「検査員によって判定がばらつく」「不良の見逃しが後工程に影響する」

製造業の現場では、いまだに人の目に頼った外観検査が多く行われています。しかし人手不足や熟練者の高齢化により、従来の目視検査には限界が見え始めているのも事実です。

こうした中、AIと画像認識技術を活用した外観検査の自動化が注目されています。本記事では、AI外観検査の仕組みからメリットや課題、コスト面までをわかりやすく解説。製造業DXを推進する方や検査工程の見直しを検討中の方は、ぜひご一読ください。

この記事の監修者
SHIFT AI代表 木内翔大

SHIFT AI代表 木内翔大

(株)SHIFT AI 代表取締役 / GMO AI & Web3株式会社AI活用顧問 / 生成AI活用普及協会(GUGA)協議員 / Microsoft Copilot+ PCのCMに出演 / 国内最大級AI活用コミュニティ SHIFT AI(会員20,000人超)を運営。
『日本をAI先進国に』実現のために活動中。Xアカウントのフォロワー数は12万人超え(2025年6月現在)

なおSHIFT AIでは、「AI人材育成ロードマップ」を無料で提供しています。AI導入の検討初期段階の疑問解消にも役立つ内容です。ぜひ、以下のリンクからご覧ください。

目次
  1. AI外観検査とは
    1. AI外観検査の画像認識の仕組み
    2. AI外観検査と目視検査の違い
  2. AI外観検査で得られる5つのメリット
    1. メリット1. 検査スピードと精度の向上
    2. メリット2. 人手不足問題の解消
    3. メリット3. 検査品質の均一化と安定化
    4. メリット4. 24時間稼働による生産性向上
    5. メリット5. 熟練技術の継承問題の解決
  3. AI外観検査の5つの課題とは?
    1. 課題1. 導入時のコスト問題
    2. 課題2. 学習データの収集が困難
    3. 課題3. 判定基準のブラックボックス化
    4. 課題4. 寸法検査などの定量的判断における限界
    5. 課題5. 専門知識と人材の必要性
  4. AI外観検査を活用した検査プロセスを6つのステップで解説
    1. ステップ1. 検査環境の構築と学習準備
    2. ステップ2. 画像取得と前処理の実施
    3. ステップ3. AI判定による不良検出
    4. ステップ4. 検査結果の出力
    5. ステップ5. 検査データの分析と活用
    6. ステップ6. 検査精度の維持と向上
  5. AI外観検査に必要な機器と環境
    1. 1. 専用カメラ
    2. 2. 照明と撮像環境
    3. 3. 画像処理システム
    4. 4. ハードウェアとソフトウェア
  6. AI外観検査の導入コストと投資対効果
    1. PoCから実装までの費用相場
    2. ランニングコスト
    3. 投資対効果と回収の考え方
  7. 【業界別】AI外観検査の活用事例4選
    1. 自動車部品製造|トヨタ自動車
    2. 電子部品・半導体|オムロン
    3. 食品|ニチレイフーズ
    4. 金属加工|株式会社RUTILEA
  8. AI外観検査の今後の展望
    1. 検出精度と処理速度の向上
    2. 少量データでの学習
    3. スマートファクトリー実現への貢献
  9. まとめ|AI外観検査で生産性向上を図ろう
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AI外観検査とは

AI外観検査とは、人による目視検査や従来の検査装置による外観検査を、AIと画像認識技術で自動化するシステムです。カメラで製品の傷や汚れ、異物などを撮像し、AIがそれらを判定します。そうすることで、検査の属人性が排除され、作業効率を高めることができます。

従来の外観検査では、検査員の経験や体調により判定にばらつきが生じることが課題でした。AI外観検査では、ディープラーニングによって大量の画像データから不良パターンを学習し、一定の基準に基づいた高精度な検査が可能です。

AI外観検査の画像認識の仕組み

AI外観検査の画像認識は、人の検査員が製品を見る時の思考プロセスをコンピュータで再現した技術です。例えば、製品の表面に傷があるかどうかを判断する際、AIは線の境界、色の変化、表面の滑らかさなどの情報を段階的に分析していきます。

分析プロセスは複数の段階に分かれており、最初は「線や角があるか」といった基本的な要素を認識。次第に「傷の形状」「汚れのパターン」など、より複雑な特徴を判断していく仕組みです。

