近年はAI技術の発展が進んでおり、オフィスのみならず医療現場でも盛んに利用されています。そして、診療支援から業務効率化、患者対応に至るまで様々な成果を上げています。
しかし、「医療現場でAIって実際どう活用されてるの?」「うちの病院でも使える事例が知りたい」そう思う方も多いかもしれません。
この記事では、 AIが実際に医療現場でどのように活用されているのか、23事例をもとに分かりやすく紹介します。診断補助・看護支援・受付業務・臨床試験などの分野に関する具体例をまとめ、AI導入のメリットや注意点もあわせて解説します。
実際の事例を参考にすることで、自院に最適な導入ヒントを得られるでしょう。
なお、SHIFT AIではAIの導入に関して無料相談を受け付けています。医療現場ではどんな形で導入を進めればいいかをコンサルティング支援いたします。また、医療現場でAIを使いこなせる人材育成支援も可能です。AIの活用に興味のある方はぜひ一度ご相談ください。
医療現場にAIが必要とされる理由

現在、医療現場では、AI導入への関心とニーズが急速に高まっています。その背景には、医療従事者の慢性的な人手不足、高齢化に伴う患者数の増加、そして限られた経営資源の中での効率化ニーズといった、複合的な課題があります。
ここでは、こうした背景を踏まえ、どのような理由で医療現場にAIが必要とされているのかを詳しく見ていきましょう。
医療従事者の人手不足による業務過多
AIは、医療現場の深刻な人手不足を解消する手段として期待されています。
現在の日本では少子化が進み、医療や介護の担い手は年々減少しています。その結果、現場では一人ひとりにかかる業務の負担が増大し、過重労働による疲弊や人材の離職といった課題が浮き彫りになっています。
そこで、看護師が行う記録業務や、初診時の問診といった作業にAIを導入し、負担軽減が図られているのです。AIは単なる効率化のツールではなく、医療現場の限界を支える必要不可欠な存在としての役割を担いつつあります。
なお、AIにはすでにさまざまなタイプが登場しており、多種多様な機能があります。

今後は医療現場でも幅広い業務で活用されることが期待されています。
高齢化社会による患者数の増加
患者数の増加への対応にもAIの活用が進められています。
日本では医療技術の進歩などにより人の寿命が延びており、高齢者の増加が予想されています。それに伴い、患者数も増加が見込まれ、質の高い医療体制を維持する必要性が高まっているのです。
そこで、AIの活用がこれまで以上に重要になっていくと考えられます。AIによって医師の診断業務の正確性やスピードを上げる、スタッフの事務作業を減らしてより患者のケアに力を入れる、といった取り組みが模索されています。
今後もAIを用いた医療体制を作る試みは加速していくでしょう。
経営効率化のニーズ
AIは単なる業務効率化の手段にとどまらず、経営そのものの見直しを促す存在にもなりつつあります。
AIを導入することで労働時間の短縮が実現すれば、人件費の削減につながるためです。労働環境を改善することで、求職者に魅力をアピールでき、自社に合う人材を確保しやすくなることも要因でしょう。
AIは過去のデータをもとに需要予測などを行うことが可能です。月ごとの診療報酬を算出して利益予測を立てるなど、経営判断の参考材料としての活用も進められています。
限られた経営資源のなかで、より的確な判断と持続可能な運営を実現するために、AIの導入を進める企業が増えているのです。
精度の高い診断・治療への期待
AIに対する大きな期待のひとつに、診断や治療の精度を高める役割もあります。
日本の医療技術は他国に比べて水準が高いですが、診断ミスや見落としなどのヒューマンエラーはどうしても発生してしまいます。
