金融業界のDXを牽引する株式会社Finatextホールディングスは、2023年3月に全社的なAI導入に踏み切って以降、技術的なリスクを正しく見極めながらも積極的に活用する姿勢を一貫して保ち、そのスピード感は業界内でもひときわ際立っています。

取締役CTO兼CISOを務める田島氏は、セキュリティの専門家としての深い知見を活かし、組織全体の生産性向上を力強く牽引してきました。

今回は、エンジニアからバックオフィス部門に至るまでAIを日常的に活用し、圧倒的なアウトプットを生み出している同社の組織文化や独自のツール選定戦略、そしてAIエージェントが自律的に稼働する未来の展望について、詳しくお話を伺いました。

田島悟史

株式会社Finatextホールディングス
取締役CTO/CISO

新卒でVOYAGE GROUP(現 CARTA HOLDINGS)に入社し、システム本部にて全社のインフラを全般的に担当した後、セキュリティチームの起ち上げを経験。2019年2月にFinatextに入社し、プラットフォームチームのリードエンジニアとしてグループ全体のシステムおよびセキュリティ体制の構築・運用を牽引。2022年6月、Finatextホールディングスの取締役CTO/CISOに就任。CISSP/OSCP/OSWE/CISA保有。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

人気No.1セット
【この記事を読むあなたにおすすめ!】
生成AIの導入・活用を成功させる
「必須ノウハウ3選」を無料公開
▼ まとめて手に入る資料
  • 【戦略】AI活用を成功へ導く戦略的アプローチ
  • 【失敗回避】業務活用での落とし穴6パターン
  • 【現場】正しいプロンプトの考え方
3資料をまとめてダウンロードする

自社独自の視点で構築する安全なAIガイドライン

金融機関という極めて高い信頼性とセキュリティが求められる顧客を相手にするFinatextにとって、新しい技術の導入には常に慎重な判断が求められます。

しかし、田島氏はAIから距離を置くのではなく、むしろ積極的に近づいて理解を深めることが最も重要だと考えています。

田島氏

「新しい技術に対しては怖いからと距離を置くのではなく、自分たちが一番の理解者になることを大切にしています。他社の事例を鵜呑みにするのではなく、自社特有のリスクを特定してガイドラインに落とし込むようにしました」

世の中に溢れる曖昧なリスク情報に惑わされるのではなく、自分たちの事業やサービスにおける具体的なリスクを自ら整理し、実効性のあるガイドラインに落とし込む作業を徹底してきました。

ChatGPTが一般に知られるようになった時期と重なる2023年3月に最初のガイドラインを出して以来、AIの進展に合わせて改定を繰り返しています。

このスピード感のある対応は、主に田島氏が主導して考えをまとめ上げ、そこに法務部門と密接に連携する体制があるからこそ実現できました。多様な意見を集約するよりも、技術を熟知したリーダーが責任を持って指針を示すことで、迅速な意思決定を可能にしています。

外部の基準をそのまま模倣するのではなく、自社において何が許容され、何が制限されるべきかを明確に定義したことで、社員が安心して挑戦できる環境が整いました。

社員の意欲を引き出すAIコンテスト

AIを組織に浸透させるためには、強制するのではなく社員が自ら使いたいと思える動機付けが不可欠です。

Finatextでは、全社員を対象とした「AIコンテスト」を定期的に開催しており、これが活用の裾野を広げる大きな要因となっています。

田島氏

「年に一度のAIコンテストでは、全社員を巻き込んで具体的な業務改善の実績を競い合うようにしています。ただのアイデア出しで終わらせず、実際にどう実現したかを評価の対象にしているのがポイントです」

当初は活用方法のアイデアを募る段階から始まりましたが、回を重ねるごとに内容はより実践的なものへと進化してきました。現在では、実際に業務改善を実現し、具体的な成果を出した実績を競う形式になっています。

エンジニア部門だけでなくビジネス部門も参加し、優れた取り組みには賞金も授与されます。この仕組みにより、ただの興味本位の利用で終わらせず、実業務にどのように組み込むかという視点が全社的に磨かれています。

コンテストを通じて共有された成功事例は他の社員にとっても大きな刺激となります。自分と同じような業務を担当している同僚が、AIを使って劇的に効率を上げた様子を目の当たりにすることで、活用のイメージが具体化し、次なる挑戦へと繋がっていく好循環が生まれます。

