生成AIの活用が進む中で、業務に役立てたいと考える担当者は増えています。しかし、いざ使おうとすると「この情報、入力して大丈夫?」「社外秘に該当しない?」といった不安に直面するのではないでしょうか。
特に経営データや営業資料、顧客とのやり取りなど、社外には出せない情報を扱う現場では、「どこまで入力してよいのか」の線引きがあいまいなまま、活用が止まってしまっているケースも見られます。
本記事では、生成AIに入力できる情報の範囲を明確にし、社外秘を守りながら安全にAIを活用する方法を、リスクと対策の両面から解説します。社内でのルール整備やツール選定のポイントも紹介しますので、「使いたいけど心配」という方はぜひご一読ください。
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そもそも社外秘とは?生成AIへの入力前に整理すべき基準
生成AIに情報を入力する前に、まず確認すべきなのが「その情報は社外秘かどうか」という点です。ここを誤ると、知らぬ間に機密情報が社外に漏洩するリスクがあります。
社外秘とは何か?
「社外秘」とは、その名のとおり社内でのみ取り扱うべき情報を指し、社外に公開・提供することが制限されている内容のことです。明確な法的定義があるわけではありませんが、一般的には以下のような情報が該当します。
- 未発表の経営戦略・予算・人事計画
- 顧客情報・取引先リスト
- 自社の価格体系・原価情報
- 研究開発中の製品や技術
- 提案書や見積書の内容 など
社外秘かどうかを判断する3つの視点
情報が社外秘に該当するか判断するには、以下の3点で確認すると効果的です。
- 公開性:社内外どこまで公開されている情報か
- 機密性:外部に漏れることでどの程度の損害があるか
- 契約・法的義務:守秘義務契約(NDA)や社内規程で制限されているか
この3軸で整理することで、「入力しても問題ない情報」と「入力すべきでない情報」が明確になります。
情報分類フローを導入しよう
企業によっては、情報を「公開情報」「社外秘」「機密」「特機密」などのラベルで分類し、取り扱いルールを設定しているところもあります。生成AIへの入力可否を判断する際も、こうした分類ルールを活用することで、従業員が迷わずに判断できるようになります。
生成AIに入力した情報はどこまで保存・活用されるのか?
「社外秘かどうか判断できても、本当にその情報が保存されないのか?」
生成AIの活用では、ツールごとのデータ保存の仕様やポリシーを正しく理解しておく必要があります。
ChatGPTやCopilotなどの主要ツールでのログの扱い
生成AIツールには多くの種類がありますが、それぞれ「ユーザーの入力データ(プロンプト)」の扱い方に差があります。
- ChatGPT(無料版):ユーザーの入力はOpenAIの学習やサービス改善に使われる可能性あり
- ChatGPT(Pro版):設定次第で学習に使われないが、履歴やログは管理者に見える可能性あり
- ChatGPT(Enterprise版):入力データは学習に使用されず、セキュリティが強化されている
- MicrosoftCopilot(forMicrosoft365):顧客のデータは学習に使用されず、企業管理者がログを制御可能
つまり、無料ツールでの業務利用は原則NGと考えるべきです。誤って社外秘を入力すると、他ユーザーへの出力など思わぬ再利用が起きることもあります。
入力データの削除は“できる”が“完全”ではない
「入力しても、あとで削除すれば大丈夫」と考えるのは危険です。多くのAIサービスでは、ユーザーが削除リクエストを出せてもキャッシュや一時保存領域には残る可能性があり、完全なデータ消去を保証していない場合があります。
セキュリティポリシーを読まなければ損をする
多くの企業はAIツールの利用を進めながらも、サービス提供側の利用規約やプライバシーポリシーに目を通していません。
実際に、ChatGPTのヘルプセンターでは「送信された情報はサービス品質向上に使われることがある」と明記されています。ツール導入時には、契約内容・オプトアウトの設定可否を含めた精査が不可欠です。
社外秘を生成AIに入力してしまうとどうなる?実際に起こりうるリスク
生成AIに社外秘情報を不用意に入力してしまうと、企業にとって深刻なリスクを招く恐れがあります。ここでは、実際に起こり得る影響や懸念点を具体的に整理します。
入力データの“再出力”による情報漏洩
AIは入力された情報を学習し、今後の応答に反映することがあります。たとえば、ある部署が入力した顧客名が、別のユーザーの問い合わせに対して出力される、といった“漏洩”が報告されています。特に無料ツールでは、こうした情報の制御が難しいことが多く、意図しない情報流出の原因となります。
社外のクラウド上に保存されるリスク
ChatGPTやCopilotなどの生成AIは、クラウド上で動作しています。つまり、情報はインターネットを介して外部サーバーに送信されるということです。これにより、社内で閉じた環境と比べて情報漏洩のリスクは格段に上がります。VPNやDLPなどのセキュリティ対策が不十分なまま使うのは非常に危険です。
社内・社外への影響と責任問題
万が一、社外秘の情報が漏れた場合、次のような深刻な事態に発展することもあります。
- 顧客や取引先との信頼関係の崩壊
- 賠償責任の発生
- 競合他社への情報流出によるビジネス損失
- 社内での懲戒処分や管理体制への批判
また、生成AIの利用に関する社内ルールが未整備な場合、責任の所在が曖昧になり、さらに混乱を招くこともあります。
どこまで入力していい?判断に迷わないための実践ガイド
「これは入力して大丈夫?」と迷ったとき、判断基準がなければ毎回立ち止まることになります。ここでは、生成AIへの入力可否を見極めるための実践的なポイントを紹介します。
ポイント①:情報の“社外公開可能性”を軸に分類する
入力可否を判断する際は、以下のように情報を3段階で分類してみましょう。
- 公開情報:すでに社外に公開されている情報(例:プレスリリース、製品説明)
→原則、AIへの入力は問題なし - 社内共有情報:社外には出せないが、社内で広く共有されている情報(例:社内マニュアル、研修資料)
→基本的にはNG。ただし、社内AI環境であれば許容される場合あり - 機密・社外秘情報:個人情報、経営数値、顧客データなど
→生成AIへの入力は厳禁。ローカルAIであっても要注意
このように「誰に向けて公開されているか」を基準にすると、判断がブレにくくなります。
ポイント②:入力前チェックリストを整備する
現場での迷いを防ぐために、社内でチェックリストを導入するのも有効です。
たとえば、
- 入力する情報は公開済みか?