そこで、AIによって診療や治療の質を高める取り組みが進んでいるのです。例えば、AIによる画像解析や、自然言語処理を用いた症状の分析技術を利用し、疾患の早期発見や状態の予測精度向上が模索されています。がんや脳の病気などを早期に診断するAIモデルは、すでに実臨床の場でも成果を上げ始めており、医療機関での試験導入が検討されているケースも少なくありません。
そうした中でAIは信頼できる判断を支える補助技術として、今後さらに存在感を増していくと考えられます。
医療AIの主な活用領域

AI活用は、医療分野のさまざまな領域に広がっています
診断支援や看護業務はもちろん、事務作業、創薬、さらには遠隔診療まで、AIは幅広い場面で医療を支え、その効果を着実に示し始めているのです。
ここでは、医療AIがどのような業務に導入されているのか、具体的な活用領域を詳しく見ていきます。
医師の診断補助
まず、注目したいのがAIによる診断補助です。
AIが医師と並行して患者の状態を分析し、疾患の特定や治療案の提示を行います。中でも画像診断の領域では、CTやMRIなどの医療画像をAIが解析し、異常の早期発見をサポートする技術が広く活用され始めています。AIは膨大な症例データを学習しており、疾患をより早く正確に識別できるのです。
実際、AIによる画像診断を活用することで、見落としのリスクが減り、医師の診断結果の正確性が向上するとされています。
看護業務の効率化
看護業務もAIが活躍する領域の1つです。
看護には患者へのケアだけでなく、記録作成や情報の整理といった事務的な作業も多く含まれています。これらの業務にAIを活用し、書類整理などの作業をより迅速に行えるようにする取り組みが進められているのです。
例えば、患者の体調記録や診療記録をAIが読み取り、情報整理や入力作業を自動化できるツールの導入などがその例です。
また、AIが搭載されたカメラを病院内に配置し、患者の徘徊や転倒を防止する取り組みも一部の医療機関で進められています。
AIによって看護師の負担を軽減し、より本質的なケアに専念しやすくなる環境を整えることができるでしょう。
事務作業の自動化
医師や看護師の業務にとどまらず、医療機関での事務作業にもAIは活用されています。
医療機関では、患者情報の管理や診療報酬の請求、会議の議事録作成など、日常的に多くの定型業務が発生します。これらの作業は正確性とスピードの両立が求められますが、どうしてもミスや業務過多が起こります。
そこで近年、会議内容の文字起こしや書類の自動作成ツールの導入が進められているのです。
創薬・臨床試験でのAI活用
創薬の現場でも、AIは研究開発の加速と効率化を支える重要な存在として注目されています。
新薬の開発には通常、長い年月と膨大なコストがかかるため、プロセス全体の見直しが製薬業界にとって大きな課題でした。
現在では、標的分子の探索や候補化合物の最適化、毒性の予測など、複雑な工程にAIが活用されています。AIは膨大なデータを瞬時に解析し、研究者の意思決定を後押ししています。
さらに、臨床試験においても、被験者の選定や副作用リスクの予測などに導入され、実際に開発の成功率向上に貢献しています。
遠隔診療・オンライン問診でのAI活用
遠隔診療・オンライン問診もAIが活躍する領域です。
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、遠隔診療やオンライン問診のニーズが一気に高まり、問診支援システムやチャットボット型の医療アシスタントが数多く開発・導入されています。
これらのツールでは、患者が事前に症状や既往歴などの情報を入力することで、医師は診察前に必要な情報を把握できます。高齢者や遠方に住む患者にとっては、通院の負担や待ち時間の短縮につながり、医療を受けやすくなっているのです。
対面診療に近い精度と対応力を持つ遠隔医療の仕組みは、AIの支援によって実用化が進んでおり、今後もその活用範囲はさらに広がることが期待されます。
実際の医療機関におけるAI導入事例21選

