「AIで会社を、経営を変えよう」。そう叫んでも、現実はそう簡単には進まない。カギになるのは「人」。AIを導入し、AIを活用するのも、やはり「人」です。

では、その「人」をどう動かせばいいのか?AI導入の最前線に立つ“AIの伝道師”が語る、「人を、会社を動かす知恵」とは。 今回は、SHIFT AIに所属し、AIコンサルタントとして活躍している安永智也さんの3回目の登場です。生成AIの進化が印刷革命、産業革命、インターネット革命と比較して、どのようなインパクトがあるのかという壮大な話を聞いてみました。

安永 智也

1985年、広島県生まれ。新卒で東京の広告代理店に就職した後、結婚を機に山形県へ移住。金属加工工場に勤務。地方ではAIの最新情報を得られないと感じていたとき、X(旧Twitter)を通じてSHIFT AIに出会い、参加。2024年1月からAIコンサル業を開始し、月収100万円を達成する。現在、地方企業のAI導入支援を行いながら「AI×地方」の可能性を広める活動を展開している。

    AIも人間も、実は同じ手法で言葉を発しているのでは?

    話は今から10年以上前、私が新卒で入社して広告代理店で働いていたころにさかのぼります。当時、私が担当していたのは、膨大なデータを分析し、パターンを抽出して次の広告施策を提案する業務です。

    これが実に煩雑で細かい作業で、「統計分析やアルゴリズムが得意なAIなら、もっと速くて正確にできるんじゃないか」と漠然と思っていました。ところが、まだスマホも登場していない「ガラケー」時代でしたから、AIの技術も未熟なもので、業務にいかせるものではありませんでした。

    それだけに、その10数年後にChatGPTに出会ったときの衝撃は、そうとうなものでした。

    データを与えれば与えるほど性能があがっていく法則を「スケーリング則」といいますが、ChatGPTはその性能において、目覚ましい進化を遂げていました。つまり、見事に「使える」AIになっていたのです。非常に興奮したのを覚えています。

    ChatGPTのような対話型AIについて、「書籍、WEBサイト、データベースなどの膨大なテキストデータを学習し、ひとつの言葉のあとに『もっとも自然らしい言葉』を予測して一語ずつ文章を組み立てる」と説明されることが多いです。つまり、ChatGPTは実際には言葉の意味を理解しているわけではなく、統計学的に最適な文章を生成しているだけだというわけです。

    この説明は、決して間違っているわけではないんですが、AIコンサルタントの私としては、「人間だって、同じ方法で言葉をしゃべったり、書いたりしてるんじゃないですか?」と反論したくなることがあります。

    というのも、「言葉の意味を理解する」という脳のメカニズムは、脳科学の最新の研究でも定説に至っていないからです。

    それどころか、人間が言葉をしゃべったり、書いたりするのは、自らの自由意志に従ってのものではなく、脳のプログラムに従って言葉をつむいでいる、と結論づけている研究もあったりして、人間も案外、ChatGPTと同じ方法で対話をしているんじゃないかと私自身、感じたりすることがあります。

    つまり、「AIの機能」を知ることは、「人間の機能」を知ることにもつながっていくのではないかと私は思うのです。実際、人工知能の研究は数十年前から、人間の脳の仕組みを解明しようとする脳科学における重要なテーマなんです。

    「鹿威しチェック」で爆笑!?AIの失敗がかわいく思える理由

    もちろん、人間と見分けがつかないように言葉を流暢に生み出す生成AIに対して「怖い」という感情を抱いてしまう人が一定数いることは認めざるを得ない事実でしょう。

    そんな人たちには、こんな風にアドバイスしたいですね。

    ──生成AIは、最初のうちは「怖い」存在かもしれません。でも、使っているうちにきっと「かわいい」と思えるようになりますよ──と。

    一例を示して説明しましょう。

    生成AIにくわしい人たちの界隈で、「鹿威(ししおど)しチェック」なるキーワードが飛び交ったことがあります。鹿威しとは、日本庭園の伝統に取り入れられることで静寂を際立たせたり、流水の動的な要素を加える演出として用いられてきた装飾アイテムです。

    2025年3月、ChatGPTに画像生成の機能が加わったことをきっかけに、この「鹿威し」を作らせた画像がSNSなどに投稿されたんです。

    どれも見た瞬間、噴飯ものの爆笑画像ばかりでした。

    たくさんの竹をバズーカ砲のように組み立てて大量の水を放出している豪快な画像もあれば、ただ単に斜めに切った竹から水がチョロチョロ流れているだけで「この水はどこから流れてきているの?」と思ってしまうようなフシギ画像もあり。

