「経理の仕事はAIに奪われるのではないか」
そう感じたことがある人は多いでしょう。請求書の仕訳や経費精算など、定型的な業務はすでにAIやRPAによって自動化が進み、「このままでは自分の役割がなくなるのでは」と不安を抱く経理担当者は少なくありません。
しかし、結論から言えば経理そのものがなくなることはありません。なくなるのは、AIが得意とする単純処理の部分だけです。
これからの経理には、数字を扱うだけでなく、AIが生み出すデータをもとに経営を支える判断力や設計力が求められます。つまり、AIを恐れるのではなく使いこなす側に回ることで、経理の価値はむしろ高まるのです。
本記事では、AI導入によって変わる経理業務の姿と、生き残る経理が今すぐ身につけるべきスキル・考え方を解説します。経理の未来を先読みし、組織の変化に備える第一歩をともに考えましょう。
経理の仕事はAIでなくなる?現状と5年後のリアル
経理の仕事はAIによって大きく変化しています。「なくなる仕事」と「価値が高まる仕事」を正しく見極めることが、これからのキャリア戦略の第一歩です。ここでは、AIが得意とする領域と、今後も人間が不可欠な業務を整理しながら、経理の未来を具体的に見ていきましょう。
AIで自動化される経理業務
AIが最も力を発揮するのは、ルール化された定型処理です。請求書の読み取りや仕訳処理、経費精算などの反復作業は、すでに多くの企業で自動化が進んでいます。具体的には以下のような業務が対象となります。
- 請求書・領収書のデータ入力(AI-OCRによる読み取り)
- 経費精算のチェック・承認ワークフロー
- 会計システムへの自動仕訳登録
- 支払・入金処理のスケジューリング
- 月次レポートの自動生成
これらの領域では、人が行う付加価値は限られ、精度・スピードともにAIが優位です。実際、AIツールを導入した企業では事務作業時間の30〜50%削減が報告されています。
詳しい仕組みはこちらの記事(経理AIで業務はどこまで自動化できる?)で解説しています。
AIでも代替できない判断・分析業務
一方で、AIが不得意とするのは「背景を読み取る判断」や「前提条件が変化する分析」です。たとえば、部門ごとの支出を見て改善策を提案する、経営方針に基づく会計処理方針を決めるといった業務は、人間の洞察と文脈理解が欠かせません。
AIは過去データに基づく答えは出せても、未来の方向性を決める意思決定はできないのです。経理担当者がこれから担うべきは、AIが出したデータを解釈し、経営判断に変換する力です。
下の表は、経理業務のAI代替可能性を整理したものです。
業務領域 | AI代替可能性 | 必要とされる人間の関与 |
データ入力・仕訳 | 非常に高い | チェック工程の最終確認 |
経費精算・支払処理 | 高い | ルール設定・例外処理対応 |
月次・決算処理 | 中程度 | 判断・修正対応 |
予算策定・分析 | 低い | 仮説設定・意思決定 |
経営戦略・内部統制 | 非常に低い | 経営判断・説明責任 |
AIを導入しても、経理全体が消えるわけではありません。ルーティン業務をAIに任せ、人が考える経理へ進化することが鍵です。
AI導入の限界とリスク
AIは便利な反面、すべてを任せきりにするのは危険です。誤読・誤仕訳といった精度リスク、不十分なデータによる判断の偏り、そして説明責任に関するガバナンスリスクが常に存在します。
経理部門がAIを導入する際は、次の3点を明確にしておくことが重要です。
- AIの出力を誰がどの段階で確認するか
- 異常値や例外処理のルールをどう設定するか
- AI導入後の監査・統制体制をどう整えるか
これらを怠ると、業務効率化どころか、内部統制上のリスクを増やす結果にもなりかねません。AIはあくまで補助輪であり、最終判断を支えるパートナーです。
次では、こうした変化を踏まえて、経理の役割がどのように進化していくのかを見ていきましょう。
AIで変わる経理の役割と価値の再定義
AIの進化は経理の仕事を奪うのではなく、経理の存在価値を再定義するチャンスをもたらしています。これまで「数字を処理する部門」だった経理は、今や企業の意思決定を支える「戦略的パートナー」へと進化しつつあります。ここからは、AI時代における経理の新しい役割を見ていきましょう。
経理が担う戦略的データ活用とは
AIの導入によって、経理は単なる「報告部門」から「データを使って経営を導く部門」へ変わりつつあります。AIが大量のデータを自動処理できるようになったことで、経理はより本質的な分析に時間を割けるようになりました。