医療現場でのAI導入が進む中で、すでに国内外ではさまざまな分野で成果を上げている事例が報告されています。
ここでは、創薬や診断、問診、看護、事務支援といった多岐にわたる領域から、21の導入事例をピックアップし、それぞれの背景や得られた成果を具体的に紹介します。
- 相澤病院|AI問診票の導入で業務時間を120時間短縮が見込まれる
- 神奈川県渡部クリニック|AI問診の導入で患者の待ち時間を約1/3に
- 東北大学病院|生成AIで医療文書の作成時間を約50%削減
- 中外製薬|治験にかかる時間をAIで短縮
- 恵寿総合病院|AIによる看護サマリ作成で業務効率化
- 順天堂大学|診療報酬算定業務効率化AIの開発
- 大阪国際がんセンター|乳がん患者の疑問にAIが回答
- 日本IBM|対話型AIで患者とのコミュニケーションの質を向上
- バビロン・ヘルス|AIによる問診対応で患者と医師の負担軽減
- 株式会社CureApp|AIで患者のセルフモニタリングを促進
- 新成病院|AIによる徘徊検知で見守り負担を軽減
- HITO病院|患者の転倒転落リスクをAIで予測し事故防止
- メイヨークリニック|医療情報検索AIで医師の負担軽減
- マス・ジェネラル・ブリガム|GPT-4が医師の身体診察を支援
- NEC・理化学研究所・日本医科大学|AIで疾患再発リスクの予測精度を10%向上
- 東芝|AIで心臓病の早期発見と治療促進
- 東京ミッドタウンクリニック|疾病リスクをAIで数値化し健康状態を把握
- FRONTEO|会話内容からAIが精神疾患のリスクを判定
- 東大病院|AIが肺高血圧症の初期兆候の把握に成功
- 第一三共|AIを活用して創薬時間を大幅に短縮
- アストラゼネカ|新薬開発のコスト削減と迅速化に向けAI活用
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相澤病院|AI問診票の導入で業務時間を120時間短縮が見込まれる
相澤病院では、2023年から株式会社プレシジョンのAI問診票「今日の問診票」を導入しています。
このシステムでは、問診票の入力内容をもとに、生成AIが電子カルテの下書きを作成。医師が初診カルテ作成にかかる時間の削減が可能です。また、問診票の内容からAIが診療に役立つ情報を医師に提示する機能も備えています。
導入を進めた結果、医療スタッフの労働時間が合計で月120時間短縮される見込みとなっています。また、タブレット上で問診票を記入でき、紙や筆記用具の使用量削減の効果も期待されています。
AIを活用することで労働環境を整え、人件費や資材費の削減につなげている事例だと言えるでしょう。
出典:入院時の問診に、人工知能を用いた「デジタル問診票」の利用を開始 | 慈泉会
神奈川県渡部クリニック|AI問診の導入で患者の待ち時間を約1/3に
来院時の混雑や待ち時間の課題を解消するために、神奈川県の渡部クリニックではAI問診を導入しています。
このシステムでは、患者は来院前にスマートフォン等で症状や既往歴を入力し、AIがその情報をもとに診療用のカルテを自動生成します。受付から診察までの流れがスムーズになり、平均待ち時間が従来の10分から3分へと短縮されました。待ち時間が減ることで、患者の精神的負担軽減にも寄与しています。
診療フロー全体の効率化と、患者の満足度を実現した好例といえるでしょう。
出典:待ち時間が 10分から 3分に短縮!AI問診と予約システムの連携による事前のカルテ立てで混雑時の対応がスムーズに
東北大学病院|生成AIで医療文書の作成時間を約50%削減
東北大学病院はNECと共同で、診療記録や紹介状などの医療文書を電子カルテ情報から自動生成するAIの実証実験を実施しました。
このAIの活用を進めた同病院では、医師が文章作成にかかる時間が約50%短くなる結果が得られました。文章の表現や正確性も高く評価されています。
