AI技術の急速な進化はビジネスに大きなチャンスをもたらす一方で、その担い手となる「AI人材」の育成が進んでいないという課題も生んでいます。

この記事では、そんなAI人材育成について、その必要性から具体的な進め方、成功のポイント、そして企業の取り組み事例までを分かりやすく解説していきます。

「自社でAI人材を育成するにはどうすればいいんだろう?」

記事を読み終わる頃にはこのような疑問は解消され、あなたの会社でAI人材育成を進めるための道筋がイメージできているはずです。ぜひ、AI人材育成に取り組んで、自社の未来を力強く切り拓きましょう。

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目次

なぜ今、AI人材育成が必要なのか

現代のビジネスにおいて、AI(人工知能)を活用できる人材を自社で育てていくことは、もはや待ったなしの重要な経営課題となっています。

その理由は大きく分けて次の2つです。

  1. AIがビジネスのあり方そのものを根本から変えるほどの力を持っている
  2. AIを使いこなせる「AI人材」が社会全体で圧倒的に不足している

AIをうまく活用できるかどうかは、これからの会社の競争力、ひいては存続に直結すると言っても過言ではありません。またAI人材が必要だからといって、簡単に外部から採用できる状況ではなくなっているのです。

​経済産業省が2019年3月に発表した「IT人材需給に関する調査報告書」では、AI人材の需給に関する試算が行われました。この報告書によると、平均シナリオ(年平均成長率16.1%)では、2030年に約12.4万人のAI人材が不足するといわれています。​

出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査報告書」

AI市場の成長に対応するためには、教育機関や企業が連携して、AI人材の育成を強化する必要があるのです。

そもそもAI人材とは

「AI人材」とはどのような人のことを指すのでしょうか?IT人材やDX人材といった似た言葉もありますが、それらとは何が違うのでしょう。

この章では、AI人材とは何か、代表的なAI人材の種類、そして求められるスキル・知識について解説します。

自社に必要な人材像を具体的にイメージするための参考にしてください。

AI人材とは何か?IT人材、DX人材との違いを解説

AI人材とは、一言でいうと「AI(人工知能)に関する専門知識やスキルを持ち、それをビジネスの課題解決や新しい価値の創造に活かせる人材」のことです。

よく似た言葉に「IT人材」や「DX人材」があります。

IT人材は、システム開発やネットワーク構築など、コンピューターやインターネットに関する幅広い技術を扱う人の総称です。一方、DX人材は、デジタル技術を使って会社の仕組みやサービスをより良く変えていく役割を担う人全般を指します。

AI人材は、IT人材の中でも特にAIやデータ分析といった分野に特化した専門家であり、DX人材の中でもAIという特定の技術を使ってビジネス変革を推進するスペシャリスト、と考えると分かりやすいでしょう。

つまり、AIという高度な専門分野を深く理解し、ビジネスに貢献できるのがAI人材なのです。

AI人材の主な種類

「AI人材」と一口に言っても、実はさまざまな種類があります。ここでは代表的なAI人材の職種を見ていきましょう。

データサイエンティスト

会社が持つさまざまなデータ(売上データ、顧客データなど)を分析し、ビジネスに役立つ情報や課題解決のヒントを見つけ出す専門家です。「データから宝物を掘り出す人」とイメージすると分かりやすいかもしれません。統計学や数学の知識を駆使します。

AIエンジニア(機械学習エンジニア)

AIの「頭脳」にあたるAIモデルを実際に設計し、プログラムを組んで開発・実装する技術者です。画像認識AIや、最近話題のChatGPTのような文章を作るAIなどを形にする役割を担います。プログラミングスキルが必須です。

AIプランナー(AIコンサルタント、ビジネスデザイナー)

「AIを使ってどんな新しいことができるか?」「どうすれば会社の課題を解決できるか?」といった企画を考え、ビジネスと技術の橋渡しをする役割です。AI技術の知識とビジネスの知識の両方が求められます。

データアーキテクト

AIが学習するために必要な大量のデータを、効率よく、安全に管理するための「データの保管庫や通り道」を設計・構築する専門家です。縁の下の力持ち的な存在と言えます。

これらはあくまで一例で、企業やプロジェクトによって呼び方や役割は多少異なります。重要なのは、自社の目標達成のために、どのような役割・スキルを持ったAI人材が必要なのかを考えることです。

