「AIリテラシー研修はやった。でも現場では、誰も使っていない——」

そんな声を、私たちは数多くの企業で耳にしてきました。

AIツールや生成AIの急速な普及に伴い、「AIを活用できる人材」の育成はもはや避けられないテーマです。しかし、研修を1回実施するだけでは、現場の行動は変わりません。“展開のしかた”を間違えると、せっかくの教育も社内に定着しないのです。

この記事では、AIリテラシー教育を社内に展開するための具体的な5ステップを紹介します。

ポイントは、「誰に何を教えるか」ではなく、「どうやって社内全体に広げていくか」。現場の温度差、学び方の違い、実務との接続、継続運用の仕組みまで、社内で“使えるAI人材”を育てるために不可欠な設計ノウハウを解説します。

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ステップ1|“なぜやるのか”を明文化し、上層部を巻き込む

「AIリテラシー教育を導入したいんですが…」

こう声をあげても、経営層から「費用対効果は?」「それって本当に必要?」と返されることは少なくありません。社内展開の最初の関門は、“なぜこの教育が必要なのか”を明確にし、上層部を納得させることです。

目的の曖昧さが、現場の動きを鈍らせる

多くの失敗ケースでは、「とりあえず流行っているから」「他社もやっているから」といった曖昧な目的で始まっています。

しかし、目的が曖昧なまま教育を進めても、現場にとっては“なぜ自分がやるのか”がわからず、実行に移せません。

まずは、自社にとってのAIリテラシー教育の目的を明文化しましょう。以下のように整理すると、社内共有がしやすくなります。

想定目的対象部門成果イメージ
業務効率の改善バックオフィス日報作成時間の短縮、手作業の自動化
リスク回避情報システム部門機密情報の誤入力防止、ガイドライン遵守
提案力の強化営業・企画部門提案資料の迅速作成、仮説出しのスピードアップ

経営層を動かすには、“定量的な根拠”が鍵

リテラシー教育を経営レベルで理解してもらうには、「人材育成」という抽象論では不十分です。

業務効率の改善幅や、リスク軽減効果など、数字で語れる材料を用意することで、意思決定を引き出しやすくなります。

たとえば、

  • AI活用による業務時間の削減率(例:20%短縮)
  • 生成AI導入後の改善提案件数
  • ChatGPT活用の社内トライアルで得られた成果(定性的でもOK)

可能であれば、PoC(試行的な部門導入)を実施して効果を可視化することも有効です。

ステップ2|部署ごとの“温度差”を可視化し、展開の順序を設計する

AIリテラシーの社内展開において、すべての部署が同じ熱量で取り組んでくれるとは限りません。

「便利そうだから触ってみたい」という前のめりな部門もあれば、「自分たちには関係ない」「セキュリティが不安」と感じる部門も存在します。

だからこそ、事前に“温度差”を把握し、それに合わせた展開順序を設計することが極めて重要です。

現場ごとの期待・警戒・抵抗感を見極める

まず取り組むべきは、社員のAIへの関心度・期待値・不安要素を“見える化”することです。以下のような手法が有効です。

  • 簡易アンケートの実施

     例:「AIに対する期待」「活用したい業務領域」「不安に感じる点」などを選択式で収集
  • 部門代表者へのヒアリング

     現場で感じているリアルな声を吸い上げることで、表面化しにくい課題を捉えられる
  • Slackや社内チャットツールの発言ログ分析

     実際のやりとりから“関心ワード”や“拒否反応”が出ている箇所を特定

こうしたデータから、各部門の“スタート地点”を明らかにすることができます

展開は“全社一斉”ではなく、“順番”が重要

AIリテラシー教育を一斉展開すると、受講のモチベーションも定着率もバラつきが大きくなります。

そのため、まずは「成功体験を生み出しやすい部門」から着手し、段階的に展開する戦略が効果的です。

よくある展開順は以下のような流れです。

  1. 情シス・経営企画など、推進リテラシーの高い部門
  2. 中間管理職・プロジェクトマネージャー
  3. 現場部門(営業・カスタマーサポートなど)
  4. 全社展開(事務職・アルバイトなども含めたフォローアップ)

また、初期導入フェーズで得られた成功事例を社内に展開することで、後続部門の関心も高まりやすくなります。

“展開順序の戦略設計”こそが、社内全体の巻き込みを成功させる鍵です。

ステップ3|対象別に“学び方”を設計する

AIリテラシー教育を社内で展開するうえで、「全員に同じ内容を一斉に届ける」だけでは定着しません。

部門や役割によって、求められるリテラシーの“深さ”も“学び方”も異なるからです。

このステップでは、対象別に最適な学習体験をどう設計するかを解説します。

部署ごとに異なる「必要なAIリテラシー」

AIリテラシーとは単なる知識ではなく、業務との接点を持った“使える力”です。

そのため、役割に応じたアプローチが欠かせません。

対象必要とされるAIリテラシー学び方の工夫
情報システム部門ツールの仕組み理解、セキュリティ対応技術解説+リスク判断ワーク
営業・企画プロンプト設計、資料作成効率化ハンズオン+成果物づくり
管理職・経営層活用判断・推進戦略ケーススタディ+ディスカッション

