネルのひび割れ・腐食を自動検出
キヤノンは大田区および東京科学大学と連携し、橋梁や歩道橋のひび割れ、腐食をAIで自動検出する画像解析サービス「インスペクション EYE for インフラ」を提供しています。ドローンや高精度カメラで撮影した画像を解析することで、交通規制を行わずに点検が可能です。
作業効率と安全性を両立し、インフラ維持管理の省力化と地域負担の軽減に貢献しています。将来的には、点検作業の自動化を見据え、さらなる技術開発と適用範囲の拡大が進められています。
出典元:Canon「キヤノンが大田区および東京科学大学と橋梁点検でのデジタル画像とAIの活用を検証こ線橋や横断歩道橋の点検作業効率化における有用性を実証」
事例9. 自動車業界|組立ラインでの部品欠品やミスを画像解析AIがリアルタイム検出
自動車部品メーカーのアイシンは、組立ラインにおける部品の欠品や外観不良の検出に、画像解析AIを活用したエッジデバイスを導入しました。AIアプリをカメラ側で稼働させることで、撮影画像からリアルタイムに不良を自動判定します。
オープンソースツールによる一括管理により、システムの安定稼働と生産ラインの停止リスク軽減を実現しました。コンテナ型アプリの採用で、更新作業の柔軟性も高まっています。
スマートファクトリー化を後押しする好事例のひとつです。
出典元:デジタルクロス「アイシン、目視検査工程にエッジAI使う自動判定システムを導入」
事例10.金融業界|ATMでの不正操作・なりすまし検出にAIを活用
金融機関では、AI搭載カメラと通報機器を連携させ、ATMを操作しながら携帯電話で通話している人物を自動で検知するシステムを導入しています。物体認識と追跡技術により、還付金詐欺などの振り込め詐欺をリアルタイムで検出可能です。
回転灯や音声通知によって即時に注意喚起を行い、被害の未然防止と社会貢献を両立しています。導入により、防犯対策の強化と来店客の安心感向上が期待されています。
出典元:HITACHI「振り込め詐欺防止AIカメラサービス」
事例11. アパレル業界|AI試着サービスで顧客の好みや似合う服を自動分析
りぷらすが提供するAI試着サービス「きてみて」は、顔写真と簡単な情報を入力するだけで利用できます。独自理論「88診断」とAIを活用し、ユーザーに似合うファッションのテイストや商品を自動で提案します。
約7万人規模の統計データと1万人の対面診断実績に基づき、高精度な診断と試着画像の生成が可能です。納得感ある服選びをオンラインでも実現でき、販売率や顧客満足度の向上につながっています。
出典元:ネットショップ担当者フォーラム「7万人の統計と1万人の診断データを活用したAI試着サービス「きてみて」、“似合う”を科学で見える化」
画像認識AIを導入する3つのメリット

画像認識AIは、目視に頼っていた確認作業や判断業務を自動化し、人的ミスの削減や業務効率化を実現します。ここでは、導入によって得られる具体的なメリットを3つ紹介します。
メリット1.精度・スピード・人件費削減を同時に実現できる技術
画像認識AIは、従来の人手による目視検査に比べて圧倒的に高精度かつ高速に処理を行えます。たとえば、微細なキズや欠陥も自動で瞬時に検出でき、作業品質を均一化できます。
また、作業時間の大幅短縮や人員配置の最適化により、人件費削減と業務効率化の両立が実現可能です。結果として、現場全体の生産性向上に寄与します。
メリット2.人手に頼らない品質管理で24時間体制の業務変革が可能
AIを活用すれば、昼夜問わず稼働できる自動検査体制が構築でき、24時間体制での品質管理が現実のものとなります。人手不足が課題となる現場においても、安定した検査品質を維持できるほか、従業員の夜勤・長時間労働を軽減することが可能です。
これにより、働き方改革の推進や生産性の向上にも直結するソリューションとして導入が進んでいます。
メリット3.導入効果を示す数値が社内稟議・意思決定を後押し
AI導入によって得られた成果を定量的に可視化することは、社内での合意形成や経営判断において非常に有効です。たとえば、「検査ミス率の80%削減」「処理スピードが2倍に向上」など、具体的な改善指標があることで、導入の費用対効果を明確に伝えられます。
これにより、現場主導だけでなく経営層を巻き込んだ意思決定を後押しできます。
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導入時の注意点とよくある課題

