建設業界では、慢性的な人手不足や技能者の高齢化、紙中心の業務フローなど、非効率な構造が深刻化しています。

こうした課題を解決する手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資が進んでいますが、実際にどの程度の予算が必要なのかを把握できず、導入をためらう企業も多いのが現状です。

DXの成功には、単なるツール導入ではなく、費用構造・ROI・補助金制度を理解したうえで段階的に進める設計が欠かせません。

この記事では、建設業DXに必要な予算の目安、活用できる補助金制度、投資対効果を高める考え方を詳しく解説します。

本記事でわかること

建設業DXに必要な費用相場とコスト内訳

中小の建設会社でも活用できる補助金制度

経営層を納得させるDX予算の立て方とROI試算方法

初期投資を抑えるスモールスタート戦略の進め方

失敗を防ぐためのDX予算設計チェックリスト

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建設業DXが「今」求められる背景と、投資すべき3つの領域

建設業が他産業に比べてDXが遅れている分野とされる背景には、慢性的な人手不足と現場・管理業務の非効率化があります。

国土交通省も「建設DX加速化プログラム」を掲げ、2025年以降はBIM/CIMやICT施工の標準化が進む見込みです。
こうした環境変化の中で、DX投資をすべき主な領域を3つ紹介します。

技能者不足・高齢化による生産性低下

建設業の就業者数は1997年をピークに減少を続けており、技能労働者の約3割が60歳以上です。
若年層の入職者不足により、1人当たりの作業負荷が増大しています。

この状況を打開するためには、現場の作業や情報共有をデジタル化し、熟練者のノウハウをデータとして蓄積・再利用する仕組みが必要です。

現場と管理部門の情報断絶

多くの建設会社では、現場が紙の作業日報やFAXを使い、管理部門が手入力で集計する体制が続いています。
その結果、情報の遅延・転記ミス・重複作業が発生し、経営判断にもタイムラグが生じます。

現場管理システムやクラウド共有ツールを導入すれば、現場データをリアルタイムに可視化でき、生産性と安全性の両立が可能です。

政策主導によるDX推進

国土交通省は「i-Construction」や「BIM/CIM導入加速」を通じ、建設業の生産性向上を後押ししています。

これらの政策は単なる現場効率化ではなく、設計・施工・維持管理をつなぐデータ連携型の産業構造改革を目指したものです。
また補助金制度や実証事業も整備され、DX投資の初期ハードルは下がりつつあります。

関連記事: 建設業DXの現状と課題|“ツール導入止まり”を防ぐ5つの成功ステップ

建設業DXにかかる費用相場【企業規模×領域別】

建設業におけるDX導入費用は、企業規模と導入領域によって大きく異なります。
主要な導入領域ごとの費用目安をまとめたので参考にしてください。
また、次の章では補助金制度についても解説します。

中小企業(社員100〜300名)の目安

社員数が100〜300名程度の企業では、主に現場管理や見積・積算の効率化から取り組むケースが多く見られます。

比較的低コストで導入できるクラウドサービスを活用すれば、初期投資を抑えつつ効果を実感しやすいのが特徴です。

領域主な導入内容初期費用年間運用費
現場管理DX現場写真管理・日報アプリ・勤怠クラウド100〜300万円30〜100万円
見積・積算AIAI自動見積・原価管理クラウド150〜400万円50〜150万円
電子契約・請求クラウド契約・電子請求書発行50〜200万円10〜50万円

中堅企業(社員300〜1,000名)の目安

中堅規模になると、現場データを管理部門や経営層までつなぐ全社的なデータ連携DXが必要になります。

BIM/CIMやERP導入を検討する場合、初期費用が増加しますが、業務効率と品質管理の両立が可能になります。

領域主な導入内容初期費用年間運用費
BIM/CIM導入3Dモデル設計・施工連携300〜1,000万円100〜300万円
経営可視化DXERP・BIツール・原価管理統合500〜1,500万円200〜400万円
安全管理DXIoTセンサー・現場カメラ・AI警告200〜600万円50〜150万円

大手企業(社員1,000名以上)の目安

大手建設会社では、AI・IoT・クラウドの統合による全社データ基盤構築が中心になります。

システム連携や人材育成を含めた総合投資となり、年間数千万円規模の予算が見込まれます。

領域主な導入内容初期費用年間運用費
全社統合DXBIM/CIM+IoT+AI+ERP連携2,000〜5,000万円500〜1,000万円
AI分析・自動化データ分析基盤、生成AIアシスタント500〜1,500万円200〜400万円

