ChatGPTをはじめとする生成AIの導入が進む中、「とりあえず使ってみよう」と現場が先行し、あとから情報システム部門にルール整備を丸投げされる──そんな状況が増えています。

「何を整備すればいいのか?」
「どこまでやれば十分なのか?」
「どう社内に浸透させればいいのか?」

漠然とした不安を抱えつつも、上からは“うまく整備しておいて”とだけ言われる。そんな情シス担当者の皆さんへ、本記事では「ChatGPT社内利用ルールを整備するために、まず何をすべきか」を実務視点で整理してお伝えします。

  • 整備すべき基本項目
  • ステップごとの実践フロー
  • 社内浸透に向けた工夫
  • ルールづくりに使えるテンプレートや資料もご紹介

「使わせない」ではなく「安全に使わせる」ために、情シスとして今すぐ取り組むべきことを、この記事で明確にしていきましょう。

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なぜ情シスがChatGPTルール整備を任されるのか?

ChatGPTをはじめとする生成AIの社内活用が進む中で、導入後のルール整備を情シスが担うケースが増えています。
これは偶然ではなく、企業内における情報システム部門の役割が深く関係しています。

■IT環境全体の管理主体=情シス

情シス部門は、社内ネットワークやクラウドサービス、業務システムなど、全社的なIT資産と利用環境の設計・統制を担うポジションです。
そのため、新たなツール(ChatGPTなど)を導入する際にも、

  • どこまで使用を許容するか
  • どう安全に運用させるか
  • 誰がどんな設定で使えるのか

といった方針設計とガバナンス整備が自然と求められます。

■セキュリティ×業務効率のバランス調整役として

生成AIの社内活用は、便利な反面、情報漏洩・著作権・誤情報のリスクもはらんでいます。
情シス部門は、こうしたリスクを管理しながら、業務現場の効率化ニーズにも応えるバランス感覚が問われる立場です。

  • 安全に使える範囲を定める
  • 情報セキュリティの観点で“守るべきライン”を明示する
  • 現場が混乱しないように、使い方のルールを整備・周知する

これらを現実的な運用レベルで設計できるのは、情シスしかいないというのが多くの企業での実情です。

まず押さえるべき、ChatGPT社内利用ルールの要素一覧

ChatGPTの社内活用を進める上で、最初に整備すべきなのが「利用ルール」です。
情シスがこれを設計する際には、「入力内容」「出力の扱い」「使用環境」「社内展開方法」など、複数の観点を網羅的に検討する必要があります。

ここでは、情シスが最初に押さえておきたい主要なルール項目を整理します。

入力してはいけない情報の明確化

生成AIは、入力された情報を保存・学習する可能性があるため、入力内容の管理が重要です。
特に以下のような情報は明確にNGとしてルール化する必要があります。

  • 顧客の氏名・メールアドレスなどの個人情報
  • 社外秘の企画書や価格表などの営業資料
  • 社員の評価・給与・人事異動情報
  • APIキーや社内システムの認証情報

