地方、中堅・中小企業の成長をデジタルマーケティング、ソフトウェア、メディア制作・運営、DXの領域で支援しているソウルドアウトグループは、社員の創造性と業務効率を最大化するため全社的にAIを活用してきました。
その代表例が、全社員へのChatGPTチームプランの配布と、社員自らが業務特化型AIを作成して共有する「GPTs Collection」の取り組みです。
今回はCOO管掌執行役員の菊地氏、DXカンパニー執行役員CTOの岡村氏に、わずか1年でAIの活用率95%を実現した同社の具体的な浸透戦略と、AI時代における経営層の視点について伺いました。

ソウルドアウト株式会社
COO管掌 執行役員
建築施工会社、不動産営業会社、教育事業会社等を経て、2007年に株式会社オプトへ入社。SEM部リーダー、SEM本部本部長、全社横断業務改革プロジェクトマネジャーなどを歴任。2015年よりソウルドアウトへ参画。運用・制作・仕入部門を本部長として管掌し、課題解決能力の向上に努める。2021年4月よりアンドデジタル株式会社執行役員COOに就任し、DX/DI/BPO事業を推進。2023年1月よりソウルドアウト株式会社執行役員に就任し、オペレーション/BPO事業を推進。2024年4月からは生成AI利活用を推進するプロジェクトをはじめ、複数の組織横断系プロジェクトに参画及び推進中。

ソウルドアウト株式会社
DXカンパニー 執行役員CTO
ミュージシャン、ITコンサルタント、エンジニアなど多彩な経歴を経て、2016年にソウルドアウトへ参画。プロダクト開発・情シス部門を統括後、フィンテックベンチャーCTOを経て、2021年よりアンドデジタル株式会社CTOに就任。現在はソウルドアウトグループの「Generation AI Growth」や博報堂DYグループの「Human Centered AI Initiative」に参画。画像・動画AI分野でのPoC開発やイベント登壇などを通じ、生成AIの実装と事業活用をリードしている。
※株式会社SHIFT AIでは法人企業様向けに生成AIの利活用を推進する支援事業を行っていますが、本稿で紹介する企業様は弊社の支援先企業様ではなく、「AI経営総合研究所」独自で取材を実施した企業様です。
「実務ノウハウ3選」を公開
- 【戦略】AI活用を社内で進める戦略設計
- 【失敗回避】業務活用での落とし穴6パターン
- 【現場】属人化させないプロンプト設計方法
トップダウンによる全社員への有償アカウント配布
ソウルドアウトグループにおける全社的なAI導入は、「生産性を向上させたい」という現場の共通認識と、「生成AIの活用をより一層進めたい」という代表取締役の強いリーダーシップを背景に進められました。
元々、ChatGPTが出始めた頃から個別申請により有料アカウントの利用を許可する形を取ってきた同社ですが、2024年4月に生成AI推進プロジェクトが本格始動し、「AIを当たり前に活用できる環境作り」を目指すうえで、全社員への有償アカウント配布が不可欠であるとの判断に至りました。
ChatGPTチームプランの配布や、元々使用していたGoogle Workspace EnterpriseにGeminiが標準搭載された結果、プロジェクト開始当初約40%だった社内のAI活用率は、約1年で95%まで向上しました。
AI活用を一気に加速させた「GPTs Collection」
全社へのAI浸透を加速させた要因の一つが、社員の自主性を引き出す戦略的な仕組みです。
ソウルドアウトグループでは、AI関連のイベントに積極的に参加し、生成AIに対する知見を得ていた一人の社員を「エヴァンジェリスト」に任命し、彼を中心として有償ツールの活用と知見の共有を推進しました。