    ChatGPTは米国OpenAI社が開発した技術なので、日本の伝統的な装飾アイテムである「鹿威し」についての学習が不十分だったのでしょう。AIに「鹿威し」の画像を正確に描けるように学習させるには、一般的に10万もの画像や動画が必要だと言われています。

    すでに、いろいろな人が「鹿威しチェック」をしていると思われるので、リリースから2カ月ほど経った2025年5月現在、ChatGPTの画像生成の性能もそれなりに向上していると思われます。そこで、私も試しに「鹿威しチェック」をしてみることにしましょう。

    ChatGPTのプロンプト記入欄を「画像を作成する」モードにして、「鹿威し」と入力します。数十秒後に生成されたのが、次の画像です。

    なんと、先ほど述べた「この水はどこから流れてきているの?」というフシギ画像のままでした。そこで、プロンプトに次のような文言を入れて画像を作り直してもらいました。

    ■修正プロンプト

    「竹から自然に水が流れてくるのではなく、日本庭園の清流を受け止め、水が竹のなかの容量を満たしたとき、竹が天秤のような作用で傾いて、地面に置いてある石に尻を打ち付けて、カコーンと音がするような様子を描いてほしい」

    まだまだ、ツッコミどころ満載の画像です。「カコーン」という擬音語が「カコン」になっているのは良しとしても、「水が竹のなかの容量を満たしたとき、竹が天秤のような作用で傾く」という言葉の意味は理解されなかったようです。

    そこで、ウィキペディアの「ししおどし(鹿威し)」のページに掲載されているGIF動画を学習させて再度の修正を試みました。そこで生成された画像がこちらです。

    あろうことか、ますます変な画像になってしまいました(笑)。こんな風に、生成AIは学習させるデータの精度によって、解答の質が変わるということがよくわかると思います。

    こんな体験をしてみると、「AIってかわいい」という感覚が少しはわかるのではないでしょうか。数カ月後、数年後、再び「鹿威しチェック」したとき、われわれ日本人の伝統文化を理解した完璧な画像を生成してくれたときのことを想像してみてください。おそらくそのとき、私たちは小さな子どもがヒザコゾウを擦りむきながら、初めて補助輪なしの自転車に乗れた瞬間に立ち会ったときと同じような感動を抱くのではないでしょうか?

    “人間以上の知性”AIエージェント の登場に私がワクワクする理由

    さて、生成AIの技術は今もなお、目まぐるしく進化しています。ChatGPTに代表される「対話型生成AI」は、ユーザーの質問や指示に応じて答える受け身のツールです。その一方で現在は、目標を与えると自分で考え、必要なタスクを計画・実行しながら進めていく能動的な「AIエージェント」が登場しています。

    例えば旅行をしたいとき、「行きたい場所、予算、日程」などをAIエージェントに伝えるだけで電車、飛行機、レンタカーなどを調べて、最適なスケジュールと料金を提案してくれます。

    このように、AIエージェントの登場は生成AIの進化が「指示待ち型」から「自律行動型」へ進んでいることを示しています。この進化の流れは今後、私たちよりかしこい判断をする方向にむかっていくでしょう。それは、これまでの文明の歴史からも、後戻りできない流れのように私は思っています。

    こうした生成AIの進化の流れは、これまで人類が経験してきたイノベーションと比較して、どれくらいのインパクトがあるのでしょう?

    グーテンベルグによって生み出された金属活字による15世紀半ばの印刷革命は、宗教改革、ルネサンス、科学革命など、後の大きな社会変革の土台となったと言われています。

    18世紀後半には蒸気機関の普及によって興った産業革命では、工場制生産が広がり、経済、社会、生活様式に大きな変化を及ぼしました。

    印刷革命、産業革命についで、世界を大きく変えたイノベーションに1990年代以降のインターネット革命があります。世界中の人が地球上の各地で発信されている情報に瞬時にアクセスできるようになった時代です。私は、そのような歴史観をふまえた上で、自律行動型のAIエージェントの登場は、今までのイノベーション以上にインパクトの大きい出来事だと思っています。

    なにしろ、現世人類であるホモ・サピエンスの約30万年の歴史のなかで、われわれが地球上の全生物のなかで、自分たちより賢い存在に出会ったことは一度もないのですから。 そのような点で、私はとてもわくわくしています。生成AIが私たちをどのような未来に連れていってくれるのか?その変革を自分が生きている間にできる限り、見ていきたいですね。