企業のブランディング支援を行う株式会社揚羽は、生成AIを単なる効率化ツールとしてではなく、「業務の質を高めるための武器」として位置づけ、組織全体への実装を進めてきました。

2024年以降、従業員のほぼ全員が日常業務でAIを活用する状態へと移行し、クリエイティブ領域では1人あたり1日30分〜1時間の工数削減、ホワイトペーパー制作では作業時間を半減させるなど、具体的な成果も現れています。

その背景にあるのは、トップのスピード感ある意思決定、大学教授を招いたアカデミックな研修、そしてAI時代を見据えた「クリエイター職のアップデート」でした。

本記事では、同社の執行役員 鈴木浩章氏に、ブランディング支援企業が直面するAI時代の変化を、いかにして組織進化のエネルギーへと転換してきたのか、その実践の全貌を伺います。

鈴木浩章氏

株式会社揚羽 執行役員・制作部統括

20年以上にわたりWebディレクションとプロデュースを手掛け、10年前に揚羽に参画。現在は制作部門全体を率いるとともに、AI研究チームのリーダーとして組織へのAI実装とクリエイター職のアップデートを牽引している。

※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。

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「AI研究チームを作って、全社を牽引せよ」。トップの即断が生んだAI推進の起点

揚羽が組織的なAI導入を本格化させたのは、2024年のことでした。 

それ以前から個別の担当者によるAI活用は始まっていましたが、上場企業としてガバナンスを効かせつつ、全社的な生産性を底上げするために「AI研究チーム」が発足されました。

鈴木氏

「弊社の社長は、新しいものに対する好奇心と、それをキャッチアップするスピードが異常に速い。全社でのAI活用も、『AI研究チームを作って』という社長自身の一言からスタートしました」

この素早い意思決定が、新しい取り組みの停滞を打ち破る最大の要因となりました。

鈴木氏

「私は経営メンバーですので、社長と直接話し合い、その場ですぐにコンセンサスを得ることができました。経営層のコミットメントと、意思決定から実行までのスピード感。これこそが、弊社のAI活用における最大の特長です」

ガイドラインは「制約」ではなく、自由を守る「盾」

クリエイティブ業界においてAI活用を阻む最大の要因は、情報漏洩や著作権侵害への懸念です。

揚羽は「リスクがあるから禁止」とするのではなく、「安全に攻めるためのルール」を早期に言語化しました。

鈴木氏

「クライアントの機密情報を守る責任(NDA)を果たす。この当たり前のことを徹底するために、AI研究チームが安全なツールと運用ルールを言語化しました。ルールは現場を縛るものではなく、リスクから身を守りながら攻めるための『盾』として機能しています」

日々進化する海外のAIサービスに対しても、現場からの「これを使ってみたい」という声を遮断せず、AI研究チームと法務部門がリアルタイムで権利関係のリスクを精査する体制を敷いています。

鈴木氏

「権利関係がグレーなものはリスクを説明してNGを出しますが、代替案として安全なツールの活用を即座に提案します。単なる交通整理ではなく、どうすればクリエイティブの自由度を守りながらAIを武器にできるか。こうした姿勢が、全社へのAI浸透を加速させたのではないでしょうか」

「ハウツー」ではなく、「本質」から始めたAI教育

揚羽のAI浸透を語るうえで欠かせないのが、教育への投資です。

同社は明治大学 総合数理学部 教授の櫻井義尚氏を技術アドバイザーとして迎え、「AIの原理原則」を学ぶ社内勉強会を実施しました。

鈴木氏

「研修では、まずはAIの原理原則を学ぶことに重きを置きました。櫻井教授の専門領域が機械学習ということもあり、ハウツーよりも先にAIの仕組みそのものを学ぶ形をとったのです」

仕組みを本質的に理解していれば、ツールが変わっても「何ができるか」を自ら考え、応用できる力が身につくと考えました。

鈴木氏

「結果として、AI研究チームが指示を出すまでもなく、部署や職種ごとに『自分たちならこう使える』という手法が自然発生的に広がっていきました。AIの基礎を固めたからこそ、ハウツーやトレンドに振り回されない本質的な活用が定着したのだと感じています」