医師や看護師が記録作成にかける時間を大幅に削減できるだけでなく、記録の一貫性や精度の向上も期待されています。
出典:東北大学病院、生成AIで電子カルテからの医療文書作成を検証、作成時間が半分に | IT Leaders
中外製薬|治験にかかる時間をAIで短縮
中外製薬はNTTデータと協力し治験に関わる文章を自動生成するAIを開発し、実験的に導入を試みました。治験には投薬実験だけでなく、さまざまな書類作成が必要になり、創薬に時間がかかっていたためです。
この取り組みにより、書類作成にかかる時間が削減されました。「同意説明文書」では約60%、「症例報告書」で約40%作成時間が減るなど、特定の書類で大きな効果が出る結果となっています。
AIは書類の整理だけでなく、作成にも効果を発揮することがわかる事例です。
出典:中外製薬とNTTデータ、AI技術を活用した治験効率化ソリューションの実証を完了
恵寿総合病院|AIによる看護サマリ作成で業務効率化
恵寿総合病院では、生成AIを活用して看護記録から必要な情報を抽出・要約し、看護サマリの草案を自動生成するシステムを導入しました。患者の健康状態や看護内容をまとめた看護サマリの作成は、看護師にとって時間的・心理的な負担の大きい業務の一つです。
この仕組みにより、記載漏れやミスのリスクが減少しました。また、サマリの品質が向上し、患者の状態を病院全体でより把握しやすくなりました。
この取り組みは2024年の『全日本病院学会』でも紹介され、多くの人の関心を集めています。
出典:恵寿総合病院、退院時看護サマリ作成業務に生成AIを適用した業務効率化の有用性を確認 | Ubie株式会社のプレスリリース
順天堂大学|診療報酬算定業務効率化AIの開発
順天堂大学では、生成AI「GaiXer(ガイザー)」を開発し、診療報酬算定業務の自動化に取り組んでいます。将来的には、いくつかの医療機関で試験導入される予定です。
このAIは電子カルテ内の情報をAIが解析し、診療内容に応じた算定項目を抽出・整理し、自動で請求データを生成します。これにより、医師や事務職員の作業が減り、ヒューマンエラーの防止や業務時間の短縮につながる見込みです。
大阪国際がんセンター|乳がん患者の疑問にAIが回答
乳がんの治療における情報不足や不安の軽減を目的に、大阪国際がんセンターでは生成AIを用いた対話型支援ツールを導入しています。
このAIシステムは、患者が入力した質問に対して医師の監修を受けた信頼性の高い情報を、自然な日本語で自動応答する仕組みです。副作用や治療内容への不安を抱える患者にとっては、正確な情報をいつでも確認でき、安心感につながります。また、患者がスマートフォンからいつでもアクセス可能で、診察時間外でも心の支えとなっているのです。
出典:乳がん患者の疑問にAIが回答、大阪国際がんセンター導入 – 日本経済新聞
日本IBM|対話型AIで患者とのコミュニケーションの質を向上
日本IBMは、医薬基盤・健康・栄養研究所と大阪国際がんセンターと共同で、患者とコミュニケーションを取れるAIを開発しました。
具体的には、患者向けの疾患説明文を自動で生成する「対話型疾患説明生成AI」、Web問診データを解析して診察前に医師に共有する「問診生成AI」、看護師と患者の会話記録を自動でテキスト化する「看護音声入力生成AI」などがあります。
「対話型疾患説明生成AI」は医療現場でも実際に試験導入され、患者から「疾患についてより詳しく把握でき安心感がある」「医師への度重なる質問は申し訳なさを感じためらうが、AIに何回も質問することで不安を和らげることができた」との感想が挙がりました。
これらのツールは、患者との対話の質を高め、より信頼される医療の提供にもつながっていると言えるでしょう。
出典:「AI創薬プラットフォーム事業」の共同研究において、患者への対話型疾患説明生成AIの運用を開始
バビロン・ヘルス|AIによる問診対応で患者と医師の負担軽減
