観光業におけるAI活用は、もはや遠い未来の話ではありません。観光客一人ひとりに合わせた体験の提供や、案内業務・問い合わせ対応の自動化など、全国各地でAI導入による成果が実際に出始めています。
この記事では、観光DXや業務改善に関心がある企業・自治体の方に向けて、観光分野でのAI活用事例11選をご紹介します。「何ができるのか」「うちの地域や現場でも活かせるのか」といった疑問に応える、現場目線でのヒントと判断材料をまとめました。
「成果が出るならやってみたい」と検討中の方は、まずは他地域の取り組みを知ることから始めましょう。
なお、SHIFT AIでは観光業でも活用できる法人向けAI研修を実施中です。「AIを導入したいけど何から始めればいいかわからない」「社内でのAI導入を後押ししてほしい」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ無料相談をご活用ください。
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観光業でAIが注目される背景

観光業では、労働力不足や旅行者ニーズの多様化といった課題が顕在化しています。さらに、デジタル技術の進化により、データを活用した観光戦略の重要性も増しています。
ここでは、観光業でAIが注目される背景について、詳しくみていきましょう。
人手不足・業務負担の深刻化
観光業では、高齢化や若年層の流出により、慢性的な人手不足が続いています。特に地方では、繁忙期でも十分なスタッフを確保できず、サービス品質の維持が課題となっています。
また、観光施設や案内所では、接客・予約管理・問い合わせ対応などの業務が多岐にわたり、従業員の負担が大きくなりがちです。こうした状況の中、AIによる業務の自動化や効率化が注目されており、限られた人員でもスムーズな運営が可能になると期待されています。
体験重視の旅行ニーズの高まり
旅行者の関心は、名所を巡るだけの観光から、より深い体験や交流へと変化しています。特に、若年層や訪日外国人を中心に、「自分に合った旅」や「現地ならではの体験」を求める傾向が強まっています。
このようなニーズに応えるためには、旅行者ごとに最適な情報を提供できる仕組みが必要です。AIは、ユーザーの行動履歴や嗜好を分析し、パーソナライズされた観光ルートやイベント情報をリアルタイムで提示することで、体験価値の向上に寄与します。
データ活用による地域ブランディング
観光地の魅力を的確に伝え、訪問意欲を高めるためには、データをもとにした戦略設計が重要です。近年では、SNSの投稿・口コミ・予約情報・位置情報など、観光に関する多様なデータが取得可能となっており、それらを活用した地域ブランディングが進んでいます。
AIを活用すれば、これらの膨大なデータを分析し、どのエリアや体験が支持されているのかを可視化できます。その結果、ターゲット層に刺さるプロモーションや商品開発につながるでしょう。
観光業にAIを導入する4つのメリット

観光業におけるAI導入は、業務の効率化だけでなく、サービスの質や顧客満足度の向上にもつながります。ここでは主な4つのメリットを紹介します。
メリット1.案内・接客の自動化で人手不足を解消
観光地や案内所では、訪問者からの質問や案内対応が集中し、スタッフの業務負担が大きくなりがちです。こうした現場では、チャットボットやAI受付システムの導入が進んでいます。
よくある質問への自動対応や観光情報の提供により、限られた人員でも効率的な業務遂行が可能です。また、24時間対応できるため、夜間や休日の問い合わせにも対応でき、訪問者の利便性向上にもつながります。
人手不足に悩む地域や施設にとって、強力なサポート手段です。
メリット2.観光ルートやプランをAIで最適化
観光客の満足度を高めるためには、移動の無駄を減らし、興味に合ったスポットを効率よく巡ることが重要です。AIは、気象情報や混雑状況、ユーザーの過去の行動履歴などをもとに、最適な観光ルートやプランを自動で提案します。
これにより、観光の快適さや充実度が向上し、地域全体の回遊性も高まります。旅行者一人ひとりに合ったパーソナライズされた観光体験が提供できる点も、AI活用の大きな魅力です。
メリット3.混雑予測・人流分析で快適な観光体験を提供
人気観光地では混雑による不快感や安全面の懸念が課題となります。AIカメラやセンサーを活用すれば、リアルタイムで人流を把握し、混雑発生の予測が可能です。