- 契約上、守秘義務の対象となっていないか?
- 自社・顧客に不利益を与える可能性はないか?
- 学習に使われる可能性がある環境か?
こうした問いかけを習慣化することで、リスクある入力を未然に防ぐことができます。
ポイント③:社内ルールと連動させる
入力の判断基準は、社内ルールやAIガイドラインと連動させることが重要です。
すでにルールがある場合は、それを基に明確な運用指針を設けましょう。まだ整備されていない場合は、次章で紹介するルール設計のヒントを参考にしてください。
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社外秘を守るための社内ルール設計と教育のポイント
生成AIを安全に活用するためには、個人の判断任せにするのではなく、全社で統一されたルールと教育の仕組みが不可欠です。ここでは、その設計と浸透のポイントを解説します。
ルール設計の基本:3つの柱を明文化する
社内の生成AI利用ルールは、次の3つを軸に明文化するのが効果的です。
- 入力してよい情報の定義
例:公開情報、社内資料の一部、個人を特定しない事例など - 入力禁止事項の明示
例:顧客情報、社員の個人情報、契約書や見積書、経営数値など - 利用ツールの制限と設定要件
例:無料ツールの業務利用禁止、Enterprise版限定、履歴保存の無効化など
これらをチェックリストやテンプレート形式で提供すると、現場でも迷わずに運用できます。
社内ルールについて、より詳しく知りたい場合は以下の記事も併せてご覧ください。
👉生成AIの社内ルールはどう作る?今すぐ整備すべき7つの必須項目と実践ステップを解説
教育・研修は「運用の習慣化」を意識する
ルールを作っただけでは実効性は上がりません。社内研修や定期的な周知を通じて、運用を習慣化させることが重要です。
- 生成AI活用のリスクと可能性をバランスよく伝える
- 部署ごとのユースケースとリスクを合わせて共有する
- ミドルマネージャーが現場の相談役になるような体制を築く
このように「現場に寄り添った教育」が、ルールの定着と自律的な運用を後押しします。
明文化+研修+ツール制限=AI活用の安全基盤
ガイドラインの整備、教育、ツール制限。これらを三位一体で設計することが、社外秘を守りつつ生成AIを活用する鍵になります。
まとめ|社外秘を守りながら生成AIを活用するために
生成AIは業務効率を大きく高める可能性を秘めていますが、一方で社外秘情報の取り扱いを誤れば、企業の信用や顧客との信頼を失う深刻なリスクにもつながります。
この記事では、以下の観点から「どこまでAIに入力していいのか」を整理しました。
- 社外秘とは何か?どのように分類・判断するか
- 生成AIに入力した情報がどう扱われるか
- 入力によるリスクと起こり得る影響
- 入力の可否を判断する実践的な視点
- 社外秘を守るためのルール整備と教育のポイント
特に重要なのは、「ツールごとの仕様」と「自社の情報管理方針」をすり合わせることです。そして、従業員が安心してAIを活用できる環境を整えるには、ルールと研修の両輪が不可欠です。
「リスクがあるから使わない」のではなく、「守るべきことを守ったうえで、安全に活用する」ことが生成AI活用の鍵になります。
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- QChatGPTに社外秘の情報を入力しても大丈夫ですか?
- A
基本的にはNGです。
無料版ChatGPTでは、ユーザーの入力がAIの学習に使われる可能性があります。社外秘情報や個人情報の入力は、情報漏洩のリスクを伴うため厳禁とするのが望ましいです。Enterprise版など、学習対象外となるプランでも社内ルールで制限を設けることが推奨されます。
- Q「社外秘」とは、具体的にどのような情報を指しますか?
- A
社外に漏れてはならない業務情報や経営情報、個人情報などを指します。
たとえば顧客リスト、売上データ、開発中の製品情報、未公開の社内文書などが該当します。情報管理区分が設定されている場合は、それを参考にしてください。
- Q社員が勝手にAIに情報を入力してしまわないようにするには?
- A
社内ルールの整備と研修の実施が重要です。
利用可能なAIツールを限定する、入力可否のガイドラインを配布する、チェックリストを導入するなど、明文化と教育の両面から対策を行いましょう
- Q情報漏洩を防ぐために企業ができる技術的な対策は?
- A
エンタープライズ向けAIツールの活用、プロンプトログの監視、DLP(情報漏洩防止)などが有効です。
また、入力ログの記録・制御ができる環境整備も重要です。
👉関連記事:プロンプトログは保存される?ChatGPTなど生成AIのログ管理と活用法を徹底解説
- Q社内の誰がルール作成を担うべきですか?
- A
情シス部門や情報管理部門が中心となり、法務・人事・現場部門と連携する形が理想です。
生成AIの利用ルールは、技術・法務・現場運用の3点をバランスよく反映させる必要があります。
👉関連記事:【実践5ステップ】生成AI導入をプロジェクト化し、社員を巻き込む方法を徹底解説
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