生成AIが企業を変える──
オムロン「AIZAQ」プロジェクトが挑む全社DXの最前線
導入企業プロフィール
- 企業名
- オムロン株式会社
- 事業内容
- 家庭向け(電子体温計等)、社会向け(自動改札機等)、産業分野(ロボット、AIセンサー等)の幅広い開発・製造・販売を展開。
- 導入目的
- AIZAQとして1年間、自社だけで取り組みを続けてきたが、プロジェクトのさらなる加速のためには外部の力を借りる必要性を感じていた。
21世紀を生きるビジネスパーソンにとって、もはや生成AI技術はなくてはならないもの。そのテクノロジーを自在に操れば、AIは単なる便利なツールから、企業に眠る大きな可能性を引き出す“変革のパートナー”になるのかもしれません。この記事では、さまざまな業種の企業を訪ね、百社百様のAI導入の事例を探っていきます。
今回、登場していただくのは、日本を代表する電子・制御機器メーカーのオムロン株式会社。家庭向けには電子体温計や血圧計など、社会向けには自動改札や券売機、道路料金収受システム(ETC)といった製品の開発・製造・販売を手掛けているほか、産業用ロボットや画像処理技術、AIセンサーなどの技術開発で人々の暮らしや社会を支えているオートメーションのリーディングカンパニーです。
同社がAI導入に踏み出したのは、2023年9月のこと。国内で約1万1000人、海外で約1万5000人におよぶ従業員を対象にした全社横断型の生成AI活用推進プロジェクト「AIZAQ(アイザック)」を立ち上げたのです。オムロンが生成AIの効果的な活用を企業成長のひとつの鍵ととらえるようになった背景には一体、どんなことがあったのでしょう?
「機械にできることは機械に」オムロンがAIに託した未来
まずは、AIZAQの旗振り役をになう、グローバルビジネスプロセス&IT革新本部 デジタル戦略構築部 部長の伊藤卓也さんにプロジェクトが立ち上がった背景について、聞いてみましょう。
オムロングループを一代で大企業に育て上げた創業者の立石一真は、こんな言葉を遺しています。
──機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである。
この言葉を企業理念として掲げていることを背景にして、オムロンにはデジタル技術を駆使して業務改善を行うだけでなく、その技術を企業の成長に結びつけるという考えが浸透していました。そのような理念を背景に、オムロンでは変化する社会を見据えて2022年度から長期ビジョン『Shaping the Future 2030(SF2030)』をスタートさせています。
そのビジョン達成に向けて、急速に進化している人工知能(AI)に着目し、経営メンバー自身がAIを正しく理解するために、経営層がプロンプトを記載するなどの実技演習を東京大学の松尾豊教授の研究室の皆さんにしていただいきました。
約6時間におよぶレクチャーを受けた結果、経営トップを主とした経営層のほとんどが「生成AIはすぐれたテクノロジーである。この技術を導入しない企業は今後、競争力を失っていく」という意識を共有しました。その後、全社横断型の生成AI活用推進プロジェクト「AIZAQ」推進の経営の意思決定が8月に行われ、具体的なプロジェクトとしての活動が2023年9月に始動しました。
「わからない」から始まった社内教育の舞台裏
「AIZAQ」は、生成AIに興味があって、業務課題を解決したい、意志(WILL)さえあれば、誰もが参加できるプロジェクトでしたが、課題となったのが従業員の知識・スキル不足だったといいます。彼らはそのハードルをどのように超えていったのでしょう? 再び伊藤部長に話をうかがいます。
生成AIは新しく、進化の早い技術ですので、十分な知識やスキルを持っている従業員が少なく、また多くの人が「この技術で何ができるのか、どのように活用すればよいのか、まったくわからない」という状態にありました。そのため、社内全体で生成AIを活用していくには、従業員の知識やスキルの底上げが不可欠でした。
それから1年をかけて、オムロン内で知識・スキルを向上させながら業務課題を解決していく取り組みを続け、オムロンらしい取り組みの型が見えてきました。そこで、AIZAQでのプロジェクトのさらなる加速が必要であると考え、取組から1年後に外部の力を借りる判断をしました。
当然、さまざまなベンダーを検討しましたが、そのなかでSHIFT AIを選んだ決め手は、反応のスピーディさでした。AIZAQの考えに共感いただき、またこちらの問題意識を素早く察知して、提案してくれる柔軟な対応に魅力を感じました。
提案してくれる教材の内容もBtoB、あるいはBtoCに偏ることなく、両面を網羅していて、弊社の業務内容に親和性の高いところにも魅力を感じました。
トライアルから本格展開へ。AIZAQが生んだ社内の変化
2023年9月に始動した「AIZAQ」は、1シーズン6カ月と期間を設定していたといいますが、社内での反響はどうだったのでしょう? プロジェクトを支援するメンバーのひとり、グローバルビジネスプロセス&IT革新本部 デジタル戦略構築部 DX推進課 繁延大さんに話を聞いてみました。
