SHIFT AIでは、会員様向けのサイトで多数の動画講座を提供しており、動画ごとに受講者から質問や感想が日々寄せられています。こうしたコメントへの回答は、受講者の理解を深め、会員満足度を高める重要な業務です。
しかし、当時のSHIFT AIには「回答が完了しているかどうか」を一覧で確認する仕組みがなく、メンバーが動画ページを一つずつ開いて目視で確認する以外に方法がありませんでした。
この課題を解決したのが、非エンジニアの岩瀬さんがClaudeとともに開発したChrome拡張機能です。きっかけは、AIに漏らした「ただの愚痴」でした。
今回は、元薬剤師という異業種出身の岩瀬さんが、どのように課題を見つけ、AIとともに解決策を形にしていったのか、その思考プロセスを聞きました。そこから見えてきたのは、エンジニアでなくても、特別なスキルがなくても再現できる「愚痴ドリブン改善」とも呼べるアプローチでした。
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週400件のコメント 10人がかりの目視チェック
SHIFT AIの会員サイトには、動画講座ごとにコメント欄が設置されています。受講者から寄せられる質問は、多いときには週に最大400件。約10人のメンバーが手分けして対応にあたっていました。
問題は、コメントの「受信」ではなく「回答漏れの確認」にありました。
会員様からのコメント自体は、GASで構築した仕組みによって一覧化されており、届いたこと自体は把握できていました。メンバーはそれを見て動画ページ上で回答を書いていきます。
しかし「回答が完了しているかどうか」を一覧で確認できる仕組みがなかったのです。そのため、メンバーは定期的に動画ページを一つずつ開き、コメント欄までスクロールして回答漏れがないかを目視で確認して回るしかありませんでした。これがいわゆる「パトロール作業」です。しかも、講座のカテゴリ構成が変わるとページのURLも変わるため、知らないうちにチェック対象から漏れるページが出てくることもありました。

「あってもなくても全部見に行っていたんです。全部のページを開いて、下までスクロールして。もう毎日、みんな疲弊していました」
コメントに回答することよりも、回答漏れがないかを確認するパトロール作業の方がはるかに時間がかかっていた。回答漏れは会員様の満足度に直結するため手を抜くこともできず、講座が増えるほど負担は膨らみ続けていました。
多くの現場では、こうした作業は「そういうものだよね」で片付けられがちです。しかし岩瀬さんは、この負担を「仕方ない」とは受け止めませんでした。
愚痴る 課題を「仕方ない」で止めない
岩瀬さんが最初にとった行動は、「開発」ではありませんでした。
「きっかけは、ただの愚痴だったんです。『会員様から寄せられるコメントは本当にうれしいし、しっかり答えたい。だからこそ回答が完了しているかどうかをしっかりと確認したい。だけど、回答漏れがないか確認して回る作業が大変で、手が痛くなってきた。どうにかして』って、生成AIに相談していました(笑)」
一見、ただの愚痴に聞こえます。しかし、このような「つらい」「面倒くさい」という感情には、業務課題の解像度が詰まっています。
「もっと他の仕事がしたいけど、今これに取りかかっている時間が結構長かった。この時間を圧縮できれば、AIの勉強もできるし、ほかのこともできる。そのためにやったんです」
岩瀬さんの愚痴は、単なる不満ではありませんでした。「何に時間を取られていて、本来何に時間を使いたいのか」が言語化されていたのです。
現場の愚痴は、最もリアルな業務課題のシグナルです。重要なのは、その声を「仕方ない」で止めずに、次のステップに進めること。岩瀬さんの場合、次のステップとは「AIに投げる」ことでした。
丸投げる 手段を決めず課題だけをAIへ
ここが、今回の取り組みで最も重要なポイントです。
岩瀬さんは「拡張機能を作ってほしい」とも「自動化したい」とも言っていません。「この作業がつらい。なんとかして」という課題だけを投げかけました。
手段を自分で限定しなかったからこそ、自分の知識の枠を超えた提案がAIから返ってきたのです。
