日本を代表する「四大法律事務所」の一角、アンダーソン・毛利・友常法律事務所※1(以下、AMT)。保守的と思われがちな士業の世界において、AMTはいち早く生成AIの実装を進めています。
しかし、彼らが目指すのは単なる「業務の効率化」ではありません。AI活用によって生み出された「余白」を、いかにしてダイバーシティの推進や、弁護士本来の使命である「考え抜くこと」に充てるのか。
本記事では、AI統括と人材育成を担当するパートナー弁護士の清水亘氏と、CKO(チーフ・ナレッジ・オフィサー)としてナレッジ・マネジメントを担うパートナー弁護士の門永真紀氏に、AI時代のプロフェッショナル組織のあり方を伺います。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士
プラクティス分野としては、テクノロジー、知的財産権、自動車産業等を専門としつつ、AI統括、人材育成の担当も務める。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー弁護士
CKO(チーフ・ナレッジ・オフィサー)として、事務所全体のナレッジ・マネジメントおよびAI・リーガルテクノロジー活用の実装を牽引。
※1「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用しております。
※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。
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法律事務所の枠を超え、AI実装を自ら牽引する
AMTにおける生成AIへの取り組みは、近年のChatGPTブームに端を発したものではありません。
同事務所は、世の中に生成AIが登場する遥か手前の2019年には、すでにみらい翻訳との法務分野のAI翻訳に関するアライアンスを公表。日本の大手法律事務所としていち早くAIの所内導入を実現し、継続的に実務への実装を続けてきました。
【参考記事】アンダーソン・毛利・友常法律事務所の協力を得て みらい翻訳が法務専用の機械翻訳エンジンを開発(2019年8月29日)
2022年11月にChatGPTが登場した際、清水氏は「これは法律業務を劇的に変える」と直感したと言います。 長年、テクノロジーを専門とする弁護士としてAIの変遷を最前線で注視してきた清水氏にとって、それは確信に近い予見でした。
そこでAMTでは、2023年3月には所内向けにAI利用ガイドラインを策定。法律事務所としてはいち早く、生成AIによる実務変革の旗振り役を担ってきました。
特筆すべきは、既存のツールを導入するだけの受動的な姿勢に留まらず、事務所自らが「現場にとって何が必要か」を検討、提案し、開発をリードしている点です。
その象徴が、SMBCグループらと共創して設立したSMBCリーガルX株式会社であり、同社が2025年11月にリリースした、「AI契約書アナリティクス(法務DD)」というリーガル・デューデリジェンス(DD)※2の業務効率化ツールです。
【参考記事】AIと法務プロフェッショナルの融合。SMBCリーガルXとAMTが実現する契約DXの進化|DX-Link

「既存のツールをただ導入するのではなく、実務の最前線にいる我々が開発の議論に加わることを大切にしています。現場が直面する課題を共有し、共に試行錯誤することで、ようやくAI活用による実用的な業務変革の形が見えてきました。現場にとって本当に使いやすいものを追求する、そのプロセスにこそ価値があると考えています」
※2リーガル・デューデリジェンス(DD): M&A(企業の合併・買収)などの際に行われる法的精査のこと。膨大な契約書等の書類を短期間で分析するこの作業は、とりわけ大手法律事務所において、多くの若手弁護士が担う極めて負担の大きい業務として知られる。
利便性と責任を両立させる、全所員へのAI実装
事務所内でのAI活用は、一部の専門家だけに留まりません。AMTでは、弁護士だけでなくスタッフを含む全所員が、生成AIを日常業務で活用できる環境を整備しました。
現在、AMTの所内では、協業パートナーである株式会社みらい翻訳が開発した、セキュアな独自の汎用AIエージェントである「みらいAIエージェント」の実装が進んでいます。
さらに、汎用的なAIだけでなく、リーガルリサーチに特化したAIなど、複数の専門エージェントを使い分ける「マルチエージェント連携※3 」にも取り組んでいます。
【参考記事】弁護士ドットコム、アンダーソン・毛利・友常法律事務所と株式会社みらい翻訳と共同で、国内初の法務領域における“マルチエージェント連携”実証実験を開始(2025年10月10日)
※3マルチエージェント連携: 特定のタスクに特化した複数のAIエージェントを、目的に応じて連携・使い分ける手法のこと。例えば、リーガルリサーチのような特定分野に特化したAIと汎用チャット型AIを連携することで、シームレスにチャット画面上で高精度のリサーチ業務を行うことができるようになる。

「今では画面の1枚にAIを開いておくことが、日常の景色になりました。スタッフも弁護士も、ごく自然に使いこなしています。業務の進め方がパッと変わったというよりも、AIを味方につけて生産性を高めていこうという、前向きな意識の変化が起きていると感じます」
一方で、情報の正確性が命となる法律業務において、門永氏はAIの回答を鵜呑みにしない「検証の重要性」を強調します。