従来の画像検査装置では、人が事前に「この形状なら不良」「この色なら異常」といったルールを細かく設定する必要がありました。しかしAI外観検査では、機械が大量の画像サンプルから自動的に「良品・不良品の見分け方」を学習します。

この技術により、人では見落としがちな0.1mmの微細な傷や、わずかな色のムラまで検出できるようになりました。

AI外観検査と目視検査の違い

目視検査では、検査員のスキルや体調によって判定にばらつきが生じるのが一般的です。例えば、ベテランなら見逃さない小さな傷も、新人や披露した検査員では見落としてしまうことがあります。

AI外観検査では、こうした人による判定のばらつきの解消が可能です。一度学習させたAIは、初回から数万回目の検査まで、常に同じ基準で判定を行います

検査スピードの面でも大きな違いがあります。人が1分かかる検査を、AIなら数秒で完了し、休憩や交代の必要もありません。

夜間や長時間の稼働でも精度が落ちることなく、24時間365日、常に同じ精度で検査を維持できます。これにより、生産性の向上と検査品質の安定化が同時に実現できるでしょう。

AI外観検査で得られる5つのメリット

AI外観検査の導入により、製造現場は多くの恩恵を受けられるようになりました。ここでは、代表的な5つの導入メリットを紹介します。

  1. 検査スピードと精度の向上
  2. 人手不足問題の解消
  3. 検査品質の均一化と安定化
  4. 24時間稼働による生産性向上
  5. 熟練技術の継承問題の解決

メリット1. 検査スピードと精度の向上

AI外観検査の最大の特長は、人間を大きく上回る検査スピードです。例えば、熟練検査員が1分間かけてチェックする製品を、AIならほんの数秒で検査が可能。1秒間に数十個の製品を検査できるシステムも珍しくありません。

精度の面でも大きな優位性があります。人間の目では見落としがちな0.1mm以下の微細な傷や、わずかな色のムラまで検出できます。

安定稼働能力も見逃せないポイントです。高温の鋳造現場、低温の冷凍食品工場、粉塵の舞う加工現場など、人間には厳しい環境でも24時間安定して稼働が可能。これにより、従来では対応が難しかった工程でも安定した品質管理が実現します。

メリット2. 人手不足問題の解消

検査工程の自動化により、慢性的な人手不足の解決が期待できます。「検査員を1名採用するのに半年かかった」「やっと採用できても、すぐに辞めてしまう」といった悩みを持つ採用者は多いのではないでしょうか。

また、検査員の人件費や教育コストも大幅に削減可能です。空いた人員をより付加価値の高い業務に再配置することで、企業全体の競争力向上にもつながります。

メリット3. 検査品質の均一化と安定化

検査員による判断のばらつきを完全に解消できるのもAI外観検査の強みと言えるでしょう。

「Aさんは厳しく判定するけど、Bさんは甘い」「午前中は集中しているけど、午後は疲れて見落としが増える」といった人による差異を根本的になくせます。また、新人もベテランも関係なく、常に一定の品質基準を維持できる点も魅力のひとつ。

一貫した検査基準により、クレームの減少も期待できます。「前回購入した製品は良かったのに、今回は品質が劣る」といった苦情を防ぎ、ブランド価値の向上に貢献。安定した品質は、お客様からの信頼獲得につながります。

メリット4. 24時間稼働による生産性向上

AIは休憩不要で、365日24時間連続で検査を継続できます。

特に効果が大きいのは、夜間や休日の無人運転です。「夜勤は人件費が高い」「休日出勤の調整が大変」といった悩みを抱えていた現場でも、AIなら追加コストなしで検査体制の維持が可能。急な納期短縮要請にも柔軟に対応できます。

生産ラインの停止時間を大幅に削減することで、設備の稼働率も向上します。「検査員の休憩中はライン停止」「人員交代のタイミングで5分間中断」といった従来のロスタイムが解消され、結果として製造コストの削減につながります。

メリット5. 熟練技術の継承問題の解決

熟練検査員のノウハウをAIに学習させて永続的に継承できるのも、AI外観検査のメリットと言えるでしょう。

AIが、「ベテランが退職すると、現場の検査レベルが下がってしまう」「新人に教えたいけど、感覚的なものでうまく伝えられない」といった現場の深刻な悩みを解決します。

従来であれば一人前になるまで数年かかっていた検査技術も、AIなら初日から安定した品質が期待できるのです。

AI外観検査の5つの課題とは?