これは「『ドラえもん、なんとかして!』と泣きつくのび太くんと同じアプローチ」とも評される考え方です。課題をそのまま、手段を指定せずに投げる。すると、自分では思いもよらない解決策が返ってくる。
AIが提案したのは、システムの改修ではありませんでした。会員サイトは既存のシステムで運用されており、改修には開発工数とコストがかかります。そこでAIが示したのが、ブラウザ拡張機能を使う方法でした。
「システムを変えるのではなくて、自分たちが使っているブラウザ側で検知できればいいんじゃないかと。その発想はなかったです」
システムに手を入れるのではなく、ブラウザという「自分たちの道具」で解決する。SaaSなど外部サービスを利用していてシステム改修が難しい環境でも応用できる、汎用性の高いアプローチです。
「こういうツールで解決して」と手段を指定すると、AIの提案は指定された範囲に閉じてしまいます。 課題だけを投げることで、AIは手段の選択肢を広く探索できる。非エンジニアだからこそ、手段に先入観がなかったことが、むしろ強みになりました。
動かす 7~8割で出す、完璧より速度
岩瀬さんは元薬剤師。SHIFT AIに入る前後で少しコーディングに触れたことはあったものの、「1から手打ちは無理」と感じていたといいます。
そんな岩瀬さんが開発のパートナーとして選んだのがClaudeでした。
「Claudeに相談しながら作りました。『こういうことをやりたいんですけど、どう作ればいいですか』という感じで聞きながら進めていきました」
実は、このツールの前にも別のAIで拡張機能の開発に挑戦したことがありました。しかし、エラーが連発し、なかなか形にならなかったといいます。
「ほかの生成AIでもあれこれ試したんですけど、うまくいかなくて。Claudeに切り替えたら、するっとできたんです。なんで私、あんなに詰まっていたんだろうって」
やりとりの中で岩瀬さんが意識していたのは、とにかく分かるまで聞くことでした。
「AIから選択肢を4つ5つ提示されても、知っている前提で説明されるとついていけない。だから『全部、小学生でも分かるように説明して』って言いながら作っていきました」
最初に作ったのは、質問の状態を色で判別できる機能です。未回答の質問は黄色、対応中の質問は赤色。ページを開いた瞬間に、どこを見ればいいかがひと目で分かるようにしました。

「まずは、未回答の質問がすぐ分かるようにしました。ページを開いた瞬間に色で見える。それだけで全然違いました」
次に追加したのが、アラートのある箇所へ即座にジャンプする機能です。「次へ」ボタンをクリックすると、該当する質問まで自動で移動。長いページをスクロールして探す必要がなくなりました。
これらは、最初から完成形として設計されたわけではありません。色分け機能を作り、業務で使ってみて、「次はここが面倒だ」と感じた部分を改善していきました。
「一度に全部作ろうとするのではなく、まず小さく作って、動いたら次を作る。そういう形で進めていきました」
以前の岩瀬さんは完璧主義だったといいます。しかし、完璧を目指すと納品までに時間がかかりすぎる。そこで意識を変えました。
「100%の完成度を目指すと、なかなか前に進まないんですよね。7~8割できていれば、まずはそれでいい。どこで割り切るかなんだなと」
実際、Claudeを使った開発は驚くほど短期間で形になりました。
「金曜日に『こういうことができたらいいよね』という話が出て、日曜日にはもうできていました。自分でもびっくりしました」
完璧な設計書を書いてから着手するのではなく、まず動くものを作る。 生成AIの登場によって、「試す」コストは劇的に下がりました。7~8割の完成度でも、実際に動くものがあれば、次に何を改善すべきかが見えてきます。
見せる 小さな成果をチームの仕組みに
完成した拡張機能は、岩瀬さん個人だけでなく、コメント対応を担当するチームメンバーにも共有されました。
「拡張機能はZIPファイルにして、Slackで配布しました。ファイルを落として、Chromeのデベロッパーモードで読み込んでもらえれば、すぐ使えます」
※導入にあたっては、社内のセキュリティガイドラインに則り、情報漏洩などのリスクがないことを確認した上で運用しています