コストと自由度を両立させる社内ツール運用の知恵

複数の高性能なAIモデルが次々と登場する中で、特定のサービスだけに依存することはリスクを伴います。また、多くの企業が頭を悩ませるのが、アカウントごとの固定費用がかかるライセンス体系です。

同社はこの課題を解決するために、従量課金制のAPIを活用した自社専用のチャットツール「Alfred」を構築しました。このツールを導入したことで、社員は多様なAIモデルをひとつの画面から自由に選んで試すことができるようになりました。

会社側としても、利用した分だけ費用を支払う仕組みにすることで、利用頻度の個人差によるコストの無駄を軽減しています。さらに、導入フェーズを三段階に分け、新しい技術を少人数で試す段階から全社に開放する段階までを体系的に管理しています。

これにより、コストを抑えながらも最新技術へのアクセス権を全社員に平等に提供することが可能になりました。

田島氏

「社員にいろいろなモデルを気軽に使ってもらいたいという思いから社内ツールを作りました。人数分のアカウント料金を払う形式ではなく、使った分だけ支払う仕組みにすることでコストの最適化を図っています」

非エンジニアが自律的に業務を自動化する新しい形

Finatextでは、プログラミングの経験がないビジネス部門の社員がAIをパートナーとして活用し、自ら業務プロセスを自動化する事例が出てきています。

田島氏

「非エンジニアの効率化事例としては、CFOの伊藤の例が挙げられます。彼はコードが書けなかったのですが、AIを活用してバックオフィスのシステム同士を繋ぎ込む仕組みを自分で作り、自動化をやり遂げました

従来であれば、開発を依頼するための要件定義や調整に多大な時間を要していた業務が、個人の創意工夫とAIの補助によって即座に解決されるようになっています。

こうした変化を加速させるため、同社ではGitHub Copilotなどのコーディング支援ツールをエンジニア以外にも開放しています。それは、これらを単なるエンジニア向けの補助ツールではなく、個人の能力を拡張する「汎用的な生産性向上ツール」だと捉えているからです。

また、技術の進化スピードに合わせて、常に「その時々に最適なツール」を使える環境作りも徹底しています。

実際にGitHub Copilot Businessを導入した際、現場は非常に盛り上がりましたが、その後1年も経たずに他のツールへの関心が高まるなど、技術への評価は常に変動しています。 

そのため、会社としては特定のサービスに固執せず、Claude CodeやCursorなど複数の選択肢を提示し、個人やチームが最適なツールへスイッチしやすい環境を整えています

開発の経験がない人でも自分に合ったAIと対話を重ねることでプログラムを書き上げ、自らの手で業務を改善できる。そんな職種の壁を超えて個人の力が最大化される世界観が、同社ではすでに当たり前の光景となっています。

入社時のオンボーディングでAIの使い方を教える

新しい技術を導入する際、複雑なルールや制度を新設するとかえって活用のハードルが高くなってしまうことがあります。

FinatextではAIを特別なものとして扱うのではなく、これまで運用してきた生産性向上のための支援制度の中に自然な形で組み込んでいます

田島氏

「AIのためだけに新しい制度を作るのではなく、以前からあった生産性向上の取り組みのひとつとして捉えています。入社時のオンボーディングでもAIの使い方を伝え、日常の業務に自然に溶け込むように意識しています

また、制度を頻繁に変えるのではなく、変化に対応できる汎用的な仕組みをあらかじめ用意しておくことで、AIの進化に遅れることなく対応していく体制を維持しています。

新しいサービスが登場するたびに規定を書き換える手間を省き、現場の判断で最適なツールを導入できる柔軟性が、同社の強みとなっています。

AIが自律的に働く未来とガードレールの構築

今後の展望として、田島氏はAIが単なる補助ツールを超え、自律的に動くエージェントとして業務のライフサイクル全体を担う世界を見据えています。

開発から運用、保守に至るまでの工程をAIが担うようになれば、人間の役割はより高度な設計や判断へとシフトしていきます。その一方で、AIが予期せぬ挙動をすることを防ぐための安全装置の重要性も、これまで以上に高まっています。

田島氏

「今後は開発エージェントをより広範囲に活用し、業務のライフサイクルを自動化していきたいと考えています。そのために重要になるのが、AIの暴走を防ぐためのガードレールをしっかりと作り上げることです。新卒の社員をサポートする仕組みと同じように、AIに対しても適切な制御をかけていきます」

