生成AIは、いまや業務の効率化や生産性向上に欠かせないツールです。しかしその一方で、
「入力した情報が外部に漏れるのではないか?」
「どのツールが業務利用に適しているのかわからない」
といったセキュリティ面での不安から、導入に踏み切れない企業も少なくありません。
実際、ChatGPTなどの生成AIツールに機密情報を入力したことで、社外に情報が漏れた事例も報告されています。セキュリティに配慮せずツールを選べば、利便性よりもリスクのほうが上回ってしまうこともあるのです。
そこで本記事では、情報漏洩リスクの低い「セキュリティ重視型」の生成AIツールを厳選比較。
あわせて、法人で安全に活用するために押さえるべきポイントや、運用ルール整備の考え方まで詳しく解説します。
「安心して使えるAIを選びたい」「自社にあったセキュリティ対策を考えたい」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
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生成AIツールのセキュリティが問題になる理由
生成AIは、チャット形式で自然なやり取りができる利便性から、社内の問い合わせ対応や企画書のたたき台作成など、さまざまな業務に活用されています。しかし、その裏側には見過ごせないセキュリティリスクが潜んでいます。
特に問題となるのが、「入力した情報が外部に送信・保存される可能性がある」という点です。多くの無料AIツールは、入力されたプロンプト(指示文)をAIの精度向上のために活用しています。つまり、社員が意図せず社外秘の情報をAIに入力してしまうと、情報漏洩につながるリスクがあるのです。
実際、Samsungの開発チームがChatGPTにソースコードを入力した結果、情報が外部に流出したとして社内で使用が全面禁止されたケースもありました。AmazonやAppleなどの大手企業も、生成AIの利用に厳しいガイドラインを設けています。
さらに、生成AIツールのなかには入力履歴を保存・分析するものもあり、社内のログ管理体制が甘いと情報が誰でも見られる状態になってしまうことも。ツール自体の設計とあわせて、「誰が・いつ・どんな使い方をしているか」を管理する社内体制も欠かせません。
これらの背景から、業務で生成AIを導入する際には、単に便利さや精度だけでなく、「セキュリティ要件を満たせるかどうか」こそが最重要の選定軸になるのです。
法人利用時にチェックすべきセキュリティ項目5選
生成AIツールを業務で安全に使うには、「どのツールが便利か」ではなく、「どのツールなら情報漏洩リスクを最小化できるか」を基準に選ぶ必要があります。以下の5つは、法人での生成AI利用において最低限チェックすべきセキュリティ観点です。
① 入力情報がAIの学習に使われないか(オプトアウト機能)
多くの生成AIツールは、入力内容をAIの精度向上のために再学習に利用しています。業務利用では、「入力が学習に使われない」または「オプトアウト設定が可能」であることが重要です。
例:ChatGPT無料版は入力内容を学習に利用しますが、Enterprise版では完全に除外可能です。
② データの保存場所と保存期間
生成AIツールが保存するログやファイルは、どこに保存されているのか、どれくらいの期間保存されるのかを確認しましょう。国内データセンター対応かどうか、保存期間が明示されているかなどがポイントです。
例:Microsoft Copilotは、Microsoft 365の社内環境でデータを管理でき、企業のセキュリティポリシーに準拠しやすい設計になっています。
③ ログやプロンプト履歴の管理機能
プロンプトのやり取りを管理者が確認できるかどうかも重要です。万が一、不適切な利用があった場合に履歴をたどれるか、監査可能かをチェックしましょう。ログの暗号化や閲覧権限の細分化もあわせて確認を。
④ アクセス制御(SSO・IAM・ユーザー権限設定)
生成AIを社内で展開する場合は、SSO(シングルサインオン)やIAM(アクセス管理)が使えるかも大切な評価軸です。誰が・どの範囲までAIを利用できるかをコントロールできるツールでなければ、情報漏洩リスクは高まります。
⑤ 外部認証(ISO27001やSOC2など)の取得状況
セキュリティ対策が十分に行われているかを確認するには、外部の第三者認証を取得しているかが有効な目安になります。特に、ISO27001(情報セキュリティ)やSOC2(サービス提供者向けの信頼基準)は注目すべきポイントです。
以上5点を基準にツールを評価することで、セキュリティリスクの少ない生成AIの導入が可能になります。
【比較表あり】セキュリティ重視の生成AIツール5選(2025年版)
生成AIを業務利用するなら、「とりあえず使いやすいもの」ではなく、自社のセキュリティポリシーに適合するツールを選ぶべきです。ここでは、先ほど紹介した5つのセキュリティ項目をもとに、信頼性の高い法人向け生成AIツールを比較します。
セキュリティ観点での比較一覧表