このように、“誰に・何を・どう教えるか”をセグメントごとに最適化することが、リテラシー定着の第一歩です。

🔗 参考記事
AIリテラシーとは|企業で“使いこなせる人材”を育てる5ステップ
上記記事では、リテラシーの段階や職種別の育成視点について詳しく解説しています。

内製?外注?動画?ワークショップ?最適な形式の選び方

対象が明確になったら、次は学習コンテンツの形式選定です。

ありがちなのは「とりあえずeラーニング」ですが、形式を間違えると“やっただけ”で終わってしまいます。

  • 忙しい現場には: 短時間のマイクロラーニング+日常業務との接続
  • 初期理解には: 外部講師によるセミナーやワークショップ型
  • 社内浸透には: 自社事例や「うちの会社の活用法」に特化した教材

さらに、各フェーズで「内製と外注をどう使い分けるか」も展開設計のポイントです。

フェーズ推奨形式備考
導入初期外部研修(専門性・納得感重視)権威性で関心喚起も期待
中期〜現場展開内製動画・社内OJT自社に即した活用例が重要
定着期自走できるナレッジベース・Slack支援自習環境を用意することで持続可能性が上がる

ステップ4|現場で“使うきっかけ”をつくる仕組みを用意する

いくら良い研修を受けても、実務で使わなければ学びは定着しません。

現場に「使ってみよう」と思わせる“きっかけ”がなければ、AIリテラシー教育は単なる座学で終わってしまいます。

このステップでは、社員が自然にAIツールを“使い始める”仕掛け作りを紹介します。

学びを実践に移す“最初の一歩”をどう設計するか

AI活用に不慣れな社員にとって、最初のハードルは「どう使えばいいのか分からない」です。

そのため、「これならできそう」と感じられる小さな実践の場を先回りして用意することが重要です。

具体的には、

  • 週1回の“お題プロンプト”をSlackで配信

     → ChatGPTに聞いてみる文化を自然に形成
  • OJTに“生成AI活用”を組み込む

     → 例:報告書ドラフトをChatGPTで生成 → 上司が添削
  • 社内ミニコンテストの開催

     → 「業務効率化プロンプト選手権」など、楽しみながら実用例を蓄積

こうした「とにかく一度使ってみる」場が、AIへの心理的ハードルを下げ、現場の“使える感覚”を養います。

“推進リーダー”を育てることで現場が回り出す

全社展開を目指すうえでは、各部門に「相談される人」を育てることも欠かせません。

それが、“AI推進リーダー”の存在です。

AI推進リーダーは、現場の中で、

  • 他のメンバーの質問を受けたり
  • 活用事例を共有したり
  • 新しいツールの社内レビューを行ったり

    といった、“現場とAIとの橋渡し役”を担います。

導入初期の段階で、

  • 「誰がAIを積極的に活用しているか」
  • 「誰に聞けば分かると思われているか」

    を観察し、候補者を選定することで、自然な巻き込みが可能になります。

こうした“使うきっかけ”と“支援する人”をセットで用意することが、社内展開の成功率を一気に高めてくれます。

こうした現場支援を“研修だけで終わらせず”仕組みとして伴走するのが、SHIFT AIの法人向け研修です。

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ステップ5|“終わらせない仕組み”をつくる

AIリテラシー教育の最大の落とし穴は、「やって終わり」になってしまうことです。

研修後に何もフォローがなければ、せっかくの学びも忘れられ、活用の芽は摘まれてしまいます。

そこで重要になるのが、“学びを継続し、成果につなげる仕組みづくり”です。

成果を“見える化”して、ナレッジを横展開する

現場が動き出しても、成果が可視化されなければ、教育の価値が伝わりません。

「誰が、どのように、どれだけ業務を改善できたか」を見える形で共有することで、組織全体のモチベーションも上がります。

おすすめの指標例:

  • AIツールの利用頻度(週あたり/月あたり)
  • 提出されたプロンプト例の質・バリエーション
  • 業務時間の削減(作業時間比較)
  • 改善提案やプロジェクト立ち上げ件数 など

加えて、成果が出た部署の活用事例を社内報・イントラネット・Slackで共有することで、“横展開”が促進されます。

「うちでもやってみようかな」と思わせる空気感を醸成しましょう。

“アップデートされ続ける”教育にする

AIは日々進化しています。

GPTのバージョン更新、新ツールの登場、APIの拡張など、一度学んで終わりでは“時代遅れ”になります。

そのためには、以下のような継続運用の設計が必要です。

  • AIニュース・Tipsをまとめた社内メルマガやSlack配信
  • ナレッジ共有会の定期開催(例:月1回のライトLT)
  • ChatGPT新機能の社内検証・活用レポート
  • 社内ポータルにプロンプト事例集やFAQを常設

