製造業における外観検査は、製品品質を左右する重要な工程です。近年では、目視検査やあらかじめ決めた基準に従う自動チェックだけでは対応しきれない課題に直面する現場も増えています。

本記事では、AI外観検査を導入した製造業11社の事例を紹介します。業種ごとに、どのような課題があり、どのようにAIで解決したのかを具体的に解説。品質向上や省人化、属人化の解消など、現場で得られた成果をわかりやすくまとめました。

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この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

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目次

AI外観検査とは?その役割と従来の課題

AI外観検査とは、製品表面にある傷や汚れ、欠け、色ムラなどの外観不良を、AIを活用して自動で検出・判定する仕組みです。従来の外観検査は、目視やルールベースの自動検査装置が主流でした。しかし、人の集中力や経験に依存する検査には、見逃しや基準のばらつき、作業が属人化しやすいといった課題がつきまといます。

さらに、従来の検査装置では微細な欠陥や複雑な模様・パターンの検出が難しく、精度や効率にも限界がありました。こうした背景から、AIによる高度な画像認識技術への注目が高まっているのです。

「なぜAI外観検査が必要とされているのか?」その本質をより深く理解したい方は、下記の記事も併せてご覧ください。
関連記事:AI外観検査で現場が変わる!製造業DXを加速する仕組みと5つのメリットを徹底解説

【業種別】AI外観検査の導入事例11選

近年、製造業を中心にAIによる外観検査の導入が進んでいます。従来の目視検査では対応しきれなかった微細なキズや複雑なパターンも、AIを用いることで高精度に判定できるようになりました。

ここでは、業種別に厳選した11件の導入事例を紹介し、それぞれの導入の背景から課題、得られた効果までをわかりやすく解説します。

事例1. 製造装置メーカー|繊維や基板の外観検査をAIで自動化し過検出を1/10に削減

株式会社Pros Consは、繊維・フィルム・コイル材などのロール状製品に対応した「繊維・ロール検査装置」と、電子基板などの検査に適した卓上型「GE-03」を提供しています。いずれも画像処理とAIの組み合わせにより、従来の課題であった過検出を1/10以下に削減しました。

良品を学習するAIにより、ばらつきを含む正常品は除外し、不良のみを高精度に検出可能です。0.1mmレベルの微細な欠陥にも対応し、現場の品質安定と省力化に貢献しています。

出典:PR TIMES「画像処理✕AIで過検出の激減を実現「繊維・ロール検査装置」、卓上AI外観検査装置「GE-03」の提供を開始。 画像センシング展2023に出展。」

事例2. 自動車部品企業|生産ラインの画像検査にAIを導入

相川プレス工業は、自動車電装品の重要部品である「平バスバー」の外観検査に、アダコテックのAI画像検査システム「AdaInspector」を導入しました。従来までは熟練作業者による目視検査が中心。しかし、これらの方法では細かな傷や打痕の検出に課題がありました。

独自の画像解析技術「HLAC特徴抽出法」により、不良品の見逃しを抑えた高精度な検出が可能になったのです。検査時間も約3分の1に短縮。属人性の排除と品質保証の向上を実現しました。

今後は、国内外の工場にも展開し、検査自動化による生産性向上と技術継承問題の解決を目指しています。

出典:PR TIMES「アダコテック、外観検査の自動化AIソフトウェアを相川プレス工業の自動車部品生産ラインへ提供」

事例3. 自動車部品メーカー|ボルトユニオンの外観キズ判定をAIで均一化

伊藤金属工業は、自動車エンジンとパイプをつなぐボルトユニオンの外観検査に、AIを活用した検査システム「COSM AI VISION」を導入しました。従来の装置では過検出や基準変更への対応が難しく、品質の再確認を目視に頼る場面もありましたが、AIにより判定精度と基準の一貫性が大きく向上しました。

グレーゾーンの判断も安定し、顧客の高まる品質要求にも応えられる体制も整っています。さらに、不良品の画像データを活用してAIモデルを継続的に改善し、製品品質と検査工程の最適化にもつなげています。

出典:DIGITAL X「自動車部品の伊藤金属工業、ボルト製品の不良品判定をAIシステムで自動化」

事例4. 金属部品メーカー|溶接部のスパッタやキズをAIで検出

武蔵精密工業は、AT車両用リングギヤの溶接部に発生するスパッタを検出するため、Musashi AI製の外観検査装置を導入しました。従来は目視で対応していましたが、検査員ごとの判定にばらつきがあり、品質の安定が課題でした。

AI導入後は、学習済みのスパッタを高精度に検出できるようになり、検査の均一化と省人化を実現しています。現在は人とのダブルチェック体制ですが、今後はさらなる精度向上と完全自動化を目指しています。

出典:Musashi AI 「【AI外観検査装置導入事例】リングギアの量産ラインで、スパッタ検査のAI精度NG判定率100%、過検知率7%を達成」(武蔵精密工業)」

事例5. 半導体製造企業|ウェハの微細凹凸欠陥を3D+AIで全数検査化

レーザーテックは、半導体ウエハーの端部・端面に生じる微小な欠陥を検出する高感度検査装置「CIELシリーズ」を開発しました。新たな光学系により解像度を向上させ、ディープラーニングを活用して検出すべき欠陥をAIが自動で特定します。

