近年、ChatGPTの企業導入が急速に進む一方で、適切なプライバシー対策を講じずに利用した結果、機密情報の漏洩や個人情報保護法違反などの問題が相次いで報告されています。

実際に、海外の大手電子機器メーカーでは、従業員がChatGPTに機密コードを入力したことで情報流出の懸念が生じ、社内利用の全面禁止に至りました。

ChatGPTは業務効率化に大きな効果をもたらす反面、入力したデータがAIの学習に利用されるリスクや、設定ミスによる情報流出の危険性を伴います。

本記事では、ChatGPTを安全に活用するためのプライバシー保護策を体系的に解説し、リスクを最小限に抑えながら生成AIの恩恵を最大限に享受するための実践的なガイドラインを提供します。

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目次

ChatGPT(OpenAI)のプライバシーポリシー【2025年最新版】

企業でのChatGPT利用には、OpenAIのプライバシーポリシーの理解が不可欠です。

データの収集範囲から削除ポリシーまで、企業が知るべき重要なポイントを詳しく解説します。

企業でChatGPTを導入する際は、生成AI活用におけるセキュリティ対策の全体像を踏まえた包括的なリスク管理が必要です。

収集される情報の種類と利用目的

OpenAIは、ChatGPTの利用を通じて以下の情報を収集しています。

まず、アカウント情報として氏名・メールアドレス・認証情報が記録されます。次に、ユーザーコンテンツとして、ChatGPTへの入力内容やアップロードしたファイルがすべて保存されている状況です。

さらに、技術情報としてIPアドレス・ブラウザ情報・利用ログも蓄積されています。

これらの情報は、サービス改善・新機能開発・セキュリティ確保・法的義務遵守に利用されます。

特に注意すべきは、入力した会話データがAIモデルの学習に使用される可能性がある点です。

データ保持期間と削除ポリシー

OpenAIは、収集したデータを以下の期間保持します。

会話履歴は通常30日間サーバーに保存され、その後削除される仕組みです。ただし、安全性確保やサービス改善のため、一部データはより長期間保持される場合があります。

アカウント情報については、アカウント削除後も法的要件に基づき一定期間保持されることがあります。

完全な削除を希望する場合は、OpenAIに直接削除リクエストを送信する必要があります。企業利用では、データの完全削除が技術的に困難である点を理解した上で利用することが重要です。

ChatGPT利用時の3つの主要リスク

ChatGPTの企業利用において、以下の3つのリスクが特に重要です。

情報漏洩リスクでは、入力した機密情報が他のユーザーへの回答として出力される可能性があります。システムの不具合により、会話履歴が意図せず第三者に表示されるリスクが存在します。

学習データ利用リスクでは、入力内容がAIの学習に使用され、将来的に類似の情報が生成される危険性があります。機密情報が学習データとして蓄積され、他のユーザーとの対話で類似情報が出力される可能性があります。

法的コンプライアンスリスクでは、個人情報保護法やGDPRなどの法規制に違反する可能性があります。顧客の個人情報を無断で入力した場合、重大な法的責任を問われるリスクが存在します。

企業においては、これらのリスクを正確に把握し、適切な対策を講じることが不可欠です。

ChatGPTに入力してはいけない個人情報と機密データ一覧

ChatGPTの企業利用では、適切なプライバシー設定が最も効果的な対策となります。

以下のデータ分類に基づいて、社内での利用ルールを徹底することで、情報漏洩リスクを大幅に軽減できます。

個人情報(氏名・住所・電話番号など)

個人を特定できる情報は、絶対にChatGPTに入力してはいけません。

氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどの基本的な個人情報が該当します。マイナンバー・パスポート番号・運転免許証番号などの公的な識別番号も含まれます。さらに、病歴・思想信条・犯罪歴などの機微な個人情報は特に厳重な注意が必要です。

これらの情報を入力した場合、個人情報保護法違反となる可能性があります。また、AIの学習データとして利用され、他のユーザーとの対話で意図せず出力されるリスクも存在します。

企業の機密情報(財務データ・戦略資料など)

企業の競争優位性に関わる機密情報の入力は厳禁です。

財務諸表・売上データ・予算計画などの財務情報は最も重要な機密データです。経営戦略・マーケティング計画・新商品開発情報なども対象となります。人事評価・給与情報・組織改編計画なども機密性の高い情報として扱う必要があります。