「AI関連のイベントに社内社外問わず自主的に参加し、さまざまな知見を得ていた社員がいたので、その方をエヴァンジェリストという形で任命させてもらいました。有償ツールも積極的に使ってもらい、その中で得られた知見を社内で発信し、共有してほしいということを伝え、2024年から積極的に活動してもらっています」
また、ナレッジの共有においては各組織の業務特性の違いを考慮し、全社一律のルールを定めるのではなく、各組織の自主性に委ねるという方針を採用しました。
各組織が持ち回りでAI活用事例を発表する場を設ける、社内で開発したプロンプト共有ツールを活用する、情報共有にNotionを利用するなど、各組織に適した工夫が重ねられました。
社員の意欲を特に高めたのが、各社員が特定の業務に特化したAIを作成して共有する「GPTs Collection」という取り組みです。
GPTs Collectionは非常に盛り上がり、開始から半年後には2,000を超えるGPTsが作成されるなど、楽しみながらAI活用を推進する文化が根付いていきました。
これにより、言いづらい内容を穏便で丁寧な表現に変えてくれる「営業マイルド返信サポート」や、特定の専門知識を持つ社員のノウハウを詰め込んだ「〇〇君(社員名)ボット」など、実用性の高いGPTsが次々と生まれているといいます。
非エンジニアが主体の組織に立ちはだかる自動化の壁
AI導入に抵抗感を示す社員はほとんどいなかった一方で、セキュリティやガバナンスとの両立は導入初期の重要な課題でした。
同社では、親会社である博報堂DYホールディングスのガイドラインを参考にしつつ、情報システム部門や現場の意見を幅広く聞き、利用ガイドラインを早急に整備することで活用推進の土台を築きました。
しかし、その後の活用推進においては「Dify」のようなワークフロー自動化ツールの扱いが非エンジニア層にとって大きなハードルになりました。

「ChatGPTやGeminiの利用は急速に進みましたが、より幅広い業務プロセスを自動化するためにはDifyのようなツールが必須です。ただ、ワークフローツールとなるとBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の要素やAPIに関する知識が絡んできます。非エンジニアも巻き込んでそのあたりの活用を推進していくプロセスは、けっこう試行錯誤しています」
この壁を越えるためには、業務プロセスの分解や、セキュリティ要件を満たしたうえでの複雑なアプリ連携設定が必要であり、非エンジニアが主体となる組織に対しては、慎重かつ丁寧に進めていく必要があると菊地氏は考えています。
現場業務の高速化を実現したマーケティング・クリエイティブ事例
AI活用は、デジタルマーケティングの現場において特に大きな成果を上げています。
広告のプランニングにおいては、配信設計やテキスト広告の素案作成にAIを活用し、その素案を元に担当者がブラッシュアップするという形をとることで、業務効率は体感として半分程度に短縮されたといいます。
また、配信結果の分析や、それに基づく次なる施策の素案作成もAIに相談しながら進めることで、提案内容の質の向上とスピードアップを実現しています。
さらに、クリエイティブ領域では、岡村氏がリードするチームが動画AIを活用した制作プロセスの自動化に挑戦しています。動画制作のコアアイデア出しから、絵コンテ・Vコン(ビデオコンテ)作成、動画広告制作までの一連の工程をAIで試みています。
制作においては学習データの著作権やライセンスを考慮し、ライセンス的に問題ない素材に限定して活用する方針を取り、安全に活用を進めています。
この取り組みは、クリエイティブ制作の経験がない人でも高品質なアウトプットを出せる「民主化」を促しています。

「高い創作意欲を持ちながらも、絵が描けないことで諦めていた社員が、AIを武器に表現を始めています。その結果、社内にAIクリエイターという新たな役割が生まれつつあります」
こうした一連の取り組みによって、専門性の有無にかかわらず多様な人材がクリエイティブ領域に関わりやすくなり、社内全体で新しい発想や価値が生まれる土壌が整いつつあります。
AIによる「発想の均質化」の危機感と今後の挑戦
AIの活用により業務効率や生産性が大きく向上する一方で、「発想が均質化」してしまうことへの危機感が徐々に高まっています。
AIは技術の民主化を進め、多くの人が一定の品質を持つアウトプットを生み出せるようになりますが、その裏側で、発想が平均に偏りやすくなるという指摘があります。
経営層はミドル層や若手が積極的にAIを使いこなし生産性を高めていく流れを歓迎しているものの、経営の視点において「創造性が均質化していくこと」への懸念を抱いているといいます。

「AI活用が広がるほどアウトプットの品質は揃っていきますが、同時にみんなの発想が平均に偏っていく点には少し危機感を持っています。AIはモデルごとに特性があるので、それを考慮したうえで、“いかに外れ値を想像できるか”といったことを考えるようにしています。AIの模範的な出力結果にとどまらず、いかに次なるアイデアを生み出すかは、今後の文化を作り上げるという視点で非常に重要だと考えています」
AIの利便性を取り入れつつも独自の発想を育てる環境をどう設計していくかが、組織にとって次の重要なテーマとなります。今後は、AIの力を土台としながらも、人間ならではの視点や感性をどのように重ね合わせていくかが、企業の創造力を左右する鍵となりそうです。
地方・中小企業への支援とAI活用の未来
ソウルドアウトグループの中心的な顧客である地方や中堅・中小企業では、AI活用以前の段階として、DX自体が進んでいないケースが多く見られます。
また、経営者の関心は高いものの、デジタルやAIに詳しい専門人材の採用が極めて難しいという課題も抱えています。