全従業員の活用がもたらす、劇的な業務変革効果

本質的なAI教育を経て、揚羽では管理部門を含むほぼすべての従業員が日常的にAIを活用する状態になっています。

既に導入しているGoogle Workspaceとの親和性から「Gemini」を推奨ツールとし、職種ごとに最適化されたワークスタイルが確立されています。

鈴木氏

「導入にあたっては投資対効果を見据え、『どの業務を何時間削減できるか』という仮説を立て、実際の運用をスタートさせました。現在、定量的に最も大きな成果が出ているのは制作部門です。ペアプログラミング等への活用により、1人あたり1日30分から1時間の効率化を実現しており、制作部門全体(45名)で試算すると、月間約100時間の工数削減に繋がっています」

また、広報や販促領域におけるホワイトペーパー制作でも、AIの活用により制作工数を従来と比べ、半減することに成功しています。

職種別・生成AI活用のビフォーアフター

職種具体的な活用シーン創出された成果
エンジニアペアプログラミング、コード生成・レビュー月間約100時間の削減。設計や判断へ注力する時間を創出。
広報・販促プレスリリース作成、ホワイトペーパー作成作業時間を約50%削減。数週間かかっていた制作期間が数日に短縮。
営業・ディレクター業界理解、競合分析、企画のアイデア出し、議事録作成提案準備のスピード向上。顧客への提供価値の深化。
ブランドコンサルティングインタビュー分析、テキストマイニング、情報整理膨大な定性情報の構造化にかかる時間を大幅に短縮。
鈴木氏

「特にクリエイターにとって大きな変化は、AIが『孤独感を解消する壁打ち相手』になったことです。一人で煮詰まる時間が少なくなり、AIが出した案から新たな着想を得て思考を加速させる。悩む時間が減り、より高いクリエイティビティを発揮できる環境が整いつつあります」

AI時代における、クリエイター職のアップデート

AIが「平均点」の成果物を瞬時に提供できるようになった現在、揚羽はクリエイターの存在意義そのものをアップデートしようとしています。

単に作業を効率化するだけでなく、削減された時間を「より高い付加価値」を生むためにどう充てるのか。

同社は、デザイナーをアートディレクター(AD)へ、エンジニアをテクニカルディレクター(TD)へとシフトさせる新たな取り組みを掲げています。

鈴木氏

「AIで代替できる『作業領域』から脱却し、AIや外部パートナーを活用しながら設計し、価値を生み出す『プロデュース領域』に重心を移す。これは個々人の努力に任せるのではなく、組織として意図的にキャリアプランを書き換えるという変革です」

AIが進化し、自律的に業務をこなす未来が来ても、人が担う役割は決して消えないと鈴木氏は語ります。それは、デジタル化が進むほど際立つ「人間ならではの熱量」を形にする仕事です。

鈴木氏

「AIは情報の整理や分析に長けていますが、クライアントと深く伴走する中で感じる『空気感』や、その企業特有の『熱量』を読み取ることはできません。私たちが大切にしているのは『ビジネスと人を描く』こと。ワークショップやインタビューを通じて、企業の真の魅力を抽出し、最終的な意思決定と責任を担うのは、どこまで行っても人間であるべきだと考えています」

揚羽から学ぶ3つのポイント

揚羽の取り組みは、AIを単なるツール導入で終わらせず、クリエイティブ組織が “進化し続けるための武器” として定着させるために必要な3つの示唆を私たちに与えてくれます。

1. トップの「好奇心」をエンジンにした即断即決と体制構築
ROIを精査する前に、トップの「新しもの好き」という直感と好奇心でプロジェクトを始動。社長直下の「AI研究チーム」を組織し、リーダーを経営メンバーにすることで、現場の要望とガバナンス調整を即断即決できる体制を敷く。

2. AIのハウツーより先に「本質」を学ぶ教育
ハウツー(操作方法)から入るのではなく、大学教授を招き、AIの仕組みや構造といった「原理原則」を学ぶ基礎教育を実施。AIを構造的に理解することで、ツールが変わっても「何ができるのか」を自ら考え、応用できる。揚羽が目指したのは、AIに依存する現場ではなく、AIを前提に自走する組織の構築。

3. 効率化の先にある「職種の再定義」と価値創造
AIによる工数削減をゴールとせず、削減した時間を「プロデュース領域」へシフトするための投資と捉える。デザイナーをADへ、エンジニアをTDへと引き上げる「職種の再定義」を組織的に行い、AI時代に勝てる高付加価値組織を目指す。

これらの取り組みは、特別な技術投資に依存せず、多くの企業でも応用できる再現性の高い手法です。

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