また、AI推進リーダー(ステップ4)をハブにしたコミュニティ形成も効果的です。

“学び続ける組織”をつくることが、AIリテラシーの本質的な定着につながります。

ありがちな失敗パターンとその処方箋

AIリテラシー教育を導入しても、「定着しなかった」「現場が動かなかった」という声は少なくありません。

よくある失敗パターンをあらかじめ知っておくことで、展開設計の“落とし穴”を回避できます。ここでは、代表的な3つの失敗とその対策を紹介します。

❌ 失敗①:全社一斉にスタートして“誰にも刺さらない”

「全社で一斉にeラーニングを配布」など、横並びで教育を進めた結果、どの部署にも深く刺さらずに終わってしまうケースは多発しています。

処方箋:

  • 部署ごとのニーズを事前に可視化(ステップ2)
  • 成果が出やすい部門から段階的に展開
  • まず“成功体験”をつくってから他部門に展開する

❌ 失敗②:「ツール導入だけ」で現場が活用できない

ChatGPTやNotion AIなどのツールを導入したが、「結局誰も使っていない」という事態も少なくありません。

“ツールの使い方”は教えても、“使う意味”や“業務での使い方”が伝わっていないのです。

処方箋:

  • 使う目的や文脈とセットで設計(ステップ3)
  • “使ってみるきっかけ”を日常業務に埋め込む(ステップ4)
  • 活用事例やプロンプト例を社内で蓄積・共有する

❌ 失敗③:教育が“やりっぱなし”で、継続性がない

研修を一度やっただけで「やった気になる」企業は多いですが、それでは定着しません。

AIツールは進化し続けるため、“一過性の教育”ではすぐに風化してしまいます。

処方箋:

  • 教育後のナレッジ共有・成果の可視化を仕組み化(ステップ5)
  • 新機能や成功事例の“定期共有”を習慣化する
  • 推進リーダーや社内コミュニティの活用で、自走を促す

このように、「よくあるつまずき」には必ず構造的な原因があります。

それを前提とした設計にすることで、AIリテラシー教育は形骸化せず、“現場に根づく資産”として組織に残っていくのです。

まとめ|“展開力”こそが企業のAI活用力

AIリテラシー教育を「やるか・やらないか」の時代は、すでに過ぎ去りました。

今、問われているのは、どうやって現場を動かすか、どうやって全社に展開するかという“展開力”です。

教育内容の質やツールの先進性も大切ですが、それ以上に重要なのは「誰が、どの順番で、どう使い始めるか」を設計すること。

今回紹介した5つのステップを丁寧に実行すれば、AIリテラシーは社内に根づき、業務改善・リスク低減・競争力強化につながっていきます。

🔗 参考:
AIリテラシーとは|企業で“使いこなせる人材”を育てる5ステップ
リテラシー内容やスキル段階の詳細はこちらの記事をご参照ください。

🎯 AI人材育成は“仕組み化”の時代へ

属人化しない、やりっぱなしにならない、現場で活きるAIリテラシー教育を実現するには、仕組みとして設計し、運用し続けることが必要です。

その伴走を、私たちSHIFT AIは法人研修としてご提供しています。

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サービス紹介資料

FAQ(よくある質問)

Q
AIリテラシー教育を全社員に実施する必要はありますか?
A

全社員に同じ内容を実施する必要はありません。

むしろ部署や役割ごとに、必要なリテラシー水準や学び方を変えることが効果的です。例えば、情シス部門にはセキュリティや技術的理解が求められる一方、営業部門ではプロンプト設計や資料作成が重視されます。展開前にニーズを見極め、適切にセグメント化しましょう。

Q
忙しい現場でも、AIリテラシー教育を定着させる方法はありますか?
A

はい。短時間・反復型のマイクロラーニングや、日々の業務に“使うきっかけ”を組み込むことで定着率が高まります。たとえば、「週1のプロンプト共有」や「AI活用OJT」などが効果的です。さらに、現場に相談できる“AI推進リーダー”を設けることで、継続支援も可能になります。

Q
教育の成果はどのように測ればよいですか?
A

成果指標には以下のようなものがあります。

  • AIツールの利用頻度(週/月あたり)
  • 業務時間の削減(ビフォー・アフター比較)
  • 現場からの活用提案件数

プロンプト例やナレッジの社内共有数

これらを定期的に計測・可視化し、社内に展開することで組織全体のモチベーション維持にもつながります。

Q
一度AI研修をやったのに定着しませんでした。やり直すべきでしょうか?
A

はい、再設計して“再始動”する価値はあります。多くの場合、定着しない原因は「学びと実務がつながっていない」「使うきっかけがなかった」ことにあります。本記事で紹介した5ステップを参考に、段階的に展開し直すことで効果的な再導入が可能です。

Q
社内にAI活用の成功事例がないのですが、どう展開すべきですか?
A

最初の“成功体験”は、小さなもので構いません。たとえば、ChatGPTで定型メールを自動生成できた、議事録が10分短縮できた——そうした些細な改善でも、他部門の関心を引くきっかけになります。まずは「成果が出やすい部門」から展開を始め、事例を社内に共有していきましょう。