AI人材に求められるスキルと知識

AI人材として活躍するにはどのようなスキルや知識が必要でしょうか。ここでは、AI人材に求められる主なスキルや知識について紹介していきます。

数学・統計学の基礎知識

AIモデルの多くは数学的な理論に基づいています。特に高校レベルの数学(線形代数、微分積分など)や、データの傾向を読み解くための統計学の基本的な知識は、AIの仕組みを理解する上で欠かせません。

ITの基礎知識

AIは当然ながらコンピューター上で動きます。そのため、コンピューターの基本的な仕組み、データがどのように保存・管理されるか、情報を守るための知識(セキュリティ)などの知識は必須です。

プログラミングの基礎知識

AI開発でよく使われるPython(パイソン)などのプログラミング言語は覚えておきたい知識のひとつです。基本的な文法を理解し、簡単なコードを読んだり書いたりできる能力は、多くのAI関連職種で役立ちます。

ビジネス理解力

AIはあくまで課題解決の手段です。自分が関わる会社の事業や業界のことを理解し、「何が課題なのか」「どうすればAIで貢献できるか」を考える力が必要です。

コミュニケーション能力

AIの専門家でない人にも、技術的な内容を分かりやすく説明したり、チームで協力してプロジェクトを進めたりする力は、どの職種でも重要になります。

これらの基礎を固めることが、AI人材への第一歩といえるでしょう。

AI人材を育成する5つのステップ

この章では、AI人材育成を効果的に進めるための5つのステップを解説します。

  1. 育成の目標と必要な人材像を明確化する
  2. カリキュラムを作成する
  3. 育成方法を選択する
  4. 継続して実践する
  5. PDCAサイクルを回す

闇雲に研修を始めるのではなく、しっかりとした計画に基づいて進めることが成功への近道です。ぜひ、自社での取り組みの参考にしてください。

ステップ1:育成の目標と必要な人材像を明確化する

AI人材育成をスタートするうえで、最初にやるべきことは「何のために育成するのか(目標)」と「どんな能力を持った人が必要なのか(人材像)」をはっきりさせることです。

ここが曖昧なまま進むと、せっかく時間とお金をかけて育成しても、「育成したけど、活躍する場がない…」「期待していたスキルと違った…」ということになりかねません。目標と人材像をしっかりと定めることが、AI人材育成の成功へとつながるのです。

ステップ2:カリキュラムを作成する

育成の目標と必要な人材像が決まったら、次は「どうすればその人材像に到達できるか」という具体的な学習計画、つまりカリキュラムを作成します。

いきなり手当たり次第に研修を受けさせるのではなく、ゴールまでの道のりを描いた「学習ロードマップ」を作るイメージです。これにより、効率よく、着実にスキルを身につけてもらえます。

ステップ3:育成方法を選択する

学習計画の次は、それをどのように実行していくかを考えます。育成方法には主に次のような選択肢があります。

【育成方法】
・社内教育:社内で勉強会を開いたり、先輩が後輩に教えたりする
・外部研修:外部の企業が提供する研修サービスやオンライン講座を利用する
・OJT:実際の仕事を通じて上司や先輩から指導を受ける
・自己学習支援:社員の自発的な学びを支援する

どの方法が最適かは、カリキュラムの内容、育成対象者の人数やレベル、会社の予算、社内に教えられる人がいるか、などによって異なります。例えば、社内にAIの専門家がいれば内製化も十分可能です。しかし、最新技術を効率的に学ぶなら外部研修が適しているかもしれません。

それぞれの方法にメリット・デメリットがあるため、ひとつに絞るのではなく、複数を組み合わせるのも有効です。自社の状況に合わせて、最も効果的で効率的な方法を賢く選択していきましょう。

ステップ4:継続して実践する

研修などで知識やスキルをインプットするだけでは、AI人材は育ちません。学んだことを実際の業務で「使ってみる」機会、つまり実践の場を提供することが不可欠です。

まずは、小さな業務改善や限定的なデータ分析など、失敗しても大きな影響が出ない範囲で学んだことを活かせる役割や仕事を任せてみましょう。そして、その結果に対して上司や先輩が適切なフィードバックを行うことで、本人の成長を力強く後押しできます。

さらに重要なのが、継続的な学習をサポートする仕組みです。AIの世界は日進月歩で、常に新しい技術や情報が登場します。

社内勉強会を定期的に開いたり、最新情報を共有できるチャットグループを作ったり、新しいツールを試せる環境を用意したりするなど、社員が学び続けられる環境を整えましょう。

