「ChatGPTを導入したのに、誰も使っていない」
「情シス主導で進めたが、他部署は静観しているだけ」
「“PoCは成功”したけれど、本番運用には至っていない」

生成AI導入に関する現場の声を拾っていくと、こうした“失速”や“空回り”のケースが少なくありません。

背景にあるのは、技術ではなく「体制」の問題。ツール導入やPoCだけでは、AIは業務に根づきません。

特に見落とされがちなのが、「誰が」「どの役割を担い」「どのタイミングで関わるか」というチーム体制の設計です。

生成AI導入は、一部門だけの取り組みでは成果が出ません。経営・現場・情報システム・育成支援など複数部門が連携し、“共創”することが前提となります。

本記事では、生成AI導入を成功させるために必要なチーム体制について、役割分担・フェーズ別の設計・他社の落とし穴などを具体的に解説します。

記事の後半では、体制を整えたうえで導入効果を最大化する方法についてもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

なぜ「チーム体制設計」がAI導入のカギになるのか

生成AIを導入した企業の中には、「PoCではうまくいったのに、現場で使われない」という声が後を絶ちません。

その原因はツールの性能や導入スピードではなく、多くの場合、“推進体制の不備”にあります。

特にありがちなのが、以下のようなパターンです。

  • プロジェクトの主体が曖昧で、誰が責任を持つか不明
  • 情シス部門が導入を主導するも、現場の理解や協力が得られていない
  • 現場が活用に前向きでも、経営層や他部門のサポートがないため拡大できない

こうした状況では、「技術的には可能でも、実装されない」という“PoC止まり”に陥りやすくなります。

生成AI導入で成果を上げるには、「どんなチームで、どのような役割分担で進めるか」という体制設計こそが重要です。

これは単なるプロジェクトチームではなく、横断的に知見を持ち寄る“共創体制”の構築を意味します。

社内で導入推進を担う人にとっては、この体制づくりが最初の壁になります。

逆にいえば、ここを正しく設計できれば、その後の展開もスムーズに進む確率が格段に上がるのです。

✅ 体制づくり以前に「PoC止まり」から抜け出せない…という方は
👉 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ

生成AI導入チームの「4つの基本役割」とそのミッション

生成AIの導入は、特定部門だけで完結する取り組みではありません。

成功する企業の多くは、明確に役割を分けた体制を構築し、フェーズに応じた人材配置を行っています。

ここでは、導入プロジェクトに必要な「4つの基本役割」と、それぞれのミッションを整理します。

① 推進リーダー(プロジェクトオーナー)

  • 主な担当:経営企画、DX推進室、情報システム部門など
  • ミッション:導入の目的・KPI設計・スケジュール管理
  • ポイント:単なる“調整役”ではなく、「AI導入がなぜ必要か」を全社に伝える旗振り役が求められます。

② 業務代表(現場サイドのユースケース担当)

  • 主な担当:各業務部門のマネージャー/プレイヤー
  • ミッション:具体的なユースケース探索とPoCでの実証
  • ポイント:日々の業務に生成AIがどう組み込まれるかを判断する立場。業務起点での提案・改善が鍵。

③ 技術サポート(テクニカルアドバイザー)

  • 主な担当:情報システム部門、外部パートナー
  • ミッション:ツール選定、API連携、セキュリティ・ガバナンス整備
  • ポイント:導入の「現実性」を担保する存在。特に社内ガイドライン策定では主導的な立場に。

④ プロンプト設計・育成支援(社内活用の加速担当)

  • 主な担当:人材開発、AIリテラシー教育の主管部門
  • ミッション:プロンプト支援、活用マニュアル作成、リテラシー教育
  • ポイント:導入直後の活用支援や「使われ続ける仕組み」を設計するキーパーソン。

これらの役割を曖昧にせず明確に切り分け、適切なタイミングで関与させることで、チームとしての推進力は大きく高まります。

逆に、どれか1つでも欠けていると、「PoCだけで終わる」「現場が使えない」といった状態に陥りやすくなります。

導入フェーズ別|チーム体制の進化モデル

生成AI導入は、一度チームをつくれば終わりというものではありません。

PoC → スケール → 定着と進んでいく中で、求められる体制や関わる人も変化します。

ここでは、導入の3フェーズに応じた「チーム体制の進化モデル」を解説します。

◆ フェーズ①:PoCフェーズ|最小ユニットで“まず試す”

  • 構成例:推進リーダー+現場代表+技術支援(必要最小限)
  • ポイント:スピード重視。スモールスタートで「試せる環境」を整える
  • 役割:課題の仮説立て、業務選定、AIの“効きそうな場所”を見つける
  • リスク:「孤立したPoC」に終わらせないこと