「私たちは、デジタルやAIを活用して事業を伸ばしたいと考える経営者の皆さまを力強く支援していきたいと考えています。自社の商品やサービスをもっと広く届けたいという意欲を持つ企業を後押しし、その企業が地域におけるデジタル・AI分野のリーダーとして成長していく姿を見届けたいという思いがあります」
AIが進化し続ける中で、同社は現状にとどまらず、新しい挑戦を通じてサービスの質を高めていく方針です。その実現に向けてAIを積極的に活用し、必要な投資を続ける姿勢を明確に打ち出しています。
ソウルドアウトグループから学ぶ「真似するべき」5つのポイント
ソウルドアウトグループのAI活用は、その高い浸透率とスピードに大きな特徴があります。これは、単に最新技術を導入した結果ではなく、社員の能力を解放し、事業のフロンティアを拡大する仕組みづくりが徹底されていたことに起因します。
しかし、同社の取り組みの本質は高度な技術ではなく、「社員が楽しみながら積極的にAIを活用できる環境づくり」にあります。ここでは、多くの企業に通じる再現性の高い実践を、5つのポイントに整理しました。
1. AI浸透は「トップの意志」と「環境整備」から始める
同社の事例は、個人の意欲だけに頼るのではなく、強いリーダーシップのもと全社員へ有償アカウントを配布することが高い浸透率の鍵となることを示しています。AI活用が全社員にとって不可欠なインフラとなるよう、トップダウンで環境を整備することが、継続的な活用の第一歩です。
2. 「エヴァンジェリスト」を中心に知見の“熱源”を組織に作る
同社のように、AI関連の知識を積極的に吸収している社員を「エヴァンジェリスト」に任命し、有償ツールの活用や知見の共有を推進することで、組織全体の学習スピードとAIへの感度を高めることができます。
3. 「自主性に委ねる」方針で現場にフィットした活用を促す
全社一律のルールを設けるのではなく、各組織の業務特性の違いを考慮し、ナレッジの共有や活用を委ねる方針が採用されました。この方針に基づき、各組織がそれぞれに適した工夫を行うことで、現場に寄り添った実践知が自然に蓄積され、活用が進みました。
4. 「非エンジニアの壁」を前提に自動化プロセスを設計する
AI活用がChatGPTやGeminiの利用にとどまらず、ワークフローの自動化に進むと、非エンジニア層に大きなハードルが生じます。非エンジニアが主体の組織に対しては、業務プロセスの分解とセキュリティ要件を満たす複雑な設定を特に慎重かつ丁寧に進めていくことが重要です。
5. AIの利便性の裏にある「発想の均質化」に危機感を持つ
AI活用が進むと、アウトプットが「平均に偏りやすくなる」という問題に直面します。この危機感を経営層が共有し、AIの模範的な回答に満足せず、「いかに外れ値を創造できるか」という視点を意識的に持つことが、AI時代の競争優位を左右します。人間ならではの視点や感性を重ね合わせる戦略が不可欠です。
もちろん、ここで紹介した取り組みは、ソウルドアウトグループの企業文化や事業特性があってこそ実現できたものでもあります。
重要なのは、「仕組みそのものを真似ること」ではなく、自社の目的や文化に合った形でAIの活用を設計することです。AIを導入すること自体がゴールではなく、社員一人ひとりが自然に使いこなせる環境を整えることが本当の成果につながります。
しかし、実際に自社でこれを実践しようとすると、
「うちの組織に合ったAIの活用方法は?」
「社内に広げるには、どんな人材が必要?」
「成果をどうやって可視化すればいい?」
といった壁に直面する企業も少なくありません。多くの組織が同じ悩みを抱えています。
私たちSHIFT AIは、こうした「導入したが定着しない」という課題解決を得意としています。
貴社の文化や業務内容に合わせた浸透施策の設計から社員のスキルを底上げする伴走型研修、活用成果を“見える化”する仕組みづくりまで、AI活用の定着に必要なプロセスを一気通貫で支援します。
「AIを導入したのに現場で使われていない」「成果をどう評価すればよいかわからない」そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、私たちの支援内容をご覧ください。
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「生成AIを導入したけど、現場が活用できていない」「ルールや教育体制が整っていない」
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