「ハルシネーション(もっともらしい嘘)を前提に、AIの生成した回答を常に批判的に検証するよう、教育を続けています。eラーニングやTips共有、レベル別の勉強会を通じて、利便性と責任を両立させるリテラシー教育が、所内全体への鍵となっています」
ハードワークを超えて。AI実装で実現する「働き方の再定義」
AIの実装が進む中で、AMTが確信を深めているのが、法律業界が長年抱えてきた「働き方の構造」そのものを変革できる可能性です。特にM&Aにおけるリーガル・デューデリジェンス(DD)は、膨大な書類を短期間で精査する過酷な「力仕事」の象徴でした。
清水氏は、AIの活用によってこの負担を劇的に軽減し、業界全体のサステナビリティを向上させようとしています。

「かつての法律業界が抱えていた過剰労働という課題は、もはや一事務所の問題ではなく、業界全体が存続し、優秀な人材を惹きつけ続けるために是正すべき必須条件です。AIの実装によって、ようやくその抜本的な改善に踏み出せたと実感しています」
この構造改革は、組織の多様性(ダイバーシティ)を支えるための重要な「インフラ」としての側面も持ち合わせています。

「法律業界は、家庭との両立が難しく、ライフイベントの多い女性がキャリアの継続に苦労してきた実態がありました。ハードワークに疲弊して辞めていくのではなく、プロとしてサステナブルに働き続けられる環境。AIはこれを実現するためのブレークスルーになるのではという手応えを感じています」
AI統括と人材育成を担当する清水氏と、ナレッジ・マネジメントを担う門永氏。両氏がAI実装を強力に推進する真の目的は、単なる効率化ツールの導入ではありません。
それは、誰もがプロフェッショナルとして能力を最大限に発揮し続けられるよう、働き方を再定義する挑戦なのです。
「AIの回答を鵜呑みにしない」。若手に課す、自力で考え抜くための“原点回帰”
AMTは今、法律家に求められるスキルのあり方を再検討しています。
清水氏は、クライアントの相談に対して単に答えを提示するのではなく、背景を読み解き「優先すべき課題を提示し直す」ことの価値を語ります。

「長年担当している大手クライアントとの仕事でも、いただいたご相談に対して、『今はその確認よりも、むしろこちらを優先して検討すべきではないでしょうか』と、一歩踏み込んだアドバイスをすることがあります」
業界の動向やクライアントの置かれた状況を深く理解しているからこそ、単に聞かれたことに答える以上の付加価値が出せる。こうした「AIにはできない、クライアントの真のニーズを汲み取った対話」を追求し続けなければ、人間として弁護士が提供すべき価値は失われてしまう。
そんな危機感から、同事務所はAI活用と並行して「教育の原点回帰」を加速させています。

「知識そのものはAIで調べられますが、法的な思考プロセスや、問題の本質を見極める力は、やはり実戦の経験を通じて育てるしかないと考えています。AIの回答を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で『考え抜く』プロセスを若手のうちから大切にしてもらう。そうしてAIを使いこなした先に、独自の価値を上乗せできる人材を育てることが、これからの組織に求められる役割だと感じています」
AIという最先端のテクノロジーを手に入れたAMTが、最終的に辿り着いたのは「人間同士の対話」という、極めてアナログな教育への原点回帰でした。
テクノロジーの限界と可能性をリアルに理解しているからこそ、人間にしかできない「思考の聖域」を研ぎ澄ます──それは、単なる効率化の先にある、プロフェッショナル集団としての新たな生存戦略といえるでしょう。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所から学ぶ3つのポイント
- ユーザーから「開発者」へ。当事者意識によるスピード実装
ベンダーからの提案を待つのではなく、自ら、現場が真に求めるツールを企画・開発。経営層がAIやテクノロジーの本質を理解していることが、迷いのない即断即決と、組織全体を巻き込む強力な推進力を生んでいる。 - AIを「働き方の再定義」と「多様性」のインフラへ
単なるコスト削減や効率化の手段ではなく、過酷な「力仕事」をAIに移譲することで生産性向上によるハードワークからの脱却と、多様な人材が活躍できる環境を整備。AIをダイバーシティを実現するためのエンジンとして位置づけている。 - 「AIの先」を逆算した、高次元の人材育成と価値創造
AIを標準装備とした上で、あえて「考え抜く力」や「問いを立て直す力」を弁護士の最重要スキルであると再確認。1対1の対話を通じ、AIの回答を鵜呑みにせず、その先にある「人間にしか出せない付加価値」を生み出す真のプロフェッショナルの育成に取り組んでいる。
もちろん、ここで紹介した取り組みは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所という、プロフェッショナルとしての高い志と先進的な文化があってこそ実現できたものでもあります。
重要なのは、仕組みを模倣することではなく、自社の文化に即してAI活用を設計することです。
「AI導入」をゴールにせず、生産性向上による職場環境の変革や、人間にしかできない価値創造に繋がる環境をどう築くか。そこに本当の成果が宿ります。
しかし、いざ実践しようとすると、多くの企業が以下の壁に直面します。
- 「自社の文化に合う、本質的なAI活用とは?」
- 「AI時代に求められる『考え抜く力』をどう育てる?」
- 「導入による変化を、どう可視化し定着させる?」
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