Chrome拡張機能は、Googleのストアからダウンロードするだけでなく、自分で作ったものをデベロッパーモードで手動インストールすることもできます。非エンジニアにとっては「拡張機能を自分で作れる」ということ自体が新鮮な発見かもしれません。
もちろん、チーム全体で活用することで「業務効率化」も実現できています。
「どのコメントが未回答なのかがひと目で分かるようになったので、確認の手間はかなり減りました。導入前後を比較すると、担当講座数が約4割増えた中で、1講座あたりの確認時間は3分から1.5分へと約半分に短縮。チーム全体では1回のパトロールにかかる時間が、110分の削減につながりました」
システム改修を伴わず、ブラウザの外側からアプローチする。この手法なら、SaaSなど外部サービスを利用している環境でもすぐに試すことができます。
個人の改善を「チームの仕組み」に変えることで、効果は何倍にもなります。 岩瀬さんがZIPファイルをSlackに投げるだけでチーム全体の業務が変わったように、生成AIで作ったツールの共有コストは限りなく低い。「自分だけが楽になる」ではなく「チームの仕組みになる」ことで、改善は定着します。
「確認する」から「考える」へ 業務の質が変わった
ツールの導入によって、チームの働き方は大きく変わりました。
「今は、コメントの内容や質を見ることに時間を使えるようになりました」
これまでは「量」で戦っていた業務が、「質」に向き合える環境へ変化したのです。どのような質問が多いのか、どう回答すれば理解しやすいのか。コメント対応の中でも、人が考えるべき部分に集中できるようになりました。
岩瀬さん自身にも変化がありました。SHIFT AIに入った当初は、Slackでメンションを送ること自体に緊張していたといいます。
「薬局で働いていたので、こういうコミュニケーションツールを使ったことがなくて。誰にメンションしていいのか、こんなにたくさん送っていいのか、それだけでストレスでした」
そんな岩瀬さんが、AIを使ってツールを開発し、チームに展開し、今ではリーダーとしてチームを率いています。現在はコメント対応のBot精度を分析したり、人の回答品質を評価する仕組みづくりに取り組んでいます。
パトロールの手間を圧縮したことで生まれた時間を、自分自身の成長に投資する。そしてその成長が、さらに上位の業務を担うきっかけになる。岩瀬さんの取り組みは、AI活用による業務効率化が個人のキャリアにまで波及した事例でもあります。
愚痴ドリブン改善 現場の不満は改善の種
岩瀬さんの取り組みを振り返ると、特別な技術力やAIの専門知識が成功要因だったわけではないことが分かります。再現性があったのは、課題との向き合い方そのものでした。
1. 愚痴る ── 課題を「仕方ない」で止めず、言語化する 現場の「面倒くさい」「毎回これやるの大変」は、最もリアルな業務課題のシグナルです。岩瀬さんは「手が痛い」という身体的な負担すら、改善の起点に変えました。
2. 丸投げる ── 手段を指定せず、課題だけをAIに投げる 「拡張機能を作って」ではなく「なんとかして」と投げたからこそ、自分の知識の外にある解決策が返ってきました。非エンジニアであることが、むしろ手段への先入観をなくす強みになったのです。
3. 動かす ── 7~8割で出す。完璧より速度 金曜日に課題を認識し、日曜日には動くものができていた。完璧を目指さず、まず形にすることで、次に何を改善すべきかが初めて見えてきます。
4. 見せる ── 小さな成果をチームに共有し、仕組みにする ZIPファイルをSlackに投げるだけで、個人の改善がチームの仕組みに変わりました。共有のハードルが低いからこそ、改善は定着します。
この4つのステップに、専門知識は必要ありません。必要なのは、現場の不満を「仕方ない」で終わらせず、AIに正直に投げてみること。そして、完璧でなくてもまず動かしてみる一歩を踏み出すことです。
あなたのチームにも、「愚痴」を溜め込んでいるメンバーがいるかもしれません。その愚痴の中に、次の業務改善の種が眠っています。
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