関連記事: 建設業DXツール導入で失敗しないための全知識|現場×管理×経営をつなぐ実践ガイド

補助金・助成金を活用してDX予算を最適化【2025年度最新版】

DXへの投資は中長期的に大きな成果をもたらしますが、初期費用が課題となるケースも少なくありません。

しかし、建設業は国の重点支援産業に位置づけられており、デジタル化を促進する補助金や助成金の対象になりやすい業界です。
ここでは、2025年度に利用できる代表的な補助金制度と、その活用ポイントを紹介します。

ものづくり補助金

中小企業の生産性向上を目的とした代表的な制度で、BIM/CIMの導入やAIによる自動積算なども対象になります。

  • 補助率:中小企業1/2、小規模企業・小規模事業者及び再生事業者は最大2/3
  • 上限額:750万円(従業員数1~5人)、 1,000万円(6~20人)、1,500万円( 21~50人  )、 2,500万円(51人以上)
  • 対象経費:機械装置・システム構築費(必須)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、外注費、知的財産権等関連経費
  • 募集時期:通年(複数回公募、要確認)

申請には、DXを通じてどのように生産性を向上させるかを明示する必要があります。複数現場での活用計画を立てると採択率が高まります。

公式サイトはこちら

IT導入補助金

中小企業がクラウドサービスを導入する際に活用できる補助金です。
施工管理クラウドやAI見積ツール、電子契約システムなど、導入しやすい領域を対象としています。

  • 補助率:中小企業は1/2、最低賃金近傍の事業者は2/3
  • 上限額:5万円~150万円(ITツールの業務プロセスが1~3つまで)、150万円~450万円(4つ以上)
  • 対象経費:ソフトウェア導入費、クラウド利用料、導入支援費など
  • 募集時期:通年(複数回公募、要確認)

申請手続きが比較的簡単で、初めてDXに取り組む企業に最適です。

公式サイトはこちら

自治体独自のDX促進補助金

都道府県や市区町村でも、建設業のデジタル化を支援する補助制度が増えています。

近くの自治体で補助制度がないか調べてみてください。
例としては、東京都の中小企業デジタル化推進事業や、愛知県・福岡県の建設業DX加速補助金などがあります。

  • 補助率:1/2〜2/3
  • 上限額:100〜500万円程度
  • 対象:地域中小企業によるクラウド導入、AI活用、IoT実証など

採択件数が少ない分、申請時の競争率が低く、地域密着企業には有利な制度です。

※補償内容の詳細は自治体ごとに異なる部分もあります。

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経営層を動かすDX予算の立て方と社内説得のコツ

建設業DXの推進では、現場担当者が意欲的でも経営層の理解が得られず予算が確保できないケースが多くあります。

この問題を解決するには、数字を根拠にしたROI(投資対効果)と、段階的な導入シナリオを提示することが重要です。
経営陣の納得を得るための予算設計の考え方と、説得資料に盛り込むべきポイントを解説します。

建設業DXのROI(投資対効果)計算方法

DX投資を経営層に理解してもらうためには、費用対効果を定量的に可視化することが欠かせません。
ROIの考え方を簡単に整理すると、以下の式で算出できます。

ROI(%)=(年間削減効果 − 年間運用コスト) ÷ 初期投資 × 100

たとえば、現場管理DXを導入し「月20時間の工数削減 × 時給3,000円 × 20人」を実現できた場合、年間効果は約1,440万円。
初期費用300万円・年間運用費60万円なら、ROIは約360%となり、投資効果を数値で示せる説得力が生まれます。

説得資料に入れるべき3つの要素

経営会議や稟議書でDX予算を通すには、「課題・効果・費用」を一枚で理解できる資料構成にすることが効果的です。

  1. 現場課題の定量化
     例:紙伝票処理に1日3時間、全社員で年間720時間のロス
  2. 費用対効果の可視化
     削減できる人件費・作業時間・ミス削減率を数字で提示
  3. 補助金活用による実質負担の低減
     IT導入補助金を活用すれば、費用の半分以上をカバーできるケースも

これらを明示すれば、単なる「コスト」ではなく、「利益を生む投資」として認識されやすくなります。

段階的な導入シナリオによる納得感

DXを一度に全社導入しようとすると、経営層は費用負担を懸念します。
そのため、スモールスタートから拡張する段階的導入プランを示すことが有効です。

  • フェーズ1:現場業務のデジタル化(クラウド管理・写真共有)
  • フェーズ2:データ連携による積算・見積の効率化
  • フェーズ3:経営層向けダッシュボード・AI分析活用