ツール名 | 入力情報の学習利用 | データ保存場所 | ログ管理・監査機能 | アクセス制御(SSO/IAM) | 認証・準拠規格 |
ChatGPT Enterprise | ❌(※学習に利用されない) | 保存されない(オプトイン制) | 〇(利用ログのダッシュボード管理) | 〇(SSO対応) | SOC2準拠 |
Microsoft Copilot(for Microsoft 365) | ❌(M365環境外へ送信なし) | 社内M365環境に保存 | 〇(M365監査ログで一元管理) | 〇(Azure ADによる制御) | ISO27001、GDPR準拠 |
Claude Team(Anthropic) | ✅(明示的に学習対象外にできる) | クラウド保存(米国リージョン中心) | △(現時点で限定的) | 〇(SCIM/SSO対応) | ISO27001取得済み |
Gemini for Google Workspace | ❌(Workspace版は学習対象外) | Googleデータセンター(選択可) | △(監査ログはGWS依存) | 〇(Google Workspace統合) | ISO27001、SOC2など |
GPT-4 API(Azure OpenAI経由) | ❌(API経由は学習に使われない) | Azure内(日本リージョン可) | 〇(カスタムログ設計可) | 〇(Azure AD/IAM対応) | SOC2、FedRAMP、HIPAA対応可 |
※2025年7月時点。仕様はアップデートされる可能性があるため、導入前に公式情報をご確認ください。
ポイント解説:ツール選定の判断材料はココ
- 最大限にセキュリティを担保したいなら:ChatGPT EnterpriseかMicrosoft Copilot。特にCopilotは、既にMicrosoft 365を導入している企業にとっては、導入・運用コストも最小限です。
- クリエイティブ用途や柔軟な応答が必要なチームには:Claude Teamも有力。ただし、監査性の観点ではやや限定的な部分あり。
- 自社システムと統合したい場合は:GPT-4 API(Azure経由)が高い柔軟性と堅牢なセキュリティを両立します。
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用途別|あなたの会社に合ったセキュリティ重視ツールの選び方
セキュリティ性に優れた生成AIツールといっても、すべての業務に万能というわけではありません。
業務の性質や導入目的によって、最適なツールは異なります。
ここでは、よくある導入シーンをもとに、どのツールが適しているかを整理します。
全社導入・情報管理部門向け:Microsoft Copilot
Microsoft 365を既に導入している企業であれば、Copilotは最有力候補です。
データは社内のM365環境に閉じたまま扱えるため、外部にデータが出るリスクを最小限に抑えられます。監査ログやアクセス制御も一元管理でき、情シス部門の負担も軽減。
営業・マーケティング部門向け:ChatGPT Enterprise
アイデア出し、メール文面の作成、営業資料の草案づくりなど、汎用的な生成が必要な部門にはChatGPT Enterpriseが有効です。
UIが直感的で、社員がすぐに使いこなせるのが強み。Enterprise版では、入力内容がAIの学習に使われず、セキュリティ面も安心です。
研究・開発部門向け:Claude Team
Claudeは、長文の処理能力が高く、丁寧で論理的な出力が特徴です。R&D部門で文書の下書きや社内レポート作成に使うには適しています。
TeamプランではSSOなどのセキュリティ機能も備わっており、一定の業務用途には十分対応できます。
エンジニア・開発部門向け:GPT-4 API(Azure OpenAI)
社内システムや業務フローに合わせたカスタマイズを前提とする場合は、Azure OpenAI経由のGPT-4 APIが最適です。
日本リージョンにも対応しており、コードレベルでのログ管理や権限制御が可能なため、高度な統合ニーズにも応えられます。
情報共有・ナレッジマネジメント用途:Gemini for Google Workspace
社内での情報整理やドキュメント作成が中心であれば、Google Workspaceと連携できるGeminiがおすすめです。
GmailやDocsなどとシームレスに連携し、学習データにも使われないため、Google環境に慣れた企業ではスムーズに導入できます。
このように、セキュリティ性能だけでなく、導入目的や社内のIT環境に応じた選定が重要です。
「どれが一番安全か?」ではなく、「自社にとって安全かつ現実的に使いやすいのはどれか?」という視点で判断しましょう。
セキュアな運用にはツール選定だけでは不十分
どれだけ高機能でセキュリティ性の高い生成AIツールを選んでも、それだけでは情報漏洩を完全に防ぐことはできません。
最終的なセキュリティリスクは「ツール」ではなく「人の使い方」に依存するためです。