観光客には空いている時間帯の情報を提供し、分散誘導を促進できます。結果として、訪問者にとって快適でスムーズな観光体験が提供できるでしょう。
さらに、イベント時の動線設計や施設運営の最適化にも活用できる点が注目されています。
メリット4.翻訳・多言語対応でインバウンド需要に対応
訪日外国人の増加にともない、多言語対応の重要性は年々高まっています。AIを活用すれば、音声翻訳やテキストチャットによる観光案内が可能。言語の壁を大幅に低減できます。
現地スタッフが英語や中国語に不慣れでも、AIが適切に情報を提供することで、外国人観光客の満足度や信頼感が向上します。特に、案内所やホテル、公共交通機関など外国人との接点が多い場面で大きな効果を発揮してくれるでしょう。
こうした多言語対応をはじめ、AIの現場活用をスムーズに進めたい方は、SHIFT AIの「AI導入支援」や「AI研修サービス」もご活用ください。現場に即した提案から、運用設計、スタッフ教育まで一貫してサポートいたします。
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AIを活用した観光業の事例11選

実際にAIを導入して成果を上げている観光地は、全国に広がりつつあります。ここでは、案内業務の自動化や混雑予測、多言語対応など、さまざまな目的でAIを活用している事例11選を紹介します。
自地域への導入を検討する際のヒントとして、ぜひご活用ください。
事例1.福岡市|「My Route」による観光×モビリティ連携
福岡市では、トヨタ自動車と西日本鉄道が共同で提供するスマートモビリティアプリ「My Route(マイルート)」を活用し、観光と移動をシームレスに結びつける取り組みを進めています。
電車・バス・シェアサイクル・徒歩など、複数の移動手段を一つのアプリで検索・予約・決済できるのが特徴です。アプリ内では、観光情報の検索や飲食店の予約、イベント情報の閲覧も可能で、移動と観光体験を一体化した利便性の高いサービスとなっています。
公共交通の利用促進や、地域回遊性の向上を図る取り組みとして注目されている事例です。
出典:TOYOTA「トヨタと西鉄、マルチモーダルモビリティサービス「my route」を福岡市・北九州市で本格実施」
事例2.京都市|混雑予測AIで分散観光を促進
京都市では、観光客の集中による混雑や地域偏在の課題に対処するため、AIを活用した混雑予測システムを導入しています。人流データや過去の観光履歴、気象データなどをもとに混雑を予測し、リアルタイムで空いている観光地や時間帯を案内する仕組みです。
観光客はスマホやWeb上で情報を確認でき、快適な訪問先を選択可能です。これにより、人気観光地への集中を緩和し、分散型観光の実現に寄与しています。
出典:トラベルボイス「京都市、オーバーツーリズム対策で混雑状況をAI予測、スマホにマナー情報のプッシュ通知も」
事例3.北海道・ニセコ|AIチャットボットでインバウンド対応
ニセコエリアでは、増加する訪日外国人観光客への対応強化として、多言語対応のAIチャットボットを導入しています。英語や中国語、韓国語などに対応し、観光施設や飲食店、交通手段に関する質問に24時間自動応答可能です。
地域スタッフの負担軽減につながるとともに、外国人観光客にとっても有効な情報提供手段として機能しています。観光庁の「先進的観光サービス実証事業」の一環として導入され、地域全体で観光対応力を高める取り組みが進められています。
出典:総務省 地域社会DXナビ「多言語翻訳AIチャットボットを活用した外国人への情報発信強化 【北海道蘭越町・ニセコ町・倶知安町】」
事例4.長崎県雲仙市|AI画像解析で観光スポットの滞在時間を分析
長崎県雲仙市では、大成建設と連携してAI画像解析技術を活用し、観光施設に設置したカメラ映像から来訪者の動きや滞在時間を分析しています。これにより、どのスポットに人が集まり、どの場所で長く過ごしているかを定量的に把握できるようになりました。
得られたデータは、観光導線の見直しや施設運営の改善、観光施策に活用されています。利用者の行動に基づいた政策立案ができる点で、自治体からの評価も高い先進事例です。
出典:大成建設株式会社「観光地活性化のための雲仙温泉街の人流・車流データ測定」
事例5.栃木県宇都宮市・沖縄県那覇市|AIカメラで観光スポットの人気度を可視化