出力結果の扱いに関する指針

ChatGPTの出力内容は、あくまで「参考情報」であり、正確性や著作権の保証はないという前提が必要です。

  • そのまま社外文書や提案書に転用しない
  • 引用時には明示する
  • あくまでドラフトやたたき台として扱う

といった、出力の“使い方”に関する注意点もルールに含めるべきです。

使用アカウント・利用設定の統一

履歴の保存設定(オン/オフ)や、使用してよいアカウントの範囲なども統一しておく必要があります。

  • 会社支給アカウントでの利用のみ許可する
  • 「履歴オフ設定を必須」とする
  • API利用は禁止/申請制とする

といった技術的な設定も、情シス主導で全社基準を定めておくことが推奨されます。

■ログ監査・利用状況の把握

万が一の事故時に備え、利用履歴の取得や操作ログの保存体制を整えておくことも重要です。
可能であれば、社内システムや統合管理ツールと連携し、

  • 利用者・利用時間・入力傾向などをモニタリング
  • 外部ツールと連携した利用状況の可視化

などの仕組みを設計しておくと、「使わせるけど監査できる」体制が実現できます。

社内教育と利用ガイドラインの整備

ルールを定めても、現場が理解・納得しなければ形骸化します。
情シス主導で、簡潔で実用的なガイドライン資料やFAQの作成・周知も行いましょう。

👉関連記事:ChatGPT社内導入の注意点とルール整備チェックリストはこちら

【フロー図付き】ルール整備の実務ステップ4つ

ChatGPTのルール整備を「やらなきゃ」と思っても、どこから着手すればよいのか分からない——。
そんな情シス担当者のために、実際の整備プロセスを4つのステップに分けて解説します。
この流れに沿って進めることで、最小限の負荷でルールを形にし、現場に展開できるようになります。

ステップ1|ポリシー設計:まずは線引きを明確に

最初に行うべきは、「どこまでを許容し、どこからがNGか」という判断軸を定めることです。

  • 入力NG情報の具体例リスト化
  • 部署・業務別に許可レベルを分ける(例:開発部門はAPI利用OKなど)
  • 目的外利用(私的利用・遊び利用など)の線引き

この段階では、“完璧”よりも“現場で運用しやすいか”を重視しましょう。

ステップ2|ガイドラインと周知資料の作成

ルールを形にしたら、現場向けに伝えるための“説明資料”を作成します。

  • 社員向けの簡易ガイドライン(1〜2ページ程度)
  • Slackやメールでの周知テンプレ
  • よくある質問をまとめたFAQ

ここで重要なのは、「読む人の視点で分かりやすく作る」こと。
法律文書のような難解な規定ではなく、業務に使う人が“すぐに理解できる内容”にしましょう。

ステップ3|利用環境・設定の標準化

次に、技術的な利用環境を統一・設定するステップです。

  • ChatGPTの履歴設定(OFF推奨)の周知徹底
  • 管理対象アカウントの制限(個人アカウントの利用制限など)
  • 社内Wi-Fi/VPN経由でのアクセスログ取得(可能であれば)

このステップは情シスの得意領域ですが、設定だけでなく「設定する理由」も現場に説明できるようにしておくと信頼されます。

ステップ4|小さく始めて改善する仕組みをつくる

最初から完璧を目指す必要はありません。むしろ重要なのは、小さく始めてPDCAを回す体制をつくることです。

  • 一部部署・プロジェクト単位で試験導入
  • 利用者からの声を集めてガイドラインをブラッシュアップ
  • 運用後に「誤入力」「困った点」などの事例を吸い上げて対策を反映

情シスが主体となってルールを“生きた仕組み”に育てていくことが重要です。

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つまずきやすいポイントと、情シスができる対策例

ルールを整備しただけで「ひとまず終わった」と思ってしまうと、現場ではほぼ使われず、結局無法地帯化する──。
そんなケースは珍しくありません。ここでは、よくあるつまずきポイントと、それに対する情シス視点の具体策を紹介します。

ケース①:「形式だけのルール」が現場に浸透しない

原因

PDFにまとめたものの、どこにあるのか誰も知らない/読んでも難しくて伝わらない

対策

  • SlackやTeamsに固定メッセージでルール要点をピン留め
  • 「NGワードリスト」や「入力OK・NG早見表」などのビジュアル資料を併用
  • 実際のプロンプト事例を使った使い方マニュアルを展開

ケース②:ログは取っているが“見る文化”がない

原因

ログ取得だけで満足し、実際の内容チェックや改善につながっていない

対策

  • 週次または月次で「利用状況レポート」を自動化(件数・時間帯・アカウント別)
  • 監査部門と連携し、「ログが監視されている」意識を社内に浸透させる
  • 異常検知アラートの簡易設定(例:深夜利用、外部IPアクセスなど)