これらの情報が外部に流出した場合、企業の競争力低下や株価への悪影響が生じる可能性があります。

顧客データ(顧客リスト・取引履歴など)

顧客から預かった情報の保護は、企業の信頼性に直結する重要な責務です。

顧客の連絡先・購買履歴・契約内容などの取引関連情報が該当します。顧客の嗜好・行動パターン・属性分析などのマーケティングデータも含まれます。クレジットカード情報・銀行口座番号などの決済関連情報は特に厳重な管理が必要です。

顧客データの漏洩は、信頼失墜・損害賠償・法的制裁などの深刻な結果を招く可能性があります。

技術情報(ソースコード・特許情報など)

企業の技術的優位性を支える情報の保護は不可欠です。

プログラムのソースコード・システム設計書・技術仕様書などが対象となります。特許出願前の発明内容・研究開発データ・実験結果なども重要な技術情報です。パスワード・APIキー・アクセストークンなどのセキュリティ関連情報も含まれます。

これらの情報が流出すると、競合他社による模倣や不正利用のリスクが高まります。

第三者の権利に関わる情報(著作権物など)

他者の知的財産権を侵害する可能性のある情報の利用は避けるべきです。

著作権で保護された文章・画像・音楽・動画などのコンテンツが該当します。商標登録されたロゴ・ブランド名・キャッチフレーズなども含まれます。ライセンス契約により利用が制限されているソフトウェアや技術情報も対象です。

これらの情報を無断で利用した場合、著作権侵害や商標権侵害などの法的問題が発生する可能性があります。

ChatGPTのプライバシー保護設定方法

ChatGPTを安全に利用するためには、適切なプライバシー設定を行うことが最も効果的な対策です。

以下の5つの設定を実施することで、情報漏洩リスクを大幅に軽減し、企業での安全な活用が可能になります。

設定1|チャット履歴とトレーニングをオフにする

この設定により、入力した会話データがAIの学習に使用されることを防げます。

まず、ChatGPTにログイン後、画面左下のプロフィールアイコンをクリックします。次に、表示されるメニューから「Settings」を選択してください。設定画面で「DataControls」タブを開き、「ChatHistory&Training」のスイッチをオフに切り替えます。

この設定を有効にすると、新しい会話は30日後に自動削除され、学習データとしても利用されません。企業利用では必須の設定として、全社員への徹底が必要です。

設定2|2段階認証を有効化する

アカウントのセキュリティを強化し、不正アクセスを防ぐ重要な対策です。

設定画面の「Security」タブから「Two-FactorAuthentication」を選択します。認証アプリ(GoogleAuthenticatorやAuthyなど)をスマートフォンにインストールしてください。

表示されるQRコードを認証アプリでスキャンし、生成された6桁のコードを入力して設定完了です。

2段階認証により、パスワードだけでなく追加の認証が必要となります。万が一パスワードが漏洩しても、アカウントの安全性を保つことができます。

設定3|データコントロール設定を最適化する

個人情報の取り扱いをより詳細に制御できる設定です。

「DataControls」画面で「Exportdata」から自分のデータの確認が可能です。「Deleteaccount」では、アカウントとすべてのデータの完全削除を申請できます。「Optoutoftraining」により、過去の会話も含めて学習データから除外できます。

これらの設定により、データの透明性と制御性が向上します。設定内容は定期的に確認し、必要に応じて調整してください。

設定4|アカウント共有時の権限を管理する

複数人でアカウントを共有する場合の安全対策です。共有アカウントでは、利用者ごとに異なるパスワードを設定することが重要です。

ChatGPTTeamプランを利用し、メンバーごとのアクセス権限を細かく設定してください。管理者権限を持つユーザーを限定し、設定変更の責任者を明確にします。

個人アカウントでの業務利用は避け、企業アカウントでの一元管理を推奨します。利用者の入退社に合わせて、適切にアクセス権限を更新することが必要です。

設定5|定期的なプライバシー設定を見直す

OpenAIのポリシー変更に対応するため、継続的な設定確認が不可欠です。

月に1回程度、プライバシー設定の内容を確認し、最新の状態に保ちます。新機能の追加や利用規約の変更があった場合は、速やかに設定を見直してください。会話履歴を定期的にチェックし、不要なデータは削除することを習慣化します。