AI外観検査には多くのメリットがある一方で、導入時に考慮すべき課題や注意点も存在します。ここでは、実際の現場で直面しやすい5つの課題を取り上げます。

  1. 導入時のコスト問題
  2. 学習データの収集が困難
  3. 判定基準のブラックボックス化
  4. 寸法検査などの定量的判断における限界
  5. 専門知識と人材の必要性

ひとつずつ見ていきましょう。

課題1. 導入時のコスト問題

PoCから本格導入までの費用は100万円から1,000万円と幅広く、「思った以上に高額だった」と感じる企業も少なくありません。PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、新しいアイデアや技術が実際に効果を発揮するかどうかを、小規模な実験で検証するプロセスのことです。

さらに、ハードウェア・ソフトウェアの費用に加え、撮像環境の構築や設備工事も必要。そのため、総投資額は膨らむ傾向です。

導入効果を正確に見極めるには、年間の人件費削減額(例:300万円 × 検査員数)と導入コスト(初期投資+ランニングコスト)を比較し、投資回収期間をシミュレーションしましょう。

理想的には2〜3年で回収できるとされているものの、実際は4〜5年かかるケースもあります。「導入したものの、期待した効果が出なかった」という事態を避けるにも、事前の専門家による診断や、他社事例との比較検討が欠かせません。

課題2. 学習データの収集が困難

AI外観検査において最大の導入障壁のひとつが、学習用データの収集です。特に問題になるのが、不良品データの不足。「良品の画像は大量にあるが、不良品のサンプルがない」という状況は多くの現場で発生します

さらにデータの品質とバリエーションも課題です。

例えば、
「明るい環境で撮影された画像ばかりで、薄暗い条件の不良が検出できない」
「新しい設備で撮影した画像しかなく、旧設備での不良に対応できない」
など、偏りのあるデータでは検出精度が安定しません。

データの前処理と加工作業も予想以上に手間がかかる作業です。数千枚の写真に対して「この部分が傷」「ここは汚れ」と一枚一枚手作業でラベル付けしていかなければなりません。導入初期には大きな負担になり、このラベル作業だけで数ヶ月を要するケースもあります。

課題3. 判定基準のブラックボックス化

AI外観検査の場合、判断基準がブラックボックス化しやすいという課題があります。

「なぜこの製品を不良品と判定したのか?」と聞かれても、AIは「総合的に判断して不良品です」としか答えられません。人間の検査員なら「ここに0.3mmの傷があるから不良品です」と明確に説明できるのとは対照的です。

また、誤判定が発生した際の原因究明も困難な作業です。「昨日まで正常だったのに、今日になって急に誤判定が増えた」という場合でも、AIの内部処理は複雑すぎて人間には理解できません。結果として、問題の根本解決に時間がかかってしまうことが多いのが現状です。

課題4. 寸法検査などの定量的判断における限界

AIはおもに「画像パターンの識別」が得意です。例えば、製品の傷や汚れの有無、色の変化、形の崩れなどは高精度に検出できます。

しかし、「この穴の直径は10.05mmで、規格の10.00±0.03mmを超えている」といった数値に基づく定量判断には弱い傾向があります。そのため、精密な寸法検査が必要な工程では、AIよりも三次元測定機や画像寸法測定器の方が適しているといえるでしょう。

実際には、AIと従来機器を併用する「ハイブリッド検査」の導入が現実的な解決策です。「外観検査はAI」「寸法検査は従来の計測機器」と役割を使い分けをすることで、それぞれの強みを活かした高度な検査体制が構築できます。

課題5. 専門知識と人材の必要性

AI外観検査の運用には、AIや機械学習の知識を持つ人材の確保が不可欠です。「ディープラーニングとは?」「ニューラルネットワークの設定をどうすればいい?」といった基礎的な疑問から始まり、実際の運用ではさらに高度なノウハウが求められます

社内に専門人材がいない場合は、外部の専門家やAIベンダーとの連携が必要です。しかし「専門用語ばかりで何を言っているのかわからない」「提案された仕様が適切なのか判断できない」といった不安を感じる企業も少なくありません。結果として、高額な費用をかけたにも関わらず期待した効果を得られないというケースも見受けられます。

こうした不安を解消するには、実務に即した支援体制を持つパートナーの存在が欠かせません。SHIFT AIでは、AI導入の初期相談からPoC、運用、改善までを一貫して支援。専門知識がなくても、現場の課題に寄り添いながら最適な導入・運用プランを提案します。