イギリスに拠点を置くバビロン・ヘルスは、AIチャットアプリの「バビロン」を開発しました。現在はイギリスの医療機関で導入が進んでいます。
このアプリは、患者が入力した症状に応じて自動で問診を行い、必要に応じて適切な診療科や対応方針を案内する仕組みです。イギリスの国民保健サービス(NHS)とも連携して提供されており、初診対応の一部をAIが代行することで、外来の混雑緩和や待ち時間短縮につながっています。また、医師による事務処理が減ることで、業務負担軽減につながっているとの声も挙がっています。
AIを活用することで、患者と医者双方の負担を軽減している事例です。
出典:利用者の半数が受診をやめた AIチャット・ドクター 医療費抑制の切り札になるか
株式会社CureApp|AIで患者のセルフモニタリングを促進
株式会社CureAppは、日々の血圧管理を簡単にしたいというニーズに応えるべく、「撮るだけ血圧記録」というアプリを開発しました。現在は全国の医療機関で導入が進んでいます。
このアプリは、スマートフォンのカメラで血圧計の画面を撮影するだけで、AIが自動的に数値を読み取り、記録してくれる機能を備えています。
高齢者やデジタル操作が苦手な方でも使いやすい設計となっており、患者自身でセルフモニタリングを行うことが可能です。その結果、導入した医療機関からは、患者自身の健康管理が習慣化しやすくなったとの報告が挙がっています。また、医療機関側も継続的なデータ収集が可能になり、より患者一人ひとりの健康状態をモニタリングしやすくなりました。
出典:CureApp HT 高血圧治療補助アプリ発売から2周年「これまでも、これからも」進化を続け写真を撮って血圧入力ができるAI新機能を追加
新成病院|AIによる徘徊検知で見守り負担を軽減
外来や入院など幅広い医療を提供する新成病院は、認知症などの疾患を持つ患者が病院内を徘徊することに悩んでいました。患者を見守る、確保するといった作業が、他の業務を圧迫するためです。
そこで、同病院は徘徊検知ができるAIを導入。顔認証ができるAI搭載のカメラやセンサーを設置し、入院患者の外出を検知できる体制を整えました。
その結果、病院で働くスタッフからは「看護師が徘徊患者の無断外出に以前よりも気を払わなくてよくなり、他の業務に集中しやすくなった」「徘徊を防止し、患者の安全を確保しやすくなった」との声が挙がっています。
出典:新成病院(鹿児島県) がGravioを活用した「徘徊検知ソリューション」を導入 顔認証AIカメラ・IoTセンサー が認知症患者の徘徊をLINE で即時通知 | アステリア株式会社
HITO病院|患者の転倒転落リスクをAIで予測し事故防止
愛媛県にあるHITO病院では、患者の転倒・転落を未然に防ぐためのAIシステムが導入されています。高齢者や要介護患者の増加により、病棟内での転倒は大きな課題です。
このシステムは、バイタルサイン、看護記録、行動履歴などを学習し、転倒のリスクが高まっている患者をリアルタイムに検出。看護師にもアラートが届くようになっています。
看護師が常に患者を見守る必要がなくなり、業務負担が軽減されました。また、見逃しがちな転倒の兆候も、AIのサポートにより的確に捉えることができ、事故防止にもつながっています。
出典:看護業務効率化・生産性向上のための支援|新着情報・ニュースリリース|HITO病院 | 愛媛県四国中央市
メイヨークリニック|医療情報検索AIで医師の負担軽減
米国に拠点を置く総合病院であるメイヨークリニックは医療情報の管理や有効活用に課題を抱えていました。患者情報や臨床試験データ、論文など医師が複数の情報源をチェックし、適切な医療を提供するには手間と負担がかかります。
そこで、メイヨークリニックはGoogleと連携して医療情報検索用のAIを開発。このAIはさまざまな情報を横断的に分析し、医師が必要とする論文や臨床データなどの医療情報を提示します。また、治療方法の提案も同時に行うことが可能です。