Finatextに学ぶ5つのポイント

  1. AIを正しく理解し自社に適した指針を自ら策定する
    新しい技術を遠ざけるのではなく、自ら近づいて理解することで、自社の事業環境に即した具体的な利用ルールを定めています。他社の基準をそのまま持ち込むのではなく、自分たちでリスクを整理したことが、社員が安心してツールを使える土台となりました。

  2. 実績を評価する仕組みで実務への適用を促す
    アイデアを募るだけでなく、実際に業務改善を実現した実績を評価し、賞金という形で見える化しています。これにより、AIを使いこなすことが個人の評価や組織への貢献に直結するという認識が広まり、全社的な活用の質が向上しました。

  3. コスパと自由度を両立する仕組みを内製する
    アカウントごとの固定費用がかかるライセンス体系に縛られず、従量課金制の仕組みを活用した自社ツールを開発しました。コストを最適化しつつ、社員が複数の最新モデルを自由に選べる環境を作ったことが、技術への好奇心と活用の継続性に繋がっています。

  4. 職種を問わず高度なツールを開放し個人の能力を拡張する
    コーディング支援などの高度なツールをエンジニア以外にも開放し、バックオフィス部門の社員が自らシステムを構築する機会を作っています。AIを専門家だけのものにせず、全社員の生産性を引き上げる汎用的な手段として位置づけているのが特徴です。

  5. 既存の制度に組み込み日常の一部として定着させる
    新しい技術のために特別な制度を新設するのではなく、これまでの生産性向上支援の枠組みの中にAIを位置づけています。入社時から当たり前のツールとして教え、日常の業務フローに溶け込ませることで、無理のない自然な浸透を実現しました。

同社の取り組みは、柔軟な企業風土と高い技術力があってこそのものです。

重要なのは仕組みをそのまま模倣することではなく、自社の文化や課題に合わせてAIをどう活用すれば社員の力が最大化されるかを考え抜くことです。

AIを導入して終わりにせず、推進者自身が楽しみながら使い続けることが、本当の成果を引き寄せる近道です。

しかし、実際に自社でこれを実践しようとすると、下記のような課題に突き当たることもあるでしょう。

「自社のセキュリティ基準に合ったガイドラインの作り方がわからない」
「エンジニア以外の社員にどうやってAIを教育すればいいのか見当がつかない」
「導入したものの、一部の社員しか使っていない状況を打破したい」

多くの企業が、技術の導入と組織への定着の間にある深い溝に悩んでいます。

私たちSHIFT AIは、こうした「導入したが定着しない」「具体的な成果が見えない」という課題解決を得意としています。

貴社の業務内容に合わせたAI活用のロードマップ策定から、現場を巻き込んだ推進体制の構築支援、さらには実務に即したAIスキルの習得まで、定着に必要なプロセスを一気通貫で伴走します。

「AIを導入しただけで終わらせたくない」「現場が自発的に使いこなす文化を作りたい」そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。

AIへの意識と行動をSHIFTする
法人向け支援サービス

「生成AIを導入したけど、現場が活用できていない」「ルールや教育体制が整っていない」
SHIFT AIでは、そんな課題に応える支援サービス「SHIFT AI for Biz」を展開しています。

導入活用支援
AI顧問

活用に向けて、業務棚卸しやPoC設計などを柔軟に支援。社内にノウハウがない場合でも安心して進められます。

  • AI導入戦略の伴走
  • 業務棚卸し&ユースケースの整理
  • ツール選定と使い方支援
経営層向けコミュニティ
AI経営研究会

経営層・リーダー層が集うワークショップ型コミュニティ。AI経営の実践知を共有し、他社事例を学べます。

  • テーマ別セミナー
  • トップリーダー交流
  • 経営層向け壁打ち支援
研修
AI活用推進

現場で活かせる生成AI人材の育成に特化した研修パッケージ。eラーニングとワークショップで定着を支援します。

  • 業務直結型ワーク
  • eラーニング+集合研修
  • カスタマイズ対応

🔍 他社の生成AI活用事例も探してみませんか?

AI経営総合研究所の「活用事例データベース」では、
業種・従業員規模・使用ツールから、自社に近い企業の取り組みを検索できます。

企業の生成AI活用事例を探す