「何から始めればいいかわからない」という方は、ぜひ無料相談をご利用ください。

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AI外観検査を活用した検査プロセスを6つのステップで解説

AI外観検査の導入により、製造現場の検査工程は大きく変わりつつあります。ここでは、AI検査システムが実際にどのようなプロセスで運用されるのか、6つのステップにわけて解説します。

ステップ1. 検査環境の構築と学習準備

検査対象となる製品の材質や形状に応じて、最適な撮影方法を設計することがAI外観検査の成功を左右します。例えば、金属製品なら光の反射を抑える照明配置が必要です。また、樹脂製品なら細かい傷が見えやすい照明角度が求められます。

また、最も時間がかかるのがAIへの学習データの準備です。良品・不良品の写真をそれぞれ数百枚単位で用意し、「これは良品」「これは不良」とAIに教え込みます。人の新人教育と同じように、AIにも実例を通じてルールを覚えさせるステップです。

導入時には、生産ラインの脇で検査装置をテスト運用し、問題がないことを確認してから本格導入するのが一般的です。

ステップ2. 画像取得と前処理の実施

製品を「いつ」「どのタイミング」で撮影するかを正確に決めましょう。例えば、コンベアで流れてきた製品が検査位置に来た瞬間をセンサーが感知し、自動的にシャッターを切ります。人間の検査員が「今がチェックするとき」というタイミングを、機械で再現するのです。

また、見落としを防ぐため、製品をあらゆる角度(上・横・斜めなど)から撮影します。

撮影した画像は、照明の当たり方にムラがあったり、カメラのレンズに小さなゴミが付いていたりすると、正しい判定ができません。そこで撮影直後に画像を自動補正し、明るさを均一にしたり、不要なノイズを除去したりして、AIが判定しやすい鮮明な画像に仕上げます

ステップ3. AI判定による不良検出

撮影が完了すると、AIが一瞬で「良品」か「不良品」かを判定します。人間の検査員が「これはOK?NG?」と悩むような場面でも、AIはわずか0.1秒ほどで判定可能です。

また、一度の検査で複数の要素を同時にチェックできる点も強みといえるでしょう。例えば、表面の傷を探しながら、同時に汚れの有無、色の変化、形状の歪みなども並行して確認していきます。人間なら「まずは傷、次に汚れ」と順番に見ていく作業を、AIは一度に行えるのです。

不良箇所がある場合、画面上で赤枠表示などのビジュアルで示します。

また、AIは判定に対して「90%の確信で不良」「70%の確信で良品」といった具合に、自分の判断がどの程度確実なのかを数値で教えてくれます。

ステップ4. 検査結果の出力

AIの判定結果は即座にモニターへ表示され、良品・不良品の数や不良率などがリアルタイムで確認できます。また、時間ごとや日ごとの検査実績もグラフで表示されるため、異常の兆候も早期に把握が可能です。

さらに、不良品が見つかった場合は自動的にラインから除外する仕組みも構築できます。エアブローで弾き飛ばしたり、ロボットアームで取り除いたりして、良品だけを次の工程に流せるのです。

また、AIによる検査結果を生産ラインと連携させることで、「不良率の急上昇時に自動停止」「警告の点灯」といった即応も実現できます。すべての検査データは自動保存されるため、「いつ、どの製品で、どんな不良が発生したか」後から追跡でき、クレーム対応や品質改善にも有効です。

ステップ5. 検査データの分析と活用

検査結果を統計的に分析することで、品質改善のための貴重な情報を得られます。例えば、「月曜日の朝一番は不良率が高い」「午後3時頃から傷の発生が増える」といったパターンを発見し、根本原因の特定につなげます。

重要なのは、検査結果を製造現場にフィードバックすることです。AIが発見した不良の傾向を分析し、「この工程で問題が発生しやすい」「この時間帯に注意が必要」といった情報を現場の改善活動に活かします。

また、品質管理システムと連携すれば、ISO対応の品質記録も自動作成が可能です。

ステップ6. 検査精度の維持と向上

導入後の精度を長期間維持するには、定期的な精度チェックが不可欠です。例えば、月に1回、良品・不良品の検査をさせ、正確に判定できているか確認すると良いでしょう。

現場で新しいタイプの不良が発見された場合は、AIに追加学習させることで検出能力を向上できます。

また、「最近、見逃しが多い」と感じた場合は、追加の学習データを用いてAIの判定能力を調節しましょう。照明の劣化やカメラレンズの汚れなど、ハードウェア面の定期メンテナンスも欠かせません。

