業務可視化フレームワーク7選｜AI活用に向けた効果的な進め方

社内でAI導入を検討しているものの、「どの業務から手をつけるべきか分からない」「現状の業務プロセスが整理できていない」といった課題を抱えていませんか？

AI活用を成功させるためには、まず自社の業務を正確に把握し、改善点を明確化する「業務可視化」が不可欠です。しかし、やみくもに取り組んでも効果は期待できません。

そこで重要となるのが、体系的なアプローチを可能にする「フレームワーク」の活用です。適切なフレームワークを選択し実践することで、効率的に業務の全体像を把握し、AI導入に向けた具体的な改善策を導き出すことができます。

本記事では、AI導入を見据えた業務可視化に必要なフレームワークの選び方から実践方法まで、体系的に解説します。

業務可視化フレームワークが重要な理由

業務可視化フレームワークは、AI導入を成功させるために欠かせない基盤となります。適切なフレームワークを活用することで、現状の業務プロセスを客観的に分析し、AI活用の効果を最大化できるからです。

💡関連記事
👉業務可視化とは？AI時代の効率的な進め方と成功の5ステップ

AI導入で業務可視化が必要だから

AI導入を成功させるためには、まず現状の業務プロセスを正確に把握することが不可欠です。

多くの企業がAI導入で失敗する理由は、既存の業務フローを十分に理解せずに技術導入を進めてしまうことにあります。AIは業務を自動化・効率化するツールですが、そもそもどの業務にどのような課題があるのかを明確にしなければ、適切なAIソリューションを選択できません。

業務可視化フレームワークを活用することで、業務の流れ、関係者、処理時間、発生するデータなどを体系的に整理できます。これにより、AI適用が効果的な業務領域を特定し、投資対効果の高い導入計画を策定することが可能になります。

従来の業務改善では限界があるから

従来の業務改善手法では、AI時代に求められる抜本的な業務変革に対応できません。

これまでの業務改善は、主に人的作業の効率化や手順の最適化に焦点を当ててきました。しかし、AI活用では業務そのものの在り方を根本的に見直す必要があります。

例えば、書類チェック業務では、従来は「チェック時間の短縮」が改善目標でした。しかしAI導入では「チェック作業自体の自動化」を検討します。このような発想転換を実現するためには、業務を構造的に分解し、付加価値創造の観点から再設計する必要があります。

業務可視化フレームワークは、このような抜本的な業務変革を支援する思考の枠組みを提供してくれます。

データドリブン経営の土台となるから

業務可視化は、データに基づいた意思決定を実現するための基盤となります。

AI活用の最終目標は、データドリブン経営の実現です。しかし、データを活用するためには、まずどの業務でどのようなデータが生成されるのかを把握する必要があります。

業務可視化フレームワークを通じて、各業務プロセスで発生するデータの種類、量、品質を明確化できます。これにより、データ収集の仕組み構築、データ品質の向上、分析に適したデータ形式への変換など、データ活用に必要な施策を計画的に実行できるようになります。

また、業務とデータの関係性を可視化することで、どの指標を重視すべきか、どのタイミングで意思決定を行うべきかも明確になります。

業務可視化フレームワークの種類と選び方

業務可視化フレームワークは目的に応じて使い分けることが重要です。現状把握、改善検討、効果測定の各段階で最適なフレームワークを選択することで、効率的に業務改善を進められます。

現状把握に使うフレームワーク

業務の全体像を正確に把握するためには、構造化された情報収集が不可欠です。

現状把握の段階では、業務フローの可視化と作業内容の詳細化が主な目的となります。BPMN（ビジネスプロセスモデリング表記）は業務の流れを図式化し、関係者や判断ポイントを明確にします。

業務棚卸し表は、個々の作業を一覧化し、作業時間、頻度、担当者を整理できます。5W2Hフレームワークは、各業務の詳細情報を漏れなく収集するための確認項目を提供します。

これらのフレームワークを組み合わせることで、業務の全体像から詳細まで段階的に把握できます。

改善施策を検討するフレームワーク

効果的な改善施策を立案するためには、課題の根本原因を特定する必要があります。

改善検討では、問題の構造化と解決策の体系的な検討が求められます。ロジックツリーは、課題を階層的に分解し、根本原因を特定するのに有効です。

ECRS（イクルス）は、排除・結合・再配置・簡素化の順序で改善アプローチを検討します。バリューチェーン分析は、価値創造の観点から業務の重要度を評価し、投資対効果の高い改善領域を特定できます。

