業務効率化を実現するエッジAIは、高速レスポンスやセキュリティ面の高さから、幅広い業界で導入が進んでいます。また、近年のテクノロジー技術やAIの進歩により、エッジAIの可能性はさらに広がってきています。
「エッジAIが何かよくわからず詳しく知りたい」という方も多いのではないでしょうか。
本記事ではエッジAIの概要やメリット、導入方法、今後の発展方向などについて詳しく解説するします。業界別の活用事例も紹介するので参考にしてみてください。
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エッジAIとは

エッジAIは、エッジコンピューティングとAIを融合させたシステムです。
エッジコンピューティングとは、クラウド通信をせず近くにある装置だけでデータの処理を行うシステムのこと。測定器やカメラなどの端末そのものでデータ解析を行います。
つまりエッジAIとは、端末にAI搭載し処理を行うシステムのことです。インターネットは介さず、端末ですべて情報処理を完結させます。
エッジAIの活用例として、自動運転車が挙げられます。障害物が前方に現れたときに、カメラに搭載されたAIがブレーキをかけます。データをクラウドに送る動作が必要だと、ブレーキが間に合わない危険性がありますが、エッジAIならば即座に判断可能です。
エッジAIが注目される背景

近年は多くの企業がエッジAIに注目していますが、その大きな理由にリアルタイム性の重視が挙げられます。
エッジAIはリアルタイムでほぼ遅延なく処理を行えるため、すぐ判断が必要な場面にとても適しています。先ほど挙げた自動運転車のブレーキや工場で従業員の危険動作を感知しアラートを出すなどがその例です。インターネットを介すると、どうしても通信の遅延リスクは避けられませんが、エッジAIなら高速な情報処理ですぐに判断を下せます。
加えて、通信コストの削減ニーズやハッキングに強いことからも多くの企業が注目しています。
各業界で活用が進んでおり、防犯カメラやセキュリティシステム、交通制御などの産業用機器にエッジAIが導入されつつあります。エッジAIは今後さらに進化していき、さまざまな業界で活用されていくでしょう。
エッジAIとクラウドAIの違い

AIのシステムは主にエッジAIとクラウドAIの2種類に大別されます。ここでは両者の違いは何なのか、見ていきましょう。
記事内で触れた通り、エッジAIは端末に搭載されたAIが情報処理を行います。一方、クラウドAIはインターネット通信を行い、クラウド上でデータを基にした予測・判断を行います。ChatGPTやCopilotがこれに該当します。
インターネットにある情報をAIが分析するため、精度に優れているのが特徴です。また、常に最新の情報にアクセスできることも強みだと言えるでしょう。文章作成やデータ分析などの分野で広く活用されています。
一方でインターネットを使うため遅延が発生するリスクがあります。また、山奥などインターネット環境がないところでは利用できないことも欠点です。
このように、エッジAIとクラウドAIは強みが大きく異なるのです。
エッジAIを導入する4つのメリット

エッジAIを導入するメリットは以下の4つが挙げられます。
- 処理速度の速さ
- 通信コストの削減
- 情報漏洩リスクの低減
- スピーディーなシステム構築
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①処理速度の速さ
エッジAIはデータをクラウドへ転送せずにAI処理を実行するので、応答の速さに優れているのが最大のメリットです。
エッジAIは端末内でデータ分析や画像解析をすぐに行うことができます。また、データ送受信にかかる時間を短縮できるうえ、クラウドサーバーの混雑状況にも左右されません。監視カメラの映像分析、車や工場の機械制御などスピード感を重視するシステムで活用しやすいです。
また、山奥などインターネットがつながりづらい場所でもAIを利用できる点もメリットだと言えるでしょう。
②通信コストの削減
エッジAIではクラウドとのデータ通信があまり発生しないため、通信量を大幅に抑制できます。特定の通信帯域を占有することがなく、他の通信の邪魔をしません。
また、エッジAIであれば大規模な通信環境を整備する必要は少ないです。映像や少しのデータを送受信できる環境を整えるだけで済みます。
そのため、通信料や通信環境の整備にかける費用を削減できるでしょう。導入後のシステムや通信環境のメンテナンスもそこまでコストが発生しないはずです。
③情報漏洩リスクの低減
記事内で触れているように、エッジAIは基本処理をデバイス上で完了できるため、機密性の高いデータをネットワーク上に送出する必要がありません。通信経路での不具合やハッキングによるデータ漏洩リスクを大幅に低減できます。
クラウドAIに比べ、エッジAIのほうがセキュリティ面では優れているといえるでしょう。出力結果の保管などのために一部データはクラウドに送信しなければいけないとしても、情報漏洩リスクを最小限に抑えられます。
④迅速なシステム構築
AIシステムを短期間で構築できるのもメリットです。
基本的にエッジAIはデバイスにAIをインストールするだけで利用できます。大規模な開発は必要ないことがほとんどです。また、既存の製品にはデバイスに取り付けるだけで利用できるものもあります。
例えば、AIカメラの場合、カメラ内にAIを搭載するだけで映像分析を行えます。映像を出力したい場合には、パソコンに接続するだけで簡単に実施可能です。
エッジAIのデメリット・注意点