AI外観検査に必要な機器と環境

AI外観検査システムを構築するためには、適切な機器と環境の整備が不可欠です。ここでは、必要な機器について詳しく解説していきます。

  1. 専用カメラ
  2. 照明と撮像環境
  3. 画像処理システム
  4. ハードウェアとソフトウェア

1. 専用カメラ

AI外観検査では、主に「エリアカメラ」と「ラインカメラ」の2種類に分けられます。

エリアカメラデジタルカメラのように、特定範囲を一度に撮影小型部品や静止物の検査に適しています
ラインカメラ製品を細い線でスキャンしながら画像を生成長尺物やコンベアで流れる製品の検査に適します

カメラの選定時は「検査速度」「解像度」「視野範囲」のバランスが重要です。例えば、微細な傷(0.1mm以下)を検出したい場合は高解像度カメラが必要です。ただし、その分処理速度が遅くなる可能性があります。一方、「1mm程度の大きな欠陥で十分」なら、低解像度で高速処理ができるカメラを選ぶのも有効です。

2. 照明と撮像環境

人間が製品を検査する際も「明るさが足りなくて傷が見えない」「光が反射して表面の状態が分からない」といった経験があるように、AIにとっても適切な照明は欠かせません。

照明は検査対象に応じて使い分けが必要です。例えば、金属製品なら表面の反射を抑える斜め照明、透明な樹脂部品なら背面から光を当てるバックライトといった具合に、製品の材質や形状に合わせて最適な照明を選びましょう。

重要なのは、環境光の制御と条件の維持です。工場内の蛍光灯や外光の影響を受けると、「朝は正常に検査できるのに、夕方になると誤判定が増える」といった問題が発生します。そのため、検査エリアを遮光カーテンで囲んだり、LED照明で安定した光量を確保したりする工夫が必要です。

3. 画像処理システム

AI外観検査には、高速な画像処理システムが欠かせません。なぜならば、外観検査の現場では1秒間に何個もの製品が流れてくるため、AIには瞬時の良品判定が求められるからです。

ポイントは、処理能力と生産スピードのバランス調整。例えば、1分間に100個の製品を検査する必要がある場合、1個あたり0.6秒以内で処理を完了させなければなりません。高精度な検査を求めるほど処理時間は長くなるため、「どこまでの精度が本当に必要か」を慎重に検討する必要があります。

また、将来の生産量増加を見越したシステム設計も考慮すべきポイントと言えるでしょう。「今は1日1,000個だけど、来年には2,000個になる予定」という場合、最初から余裕のあるシステムを構築しておく方が、結果的にコスト削減につながります。

4. ハードウェアとソフトウェア

AIによる画像処理には、高性能コンピュータが必要です。導入方法としては、以下の2種類があります。

オンプレミス型(工場に設置)通信遅延がなく高速初期費用が高い
クラウド型(ネット経由)初期費用は抑えられる通信速度や安定性に課題がある

また、ソフトウェアのライセンス費用も注意しなければなりません。「ハードウェアは予算に入れたけど、ソフトのライセンス料を忘れていた」というケースは意外と多く、年間数十万円から数百万円の追加費用となることがあります。

また、既存の生産管理システムや品質管理システムとの連携も重要です。「検査結果を自動で記録したい」「不良発生時にメール通知したい」といった要望に対応するため、システム連携の費用も考慮しておくべきでしょう。

AI外観検査の導入コストと投資対効果

AI外観検査の導入を検討する際に最も気になるのがコストと効果のバランスです。

ここでは、PoCから実装までの費用相場、長期運用にともなうランニングコスト、投資回収の考え方を解説していきます。

PoCから実装までの費用相場

AI外観検査は、いきなり全工程に導入するのではなく、小規模なPoCからスタートするのが一般的です。PoC費用は100万円〜1,000万円程度と幅があり、検査対象の種類や精度要件によって異なります。