このように段階的な導入ロードマップを示せば、リスクを抑えながら予算承認を得やすくなります。

関連記事:建設業でDXが進まない本当の理由|現場文化とリテラシーの壁を解く

スモールスタートで成功する建設業DX予算戦略

DXの導入で失敗する企業の多くは、最初から大規模な投資を行い、現場への浸透が追いつかないケースです。

成功している企業ほど、小さく始めて効果を確認し、段階的に拡張するスモールスタート戦略を採用しています。
ここでは、建設業におけるフェーズ別の進め方と、それぞれの費用目安を紹介します。

フェーズ1:現場業務のデジタル化(0〜200万円)

最初のステップは、紙やExcelで行っている現場業務をクラウド化することです。
写真管理アプリ、日報・勤怠クラウド、チャット連携などを導入すれば、現場データをリアルタイムで共有でき、業務の属人化を防げます。

小規模導入であれば、IT導入補助金を活用し、実質負担を半分以下に抑えることも可能です。

フェーズ2:データ連携・見積自動化(200〜500万円)

現場の情報が集約できたら、次は管理部門とのデータ連携です。
AIによる自動積算や見積システム、原価管理クラウドを導入することで、書類作成や承認業務の時間を30〜50%削減できます。

この段階では、BIM/CIMとの接続を見据えてデータ形式を統一しておくことがポイントです。

フェーズ3:経営可視化・AI活用(500万円〜)

最後のフェーズでは、経営層がリアルタイムに現場データを把握できる体制を構築します。
ERPやBIツールを導入し、原価・進捗・稼働率などの指標を一元管理することで、経営判断のスピードと精度を大幅に向上できます。

生成AIを活用すれば、報告書や見積書の自動作成など、さらなる効率化も実現可能です。

関連記事:建設業DXをどう進める?成功の5ステップと実践ロードマップ

失敗しないためのDX予算設計チェックリスト

DXを進める際、「まずツールを導入してから考える」という流れになりがちですが、それでは効果を最大化できません。
成功している企業は費用の積み上げではなく、成果からの逆算で予算を設計しています。

以下のチェックリストを活用してDX投資の方向性を整理し、無駄な出費を防ぐぎましょう。

チェック項目内容の要点
導入目的を明確にしたか「生産性向上」「属人化の解消」「情報共有」など、目的を定義したか
導入範囲を具体化したか現場のみか、管理・経営まで含めるかを明確にしたか
投資規模とROIを試算したか効果金額・回収期間・ROIを算出し、投資効果を数値で確認したか
補助金・助成金を調査したか自社が利用できる支援制度の条件を確認したか
段階導入のシナリオを描いたか小規模導入から拡張までのロードマップを設計したか
現場・経営層の合意を取ったか導入の目的と効果を全社で共有し、意思統一を図ったか

関連記事:建設業DXの失敗パターン7選|導入で終わらせない再設計法

まとめ:DX予算は「費用」ではなく「投資」

建設業におけるDXは、人手不足や属人化、情報断絶といった業界固有の課題を解消し、事業の生産性を根本から変える経営戦略です。

費用の多寡にとらわれず、ROI・補助金・段階導入の3点を組み合わせて進めることで、負担を抑えながら高い効果を実現できます。

重要なのは、DXを一時的なコストではなく、中長期的な利益を生む「投資」として捉えることです。

自社の現状と目的を整理し、着実に成果を積み上げるステップを設計すれば、DXは確実に経営の成長エンジンとなります。

今すぐ自社の予算計画を見直し、持続的なデジタル化の第一歩を踏み出しましょう。

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建設業DX化に関するよくある質問

Q
DX導入の費用を補助金でまかなうことはできますか?
A

はい。ものづくり補助金やIT導入補助金など、建設業DXを対象とした制度が多数あります。
導入内容や事業規模に応じて補助率が最大3分の2まで支援される場合もあり、実質負担を大幅に減らすことが可能です。

Q
まずどこからDXを始めるのが効果的ですか?
A

おすすめは、現場業務のデジタル化からです。
現場写真の共有や勤怠・日報管理など、日常業務の負担を軽減する領域から始めると、短期間で成果が見えやすく、社内の理解も得やすくなります。

Q
生成AIを使ったDX導入は予算計上でどう扱うべきですか?
A

生成AI導入費用は「ソフトウェア利用料」または「クラウド利用費」として計上されます。
近年は、見積書自動作成・日報要約・原価分析などのAI活用が進み、補助金の対象になる場合もあります。
AI導入を予算化する際は、PoC(試験導入)費用を別枠で確保しておくとスムーズです。

Q
補助金の審査で採択されやすくするコツはありますか?
A

審査では「生産性向上の根拠」「自社の課題把握」「継続運用計画」が重視されます。
申請時は、単なるツール導入ではなく、業務プロセス改革と連携したDX計画を記載すると採択率が向上します。
また、外部の申請サポート機関を利用するのも有効です。

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