宇都宮市と那覇市では、AIカメラを活用して観光客の人流や滞在傾向をリアルタイムで可視化する取り組みを実施しています。設置されたカメラが通行量や滞在時間を自動で計測し、観光地の人気度や混雑状況を分析します。
これにより、観光施設の配置や誘導サインの改善、回遊性向上施策の検討が可能です。混雑を避けたい訪問者への時間帯提案にも期待されています。
出典:IT Leaders「人の混雑度や属性を映像解析で可視化─NECが宇都宮市と那覇市で実証実験」
事例6.愛知県|観光音声ガイドに生成AIを活用
愛知県では、観光地での案内業務にAIを活用した音声ガイドシステムを導入しています。観光客が専用端末やスマートフォンに話しかけると、AIが内容を理解し、適切な情報を多言語で提供します。
従来の録音型ガイドとは異なり、対話形式で応答ができるため、関心に応じた柔軟な案内が可能です。地域資源の魅力発信と外国人観光客への対応力強化を同時に進められる点で、新たな観光体験の創出につながっています。
出典:中部経済産業局「「デジタルヒューマンによる観光コンシェルジュ」等の実証実験を開始します~訪日外国人旅行者に対する「中部のホンモノ体験」の魅力発信をめざす~」
事例7.大阪府長居公園|スマートごみ箱とAIで街の美観を維持
大阪市の長居公園では、スマートごみ箱「SmaGO(スマゴ)」を活用した実証実験が行われています。SmaGOは、内部に設置されたセンサーでごみの蓄積状況を検知し、データをもとに回収タイミングを効率化できる次世代型ごみ箱です。
さらに、太陽光で稼働し、内部でごみを自動圧縮することで、約5倍の容量拡張を実現しています。長居公園では、観光地や大型公園で問題となる「ごみのあふれ」や「収集の手間」を軽減し、美観の維持とCO₂排出量削減の両立を図る取り組みとして注目されています。
出典:SmaGO「大阪府 長居公園にてIoTスマートゴミ箱「SmaGO」を設置」
事例8.香川県高松市|AIで観光体験を記念に残すガイドブックを自動生成
高松市の玉藻公園では、香川大学創造工学部と中野武営顕彰会が連携し、AI技術を活用した体験型の観光サービスを実施しました。来園者が園内の好きな場所で写真を撮影し、その画像をもとにAIがオリジナルの観光ガイドブックを自動生成する仕組みです。
ガイドブックには、撮影した風景や人物の情報をもとに、玉藻公園にまつわる歴史や文化の紹介が反映されます。観光客は旅の記録を「その人だけの一冊」として持ち帰ることができ、思い出の深さをより高める体験ができるでしょう。
地域資源の魅力を来訪者自身の体験に結びつける、新たな観光価値の創出が期待されています。
出典:KBS 5ch|AI技術でオリジナルの観光ガイドブックを作成 香川
事例9.長野県白馬村|AIを活用した観光客の動線分析の実証実験
白馬村では、リコーと連携し、観光客の動線を把握するためのAI実証実験を行いました。エリア内に設置したカメラで映像を収集し、AIが人数や流れ、滞在傾向を解析します。
そして、どの場所に人が集まり、どのルートを選んでいるかを可視化することで、回遊性の改善や誘導看板の最適配置に役立てています。イベント運営やインフラ整備の基礎データとしても活用され、観光地の「見えにくい課題」をデータで可視化する先進的な取り組みです。
出典:PFUビジネスフォアランナー株式会社「長野県白馬村で人工知能とスマートフォンアプリによる「観光客の動線分析」の実証実験を開始」
事例10.兵庫県姫路市|AIロボットが公道で観光案内の実証実験
姫路市では、自動運転技術を活用した観光案内ロボットの公道実証実験を行いました。2020年11月には、ZMP社が開発した自律移動ロボット「ロボット・ライダー」を使用し、姫路城周辺の観光客に対して自動で観光情報を提供する取り組みが実施されています。
ロボットは、音声による観光案内や道案内を日本語・英語などで行い、訪日観光客への対応強化にも貢献。新型コロナウイルス対策として、非接触型の案内手段としても注目を集めました。
観光DXとスマートシティ推進の一環として、今後の本格導入も見据えた先進的な事例です。
出典:日本経済新聞「姫路市とZMP、自動運転ロボで観光案内の公道実験」
事例11.静岡県熱海市|AIで宿泊施設の価格動向と需要を予測