また本格導入に進む場合は、以下のコストがかかります。

  • AIモデルの開発費:自社専用の学習モデル構築で数百万円
  • ハードウェア費用:カメラ・照明・処理装置などで数百万円

このように、検証段階から本導入まで合計数百万円〜1,000万円超の投資が必要になるケースもあるのです。

ランニングコスト

AI外観検査は導入して終わりではなく、継続的な費用が発生することを忘れてはいけません

  • 保守・メンテナンス費:初期投資の10〜20%が目安(例:初期投資500万円なら年間50~100万円)
  • 再学習・モデル更新費:不良パターンの変化に応じた再学習は、1回数十万円かかることも
  • クラウド利用料:処理量に応じて変動、繁忙期には予想以上の請求になる可能性あり
  • ハードの消耗・交換費:照明・レンズ・PCなどの経年劣化も考慮

特に見落とされやすいのが、AIモデルの継続的なアップデート費用です。高精度を維持するためには、導入後も柔軟な対応が求められます。

投資対効果と回収の考え方

導入効果を数値で把握するためには、以下3点の効果を金額に換算して検討しましょう。

1.人件費の削減効果
「検査員1人あたり年間400万円の人件費 × 削減人数」で算出可能。例えば2人削減できれば、年間800万円のコスト削減です。

2.不良品流出の削減効果
AIによって市場流出する不良品が減ると、クレーム対応、回収、ブランド信頼失墜などのリスクも軽減されます。製品によっては、これが人件費以上の価値を生むことも。

3.生産性向上による利益増加
検査時間が短縮されることで、生産量を増加させたり、ラインの稼働率を向上させたりすることが可能です。

AI外観検査の効果を最大化するには、PoC設計から費用対効果の試算、運用後のモデル更新計画までを一貫して設計することが重要です。SHIFT AIでは、こうした導入前後の検討プロセスを含めたトータル支援を行っています。

専門家の視点で最適な導入判断をサポートいたしますので、まずは無料相談をご利用ください。

【業界別】AI外観検査の活用事例4選

AI外観検査の導入は多くの業界で進んでおり、それぞれの現場で課題解決や生産性向上に役立っています。ここでは、4つの業界における具体的な導入事例を紹介します。

自動車部品製造|トヨタ自動車

トヨタ自動車は、トランスミッションギヤの外観検査工程における課題解決のため、Musashi AI株式会社(武蔵精密工業のグループ会社)が開発したAI外観検査装置を導入しました。2020年12月に本社工場のラインへ実装され、以降も段階的に拡大。現在では計8台のAI外観検査装置が導入されています。

従来の検査工程では、検査員が1日あたり数万歯もの歯面を目視で確認しており、集中力と体力を要する過酷な作業が続いていました。

AI外観検査の導入により、検査員の負担軽減に加え、検査精度の向上、生産ラインの24時間稼働、品質の安定化といった多面的な効果を実現。現場では、生産性と働きやすさの両立に対する評価が高まっています。

参考:Musashi AI「トヨタ自動車向けにAI外観検査装置を追加導入 検査の効率化で電動化需要に対応

電子部品・半導体|オムロン

オムロンは2020年6月、人の感性や熟練者の経験を再現する業界初の欠陥抽出AI技術を搭載した画像処理システム「FHシリーズ」を開発・発売しました。

「FHシリーズ」は、検査対象のキズや欠陥を事前学習やサンプル調整なしで自動検出可能。複雑な背景やばらつきの大きい良品に対しても、人の目のように違和感を捉えるAIフィルタで安定検出が可能です。

また、熟練検査員の「経験」に基づく良品判断を再現するAIファインマッチング機能も搭載。これにより、良品のばらつきを許容しつつ過検出や見逃しを防止し、検査品質の均一化を実現します。

特筆すべきは、AI専用のハードウェアやエンジニアが不要な点です。既存の画像処理システムにAI機能を内蔵し、通常のPC環境での運用が可能。導入のハードルを大幅に下げ、短期間かつ低コストでの導入を可能にしています。

参考:OMRON「業界初、人の感性や熟練者の経験を再現した、欠陥抽出AI搭載の画像処理システム「FHシリーズ」を発売

食品|ニチレイフーズ

ニチレイフーズでは、これまで人手による目視検査と手作業で対応していましたが、作業の負担が大きく、誤って問題のない部位まで切除してしまうロスが課題となっていました。

こうした背景から、ニチレイフーズは近畿大学との産学連携により、AIによる鶏肉検査装置の独自開発に着手。2017年より装置開発が始まり、2019年からは工場への導入を本格化しました。

この導入により、従業員の作業負荷を大幅に削減できたほか、手作業では避けられなかったフードロスを約70%削減する成果を上げました。さらに、本技術はチャーハン製造ラインにも応用され、焦げの自動検品・除去装置として別工場に導入されています。