設定変更の履歴を記録し、誰がいつ何を変更したかを把握できる体制を整えます。継続的な管理により、長期的な安全性を確保することが可能です。

企業のChatGPT導入時におけるプライバシー保護ガイドライン

企業でChatGPTを安全に導入するためには、体系的なガイドライン策定と段階的な実装が成功の鍵となります。

以下の5ステップに従って進めることで、リスクを最小限に抑えながら効果的な活用が実現できます。

Step.1|現状のリスク評価を実施する

導入前の徹底したリスク分析により、自社固有の課題を明確化します。

まず、社内で取り扱う情報の種類と機密度レベルを整理してください。各部門が日常的に扱うデータの内容を詳細に把握し、ChatGPT利用時のリスクを評価します。既存のセキュリティポリシーとの整合性を確認し、追加対策の必要性を検討します。

法的要件(個人情報保護法、業界固有の規制)への対応状況も併せて確認が必要です。リスク評価結果を文書化し、経営層への報告と承認を得ることが重要です。

Step.2|部門別の利用ルールを設計する

各部門の業務特性に応じたきめ細かいルール設定を行います。

営業部門では、顧客情報の匿名化処理を必須とし、具体的な企業名や個人名の入力を禁止します。人事部門では、従業員の個人情報や評価データの利用を完全に制限してください。開発部門では、ソースコードの直接入力を避け、擬似コードでの相談に留めます。

各部門のマネージャーと連携し、実務レベルでの運用可能性を十分検討します。定期的な見直しを前提とした、柔軟性のあるルール設計が成功のポイントです。

Step.3|違反時の対応フローを整備する

ルール違反が発生した場合の迅速な対応体制を構築します。

違反を発見した際の報告先と連絡方法を明確に定めてください。情報漏洩の可能性がある場合の緊急対応手順を詳細に策定します。関係部署(法務、情報システム、広報)との連携体制を事前に確立します。

違反者への教育的指導と再発防止策の実施プロセスも含めて整備が必要です。24時間以内の初動対応を可能にする体制づくりが重要です。

Step.4|社員向けの教育プログラムを策定する

全社員がChatGPTを安全に利用できるよう、包括的な教育を実施します。

基礎知識として、ChatGPTの仕組みとプライバシーリスクを説明してください。実際の設定方法をhands-onで体験できるワークショップを開催します。部門別のケーススタディを用いて、具体的な利用シーンでの注意点を解説します。

定期的なフォローアップ研修により、知識の定着と最新情報の共有を図ります。理解度テストやチェックリストを活用し、教育効果の測定も重要です。

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Step.5|定期的な見直し体制を構築する

ChatGPTの機能更新や法規制の変化に対応する継続的改善の仕組みを作ります。

月次でのガイドライン運用状況を確認し、課題を抽出してください。四半期ごとにOpenAIのポリシー変更や新機能への対応を検討します。年次での包括的なリスク評価とガイドライン全体の見直しを実施します。

外部専門家や業界団体からの情報収集も積極的に行います。継続的な改善により、長期的な安全性を確保することが可能です。

なお、生成AI活用におけるセキュリティ対策の全体像では、ChatGPT以外の生成AIツールも含めた包括的なセキュリティ対策について詳しく解説しています。

ChatGPTの情報漏洩が発生した場合の対応マニュアル

ChatGPTによる情報漏洩が疑われる場合、迅速な初動対応が被害拡大防止の鍵となります。

以下の手順に従って組織的に対応することで、法的リスクを最小限に抑え、信頼回復への道筋を確保できます。

初動対応|24時間以内に実施すべきことを確認する

情報漏洩の疑いが生じた際は、ChatGPTへの入力内容を詳細調査し、被害拡大防止措置を講じてください。

該当するアカウントの利用を即座に停止し、追加の情報流出を防ぎます。関係部署(情報システム、法務、広報)への緊急連絡を行い、対策本部を設置します。

漏洩した情報の種類・規模・影響範囲を可能な限り特定し、記録に残してください。24時間以内の初動対応により、その後の対応の質と効果が大きく左右されます。

報告義務|法的要件に従って適切に届出する

個人情報保護法などの法的要件に基づく報告義務を適切に履行します。

個人情報が含まれる場合は、個人情報保護委員会への報告が必要となる可能性があります。報告が必要な場合は、漏洩を知った日から72時間以内に届出を行ってください。影響を受ける本人への通知義務についても、法的要件を確認し適切に実施します。