熱海市では、リクルート社のAI分析ツールを活用し、観光需要と宿泊料金の関係を可視化しています。じゃらんのビッグデータをもとに、日付やエリアごとの需要予測や価格変動をAIが分析します。
宿泊事業者はこれを参考に価格戦略を立てることで、機会損失を防ぎつつ収益最大化が可能です。自治体もこのデータを活用し、観光政策の立案やプロモーション施策に役立てています。データドリブンな観光経営の好例といえるでしょう。
出典:じゃらんリサーチセンター「生成AI活用による持続可能なインバウンド観光研究」
観光業でAI導入を進める際の4つの注意点

AIは観光業に多くのメリットをもたらす一方で、導入にあたってはいくつかの注意点も存在します。コストや人的体制、データの取り扱いなど、事前に把握しておくべきポイントを理解することで、より効果的な運用が可能です。
ここでは、AI導入時に押さえておきたい代表的な注意点を4つご紹介します。
初期投資とランニングコスト
AIの導入には、システムの開発費・設備投資・データの整備費など、初期段階でまとまった費用が発生します。さらに、導入後も運用保守・アップデート対応・外部ベンダーとの契約維持など、継続的なコストが必要です。
こうした点は、特に中小規模の観光事業者や予算の限られた自治体にとって大きなハードルとなる場合があります。導入を検討する際には、効果とのバランスを見極めながら、スモールスタートや段階的な拡張を前提とした計画が求められます。
人的サポートとの共存
AIは多くの業務を効率化する一方で、すべてを自動化できるわけではありません。イレギュラーな問い合わせや感情を伴う対応、文化や地域特性をふまえた柔軟な判断など、人の判断力や対応力が求められる場面も多くあります。
AIを「代替手段」ではなく「支援ツール」として捉え、人的対応との適切な役割分担を図ることが重要です。観光業では、温かみのある接客とテクノロジーの融合が利用者の満足度を高める鍵となります。
データの整備とプライバシー対応
AIの効果を最大限に引き出すためには、正確で整ったデータの存在が欠かせません。しかし観光現場では、データの収集や形式の統一、保管方法の整備が追いついていないケースも見られます。
また、カメラ映像や行動履歴など、個人に関わる情報を扱う場合には、プライバシー保護の観点から法的・倫理的な配慮が求められます。事前の説明や同意取得、匿名化処理などを徹底し、利用者の安心を確保したうえでの運用が重要です。
今後の展望と導入検討のすすめ

AI技術は日進月歩で進化しており、観光業界においても、生成AIによる対話型案内や、旅行者一人ひとりのニーズに応じたプランの自動提案など、これまでにない新たな活用法が次々と生まれています。
こうした変化は、単なる効率化にとどまらず、「観光のあり方」そのものを変える可能性を秘めています。
とはいえ、すべてを一気に導入する必要はありません。重要なのは、「小さく始めて、着実に成果を積み重ねる」こと。まずは業務の一部でAIを試し、効果や現場との相性を見ながら、段階的に広げていくことで、無理なく持続可能なDXが実現します。
なおSHIFT AIでは、観光業にも活用が可能なAI導入支援・人材育成を無料で相談できます。「新しい技術を活かして、地域の課題に向き合いたい」とお考えの方は、まずはお気軽にご相談ください。
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まとめ|成功事例に学び、観光業の未来にAIという武器を

観光業におけるAI活用は、単なる業務効率化にとどまりません。データとテクノロジーの力で地域の魅力を引き出し、観光客ごとの体験最適化や、他地域との差別化にもつながります。
本記事で紹介した事例を参考に、自地域の課題や目的に応じたAI活用の方向性を検討することで、観光の質と経済的インパクトの両立が可能です。
「情報収集はしているが、どこから始めればいいかわからない」「社内の理解を得るために、具体的な導入効果を示したい」そんな悩みをお持ちの方は、まず小さな一歩を踏み出してみませんか。
SHIFT AIでは、観光業向けのAI導入支援や人材育成研修を通じて、現場と伴奏しながら最適な導入をサポートしています。社内提案に必要な資料づくりや初期のご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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