ツールは安全でも、社内ルールがなければ危険
たとえば、ChatGPT Enterpriseを使っていても、社員が誤って取引先の未公開情報や人事データを入力すれば、内部からの情報流出が起きる可能性があります。
こうした“うっかり”を防ぐには、明確な利用ルールとガイドラインの整備が欠かせません。
セキュリティ運用に必要な3つの体制整備
- 情報の入力ルール明確化
- 入れてよい情報/NG情報の区別(例:顧客名・個人情報・開発中プロジェクト名など)
- 実際の入力例とともに周知する - ログ管理と監査体制
- 誰が・いつ・何を入力したかを管理者が確認できるように設定
- 利用状況を可視化し、不正利用を早期に発見 - アクセス権限の最小化とSSO連携
- 必要な部門にのみ利用を許可する(全社一律開放はNG)
- SSOやIAMと連携し、アカウントのなりすましを防止
ルールは一度作って終わりではない
生成AIツールはアップデートも早く、業務の活用範囲も日々広がっています。そのため、ルールも運用しながら定期的に見直す必要があります。
ツールの選定と同時に、こうした「継続的な運用体制」まで見据えることが、情報漏洩リスクを最小限に抑える鍵となります。
生成AIの社内ルール整備については、以下の記事もご覧ください。
参考記事:社内で使えるAI利用ルールの作り方|チェックリストと雛形付きで徹底解説
導入を成功させるために|まず何から始めればいい?
セキュリティに配慮した生成AIツールを選び、社内ルールも整備した――
これで安心かと思いきや、現場での運用はそう簡単ではありません。
実際には、「どこまで入力していいかが分からない」「便利だけど使い方に自信がない」と感じる社員も多く、せっかく導入しても活用が進まないケースは珍しくありません。
生成AIの活用を社内に定着させるには、まず「社員全体のリテラシーと認識を揃えること」が不可欠です。
そのための最も有効な手段が、セキュリティも含めた“生成AI活用研修”の実施です。
研修では、
- 入力してよい情報/NG情報の判断基準
- 実際の業務ユースケース
- 部署ごとの使い方の違い
などを体系的に学べるため、現場での迷いを減らし、安心して活用を進める下地を作れます。
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まとめ|セキュリティ重視の生成AI選びで、安心と成果を両立しよう
生成AIは、業務を効率化し、働き方を変える可能性を秘めた強力なツールです。
しかし、その便利さの裏には情報漏洩などの重大なリスクが存在します。
この記事では、そんなリスクを回避するために、
- 法人向け生成AIツールのセキュリティ観点での比較
- 業務用途別のおすすめツール
- 安全に使い続けるための社内体制づくり
などを徹底的にご紹介してきました。
大切なのは、ツールの選定と同じくらい「使い方と社内ルール」が重要であるという視点です。
“どれを使うか”だけでなく、“どう使わせるか”までを含めて初めて、安全な生成AI活用が実現できます。
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- Q無料の生成AIツールでもセキュリティに配慮されているものはありますか?
- A
無料版でも一定のセキュリティ対策はありますが、多くは入力内容が学習に使われる設計です。
業務での利用には、Enterpriseプランやビジネス向けツールを選ぶことが必須です。入力情報の制御やアクセス管理ができない無料版は、基本的に業務利用には不向きです。
- QChatGPTはセキュリティ的に使っても問題ないですか?
- A
ChatGPTの無料版・Plus版は情報が学習に使われる可能性があるため、機密情報の入力はNGです。
業務で使うなら、ログ非保存・学習利用なし・SSO対応の「ChatGPT Enterprise」を選びましょう。
- Q社内ルールはどう作ればよいですか?
- A
まずは「入力してよい情報/ダメな情報」の線引きを明文化することから始めましょう。
加えて、監査ログの取得方法やアクセス制限の方針も明記し、継続的にアップデートできる体制を整えることが重要です。
- Qどの生成AIツールが一番セキュリティに強いですか?
- A
最もセキュリティに配慮されているのは、Microsoft Copilot for Microsoft 365やChatGPT Enterpriseです。
特にMicrosoft Copilotは、既存のM365環境と連携でき、データを社内に閉じたまま運用できる点が強みです。
- Q社員に生成AIを安全に使わせるためにはどうすればいいですか?
- A
最も効果的なのは、全社向けの「生成AI活用+セキュリティ研修」を実施することです。
ルールを「作る」だけでなく、社員が正しく理解して運用できる状態を作ることが重要です。
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