さらに、3D形状の測定性能も備え、傷・欠け・発じんなど多様な欠陥に対応可能です。露光や成膜などの工程で全数検査を実現し、半導体製造の歩留まり改善に貢献しています。

出典:ニュースイッチ「半導体ウエハー端部の欠陥見逃さない、レーザーテックが発売したAI活用装置の性能」

事例6. 自動車部品工場|AIを活用した中間製品の外観検査でライン停止時間10%削減

NECは、住友商事グループの自動車部品工場にAI外観検査システムを納入しました。中間製品検査ラインに産業用カメラとAIを導入することで、目視確認によるライン停止を減らし、生産性を向上させます。検査の過検出を抑制しながら、ライン停止時間を10%以上削減しました。

さらに、NEC独自のAI教育プログラム「NECアカデミー for AI」により、現場でAIモデルのチューニングや更新が可能となり、多品種製品にも柔軟に対応しています。既存設備に干渉せず導入できる点も評価されています。

出典:NEC「NEC、住友商事グループ会社の自動車製造関連工場にAIを活用した外観検査システムを納入」

事例7. ガラスメーカー|AIが熟練作業員の検査技術を再現し品質を安定化

三菱電機とHACARUSは、製造業における外観検査の自動化・省人化を目的に協業を開始しました。三菱電機は、自社AI「Maisart」を搭載した検査ソフト「MELSOFT VIXIO」を展開しています。

ハカルスの軽量AI技術「HACARUS Check」との連携により、より高度な外観検査の実現を目指しています。熟練検査員の経験に基づく判断基準をAIに学習させることで、判定のばらつきを解消し、安定した品質管理を実現可能です。

検査工程の属人化という課題を克服し、現場全体のDXを推進する取り組みです。

出典:HACARUS「三菱電機とHACARUSがAI外観検査事業の拡大に向け協業契約を締結」

事例8. フィギュアメーカー|99.2%の精度で面相パーツの検査をAI化

国内大手のフィギュアメーカー・グッドスマイルカンパニーは、アニメフィギュアの顔部分(面相パーツ)の検査にAIを導入し、品質と生産性の両立に成功しました。採用されたのは、株式会社MENOUが提供する画像検査AI「MENOU」です。

これまで熟練の作業員による目視検査に頼っていた工程では、属人性や見逃しのリスクが課題とされていました。導入後は、塗装のズレや微細なキズといった不良を99.2%の高精度で自動検出。検査基準の統一、ヒューマンエラーの防止、教育工数の削減にもつながりました。

コロナ禍以降、世界的にフィギュア需要が急増するなか、AIによる検査自動化が高品質の維持と供給スピードの改善を両立する鍵となっています。

出典:PR TIMES「検査AI、世界的に急増する日本製アニメフィギュア需要に検査の自動化で品質と生産性向上へ」

事例9. AIベンチャー×木製製品|木目のばらつきも見極める外観検査AI「Gemini eye」

株式会社Pros Consは、木目など自然な風合いを持つ製品に対応できる外観検査AI「Gemini eye」を開発し、検査精度を大幅に向上させた最新版(v1.1.0)を提供しています。

これまで従来の画像処理では、木製品や繊維のように一つひとつ模様が異なる素材の検査は困難とされてきました。「Gemini eye」は、少量の良品画像を学習することで“理想の外観”をAIが獲得し、そこからの逸脱を不良として自動判定できます。

最新版ではディープラーニングモデルが最適化され、擦り傷・穴・チョーク跡といった異常を高精度に検出可能となりました。自然物や不織布、食品パッケージなど、多様な外観の製品に対しても、少量のデータで精度高く対応できるのが特徴です。

出典:PR TIMES「外観検査AI「Gemini eye」、複雑な見た目の製品の検査精度を大幅にアップ。木目などの自然物の検査も可能に。」

事例10. 食品メーカー|焼き色や欠けをAIで自動判別し品質を均一化

ロッテは、チョコレート菓子の生産を行う狭山工場で、焼き色や欠けといった外観不良をAIで自動判定するシステムを導入しました。従来は熟練検査員が目視で判定していましたが、個体差が大きくばらつきの管理が課題でした。

導入した「MMEye」は、ディープラーニング技術によりお菓子の画像から不良をリアルタイムで検出できます。GUI操作により専門知識がなくても運用可能。今後は、AIが蓄積したデータをもとに製造工程の最適化や食品ロスの削減も見込まれています。

出典:LOTTE「ロッテ狭山工場がお菓子の外観検査をAI(人工知能)で自動化」

事例11. 印刷業|パッケージ印刷の色ズレをリアルタイム検知

富士フイルムグラフィックソリューションズと富士フイルムビジネスイノベーションジャパンは、デジタル印刷機「Revoria Press」シリーズを展開しています。このシリーズでは、AI技術を活用した色ズレ検知と補正機能が導入されました。