海外展開している企業では、GDPRやCCPAなどの海外法規制への対応も必要です。弁護士や専門コンサルタントと連携し、適切な法的手続きを進めてください。

再発防止|根本原因を分析して対策を講じる

再発防止のため、徹底した原因分析と改善策を実施します。

事故に至った経緯を時系列で整理し、人的要因と技術的要因を分析してください。既存のガイドラインや教育プログラムの有効性を検証し、不足部分を特定します。システム的な対策とヒューマンエラー防止策の両面から改善案を策定します。

改善策の実施後は、効果測定と継続的な監視体制を構築してください。根本原因の解決により、組織全体のセキュリティレベル向上を図ることが可能です。

法規制対応|GDPR・個人情報保護法に準拠する

各国の法規制に適切に対応し、法的リスクを最小限に抑えます。

個人情報保護法では、漏洩した個人情報の項目数が1,000件を超える場合などに報告義務が生じます。

GDPRでは、個人データの侵害を認識してから72時間以内の監督機関への通知が必要です。カリフォルニア州のCCPAでは、消費者への通知と適切な救済措置の提供が求められます。

各法規制の要件を満たすため、専門家のアドバイスを受けながら対応することが推奨されます。コンプライアンス体制の見直しも含めて、包括的な法的対応を実施してください。

まとめ|適切な対策でChatGPTのリスクは回避できる

ChatGPTは企業の業務効率化に大きな効果をもたらす一方、個人情報や機密データの取り扱いには十分な注意が必要です。

しかし、本記事で解説したプライバシー設定の実施、入力禁止情報の明確化、社内ガイドラインの策定を適切に行うことで、これらのリスクは確実に回避できます。

重要なのは、技術的な設定だけでなく、組織全体でのルール徹底と継続的な教育です。ChatGPTの機能は日々進化しており、それに伴いセキュリティ対策も更新し続ける必要があります。

企業でChatGPTを安全に活用するためには、全社員が正しい知識と実践的なスキルを身につけることが不可欠です。社員一人ひとりのAIリテラシー向上こそが、真の意味でのプライバシー保護を実現する鍵となります。

弊社では、企業のChatGPT導入を成功に導く包括的な研修サービスを提供しています。ChatGPTを安全に業務活用するための研修プログラムで、社員のAIリテラシーを向上させませんか?

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ChatGPTのプライバシー保護に関するよくある質問

Q
ChatGPTに入力した情報は完全に削除できますか?
A

ChatGPTに入力した情報の完全削除は技術的に困難です。OpenAIでは通常30日間データを保持し、その後削除されますが、バックアップやログファイルに残存する可能性があります。完全削除を希望する場合は、OpenAIに直接削除リクエストを送信する必要がありますが、100%の削除保証はありません。そのため、重要な情報は最初から入力しないことが最も確実な対策です。

Q
無料版と有料版でプライバシー保護に違いはありますか?
A

はい、大きな違いがあります。無料版では基本的なプライバシー設定のみ利用可能ですが、ChatGPT Plusではデータ保持期間の短縮やプライオリティアクセスが提供されます。ChatGPT Enterpriseでは、SOC 2 Type II準拠の高度なセキュリティ機能、データの地域内保存、カスタムデータポリシーなどが利用できます。企業での本格導入にはEnterprise版を強く推奨します。

Q
社内でChatGPTの利用を禁止すべきでしょうか?
A

一律禁止よりも、適切なガイドラインを策定して安全な利用を促進することを推奨します。完全に禁止しても、社員が個人アカウントで無断利用する「シャドーIT」のリスクが高まる可能性があります。入力禁止情報の明確化、プライバシー設定の徹底、定期的な教育を実施することで、ChatGPTのメリットを享受しながらリスクを管理できます。

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Q
ChatGPTで個人情報を誤って入力してしまった場合はどうすればよいですか?
A

直ちに該当する会話を削除し、チャット履歴とトレーニングをオフに設定してください。その後、情報システム部門や上司に報告し、必要に応じてOpenAIに削除リクエストを送信します。個人情報保護法の対象となる可能性がある場合は、法務部門と連携して適切な対応を検討する必要があります。迅速な初動対応が被害拡大の防止に重要です。

Q
競合他社に自社の情報が漏れる可能性はありますか?
A

適切な設定を行わずに機密情報を入力した場合、その可能性は存在します。入力された情報がAIの学習データとして利用され、類似の質問に対する回答として出力される危険性があります。また、システムの不具合により他のユーザーに情報が表示されるリスクもあります。これらを防ぐため、機密情報の入力禁止とプライバシー設定の徹底が不可欠です。