診断のスピードを高めるだけでなく、医師が必要な情報を探す手間を減らせることから、情報活用の新しい形として注目されています。
出典:Google Cloudとメイヨークリニックが提携–生成AIによる医療業界の変革に向け – ZDNET Japan
マス・ジェネラル・ブリガム|GPT-4が医師の身体診察を支援
アメリカ・マサチューセッツ州のマス・ジェネラル・ブリガム病院では、OpenAIの大規模言語モデル「GPT-4」を用いた身体診察の支援システムが試験導入されました。
この取り組みでは、医師と患者の対話内容をGPT-4がリアルタイムで読み取り、考えられる疾患や必要な検査・処置をその場で提示します。テストの結果、GPT-4が医学生や研修医の診察をサポートした際の正確性は80%以上に達し、人間の診断と変わらないほどの精度と評価されています。
AIを診断に活用することで、診断ミスや見落としを防ぎやすくなる事例だといえるでしょう。
出典:GPT-4が医師の身体診察を支援:マス・ジェネラル・ブリガムの研究で80%以上の高精度を確認
NEC・理化学研究所・日本医科大学|AIで疾患再発リスクの予測精度を10%向上
NECと理化学研究所、日本医科大学は電子カルテ・画像・検査データなどを横断的に解析できるAIを共同で開発しました。
このAIは、複数の医療データを多角的に分析できることが特徴です。前立腺がんのデータを分析させたところ、手術から5年後までの再発予測の精度が既存手法に比べて約10%高くなるという結果が得られました。
AIによって診断の質が向上する可能性を示す例です。
出典:NEC 、理化学研究所、日本医科大学、電子カルテとAI技術を融合し医療ビッグデータを多角的に解析
東芝|AIで心臓病の早期発見と治療促進
東芝はアメリカのジョンズ・ホプキンス大学と協力し、心臓病の発症リスクを予測するAI技術の開発に取り組んでいます。
このプロジェクトでは、心電図や心エコーといった画像情報、診療記録、生活習慣データなどを組み合わせてAIが解析を行い、将来的な心血管疾患のリスクを数値化します。多角的なデータに基づいた客観的な判断ができる点が特徴です。
このAIによって、心臓病の発症前の段階から患者に合った予防策を提示できるようになり、生活習慣の改善や早期治療の実施が期待されています。
出典:研究開発ライブラリ ジョンズ・ホプキンス大学と共同で心臓病の発病リスク予測AIの開発を開始−3年以内の実用化を目指し、疾病に対する知見とAI・機械学習技術を融合− | 研究開発センター | 東芝
東京ミッドタウンクリニック|疾病リスクをAIで数値化し健康状態を把握
東京ミッドタウンクリニックでは、生活習慣病の予防に向けた先進的な取り組みとして、東芝デジタルソリューションズが開発した疾病リスク予測AIを導入しています。
このAIは、健診データ、血液検査、身体計測結果などをもとに、個々人の疾病リスクを数値化して可視化する仕組みです。これにより、患者に対しより的確な診断がしやすくなった、との声が挙がっています。また、状態を数値化することで、患者側も自身の健康状態を具体的に理解、イメージしやすくなりました。
出典:6年先までの生活習慣病リスクを予測するAIのサービス提供を開始 | ニュースリリース | 東芝デジタルソリューションズ
FRONTEO|会話内容からAIが精神疾患のリスクを判定
FRONTEOは、慶応大学医学部と協力し、精神疾患リスクを分析するAIの開発を進めています。このAIは医療従事者と患者の日常的な会話(5〜10分程度)を解析し、認知症やうつ病などの精神神経疾患のリスクを判定します。
患者への負担が少ない方法で、状態の変化を早期に察知できるのが大きな特長です。
既存の問診や検査と併用することで、メンタルヘルスケアの精度と効率の向上に貢献すると期待されています。