エッジAIにはデメリットに感じる面もあり、主に以下の3つです。
- 処理能力に限界がある
- 管理に必要な手間とコストがかかる
- 大規模なシステム構築には不向き
それぞれ詳しく解説していきます。
処理能力に限界がある
エッジAIが扱う情報量が多すぎると、処理速度が落ちてしまいます。
エッジAIは端末内やLAN内のコンピューターで処理を行い、高性能サーバーのような非常にパワフルな設備を用意するわけではありません。あまりにも大量のデータを処理しようとすると、速度が落ちてしまう可能性は否定できません。
大量のデータをスピーディに処理したい場合は、エッジAIではなくクラウドAIが適しているでしょう。
管理に手間とコストがかかる
エッジAIの運用では、情報収集を行うデバイスとAI処理を実行するコンピューター、通信ネットワークを自社で管理する必要があります。また、定期的にAIをアップデートする必要もあります。
エッジAIの管理には、専門人材の配置や管理システムの導入などのコストがかかることが多いです。既存のエッジAIを導入する場合でも、月額料金などの費用が発生するでしょう。
ChatGPTのようなクラウドAIを使う場合、インストールするPCの管理だけで済むことがほとんどで、アップデートも自動で行われることが多いです。
デスクトップで利用するAIに比べると、少しコストはかかるかもしれません。
大規模なシステム構築には不向き
エッジAIは処理能力の限界と管理負担の大きさから、大規模なシステム構築には適していません。例えば、大量の監視カメラにエッジAIデバイスを搭載し、それぞれ連携させて使用する、といった使い方をしたい場合には注意が必要です。
エッジAIで大規模システムを実現しようとすれば、高性能なコンピューターが必要になり、費用がかさむ可能性があります。また、処理能力が十分でないコンピュータで大規模なエッジAIシステムを構築すれば、処理速度が低下するでしょう。
多数のデバイスから収集したデータを一括して処理したい場合は、別途クラウドAIで分析するのが有効です。
エッジAIの活用事例5選