これらのフレームワークを活用することで、表面的な対処療法ではなく、本質的な問題解決につながる改善策を立案できます。

効果測定を行うフレームワーク

継続的な改善を実現するためには、客観的な効果測定が欠かせません。

効果測定の段階では、改善結果の振り返りと次の改善サイクルへの準備が重要になります。KPT（Keep・Problem・Try）は、改善施策の振り返りを構造化し、継続すべき要素と改善すべき課題を明確にします。

PDCAサイクルは、計画・実行・評価・改善の循環を通じて、継続的な業務改善を実現します。定量的な指標と定性的な評価を組み合わせることで、改善効果を多面的に把握できます。

効果測定により得られた知見は、次の改善サイクルの精度向上につながり、組織全体の改善能力を高めていきます。

業務棚卸しに効果的なフレームワーク7選

業務可視化を実践する際には、目的に応じた適切なフレームワークの選択が成功の鍵となります。ここでは、特に効果的な7つのフレームワークについて、具体的な活用方法を解説します。

ECRS（イクルス）で無駄を排除する

ECRS は業務改善の基本原則として、排除・結合・再配置・簡素化の順序で検討を進めます。

Eliminate（排除）では、そもそも必要のない業務や承認プロセスを特定します。例えば、形式的な報告書作成や多重チェック体制などが該当します。

Combine（結合）では、類似した業務や会議をまとめて効率化を図ります。Rearrange（再配置）では、業務の順序や担当者の配置を見直し、無駄な待ち時間を削減します。

Simplify（簡素化）では、複雑な手順を単純化し、誰でも実行できるよう標準化します。この順序で検討することで、最も効果的な改善策を優先的に実施できます。

BPMN（ビーピーエムエヌ）で業務フローを図式化する

BPMN は業務プロセスを標準的な記号で表現し、関係者間の共通理解を促進します。

業務の開始点から終了点まで、誰がどのような判断や作業を行うのかを視覚的に表現できます。特に、複数部署が関与する業務や、条件分岐が多い業務の可視化に威力を発揮します。

図式化により、業務のボトルネックや無駄なプロセスが明確になります。また、AI導入を検討する際には、自動化可能な業務ステップを特定する基礎資料としても活用できます。

国際標準の記法を使用するため、外部パートナーやシステム開発会社との情報共有もスムーズに行えます。

業務棚卸し表で作業を一覧化する

業務棚卸し表は、すべての作業を構造化して整理し、改善の優先順位を明確にします。

作業名、目的、頻度、所要時間、担当者、使用システムなどを項目として設定し、業務を網羅的に洗い出します。この一覧により、業務量の偏りや重複作業を発見できます。

特に、月次・年次などの周期的業務と日常業務を分けて整理することで、業務の全体像を正確に把握できます。また、各作業の付加価値を評価することで、AI化や外部委託の検討対象を絞り込めます。

データ形式で管理することで、後の分析や報告書作成にも活用できる利点があります。

バリューチェーン分析で価値創造プロセスを整理する

バリューチェーン分析は、企業活動を価値創造の観点から分析し、競争優位の源泉を特定します。

主活動（調達・製造・販売・サービス）と支援活動（人事・技術開発・管理）に分類し、各活動がどの程度の価値を生み出しているかを評価します。

この分析により、コア業務と非コア業務を明確に区別できます。非コア業務はAI化や外部委託の候補として検討し、コア業務は人材育成や技術投資の対象として位置づけられます。

また、顧客視点での価値評価を通じて、改善投資の優先順位を客観的に判断できるようになります。

ロジックツリーで課題の根本原因を特定する

ロジックツリーは課題を階層的に分解し、表面的な問題の背後にある根本原因を明らかにします。

「なぜ？」を繰り返すことで、問題を詳細レベルまで分解していきます。例えば「残業が多い」という課題に対し、作業量・スキル・プロセス・システムなどの観点から原因を特定できます。