新機種「Revoria Press EC2100S」は、印刷中の色変動や表裏ズレを「スマートモニタリングゲートD1」でリアルタイムに検知し、自動補正を実施しています。品質を維持しながら生産性も確保できます。

これにより、パッケージや販促物など小ロット・短納期印刷にも対応可能となり、印刷現場の手間やロスを削減。AIによる即時検知と補正が、熟練作業に頼らない安定した印刷品質の実現に貢献しています。

出典:富士フイルムビジネスイノベーション「1パス5色印刷を可能にしたミドルレンジモデルのプロダクションプリンター」

AI外観検査を導入するまでの流れ

AI外観検査を導入するには、現場の課題整理から機器選定、モデル構築、運用体制の整備まで段階的な準備が必要です。ここでは、AI外観検査を導入するまでの流れを紹介します。

課題と目的の明確化

AI外観検査を導入する際は、まず現場で抱えている課題を具体的に整理し、導入の目的を明確にすることが不可欠です。例えば、「目視検査の属人化を解消したい」「検査精度のばらつきを減らしたい」と、課題に応じた目標を設定しましょう。

目的が明確であれば、PoC(概念実証)やシステム選定において適切な判断がしやすくなります。反対に、目的が曖昧なままでは効果検証が困難となり、導入後の評価もブレてしまうので注意が必要です。

PoCで効果検証とデータ収集

課題と目的が明確になったら、PoCでAI検査の効果を検証します。現場環境で実際の製品や不良データを使い、検出精度や処理スピード、誤検出の割合などを確認します。

PoC段階では「どの程度の精度で実用に耐えうるか」を見極めると同時に、将来のAI学習に活用できる画像データの収集も重要です。期待される効果が数値で示せれば、社内の導入判断もスムーズに進みます。

本格導入に向けた社内体制づくり

PoCで有効性が確認できたら、本格導入に向けた社内体制の構築が必要です。導入後の運用を想定し、AI検査システムの管理者や現場オペレーターの教育、メンテナンス体制の整備を進めます。

また、IT部門・製造部門・品質保証部門など、複数部署が連携する体制づくりも重要です。AI活用は一度導入すれば終わりではなく、継続的な改善が求められます。そのため、社内全体での意識共有と横断的な連携が不可欠です。

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AI外観検査を導入する前に知っておくべき3つの注意点

AI外観検査を導入する際には、効果を最大化するために事前に知っておくべき注意点があります。導入後のトラブルやコスト損失を防ぐためにも、以下の3点をしっかり確認しておきましょう。

注意点1.学習用データの収集と運用ノウハウの壁

AI外観検査の精度は、学習させるデータの質に大きく依存します。不良のパターンを網羅した画像や、正常品のばらつきを含んだデータなど、幅広く精度の高いデータが必要です。これらを収集・整備するには、現場での撮影環境の最適化やラベル付けといった作業に多くの時間と手間がかかります。

また、AI開発には専門的なノウハウも必要なため、導入初期段階でつまずく企業も少なくありません。社内にAIや画像処理の知見がない場合は、外部パートナーとの連携が成功の鍵を握ります。

注意点2.検査対象によっては従来方式が優れる場合も

すべての検査業務にAIが最適とは限りません。対象物の形状が単純で、不良の種類も限定されている場合は、従来の決められた条件で行う画像処理のほうが適しているケースもあります。

こうした方式は安価で即時性に優れ、導入も比較的容易です。AI導入にはコストと時間がかかるため、検査対象や業務内容によっては従来方式との使い分けが求められます。

あらかじめコスト対効果やメンテナンス性も含めて比較検討することが重要です。

注意点3.自作や試作段階でありがちな失敗パターン

AI検査を自社でゼロから構築しようとした場合、PoCの不十分さやノウハウ不足が原因で、プロジェクトが失敗に陥るケースが多く見られます。十分な検証やテスト運用を実施せずに導入を急ぐと、不良品の見逃しや過剰検出が発生し、実際の運用に耐えられないリスクがあります。

社内で試作する際は、限られたデータだけでなく、多様な現場条件を想定して評価を行い、実運用に耐えうる品質基準を確保しましょう。

まとめ|外観検査AIの事例から学び、まずは小さな工程から導入を始めよう

AI外観検査は、目視検査の属人性を解消し、品質の安定化と省人化を同時に実現できる有効な手段です。製造業や印刷など多様な業界で導入が進み、実際にライン停止時間の削減や不良品の見逃し防止といった成果が報告されています。

ただし、導入を成功させるには課題や目的の明確化、PoCによる検証、社内体制の構築が欠かせません。また、学習データの収集や運用ノウハウの確保など、事前準備の質が導入の成否を左右します。

とはいえ、大きな変革も一歩目は「小さく試してみること」から始まります。完璧を目指すのではなく、小さな工程からAI外観検査の可能性を体感してみてください。

なおSHIFT AIでは、企業ごとの課題や現場の状況に合わせたAI外観検査の導入支援を行っています。PoCの実施支援や社内教育、ツール選定など、AIに不慣れな方でも安心して取り組める体制を整えています。まずは無料相談で、自社に最適なAI導入の第一歩を踏み出してみませんか。

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