実際にエッジAIがどのような現場で活躍しているのか、事例を5つ紹介します。すでに幅広い業界で活用されているので参考にしてください。
工場での活用事例
エッジAIは、工場での自動化や生産効率の向上に役立つシステムとして普及率が上がってきています。特に以下のような分野で注目されています。
- 異常検知
- 品質管理
- ロボット制御
エッジAIは画像解析に優れており、歪みや破損など機械の異常兆候をリアルタイムで検知可能です。異常が検出された場合、修理やメンテナンスが必要であることを知らせ、大きな故障や生産ロスの防止につながります。
また、商品の外観検査において、リアルタイムで高速処理ができるエッジAIを活用すれば、即座に微細な欠陥を発見できます。品質維持と生産効率の向上が可能になります。
エッジAIによる産業用ロボットの高度な自律制御も可能です。部品を組み立てるなど基本的な作業は任せられる場合が多いでしょう。
農業での活用事例
農業分野では、土壌状態や気象情報のモニタリングや最適な栽培管理に役立てられています。
- 土壌と天候のモニタリング
- 農作物の害虫や病気の検出
農作物周辺のセンサーデータの分析により、土壌の湿度、酸性度、栄養レベルの状態を把握できるほか、気象予測も行えます。農家は適切な時期の灌漑や肥料の施用を行うことができ、収穫量の向上につなげられます。
また、高解像度カメラとエッジAIを組み合わせることで、病害虫の早期発見も可能です。迅速に対策を立てられるため、被害を最小限に抑えられます。
加えてエッジAIとトラクターや収穫機を組み合わせた自動化も進んでおり、省エネルギー化と生産性の向上が実現しています。さらにGPSと連携し、自動化された農業機器に農作物の植え付け、肥料散布から収穫までを任せることも可能です。
医療現場での活用事例
医療分野では、生体情報の収集と解析による早期診断や治療の推奨に注目が集まっています。
- 医療画像の解析
- 遠隔でのモニタリング
- ウェアラブルデバイスの分析
エッジAIはCT、MRI、X線などの医療画像を高速で分析し、病変の発見や異常部位の特定が可能です。
在宅医療分野では、遠隔からリモートモニタリングによる健康管理と迅速な対応が可能です。血糖モニターや心電計など、自宅で使用する医療機器のデータ解析にエッジAIを活用して、患者の健康状態を管理します。また異常が検出された場合は、医療関係者に直ちに通知できます。
ウェアラブルデバイスと呼ばれるスマートウォッチやフィットネストラッカーでも、エッジAIは活用されています。心拍数や血圧、睡眠パターンなどユーザーの生体情報をリアルタイムで収集し、解析を行うのです。異常が検知された場合には、ユーザーに警告をしたり、医療専門家に通知したりも可能です。
小売業での活用事例
小売業界では、店舗内の監視カメラ映像をエッジAIに瞬時に解析させることで、マーケティング企画や在庫の最適化などさまざまな活用が広がっています。
- 顧客の行動分析
- 在庫管理と自動発注
- 自動決済、万引き防止
エッジAIを搭載したカメラは、顧客の購買行動や店内での動きのパターンを把握した解析が可能です。顔認識や行動検知を利用し、商品陳列の最適化やプロモーション施策の立案、効果検証などに役立てられています。また、商品棚に設置されたカメラやセンサーからのデータをもとに、エッジAIが商品の在庫状況をリアルタイムで把握。加えて、在庫が一定量以下になった時点で、自動発注を行うなど在庫管理が格段に効率的になります。
近年増えてきている無人店舗では、エッジAIが顧客の選んだ商品を追跡し、店舗を出た際に自動決済するといったシステムも登場しています。店舗内のカメラがAIを使って映像解析をするため、不審な行動の検出も可能です。
クラウド通信が必要なく迅速な対応ができるので、万引き防止などセキュリティ面でも貢献しています。
金融機関での活用事例
金融分野では、主に詐欺防止に役立てられています。
- ATMでの詐欺や不正利用の検出
近年はエッジAIを搭載したATMが登場しており、利用者の映像を分析する取り組みが進められています。クレジットカードを利用した詐欺やATMの不正利用、振り込め詐欺などの異常な動きを瞬時に検知し、アラートを出すといった使われ方が増えているのです。
エッジAI導入手順とポイント