2020年には日本特許庁より特許権を取得しており、医療機関での導入が検討されている状態です。
東大病院|AIが肺高血圧症の初期兆候の把握に成功
東京大学医学部附属病院では、希少疾患である肺高血圧症(PH)の早期診断を支援するAIモデルの開発に取り組んでいます。同時に、同病院では試験的に運用されています。
このAIは、肺の画像や心電図、血液検査などの多様な検査データを統合的に分析。医師が見逃してしまった初期兆候を捉えることに成功しています。
将来的にはAIが医師の診断を補助する形で活用を進める予定です。
出典:【プレスリリース】心電図、胸部X線、BNPを統合した肺高血圧症診断支援AIモデルを開発
第一三共|AIを活用して創薬時間を大幅に短縮
第一三共は創薬領域において、AI技術を活用した取り組みを進めています。特に注目されるのが、特定の物質を発見するAIです。このAIは数百万件の物質データを高速でスクリーニングし、治療に有用な物質の候補を短期間で抽出します。従来は、人で臨床試験などを繰り返して、有用な成分を見つける方法が主流でした。しかし、このAIは過去の膨大な医療データをもとに候補になりえる物質を予測します。
この取り組みによって、数年を要していた成分の初期探索フェーズを数週間単位で完了させることが可能となり、創薬スピードと精度が格段に向上しています。
出典:第一三共がAI創薬で成果、標的タンパク質の反応を抑制する候補化合物を2カ月で検出 | IT Leaders
アストラゼネカ|新薬開発のコスト削減と迅速化に向けAI活用
イギリスの大手製薬企業アストラゼネカは、AIを活用して創薬を効率よく進める取り組みを模索しています。2023年には、AI創薬を手がける米Absci社と約2億4700万ドルで契約を結び、生成AIを使った新たな抗がん剤の開発をスタートさせました。
AIは、標的分子の探索や副作用の予測といったプロセスを高速かつ高精度で行えるため、従来に比べて研究開発にかかる速度が速くなっています。加えて、現場からは従業員の業務負担が減ったとの声も挙がりました。
出典:日本経済新聞「英アストラゼネカ、提携先から見る戦略 AIによる創薬も」
医療AIを活用することのメリット

上記の例からもわかるとおり、AIは医療機関で導入され効果を発揮しています。
ここでは、AI導入によって得られる主なメリットを整理し、詳しく紹介します。
- 業務効率化による人材不足の緩和
- 医師・看護師の負担軽減
- 診断の精度向上と人的ミスの低減
- コスト削減による病院経営の最適化
それぞれ見ていきましょう。
業務効率化による人材不足の緩和
AIは、慢性的な人手不足が課題となっている医療現場で、大きな助けとなります。
医療従事者は、診療に加えて記録作成や問診対応などの事務作業に多くの時間を割いているのが現状です。AIの導入によってスタッフの業務負担が軽くなり、限られた人員でも診療を円滑に進めやすくなるでしょう。
作業の負担が軽くなることで、スタッフが患者と向き合う時間を確保しやすくなり、より丁寧なケアが提供できるようになるはずです。
医師・看護師の負担軽減
現場で働く医師や看護師の負担軽減も、AI導入の大きな利点です。
1つ前の見出しでも少し触れた通り、AIが記録作成やスケジュール調整を支援することで、医療従事者は本来の役割である診療やケアに集中できるようになります。働き方の見直しや職場環境の改善につながり、医療従事者の精神的、肉体的負担が軽減されるでしょう。
診断の精度向上と人的ミスの低減
AIの強みのひとつが、診断の正確さを高め、見逃しを防ぐことです。
AIは過去の膨大な医療データを分析しているため、高精度で疾患や治療の判断を提示できます。場合によっては、医師が見落としていた疾患の兆候を検知可能です。医師の診療を補助する役割として使えば、より適切な診療や治療が実現するでしょう。
また、診断の正確性が高まることで、医療の信頼性そのものが向上することも大きな利点です。