画像認識AIの導入には多くのメリットがある一方で、現場環境や運用体制によっては想定外の課題が発生することもあります。ここで紹介する注意点を導入前に把握しておきましょう。
初期コスト・教師データの整備・精度チューニングの難しさ
画像認識AIの導入には、高性能なカメラや処理装置の購入といった初期コストが発生します。また、高精度な認識を実現するためには、対象物に応じた教師データの整備や、現場環境に合わせたチューニングが必要です。
これらの工程は専門知識と時間を要し、導入のハードルとして立ちはだかります。
現場の理解・運用変更・データ取得環境の確保
AI導入には、既存業務とのすり合わせや、カメラ設置・通信環境の整備といった物理的対応が不可欠です。同時に、現場スタッフの理解と協力も欠かせません。運用変更に伴う混乱や反発を避けるための丁寧な説明や教育が求められます。こうした環境構築には時間と労力が伴います。
課題の乗り越え方
いきなり本格導入するのではなく、まずは限定的な領域でPoCを行い、効果や課題を可視化するのが効果的です。また、最近では無料トライアル可能なAIツールもあり、初期負担を抑えて導入に踏み出せます。段階的な取り組みでリスクを最小化していきましょう。
AI画像認識を導入する3つのステップ

AI画像認識の導入を成功させるには、目的の明確化から始まり、最適なツール選定、そして現場への実装と運用体制の整備が重要です。以下では、実際の現場でスムーズに導入・定着させるための3つの基本ステップをご紹介します。
ステップ1.業務課題と導入目的を明確にする
導入の第一歩は、現場のどんな課題を解決したいのか、AI画像認識で何を実現したいのかを明確にすることです。たとえば「検査の見逃しをなくしたい」「人手に頼らず24時間体制を築きたい」など、具体的な課題を洗い出しましょう。
そうすることでAI導入の方向性が定まり、必要な機能や精度要件の判断も容易になります。目的が曖昧なままでは導入後の評価や継続的な改善も難しくなるため、最初の設計段階がとても重要です。
ステップ2.PoCから始める
AI画像認識の導入は、いきなり本格導入するのではなく、小規模なPoCから始めるのが効果的です。実データを使ってAIの精度や現場適応性を検証し、業務フローや人的リソースとの整合性を確認できます。
PoCを通じて課題を洗い出せば、精度向上や環境調整が事前に可能となり、本格導入時のリスクを大幅に軽減できます。
ステップ3.運用ルールを整備する
AIの本格導入後は、現場での運用ルールの整備が成功の鍵を握ります。たとえば「誰がデータを確認・判断するのか」「アラート発生時の対応フロー」など、具体的な運用手順を明確にし、関係者間で共有することが重要です。
加えて、AIが継続的に高精度で動作するよう、定期的なモニタリングと再学習の体制も整えておく必要があります。
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まとめ|AI画像認識の導入事例を参考にして、自社のビジネスを成長させよう

画像認識AIの導入を検討する際、最初の一歩として重要なのは「自社と類似した課題を持つ企業の導入事例を知ること」です。業種や業務内容によって導入の目的や得られる効果は異なります。
先行事例から学ぶことで、自社に必要な機能や導入時の注意点が具体化され、社内での検討や稟議もスムーズに進められるでしょう。失敗リスクを避けながら、導入効果を最大化するための有効なアプローチです。
なおSHIFT AIでは、貴社の課題や業務に合ったAI導入プランをご相談いただけます。専門家のアドバイスを受けて、最適な第一歩を踏み出してみてください。
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