樹形図により、複数の原因が相互に影響し合う複雑な問題構造も整理できます。根本原因が特定されれば、表面的な対策ではなく、本質的な解決策を立案できるようになります。

AI導入においても、どの課題をテクノロジーで解決すべきか、どの課題は組織改革で対応すべきかを判断する材料となります。

KPTで継続的に改善サイクルを回す

KPT は Keep・Problem・Tryの3つの観点で振り返りを行い、継続的改善を実現します。

Keep（継続）では、うまくいった取り組みや維持すべき要素を明確にします。Problem（問題）では、課題や改善が必要な点を洗い出します。Try（挑戦）では、次に実施すべき具体的なアクションを決定します。

短期間（週次・月次）で繰り返すことで、小さな改善を積み重ねていけます。また、チーム全体で実施することで、改善に対する共通認識を醸成できます。

AI導入プロジェクトでは、技術的な課題だけでなく、組織的な課題も含めて総合的に振り返ることが重要です。

5W2Hで業務の詳細を明確化する

5W2H は Who・When・Where・What・Why・How・How muchの7つの要素で業務を詳細化します。

各業務について、実施者・タイミング・場所・内容・目的・方法・コストを明確にすることで、改善の着眼点を網羅的に検討できます。

特に、Why（目的）を明確にすることで、業務の存在意義を問い直し、不要な作業の排除につなげられます。How much（コスト）では、時間コストと金銭コストの両面から効率性を評価します。

AI導入検討においては、自動化の対象範囲や投資対効果の算定に必要な詳細情報を収集する際に活用できます。

業務可視化フレームワークの効果的な使い方

フレームワークの効果を最大化するためには、段階的なアプローチが重要です。現状把握から改善検討、AI活用の可能性評価まで、体系的に進めることで確実な成果を得られます。

ステップ1：現状業務を洗い出す

現状業務の洗い出しは、すべての改善活動の出発点となる最も重要な工程です。

まず、業務棚卸し表を活用して、部署で実施しているすべての業務を漏れなく列挙します。日常業務だけでなく、月次・四半期・年次で発生する定期業務も含めて整理しましょう。

次に、BPMNを使用して主要業務のフローを図式化します。業務の開始から完了まで、誰がどのような判断や作業を行うのかを詳細に記録します。

5W2Hフレームワークで各業務の詳細情報を収集し、実施頻度、所要時間、使用システム、関連部署などを明確にします。この段階では、改善案は考えず、現状の正確な把握に集中することが重要です。

ステップ2：改善ポイントを特定する

洗い出された業務情報を分析し、改善が必要な領域を優先順位と合わせて特定します。

バリューチェーン分析により、各業務が企業価値創造に与える影響度を評価します。顧客価値に直結する業務と間接的な支援業務を明確に分類し、改善投資の優先順位を設定しましょう。

ロジックツリーを活用して、業務上の課題を根本原因まで掘り下げて分析します。表面的な問題ではなく、構造的な課題を特定することで、効果的な解決策を立案できます。

ECRSの原則に従い、排除・結合・再配置・簡素化の観点から改善アプローチを検討します。最も効果が高く、実現可能性の高い改善案から着手することが成功の鍵となります。

ステップ3：AI活用の可能性を検討する

特定された改善ポイントに対して、AI技術の適用可能性を体系的に評価します。

繰り返し作業、パターン認識、大量データ処理など、AIが得意とする業務特性を持つ領域を特定します。既存の業務フローの中で、どの部分がAI化の対象となるかを明確にしましょう。

投資対効果を定量的に評価し、AI導入による効果（時間短縮、精度向上、コスト削減）と導入コスト（システム費用、教育費用、運用費用）を比較検討します。

KPTフレームワークを活用して、AI導入計画の妥当性を多角的に検証します。技術的実現可能性だけでなく、組織の受け入れ準備や変革管理の観点からも評価することが重要です。

業務可視化フレームワーク活用時の注意点

フレームワークの効果を最大化し、陥りがちな失敗を避けるためには、以下の注意点を意識した取り組みが不可欠です。

目的を明確にしてから取り組む

フレームワーク活用前に、何を達成したいのかを具体的に設定することが成功の前提条件です。

「業務効率化」や「AI導入」といった曖昧な目標では、適切なフレームワーク選択や効果測定ができません。「月次報告作成時間を半減する」「顧客対応の自動化率を向上させる」など、定量的で具体的な目標設定が重要です。

