「ChatGPTを導入したけど、現場で使われているか分からない」
「業務が本当に効率化されたのか、測る方法が見つからない」
「上司から“それで結局何が変わったの?”と問われて言葉に詰まった」
──そんな声が、生成AIを導入した企業の現場から多く聞こえてきます。
生成AIの業務活用が進む一方で、「評価の設計」にまで手が回っていない企業は少なくありません。
しかし、活用の成果を“見える化”し、社内に伝える仕組みがなければ、PoCで止まってしまうのは時間の問題です。
本記事では、定量と定性の評価軸をどう使い分け、生成AIの活用効果を正しく測るかについて、部門別の具体例も交えながら解説します。
さらに、効果を社内に伝え、次の稟議につなげるための“見せ方”まで網羅。
「導入して終わり」にしないために、
今こそ、評価設計を見直すタイミングです。
👉 導入がPoC止まりにならないための全体設計はこちら
🔗 生成AI導入の“失敗”を防ぐには?PoC止まりを脱して現場で使える仕組みに変える7ステップ
なぜ生成AIは“効果が見えづらい”のか?
生成AIは、その特性ゆえに従来のITツールと比べて「効果が見えにくい」と感じられることが多くあります。これは単なる導入設計のミスではなく、生成AIという技術がもつ本質的な特性にも関係しています。
1. 成果が「目に見える形」で現れにくい
たとえば、RPAのように定型業務を明確に自動化するツールであれば、「処理時間が何分削減された」「エラー率が何%減った」といった効果を明快に測定できます。
一方、生成AIは「提案の質が上がった」「コミュニケーションがスムーズになった」といった定性的な変化を引き起こすケースが多く、こうした変化は数値での可視化が難しいのが実情です。
2. 評価視点が定まっていない
「何をもって成功とするか」の定義が曖昧なまま導入されているケースも多く見受けられます。
- 誰が
- どの業務で
- 何を変えたいのか
──この視点が欠けたままでは、活用結果を評価しようにも判断軸が定まりません。
導入目的と評価軸がずれてしまえば、「せっかく効果が出ていても、社内で評価されない」といった事態にもつながりかねません。
定量評価で押さえるべき4つのKPI軸
生成AIの導入効果を可視化するうえで、まず検討すべきは定量的な指標(KPI)です。
明確な数値目標を設けることで、「成果が出ているかどうか」を社内で客観的に説明しやすくなります。
以下は、PoC〜本格導入フェーズにおいて活用されやすい代表的な指標です。
1. 工数削減・時間短縮
もっとも分かりやすい効果は、特定タスクの作業時間削減です。
例:
- 提案書作成が1件あたり30分短縮された
- チャット返信のテンプレート生成で対応時間が半減した
- マニュアル作成時間が3日→1日に短縮された
このような「Before/After」の比較が可能なタスクを選定し、数値化しておくことが重要です。
2. アウトプット品質の変化
作業時間だけでなく、成果物のクオリティ向上も評価対象です。
例:
- 資料の誤字・脱字が減った
- ユーザーへの回答内容の網羅性が向上した
- アイデアのバリエーションが増え、提案数が増加した
数値で測るのが難しい場合は、第三者によるレビュー点数や校正・レビュー工数の削減などをKPIに置き換えると可視化しやすくなります。
3. 処理件数・対応スピードの変化
生成AIによって対応能力が向上すれば、単位時間あたりの処理量や対応スピードの改善が期待できます。
例:
- お問い合わせ対応件数が1日100件→130件に増加
- 報告書作成のリードタイムが2営業日→即日対応へ
- 社内FAQ対応が1人→AIチャットボットに移管され、月間200件処理
4. ツール利用率・稼働ログ
「そもそも使われているのか?」という観点も忘れてはなりません。
利用率や稼働ログは、定着度合いを測るシンプルかつ有効な指標です。
例:
- 特定ツールの利用率が月間20%→65%に向上
- 特定部門の活用セッションが週10回→50回へ増加
利用ログの可視化は、定性評価と組み合わせることで説得力が増すため、記録・収集の仕組みづくりが重要です。
🧭【補足】評価設計は「導入前」に行うのが理想
PoC実施後にKPIを定めるのでは遅すぎます。「どの業務で、どんな変化を起こすか」を導入初期から設計しておくことが、成功の鍵です。
📎 詳しくはこちら
🔗 PoCで成果を出す業務選定ガイド
定性評価で見逃されがちな成果とは?