経理が戦略に貢献できる主な場面は次の通りです。
- 予実分析による経営判断の支援
- 部門別の収益構造分析による改善提案
- キャッシュフローや在庫回転率の最適化
- 予測分析を用いたコストシミュレーション
AIがもたらすスピードと精度を活かしながら、経理が「どの数字に注目し、どう意味づけるか」を設計できるかが差を生みます。
経理×経営企画の連携が進む理由
AIの導入が進むと、データは部門を越えて共有されるようになります。財務データ、営業データ、人事データが一元化され、経理と経営企画が連動して動く体制が整いつつあります。
この流れにより、経理は「数字をつくる人」から「数字で経営を動かす人」へと変わります。経営企画と連携し、リアルタイムでデータを分析する力が、経理の新しい武器になります。
AI時代の経理に求められるスキルセット
AIを前提に業務を再設計する時代では、ツール操作よりも「活かす力」が問われます。これからの経理に求められるスキルは、以下の3つに集約されます。
- データリテラシー:AIが処理したデータを読み解き、経営視点で分析する力
- 業務設計力:どの業務をAIに任せ、どこに人が関与すべきかを判断できる力
- コミュニケーション力:経営陣や他部門に、データを根拠に提案できる力
これらのスキルを体系的に身につけることで、経理はAIに代替されるどころか、企業の中で不可欠な存在として進化できます。
より実践的なスキル習得法は、AIによる事務効率化で年間1,000時間削減を目指す!で詳しく解説しています。次では、AI時代に経理が生き残るための「学び直し」の方向性を考えていきましょう。
AI時代に求められる経理スキルと学び直しの方向性
AIの導入が加速する中で、経理に求められるスキルは大きく変わっています。「経理の専門知識」だけでは不十分で、「AIと共に働く力」が求められる時代です。ここでは、AI時代に経理が生き残るために必要なスキルと、その習得の方向性を整理します。
AI・データリテラシーをどう身につけるか
AIを導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ成果は出ません。経理担当者がまず身につけるべきは、AIの仕組みとデータの扱い方を理解するリテラシーです。
AI・データリテラシーとは、難しいプログラミングを学ぶことではなく、次のような知識・感覚を持つことを指します。
- AIがどのように判断しているのかを理解できる
- 出力データの正確性を検証できる
- 経営上の判断に使える価値あるデータを見極められる
この基礎がなければ、AIを導入しても業務改善につながりません。AIの使い方ではなく、「AIを使って何を解決するのか」を考えられる経理が、これからの組織を動かします。
業務プロセスの理解力が経理の武器になる
AIが苦手とするのは、「例外」や「曖昧な状況」です。経理担当者は、自社の業務プロセスを深く理解しているからこそ、AIが対応できない部分を補完し、最適なプロセスを再設計できる立場にあります。
AI導入を成功させる経理に共通するのは、次のような思考です。
- 業務フローを俯瞰してボトルネックを見抜ける
- データがどこで生まれ、どのように使われているかを理解している
- 例外処理をパターン化してAIに学習させる設計ができる
つまり、AI時代の経理は「仕訳をする人」ではなく、「業務全体を設計する人」へと役割を進化させる必要があります。
AIを前提とした業務設計力を磨く
AIを導入しても、既存の業務フローのままでは本来の効果を発揮できません。重要なのは、AIを前提にした業務再設計(リデザイン)を行うことです。
業務設計力を磨くには、以下の3ステップを意識すると効果的です。
- 現状業務の棚卸しを行い、AIが得意・不得意なタスクを分類する
- AI導入後の役割分担(人とAIの境界線)を明確にする
- 効果検証のためのKPIを設定し、継続的に改善する
このように、AIをツールではなくパートナーとして位置づけることで、経理部門はより戦略的に進化します。
AI時代に必要なスキルを体系的に学ぶには、実務を前提とした研修プログラムが有効です。SHIFT AI for Bizでは、経理部門のAI活用力を底上げする実践的なカリキュラムを提供しています。次では、企業が経理に求める新しい価値と、AI導入で変わる組織の姿を見ていきましょう。
企業が経理に求める新しい価値とは?