目標が明確になれば、どのフレームワークをどの順序で活用すべきかが自然と決まります。また、プロジェクトの進捗状況や成果を客観的に評価できるようになります。

目的設定は、関係者全員で合意形成を図り、プロジェクト期間中に変更が生じた場合は速やかに再調整することが必要です。

現場の声を必ず収集する

業務可視化の成功は、実際に業務を担当している現場メンバーの協力なくして実現できません。

管理層や企画部門だけで分析を進めても、実態とかけ離れた結果になる可能性があります。現場メンバーへのヒアリングや業務観察を通じて、正確な現状把握を心がけましょう。

現場の意見収集では、業務の手順だけでなく、困りごと、工夫している点、改善アイデアなども積極的に聞き取ります。これらの情報は、フレームワークによる分析では見えてこない貴重な改善の手がかりとなります。

また、改善案の検討段階でも現場の実行可能性を確認し、実現性の高い施策に絞り込むことが重要です。

短期的な効果だけを追わない

持続可能な改善を実現するためには、短期的な効果と中長期的な価値創造のバランスを考慮する必要があります。

即効性のある表面的な改善に注力しすぎると、根本的な課題が放置され、後に大きな問題として顕在化する可能性があります。フレームワークを活用した分析結果を基に、短期・中期・長期の改善ロードマップを策定しましょう。

特にAI導入では、技術習得や組織変革に時間を要するため、段階的な取り組み計画が不可欠です。小さな成功体験を積み重ねながら、最終的な目標達成に向けて着実に進めることが重要です。

効果測定においても、定量的な指標だけでなく、従業員満足度や学習効果など定性的な価値も評価に含めることが大切です。

フレームワークに固執しすぎない

フレームワークは思考を整理するための道具であり、目的そのものではないことを常に意識する必要があります。

複数のフレームワークを機械的に適用するだけでは、本質的な改善につながりません。自社の業務特性や組織文化に合わせて、フレームワークをカスタマイズしたり、組み合わせたりする柔軟性が求められます。

また、フレームワークの実施自体が目的化してしまい、分析に時間をかけすぎて実行に移せない「分析麻痺」に陥らないよう注意が必要です。適度なタイミングで分析を切り上げ、実行に移すことが重要です。

現場の創意工夫や直感的な改善アイデアも大切にし、フレームワークによる分析結果と組み合わせることで、より実効性の高い改善策を立案できます。

改善後の効果測定を怠らない

継続的な改善を実現するためには、実施した改善策の効果を定期的に測定し、次の改善サイクルにつなげることが不可欠です。

改善策の実施前に、測定指標と目標値を明確に設定しておきましょう。定量的指標（処理時間、エラー率、コスト等）と定性的指標（満足度、作業負担感等）をバランスよく組み合わせることが重要です。

KPTフレームワークを活用して、定期的に振り返りを実施します。うまくいった点は他の業務にも展開し、課題が見つかった点は速やかに改善策を検討しましょう。

効果測定の結果は、次の業務可視化プロジェクトの精度向上にも活用できます。組織として改善ノウハウを蓄積し、継続的に改善能力を向上させることが長期的な競争優位につながります。

まとめ｜業務可視化フレームワークで始めるAI活用への確実な第一歩

業務可視化フレームワークは、AI導入を成功させるために欠かせない基盤づくりの手法です。ECRS、BPMN、業務棚卸し表などの適切なフレームワークを選択し、段階的に活用することで、現状の業務プロセスを正確に把握し、効果的な改善策を立案できます。

重要なのは、フレームワークそのものを目的とせず、AI活用に向けた具体的な成果につなげることです。現場の声を取り入れながら、継続的な改善サイクルを構築することで、組織全体の変革力を高められます。

まずは自社の課題に適したフレームワークを一つ選んで実践してみましょう。小さな成功体験の積み重ねが、やがて大きな変革の原動力となります。

業務可視化で明確になった課題を解決し、AI活用を本格化するためには、体系的な知識習得と実践的なスキル向上が次のステップとなるでしょう。

業務可視化フレームワークに関するよくある質問