定量指標だけでは測りきれない、“現場の変化”に目を向けることも欠かせません。
とくに生成AIは、働き方・思考法・社内文化にまで影響を与えるため、定性評価によってしか把握できない成果が数多く存在します。
以下に、見落とされやすいが重要な定性成果の例を紹介します。
1. 心理的な変化(抵抗感 → 受容)
- 「AIは自分には関係ない」と思っていた社員が、日常業務で活用を始めた
- 初期は不安視されていたが、現在は「使うのが当たり前」という空気感が醸成された
こうしたマインドセットの変化は、活用定着の大きな前兆です。
アンケートやインタビューによる社員の声を定期的に取得・蓄積していくことで、活用の“兆し”を捉えることができます。
2. コミュニケーションの質向上
- 提案資料の下書きがAIにより整い、議論が「中身の改善」に集中するようになった
- マネージャーと部下の情報共有がスムーズになり、属人化が解消し始めた
このようなプロセスの変化は定量化しにくい一方、現場にとっては極めて実感値の高い成果です。
3. 新しい業務創出・提案増加
- 「業務をこなすだけ」だった社員が、AIを使って提案資料を作り、企画を出すようになった
- 属人的だった作業が自動化されたことで、メンバーが分析業務に時間を割けるようになった
生成AIは創造性やチャレンジの土壌を育む力も持っています。新しい取り組みが始まったかどうかは、活用の成熟度を測るうえでの重要な指標となります。
4. 「活用者の声」をデータとして扱う
AIの効果を「なんとなく良さそう」ではなく、“ナラティブデータ”として定義する視点が重要です。
- 「毎朝10分時短できるのが助かっている」
- 「資料のベースがあるだけで、安心感がある」
- 「自分の思考整理に使っている」
こうした声を集め、業務別・職種別に整理することで、評価資料や稟議資料の説得力が格段に高まります。
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部門別:よくある評価指標の具体例
生成AIの効果は、導入部門や業務内容によって異なります。
ここでは、代表的な4部門における「定量+定性」両面からの評価指標を具体的に紹介します。
営業部門|提案の質とスピードを評価
定量指標:
- 提案資料作成の所要時間(例:2時間→45分)
- 提案回数やアプローチ件数の増加
- クロージング率の変化
定性指標:
- 提案内容のバリエーションや説得力向上
- 顧客からのフィードバック変化(「資料が分かりやすい」など)
- 若手社員の提案内容の質的改善
人事・研修部門|教育プロセスの効率化とリーチ
定量指標:
- 研修資料作成にかかる時間削減
- FAQ自動応答数や研修受講率の変化
- アンケート回収率・研修満足度スコア
定性指標:
- 社員の不安軽減や自信の変化
- 生成AIによる内製化推進の兆し
- 「質問が減った/増えた」などの観察ベース変化
情報システム部門|問い合わせ削減とナレッジ整備
定量指標:
- 社内問い合わせ件数の変化(例:月300件→120件)
- ドキュメント作成件数の増加
- 社内ナレッジ検索・アクセス数の増加
定性指標:
- 問い合わせ内容の質的変化(「調べても分からない」→「応用質問」へ)
- IT部門の負荷・工数感の変化
- 「情シスに頼らず解決できるようになった」という現場の声
管理・バックオフィス部門|事務処理精度と業務余力
定量指標:
- 契約書チェックや社内文書作成の時短
- 修正依頼回数の減少
- 業務処理件数の増加
定性指標:
- 書類の表現や整合性の質向上
- 書類作成に対するストレス軽減
- 手作業中心だった業務の“型化”が進んだ