コスト削減による病院経営の最適化
AIの導入は、医療機関の経営面でも大きなメリットをもたらします。
AIの導入によってスタッフの労働時間が少なくなれば、人件費の削減につながります。また、労働環境の良さは自社の魅力の1つになりえます。より人材が集まりやすくなり、求人にかかるコストも減らせるでしょう。
医療現場でAIを導入する際の注意点

ここまで、医療AIがもたらす多様なメリットを紹介してきましたが、導入にあたっては慎重な判断と準備が求められます。特にコスト面や倫理的配慮、データ管理の体制など、事前に検討すべき点も多くあります。
- AIを活用できる体制を整えておく
- 導入・維持コストを把握しておく
- 医師や看護師が最終判断をする
- 患者の個人情報が漏れないようにする
ここでは、医療AIを導入する際の注意点を見ていきます。
AIを活用できる体制を整えておく
AIを適切に活用するには、体制づくりが重要になります。
経営層からAIを活用するように指示を出しても、スタッフの基礎知識が不足していたり、リーダーシップが発揮されなかったりすると、思うように導入が進みません。かえって業務効率が悪くなる可能性もあるでしょう。
そのため、AIを導入する際には、活用が進む体制を整えておくことが重要です。

スタッフのAIスキルを把握し、研修などによって基礎知識を身につけられるようにするなどの対策を実施してもいいでしょう。
導入・維持コストを把握しておく
AIの導入には、ソフトや機器の初期費用だけでなく、研修・保守・アップデートなど継続的な費用もかかります。特に中小規模の医療機関では、投資に対する成果が出るまでに時間がかかることもあるため、導入前に費用対効果を試算しておくことが欠かせません。
また、自治体や国の補助制度を活用すれば、費用負担を軽減できる可能性があります。予算に見合った範囲で、AIの導入を進めるとよいでしょう。
医師や看護師が最終判断をする
AIは多くのデータをもとに診断や提案をしてくれますが、最終的な判断は人が行うべきです。
年々、生成AIが提示する情報の精度は向上していますが、医学的根拠に欠ける誤情報を示す可能性は否定できません。AIはあくまでも「補助役」であり、人の判断を後押しするパートナーとして活用することが大切です。AIが提示する情報を参考に、医療従事者が患者に対して提案や診断を行うことが求められるでしょう。
患者の個人情報が漏れないようにする
患者の個人情報を保護することも重要です。
AIによっては、往来歴や薬の使用歴など、患者のデータを収集するものがあります。万が一、情報が漏れた場合は自社や医療に対する信頼性を落とすことにつながります。情報が悪用されて患者に実害が発生する可能性も否定できません。
そのため、個人情報保護は最優先で対策しておく必要があるでしょう。必要なスタッフしか患者の情報にアクセスしない、情報を外部に持ち出せないようUSBなどへのダウンロードを禁止するなどの対策が求められます。
セキュリティの知識が不足している場合、専門家に相談しながら導入を進めるのも効果的でしょう。
まとめ:医療現場のAI活用事例から、導入の第一歩を考えよう
本記事では、医療AIの最新導入事例を通して、診断支援・看護・創薬・事務効率化など、多様な活用方法を紹介しました。AIには、人手不足や業務過多の解消、診断精度の向上、病院経営の効率化といったさまざまな効果が期待できます。実際の医療機関での成果も出始めており、医療でのAI活用は身近なものになりつつあります。
まずは、身近な業務から実例をヒントに、自院でのAI活用の可能性を見つけてみてはいかがでしょうか。
なお、SHIFT AIではAIの導入に関して無料相談を受け付けています。医療現場でAIを使いこなせる組織体制構築の支援やAIの使い方をレクチャーする講座を実施しております。AIの活用に興味のある方はぜひご相談ください。