AIの導入は、経理の役割を単なる「コストセンター」から、企業成長を支える戦略的な存在へと変えつつあります。ここでは、AI時代における経理の価値の再定義を見ていきましょう。
経理の立ち位置が変わる理由
AIの普及によって、経理は数字を「作る」だけでなく、「数字から未来を描く」役割を担うようになりました。企業の意思決定は、データドリブン(データに基づく判断)が前提となり、経理はその中心的存在として経営層と並走します。
これにより、経理は経営に対して次のような価値を提供できるようになります。
- 経営判断のための財務データ分析
- コスト構造の可視化と改善提案
- 投資判断におけるリスクシミュレーション
- ESG・ガバナンスに関する指標整備
このように、経理は「数字を扱う専門家」から「経営を動かすパートナー」へと進化しているのです。
経理部門が担うデータガバナンスの重要性
AIが扱うデータの精度と信頼性を担保するのも、経理の重要な役割です。AIは与えられたデータから最適解を導きますが、その前提となるデータ品質が低ければ、誤った意思決定につながる可能性があります。
経理部門がリーダーシップを発揮できるのは、まさにこの「データの整備・監督」領域です。データガバナンスを強化することで、企業全体のAI活用を底上げすることができます。
経理が企業成長に貢献する新しいKPI
AI導入後の経理は、単なる「業務効率」だけでなく、企業価値を高める指標(KPI)で評価されるようになります。たとえば、以下のような指標が注目されています。
KPI項目 | 目的 | 評価ポイント |
業務効率化率 | 生産性の向上 | AI導入前後での稼働削減効果 |
データ精度率 | 判断の信頼性向上 | 入力・出力データの誤差率低減 |
予測精度向上 | 経営判断支援 | 予実管理の的中率向上 |
提案数・改善率 | 戦略貢献度 | 経営会議への提案件数・採用率 |
これらは単なる「効率化」ではなく、経理が企業成長にどれだけ貢献できるかを可視化する指標です。
経理がこのような視点で行動できるようになると、企業全体のAI推進も加速します。
具体的な導入プロセスや運用設計の考え方は、AIで事務作業が変わる!導入メリット・失敗しない進め方・ROIの考え方を解説で詳しく紹介しています。次では、経理部がAI導入を成功させるための具体的な3ステップを解説します。
経理部がAI導入を成功させるための3ステップ
AI導入はツールを入れることが目的ではなく、人とAIが共に成果を出す体制をつくることが本質です。多くの企業が導入後に壁にぶつかるのは、技術そのものよりも「運用設計」と「人材育成」に課題があるためです。ここでは、経理部がAI導入を成功させるために踏むべき3つのステップを紹介します。
① 小さく始めて成果を可視化する
AI導入の第一歩は、いきなり全社展開ではなく、特定業務への限定導入から始めることです。たとえば経費精算や請求書処理など、ルールが明確でデータ量の多い業務からテスト導入すると、AIの精度検証と改善サイクルを短期間で回せます。
重要なのは、「どの業務がどのくらい効率化されたか」を定量的に可視化すること。効果を数字で示すことで、社内の理解と次の拡張フェーズへの説得力が生まれます。
この段階での成功体験が、経理部門全体の変革意識を高めるきっかけになります。
② 現場と経営をつなぐAI推進人材を育てる
AI導入が進むと、経理現場と経営層の間に理解のギャップが生じやすくなります。そこで必要なのが、両者の橋渡しを担うAI推進リーダーの存在です。
AI推進人材には、次のような力が求められます。
- 業務理解とAIリテラシーの両方を持ち、現場課題を翻訳できる
- 経営層に対して、AI導入の投資効果を説明できる
- チームを巻き込み、改善を継続できる
このような人材がいることで、AI導入が単発の施策ではなく、経営戦略と連動した継続的プロジェクトに変わります。SHIFT AI for Bizの研修では、こうした推進人材の育成を目的としたプログラムも提供しています。