このフェーズでの“孤立しがちな担当者”の課題については、以下の記事でも詳しく解説しています。
👉 AI導入担当者が孤立しない体制とは?巻き込み設計と社内ハブの作り方

◆ フェーズ②:スケールフェーズ|全社展開へ向けた“横断チーム”

  • 構成例:各部門代表+育成支援+経営層の関与
  • ポイント:情報の集約と共通ルールづくりが必須
  • 役割:ユースケースの横展開、成功事例の共有、CoE的なチームの立ち上げ
  • 課題:部門間の温度差・リテラシー差への対応

◆ フェーズ③:定着フェーズ|教育・評価を含めた“循環型体制”

  • 構成例:育成部門・現場リーダー・情シス・経営層が連携
  • ポイント:導入が“当たり前になる”ための支援体制を構築
  • 役割:リテラシー研修、KPI設計、活用状況のモニタリング

こちらの記事もあわせて読んでいただくと、参考になるはずです!
👉 AIリテラシー研修は外注すべき?社内設計との違い・判断基準を徹底解説
👉 生成AI研修を“1回きり”で終わらせないための仕組み設計

導入が進めば進むほど、「仕組み」だけでなく「人の配置」もアップデートが必要になります。

単発プロジェクトではなく、“育てていく組織体制”として捉えることが、長期的な成功には欠かせません。

他社がやりがちな“チーム設計の落とし穴”とは

生成AI導入に取り組む企業が増える一方で、「チーム体制のミス設計」によってプロジェクトが頓挫するケースも多く見られます。

ここでは、他社が陥りがちな3つの“よくある失敗パターン”を紹介します。

❶ 情シスだけで進めてしまう

「AI=IT領域」と捉えてしまい、情シス部門だけでツール選定から実装まで完結させようとするケースです。

この場合、現場ニーズを汲めず、結果的に「便利だけど使われない」状態に陥りがちです。

  • ❌ 業務との接続が弱く、PoC止まりになる
  • ❌ “守りの体制”になり、展開速度が鈍化する
  • ✅ 業務代表や育成支援の巻き込みが不可欠

❷ 現場任せにしてしまう

逆に、AI導入を“現場の試行錯誤”に任せると、属人的な取り組みになりがちです。

「試してみたけどうまくいかなかった」という感覚が社内に広がり、生成AIに対する期待値そのものが下がってしまうリスクがあります。

  • ❌ 成果が見えづらく、上層部からの投資継続が得られない
  • ❌ 情報が分散し、成功事例の横展開ができない
  • ✅ 早期から経営や技術支援を巻き込む仕組みが必要

❸ 役割分担が曖昧なまま走り出す

「誰が何を担当するのか」「どこまでの責任を持つのか」が明確でないままスタートしてしまうと、

途中で責任の押し付け合いや、動かないボトルネックが発生します。

  • ❌ 「推進リーダー不在」「誰も意思決定できない」状態に
  • ❌ チームの目的が曖昧で、メンバーの関与が形骸化
  • ✅ 導入フェーズごとの役割定義と責任範囲の明文化が重要

こうした落とし穴は、「生成AIをどう使うか」以前に、「誰と進めるか」が曖昧なことに起因します。

導入に本腰を入れるなら、まずはこうした失敗パターンを避けるチーム設計から始めましょう。

成果につながるチーム運営のポイント5選

チーム体制を整えることは、生成AI導入の“スタートライン”にすぎません。

実際に成果へつなげるには、チームをどう機能させ、持続的に運営していくかがカギを握ります。

以下に、現場で「使われるAI」を実現するための運営ポイントを5つに整理しました。

① KPI・成果指標の“共通言語化”