生成AI導入の検証を進めるユースケースを私たちは「テーマ」と呼んでいますが、いわばトライアルのような形で始めたシーズン1には、20を超えるテーマが立ち上がりました。
テーマの内容は、「年間10万件におよぶお客様の声の整理・分類」や、「ソフトウェア開発への活用」など多岐に渡りましたが、90%以上のテーマで「生成AIは業務の課題解決に有効である」という検証結果が得られました。
それからシーズン2の実施など1年をかけて、AIZAQでの取り組みを続け、プロジェクトのさらなる加速が必要であると考え、取組から1年後に外部の力を借りる判断をし、SHIFT AIの協力の元、まずはエッセンシャルな生成AIトレーニングコンテンツを作成頂きました。こちらを使って、シーズン3でトレーニングを実施し、手ごたえを感じることができました。
シーズン4ではさらに強化しようと、難易度、長さ、見せ方の面をより精査しました。
そこで、シーズン1を終えた時点でトレーニングの内容をSHIFT AIの協力のもと、1ヶ月の準備期間を設けて難易度、長さ、見せ方などの面で精査しました。
こうして2025年4月に始動した「AIZAQ」のシーズン4では、始動時のシーズン1と比べて3倍以上もの従業員が手を挙げてくれました。
1回のトレーニングには、4時間におよぶものがあり、通常の業務をこなすなかで参加する人たちにとっては負担になります。ただ、参加者にアンケートをとったところ、「4時間がアッという間に感じた」、「今まで受けた研修のなかで、もっとも学びが多かった」という反応があったことは、とてもうれしかったですね。
AIがつなぐ、部署を超えた“横の絆”
オムロンの制御機器事業の部門に所属していたバリラロ・ソフィアさんは、シーズン1では「アプリ開発の業務改善」を目指して参加したメンバーのひとりでしたが、シーズン4からは推進する側の立場となって繁延さんとともに全社的にプロジェクトを推進しています。そんな彼女に生成AIとの出会いについて、語っていただきましょう。
イタリア出身ということもあって、英語の文書には慣れていましたが、オムロン入社後は、日本語でしか書かれていない大量の文書に追われる日々でした。
そのとき、生成AIは大きな助けになってくれました。どんなに長い文章でも、要点を適確にとらえてサマリーを作ってくれる。もし、この技術が、私が今働いている制御機器事業の業務に活かすことができたら、どんなに素晴らしいだろうと考えて「AIZAQ」のシーズン1に参加しました。
新しい商品を開発するにあたっては、細かい技術の特許についての情報を参照しなければならないし、社内や各種業界ならではの情報のルールをふまえて情報を精査しなければなりません。これらをRAGという手法を用いて解決することができることを知って、ますます生成AI技術の可能性に期待をして、シーズン4からはAIZAQを推進する側の立場となることを決意しました。
シーズン4からAIZAQをどのように推進していくべきか、同じメンバーである繁延さんとともに設計する仕事はとても楽しかったけれど、生成AIの技術が実際にどのような業務に応用できるのか、そのユースケースを提案する際にはこちらの知識不足もあって、悩むことも多かったんです。そのとき、SHIFT AIが100件を超えたユースケースを提案してくださったときは、とても頼もしく感じました。
「AIZAQ」というプロジェクトを通じて、オムロンというグローバルな組織が今、生成AIの導入という目標に向かって縦のつながりを超えた横のつながりに向かっていることを感じています。
「量から質へ」AIZAQが目指す次のステージ
オムロンは「AIZAQ」というプロジェクトを通じ、生成AIの活用をするうえでどのような未来を目指しているのでしょう? 最後にグローバルビジネスプロセス&IT革新本部 デジタル戦略構築部の伊藤部長に話を聞きました。
AIZAQ発足当初は、生成AIを活用することを目指していましたが、取り組みを通じて、目標の軌道修正を行いました。具体的には、生成AIを活用することではなく、1人1人の従業員が生成AIなどのテクノロジーを活用してDX実践にチャレンジしたということ、つまりDX原体験の獲得者数を国内の従業員の30%(約3000人)にするというKPIに目標を設定し直しました。
生成AIを利用する従業員は100%を目指すことはもちろんですが、それだけではなく、今後も新しいテクノロジーが普及するたびに、AIZAQのようなプロジェクトが立ち上がらなくてもよいように、本質的にはDXができる状態になっていること、そのためのDX実践の原体験を獲得している状態になっていることが重要と考えました。そして、そのDX実践の原体験者が組織内でインフルエンスすることで、オムロン全社で1人1人が主体的、自律的、持続可能にDXできる人財基盤を構築することを目指しています。
これからの時代、生成AIは人々の暮らしや社会にとって、なくてはならない技術になっていくでしょう。その技術を正しく理解し、それを運用していくスキルは不可欠になっていくのは間違いありません。SHIFT AIには、そのサポートを期待しています。
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