続いて、エッジAIを導入・開発する際のポイントを、以下の5つの手順に沿って解説していきます。
①業務課題の明確化
まずはエッジAIを活用して解決したい課題は何か、どのようなシステムを開発したいのかを明確にする必要があります。
課題や開発するシステムを明確にしておかないと、期待する効果が得られないかもしれません。まずは課題を洗い出し、どんなシステムであれば課題を解決できるかを議論しておきましょう。エッジAI開発そのものが目的にならないよう、注意が必要です。
また、AIを導入する際には経営層がAIの知識を身につけ、適切な指針を示せるようにすることもかかせません。
②導入環境を整える
企画を決めたら、次は開発環境の構築に取り組みます。
エッジAIの開発には高速な処理ができるコンピューターが必要です。オフィス業務で使うものではスペックが十分ではない可能性が高いでしょう。
また、プログラミングなどの知識が必要になるため、専門知識のあるAI人材を社内に配置する必要があります。
イチから開発を進めるのが難しい場合、既存の製品を導入するのも選択肢です。月額費用などが発生しますが、購入するだけで導入できる場合がほとんどです。開発の費用が足りなかったり、社内に専門知識を持つ人がいない場合は検討してみましょう。
③AIの実装を進める
続いて、AIの実装を進めていきましょう。デバイスにエッジAIをインストールしていきます。
この段階では、少数のデバイスでインストールして挙動を確認するのが効果的です。例えば、カメラ1台、工場の設備1つなど少数から始めるのがおすすめです。いきなり複数のデバイスに搭載してしまうと、「店舗内のカメラが動かなくなった」など、不具合があった場合の影響が大きくなります。
少数のデバイスでテストし、問題なければ複数のデバイスに搭載を進めていきましょう。
④成果確認や改善をしながら運用
エッジAIを本番環境で運用し始めたら、目標の達成度を確認しながら、PDCAサイクルを回して改善を重ねることが大切です。
改善点を見つけて解決することで、より効率よくエッジAIを運用できるようになります。データ分析や異常検知の精度が上がり、効果を得られやすくなります。改善点をもとに、定期的にAIをアップデートすることが大切です。
また、運用体制も検証をしておくことが望ましいです。例えば、トラブルが起きたときのバックアップ体制は十分か、エッジAIが送信するデータは問題なく保管できているかなど、きちんと運用できているか定期的に見直しましょう。
特に、障害発生時の迅速な復旧ができるよう、事前に運用保守マニュアルを用意しておくのがおすすめです。
エッジAI開発ができる人材が社内にいない場合は外注も一つの方法

前項で説明した通り、精度の高いエッジAIを開発するには、中々の労力が必要です。自社だけでは不安がある、人材がいない場合は、エッジAI開発専門の企業の力を借りるのも1つの手でしょう。
企業に開発を依頼することで、人材を雇うコストを減らすことができます。従業員のリソースも他の重要な業務に充てることが可能です。また、導入から運用まで一貫して依頼でき、専門知識のある人材が社内にいなくてもエッジAIの利用をスタートできます。
企業によっては既存の製品を販売していることもあり、すぐに導入ができるところもメリットです。自社の状況を確かめたうえで開発するか、他社に依頼するか検討しましょう。
エッジAIの今後

技術レベルの進化や生成AIの登場で、エッジAIの活用の幅は日々広がってきています。トレンドや今後どう進化していくのかを把握し、自社の業務効率化にどう役立てていけるのか深掘りしていきましょう。
高性能かつ低消費電力デバイスの普及
エッジAI向けの専用チップの開発が進み、高性能かつ低消費電力で動作するデバイスが普及してきています。加えて計算効率の高いアルゴリズムの開発も進んでおり、エッジデバイスでの更なる高速なデータ処理が可能です。
これにより、より高度なAI機能をエッジ上で実現できるようになりつつあります。
生成AIとの組み合わせ
近年、目覚ましい進化を遂げている生成AIモデルの軽量化が進み、クラウドでしか使えなかった高度なAI機能がエッジデバイス上でも使えるようになってきています。
したがってエッジAIは、これまでのデータ処理だけでなく、コンテンツ生成などの新しい分野にも応用が広がっていくでしょう。
リザバーコンピューティングの進化
エッジAIの発展に伴い、新しい計算手法の「リザバーコンピューティング」が注目を集めています。
リザバーコンピューティングは、ディープラーニングと比べてデータ学習時のパラメータ調整が容易なので、高速かつ省電力でAIモデルを構築できる技術です。これにより処理能力の低いデバイス上でも、効率的にAIを動かせるようになります。
従来のエッジAIでは導入が難しかった用途でも、リザバーコンピューティングなら可能になると期待されています。
まとめ:スピード感重視の業務効率化にはエッジAIを活用しよう
エッジAIはAI処理を行うのにクラウド通信をする必要がないゆえに、処理スピードの速さとセキュリティ力の高さが注目されています。
さらに近年の技術進化による高性能・低消費電力なデバイスの登場や、生成AIとの組み合わせで、性能レベルは日々向上しています。今後、業務効率化には欠かせない存在になっていくでしょう。
企業がエッジAIを導入する際に人材が不足している場合は、専門の外部企業に開発を委託するのも一つの選択肢です。
SHIFT AIではAIの使い方や導入に関することなど幅広い相談を無料で受け付けています。また、AI人材の育成支援やワークショップも実施しています。AIの活用を検討している方はぜひお気軽にご相談ください。