ケース③:「うちの業務には使えない」と判断されている

原因

現場に活用事例が共有されておらず、使い道が分からない

対策

  • 社内で使える“プロンプト集”をナレッジとして蓄積・展開
  • 1on1やミニ勉強会で業務別ユースケースを共有
  • 「使ったら便利だった例」のフィードバック投稿キャンペーンを実施

ケース④:情シスが“全部抱え込んでしまう”

原因

社内の問い合わせ・ルール設計・現場指導まで情シスが単独で回して疲弊

対策

  • 管理職や現場リーダーに説明資料を渡し、“一次回答者”として協力を依頼
  • FAQを社内WikiやNotionに公開し、「まずここを見る」を定着
  • 人事や法務と連携して“全社横断プロジェクト”に格上げすることも選択肢

つまずきは避けられないものですが、あらかじめ起こりやすいポイントを見越して、シンプルな対策を用意しておくことが情シスにとって最も現実的な戦略です。

まとめ:まずは“完璧”より“現実的な第一歩”を

ChatGPTのような生成AIの社内活用は、今や一部の先進企業だけの話ではなくなっています。
現場がすでに使い始めている中、情シスに求められるのは「禁止する」ことではなく、「安全に使わせる」ための仕組みづくりです。

とはいえ、ルール整備には終わりがありません。最初からすべてを完璧に仕上げる必要はなく、小さく始めて、徐々に精度を上げていくことが、現実的かつ継続可能なアプローチです。

情シスが担うべき要素は多岐にわたりますが、次の3つが最初の軸になります。

  • 「入力してはいけない情報」の明文化
  • 「利用ルール・ガイドライン」の見える化と周知
  • 「利用状況の可視化と改善」への仕組みづくり

AI経営総合研究所では、こうした取り組みを支えるテンプレートや資料をご提供しています。
情シス担当者の“最初の一歩”を後押しするツールとして、ぜひご活用ください。

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Q
ChatGPTの社内利用ルールは、どの部門が作るべきですか?
A

基本的には情報システム部門(情シス)と情報セキュリティ部門が中心となって作成します。
ただし、業務で使うのは各部門の現場社員なので、人事や総務、法務部門との連携も重要です。現場に浸透させるには、部署横断での協力体制が欠かせません。

Q
入力してはいけない情報は、どうやって判断すればよいですか?
A

原則として「社外に漏れて困る情報」はすべてNGです。
具体的には以下のようなものが該当します。

  • 顧客情報や個人情報(氏名、連絡先など)
  • 社外秘資料(企画書、価格表など)
  • 人事評価・給与情報
  • APIキーやパスワードなどの認証情報

“誰かに見られて困るかどうか”を基準に判断する運用が現場では効果的です。

Q
ChatGPTの利用履歴を企業として管理する方法はありますか?
A

可能です。以下のような方法があります。

  • ChatGPTTeamやEnterpriseプランを導入して履歴管理・アクセス制限を活用
  • プロキシやSaaS管理ツールと連携し、アクセスログを取得・分析
  • 特定アカウント・IPのみ利用可能にするネットワーク制御

履歴が“個人任せ”になっていると情報漏洩のトレースができないため、情シス側で仕組み化することが重要です。

Q
ガイドラインやルールを作っても社員が読んでくれません…
A

よくある課題です。以下の工夫が効果的です。

  • 「OK/NG例」を図解で示す早見表を作る
  • Slackやメールに要点だけまとめたテンプレを投稿
  • 利用頻度が高い業務を例にとって、「こう使える/こうすると危険」を見せる

“読ませる前提”ではなく、“見た瞬間に分かる”設計がポイントです。

Q
社内への展開や教育はどのように行えばよいですか?
A

以下のようなステップが有効です。

  1. まず管理職に内容を説明し、巻き込む(一次回答役に)
  2. 社員向けに短時間のオンライン説明会や動画マニュアルを実施
  3. ガイドラインを社内ポータルやWikiに常時アクセス可能な形で掲載

加えて、「なぜ必要なのか」をしっかり伝えることで、“やらされ感”を減らし、自主的な運用につながります。

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