③ 継続的にAIリテラシー教育を行う
AIの仕組みやツールは日々進化しており、一度学んだ知識はすぐに陳腐化します。経理部門が継続的に成果を出すためには、学びを仕組み化することが不可欠です。
継続教育を成功させるためのポイントは次の3つです。
- 社内で定期的に勉強会・共有会を実施する
- AI活用の成功・失敗事例をナレッジ化する
- 実務課題と連動した研修を定期導入する
これにより、現場全体がAIに強い経理組織へと成長します。AI導入は技術の問題ではなく、組織文化の変革プロセスなのです。
SHIFT AI for Bizでは、こうした継続的教育を通じて、経理部門全体のAI活用力を引き上げる研修カリキュラムを用意しています。
まとめ|AIに奪われない経理へ、今動くべき理由
AIの進化は、経理の仕事を終わらせるものではありません。むしろ、経理の存在意義を再定義する転換点です。請求処理や仕訳のような単純業務はAIに任せ、経理担当者が担うべきは「データを読み解き、経営を導く力」へと変わっています。
AI時代の経理が生き残るために必要なのは、恐れではなく理解と行動です。AIをどう使い、どう判断に活かすか。その視点を持つことで、経理は企業の未来を支えるコア人材になります。
そして、この変化はいつかではなく今始めるべき課題です。AIリテラシーを身につけ、AIを実務で活かせる力を磨くことが、キャリアを守り、企業の競争力を高める最短ルートとなります。
SHIFT AI for Bizでは、経理部門のAI活用力を引き上げる実践型研修を提供しています。経理の未来を自分たちでつくるために、まずは一歩を踏み出しましょう。
また、AI経営総合研究所では経理AIの自動化やバックオフィス改革に関する情報を発信しています。
AIに奪われる未来ではなく、AIと共に成長する未来へ。それが、これからの経理に求められる新しいスタンダードです。
AI導入のよくある質問(FAQ)
AI導入を検討する際、経理担当者や管理職が感じる不安や疑問は共通しています。ここでは、特によく寄せられる質問を取り上げ、導入前に知っておくべき現実的なポイントを整理します。
- Q経理のAI導入にはどのくらいの費用がかかる?
- A
AI導入費用は、ツールの種類や業務範囲によって大きく異なります。一般的には、月額数万円〜数十万円のクラウド型ツールが主流です。初期費用を抑えて導入できるサービスも増えており、中小企業でも十分に手が届く水準です。
重要なのは「費用対効果(ROI)」を見極めること。
単なるコスト削減だけでなく、人的リソースの再配分や経営判断スピードの向上までを含めてROIを算定すれば、投資価値は明確になります。
- QAIに任せると誤りが増えるのでは?
- A
AIは正しく運用すれば高い精度を発揮しますが、任せっぱなしが最も危険です。AIの出力には常に一定の誤差があり、特に例外処理や曖昧な文書は判断ミスの原因になります。
そのため、導入初期は必ず人によるダブルチェック体制を設けましょう。
AIの判断基準をチューニングしながら精度を高めていくことで、徐々に完全自動化に近づけることができます。
- Q中小企業でもAI導入は可能?
- A
可能です。むしろ、中小企業こそAI導入の効果が大きいといえます。
人的リソースが限られる環境では、AIが日常業務を自動化することで、担当者は戦略的業務に集中できます。近年では、クラウド型の経理AIサービスやAI-OCRの低価格化も進み、導入ハードルは格段に下がっています。
- Q経理職としてのキャリアはどう変わる?
- A
AI時代の経理職は「処理担当者」ではなく、AIを活かして経営を支える専門職へと進化します。
これから評価されるのは、データを分析し、意思決定を後押しできる人材です。AIを使いこなすスキルを身につけることで、経理はより戦略的な立場へキャリアアップできます。
SHIFT AI for Bizでは、こうしたキャリア変化に対応するための研修を実践的に提供しています。