部門ごとにゴールの定義が違えば、チームは分断されてしまいます。

たとえば、情シスは「安定稼働」、現場は「業務削減」、経営は「ROI」と、見ている指標がバラバラになりがちです。

  • ✅ 「この取り組みは何を目指すのか」を、KPIやアウトカムとして明確化
  • ✅ 評価指標を揃えることで、チーム全体の視点を統一

② チーム間の“翻訳者”を配置する

AI導入プロジェクトでは、「現場の言葉」と「技術の言葉」のギャップが壁になります。

そこで重要なのが、“両方の言語を理解できるファシリテーター的な存在”です。

  • 例)プロンプト支援者、DX人材、業務×AIに強いハブ担当者
  • ✅ 会話のすれ違いを防ぎ、プロジェクトを円滑に進行

③ 失敗事例やナレッジの“共有と蓄積”の仕組み

成功事例だけでなく、うまくいかなかったケースも資産です。

PoCフェーズでの失敗談、現場のつまずき、ツール活用のコツなどを共有できる仕組みをつくることで、次の展開が加速します。

  • ✅ SlackやNotionでナレッジ蓄積
  • ✅ 勉強会や事例共有会を定期開催

④ ツール導入ではなく“業務起点”での会話

「まずChatGPTを使ってみよう」ではなく、「どの業務を変えたいか」を出発点にすることが重要です。

ツール起点では現場に定着しづらく、導入後の活用が伸び悩みます。

  • ✅ 業務棚卸しや業務選定ワークショップをセットで実施

関連記事:
👉 生成AI導入に適した業務選定の考え方

⑤ 研修・教育との“セット運用”で定着を支援

チーム設計と並行して、「現場が使えるようになる」ための支援体制が必要です。

育成やリテラシー教育を後回しにすると、「知ってはいるけど使わない」状態になります。

  • ✅ 利用マニュアル/プロンプト事例/ハンズオン研修などの導入

関連記事:
👉 AIリテラシー研修は外注すべき?社内設計との違い・判断基準を徹底解説
👉 生成AI研修を“1回きり”で終わらせないための仕組み設計

生成AI導入を成功に導くチームの“理想像”とは?

ここまで見てきた通り、生成AI導入の成否は「どんなチームで、どう運営するか」に大きく左右されます。

では、成果につながる理想的なチームとは、どのようなものなのでしょうか?

以下に、成功している企業に共通する“3つの特徴”を紹介します。

特徴①:部門横断のCoE(Center of Excellence)型チーム

  • 各部門から代表者を集めた“横串”チームがAI活用の中核を担う
  • ユースケースの収集、ナレッジ共有、ルール策定を一手に担うことで、属人化を防止
  • 情報の分散を防ぎ、意思決定をスムーズにする“社内ハブ”の役割を果たす

特徴②:トップダウンとボトムアップの“両輪”で進む

  • 経営層が「会社としての方針」を示し、現場が「実践」を担う構造
  • トップダウンだけだと現場がついてこず、ボトムアップだけだと全社展開が止まる
  • 両方をつなぐ“推進リーダー”の存在が要となる

特徴③:評価と育成まで含めた“循環型体制”

  • 導入→活用→評価→改善→再設計…というサイクルをチームで回す体制
  • 単発の導入で終わらず、活用状況をモニタリングしながら改善していく仕組み
  • KPI設計とリテラシー研修がセットになっていることで、継続的な成果につながる

こうしたチームの“理想像”を描くことで、自社の現状とのギャップも明確になります。

まずは読者の皆さんが、「いま自社で足りていないのはどこか?」を考えることから始めてみてください。

チームを整えることで“現場で使える”導入になる

生成AI導入において、どのツールを使うかと同じくらい重要なのが、「誰と、どの体制で進めるか」です。

実際に成果を出している企業の多くは、推進リーダー・業務代表・技術支援・育成支援といった役割を明確にし、フェーズに応じて体制を進化させています。

逆に、体制が曖昧なまま進めてしまうと、「PoCはやったが現場で使われない」「導入したが効果が見えない」といった状態に陥りがちです。

本記事では、導入フェーズ別のチーム設計、役割分担、よくある落とし穴、そして運営のコツまで網羅的に解説しました。

ぜひ、自社の現在の状況と照らし合わせながら、「足りていないピースはどこか?」を考えてみてください。

チーム設計や体制作りに加え、現場のAIリテラシー向上を支援する法人向け研修もご提供しています。

SHIFT AI for Biz 法人研修資料ダウンロード

サービス紹介資料

FAQ:よくある質問

Q
生成AI導入チームは、必ず専任で構成する必要がありますか?
A

必ずしも専任チームである必要はありません。

PoC段階では、既存のDX推進室や情報システム部門などを中心に兼任体制で小さく始める企業が多いです。

ただし、スケールフェーズ以降は「AI推進に一定の工数を割ける人材」を明確にすることが、継続的な活用には不可欠です。

Q
小規模な会社でも生成AIの導入チームを組むことはできますか?
A

はい、可能です。

重要なのは人数ではなく、「必要な視点(経営・現場・技術)」を押さえることです。

例えば、3名の少人数でも、「意思決定できる人」「実際に使う人」「技術面をカバーできる人」がいればスタートは切れます。

Q
チーム体制づくりと並行して、現場メンバーの教育も必要ですか?
A

はい、教育は導入定着において非常に重要です。

導入チームが設計や推進を担う一方で、現場が生成AIを活用できる状態を作るには、リテラシー教育やプロンプト研修が欠かせません。

その意味でも、研修支援や活用事例の共有はチーム運営とセットで進めるべき要素です。