ステップ5:PDCAサイクルを回す

AI人材育成の取り組みは「やりっぱなし」ではもったいないです。定期的にその効果を測定し、「育成が計画通りに進んでいるか」「当初の目標達成に近づいているか」を確認し、改善につなげることが重要です。

これをPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルを回す、と言います。

効果測定の方法には次のようなものがあります。

【効果測定の方法】
・研修後の理解度テスト習得したスキルレベルのチェック
・関連資格の取得状況の確認
・育成された人材が関わった業務の成果測定(業務時間削減率、KPI達成度など)本人や周囲へのアンケート など

育成目標に合わせて、何を測るかを事前に決めておきましょう。さらに、身につけたAIスキルや、AIを活用して会社に貢献した成果を、昇給や昇格などの人事評価制度にきちんと反映させる仕組み作りも大切です。

AI人材育成を成功させるための4つのポイント

この章では、AI人材育成をよりスムーズに進め、成功確率を高めるための4つのポイントを紹介します。

  1. 経営層の本気度を示し、社内の協力を得る
  2. 小さく始めて、着実に成果を出す
  3. 外部の研修サービスや専門家をうまく活用する
  4. 社員が自ら学びたくなる環境を整える

ひとつずつ見ていきましょう。

ポイント1:経営層の意思を示し、社内の協力を得る

会社にとって重要な取り組み「AI人材育成」を成功させるためには、何よりもまず、社長や役員といった経営トップの意思を明確にすることが不可欠です。

「これからの時代、AI人材育成は絶対に必要だ!」という強い意志を経営層が示し、それを社内全体に伝えることで、初めて全社的な協力体制が生まれます。

AI人材育成には、研修費用やツールの導入費といったコストがかかります。また、社員が研修に参加したり、OJTを受けたりするための時間も必要です。経営トップが必要性を理解し、GOサインを出さなければ、これらの予算やリソースを確保することは難しいでしょう。

経営層自らがAIの重要性を伝え、育成担当者や学ぶ社員を応援する姿勢を見せることで、社員のモチベーションも高まるはずです。

ポイント2:小さく始めて、着実に成果を出す

AI人材育成は、最初から完璧を目指して大規模に始めてはいけません。まずは「ここからやってみよう」と対象範囲や目標を絞って小さくスタートすること(スモールスタート)が、成功への第一歩です。

いきなり全社展開しようとすると、準備に時間がかかりすぎたり、どこから手をつければ良いか分からなくなったり、失敗したときの影響が大きすぎたりします。

それよりも、「特定の部署の、この業務をAIで効率化する」といった具体的なテーマを決め、少人数のチームでAI活用と人材育成を同時に試してみる方が現実的でリスクも抑えられます。

たとえ小さな取り組みであったとしても、その成果をきちんと測定しましょう。「AIを使ったら、これだけ業務時間が減った」「こんなことができるようになった」という具体的な数値を社内で共有することが重要です。

ポイント3:外部の研修サービスや専門家をうまく活用する

AIという専門性の高い分野の人材をすべて自社の中だけで育成しようとするのは、多くの場合、現実的ではありません。

社外にある専門的な研修サービスや、豊富な知識と経験を持つ専門家(コンサルタントなど)の力を上手に借りることも、育成を成功させるための重要なポイントです。

AI技術は日々進化しており、最新の知識やスキルを社内だけでキャッチアップし続けるのは難しいです。外部の研修サービスを利用すれば、質の高いカリキュラムで体系的に学べます。

また、経験豊富なコンサルタントにアドバイスを求めたり、社内研修の講師を依頼したり、OJTの指導役(メンター)になってもらったりすることも有効です。

ポイント4:社員が自ら学びたくなる環境を整える

AI人材育成を成功させるためには、社員自身が「AIについてもっと知りたい!」「新しいスキルを身につけたい!」と自ら進んで学びたくなるような環境づくりが重要です。

AI技術は常に進化するため、「一度学んだら終わり」ではありません。社員に自発的な学習意欲があれば、会社が細かく指示しなくても、自分で新しい情報を探し、スキルを磨き続けてくれるでしょう。

そのために会社ができることとして、例えば、誰でも自由に参加できる社内勉強会やセミナーの開催が効果的です。他にも、オンライン学習ツールを導入して好きな時間に学べるようにしたり、関連書籍の購入費用を補助したりするなど、学びの機会を豊富に提供すると良いでしょう。