これらの取り組みはニチレイグループ全体におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の象徴的な事例となり、株式会社ニチレイは「DX銘柄2024」にも選出されました。

参考:ニチレイフーズ「AI活用で鶏肉検査を自動化!未知の領域に挑んだ装置開発

金属加工|株式会社RUTILEA

株式会社RUTILEAは、従来のアルゴリズムだけでは検出が難しかった傷や打痕の検出精度を高めるために、AI外観検査に最適な撮像手法を独自に開発。これにより、表面に油や汚れのあるワークでも正確な検査が可能となりました。

この技術は、以下のような場面で高い効果を発揮しています。

  • フィルム形状のように撮像が難しい素材でも、スクラッチ傷を可視化
  • 油が付着した金属製品(例:ベベルギヤ)にも対応し、AIによる傷のセグメンテーション処理が可能

また、外観検査向け統合ソリューション「SDTest」も展開しており、アルゴリズムとハードウェアの両面から、製造現場の自動化を支援しています。

参考:PR TIMES「AI外観検査に適した撮像手法の開発とそれを実現するハードウェアの販売開始

AI外観検査の今後の展望

AI外観検査技術は急速に進化を遂げており、今後さらなる発展が期待されています。

検出精度と処理速度の向上

AI外観検査技術は日進月歩で進化しており、検出精度と処理速度が継続的に向上している状況です。「昨年導入したシステムでは検出できなかった0.05mmの傷も、今年の新型なら確実に発見できる」といった技術進歩が年々加速。現在では人間の目では判別困難な微細な欠陥まで、リアルタイムで検出可能となっています。

また、マルチモーダル検査(画像+音+振動など)の発展により、これまで画像だけでは判定困難だった不良も、音や振動の情報を組み合わせることでより総合的な品質評価が可能になると期待されています。今後は「見た目は正常だけど、音を聞くと異常」といった複合的な検査も実現されていくでしょう。

少量データでの学習

これまでのAI外観検査では「数千枚の学習画像が必要」という高いハードルがありました。しかし現在では、少量データでも高精度が実現できる技術革新が急速に進んでいます。特に、「転移学習」や「自己教師あり学習」という新しい手法により、わずか数十枚の画像でも実用レベルの精度を達成できる事例が増えています。

例えば、自動車部品で学習したAIモデルを電子部品検査に応用することで、ゼロから学習させるよりも大幅に効率的な導入が可能です。「自社製品は特殊だからAI導入は難しい」と諦めていた企業にも、新たな可能性が開かれています。

また、生成AIを用いたデータ拡張技術の発展により、不良品サンプルが少ない場合でもAIが擬似データを生成し、学習データを補完できるようになりました。

スマートファクトリー実現への貢献

AI外観検査は単なる品質チェックにとどまらず、工場全体を最適化する中核技術へと進化しています。検査データの活用により、「午後2時以降に不良率が上昇」「設備Aの製品は傷が多い」といった傾向を分析し、生産計画や設備の最適運用に役立てることが可能です。

さらに、フィードバックループにより検査結果を即座に前工程へ反映する仕組みも実用化されています。例えば、「色ムラが発生している」という結果に応じて塗装条件を自動調整したり、作業者へリアルタイムで注意喚起を行うといった対応が可能です。

中でも注目されているのが、リアルタイム品質監視と自動調整です。従来の「不良品が出た後に対処する」方式から、「不良品が出る前に予防する」方式へとシフトしつつあります。異常兆候を検出した瞬間に製造条件を調整し、不良品の発生自体を防ぐことができるようになってきました。

人間の介入を必要としない、24時間365日稼働する真のスマートファクトリーの実現が現実味を帯びてきています。

まとめ|AI外観検査で生産性向上を図ろう

AI外観検査は、人手不足や品質管理といった製造業の深刻な課題を解決する強力なソリューションです。AI導入により、検査精度の向上はもちろん、コスト削減や生産性の向上といった多くのメリットが期待できます。

今後は、他のAI技術との連携やスマートファクトリーの実現が進むことで、AI外観検査は製造業DXの中核を担う技術として、さらにその重要性を増していくでしょう。

SHIFT AIでは、AI導入に関するご相談を無料で受け付けています。AI人材の育成支援やワークショップの実施など、導入から活用までトータルに支援可能です。AIの活用をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。