【企業事例】AI人材育成の成功事例3選

最後に、実際にAI人材育成に力を入れ、成果を上げている企業の具体的な取り組み事例を3つ紹介します。

  1. 大和証券|全社員に安全なChatGPT環境を提供
  2. サイバーエージェント|全社を挙げての大規模なリスキングプログラムを実施
  3. ダイキン工業|社内大学「DICT」による体系的・長期的な人材育成

「他の会社はどんな風にやっているんだろう?」と気になる方も多いはずです。ぜひ、自社に取り入れられそうなポイントを探してみてください。

【事例1】大和証券|全社員に安全なChatGPT環境を提供

大和証券は全社員約9,000人に対し、セキュリティに配慮した専用環境のChatGPTを提供しました。

マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを利用し、機密情報漏洩リスクに配慮したセキュアな環境を構築。社員は、回答の正確性を自身で検証することを前提に、英語資料の要約、書類や企画書のたたき台作成、簡単なコード生成など、幅広い業務でChatGPTを活用しています。

出典:大和総研「ChatGPT利用環境構築サービス」

その結果、資料作成時間の短縮や外注費の削減を実現し、顧客対応や企画立案といった本来時間をかけるべき業務への時間を創出したのです。この事例からは、生成AIを全社導入する際のセキュリティ確保の重要性と、ルールを明確にしたうえでの幅広い活用の有効性が学べます。

【事例2】サイバーエージェント|全社を挙げての大規模なリスキングプログラムを実施

サイバーエージェントは急速に進化する生成AI技術に対応するため、全社を挙げて大規模なリスキリング(学び直し)プログラム「生成AI徹底理解リスキリング」を実施しています。

このプログラムは、「全社員」「エンジニア(for Developers)」「機械学習エンジニア/データサイエンティスト(for ML Engineers / Data Scientists)」という3つの階層に分けて設計されました。

全社員向けでは、執行役員を含む99.6%が講義動画を視聴し、理解度テストの合格は6,300名と非常に高い成果を上げています。

出典:株式会社サイバーエージェント「2025年末には全エンジニアの半数がAIを駆使できる開発組織に。「生成AI徹底理解リスキリング」1年目の成果を振り返る」

これらの取り組みの結果、エンジニアのスキルが向上し、日常業務での生成AI活用が進みました。

例えば同社では、Slack(社内コミュニケーションツール)での議論を後から参加した人でもすぐ理解できるよう要約するツールが開発されるなど、日々の「ちょっとした困りごと」をAIで解決しようとする文化が根付き始めています。

【事例3】ダイキン工業|社内大学「DICT」による体系的・長期的な人材育成

ダイキン工業は、2017年に社内大学「ダイキン情報技術大学(DICT)」を設立し、AIを含むデジタル人材を自前で育てるという挑戦を続けています。

DICTの大きな特徴は、新入社員を毎年100名規模で受け入れ、まるで大学院に入り直すかのように2年間かけて専門知識をみっちり教える点です。既存社員向けのプログラムも用意されており、質の高い教育を実現しています。

出典:ダイキン「NEWS」

育成においては、

  1. AIを活用できる人材
  2. AI技術を持って課題を解決できる人材
  3. AIアルゴリズムを理解して具現化する人材

という3つの具体的な人材像を定め、それぞれに合ったカリキュラムを用意。座学だけでなく、社員同士が学び合うコミュニティ活動や、上司との対話を通じたキャリアサポートも充実しています。

AI人材を計画的に育成し、現代ビジネスの変化に対応していこう

AI技術は、もはや無視できないビジネス変革の大きな波であり、その活用を担う「AI人材」の育成は企業の未来を左右する重要なカギとなっています。

本記事では、AI人材育成の必要性から始まり、求められるスキル、具体的な育成ステップ、成功のポイント、そして企業の成功事例まで幅広く解説してきました。これらの情報を参考に、ぜひあなたの会社でもAI人材育成への取り組みを検討してみてください。

まずは自社の課題を明確にし、「どのようなAI人材が必要か」「何から始められるか」を具体的に考えることから始めましょう。継続的に育成に取り組むことで、AIは必ずや貴社のビジネスを力強く後押ししてくれるはずです。

なおSHIFT AIでは、AI導入支援から人材育成研修、コンサルティングまで、企業のAI活用を一気通貫でサポートしています。AI人材育成や導入に関するお悩みは、ぜひ無料相談をご利用ください!

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