部門ごとに評価視点を最適化することで、「うちでは使える/使えない」の議論を超えた現場レベルの合意形成が可能になります。
“評価して終わり”にしないために:社内への伝え方
せっかく生成AIを活用して成果が出ても、それを社内に正しく伝えられなければ、次の投資や全社展開にはつながりません。
PoC後に「で、結局どうだったの?」と問われ、言葉に詰まってしまうケースも少なくありません。
評価結果は、“伝え方”を設計してこそ価値を持ちます。
定量+定性の「ストーリー」で報告する
数字だけでは伝わらない。けれど“印象論”だけでも納得されない。
──だからこそ、「数値×エピソード」の掛け算が有効です。
例:
- 「提案資料作成が50%短縮されました(定量)」
- 「その結果、若手社員でも3件以上の提案が出せるようになりました(定性)」
このように、数字と実体験をセットにすることで、リアリティのある報告資料が完成します。
稟議資料で見落とされがちな観点
多くの企業が評価レポートで抜けがちなのが、「再投資・定着の兆し」に関する視点です。
- 社員から「他業務にも使いたい」と声が出ている
- 他部署からも相談が来始めている
- 活用が習慣化しつつある
こうした“活用の空気感”を伝えることで、定着フェーズへの次ステップを正当化できる材料になります。
ネガティブな結果も「学び」として伝える
評価設計は、成功を証明するためのものではありません。
導入がうまくいかなかったケースも、「どこが壁だったのか」を明らかにすることで、次の改善に活かせます。
- 活用が進まなかった要因(例:ツールのUI、教育不足)
- 現場からの正直な声
- リカバリ案や代替施策
これらを合わせて報告することで、単なる結果報告ではなく、組織変革のプロセスとしての評価に昇華できます。
📎 社内報告を「評価される成果資料」にする方法はこちら
🔗 PoC止まりを防ぐ“成果の見せ方”テンプレート付き解説
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評価→改善のサイクルをどう回すか?
評価は“終着点”ではありません。
むしろ、生成AI活用を現場に定着させるためのスタート地点と捉えるべきです。
ここでは、評価結果を「改善サイクル」にどうつなげていくか、実践的な視点から解説します。
評価軸は“変えていい”
PoC時点で設定した評価指標が、運用フェーズでもそのまま有効とは限りません。
- 現場の使い方が変わった
- 新しい業務に広がった
- 期待していた効果と違う成果が出た
──こうした変化を捉え、評価軸そのものを見直すことは前向きな進化です。
失敗ではなく、「学習」として捉えることが、生成AI活用を続ける組織に必要なマインドです。
活用データをフィードバックに使う
評価は資料にまとめて終わりではなく、次の改善や研修に活かす仕組みを整えてこそ意味があります。
- 活用ログやアンケートの分析結果を、社内研修の内容に反映
- 定量結果をもとに、別部門でもPoCを開始
- 社員の声を共有し、社内の活用ガイドラインを改訂
このように、評価→改善→再活用のループを設計することが、“活きた評価”の条件です。
📎 評価を活かした継続的な育成設計のヒントはこちら
🔗 AI研修が“1回きり”で終わってしまいやすい理由とは?
部門横断の視点で再設計する
初期段階では「情シスが主導」「一部の部門だけで導入」といった形が多く見られます。
しかし評価を通じて得られた示唆は、他部門や全社展開への土台となります。
- 部門ごとの評価軸を共有し、ベストプラクティス化
- 評価結果を横展開し、他部門に「導入メリット」を伝える資料に活用
- 部門横断の推進チームを立ち上げる
こうした“横展開の起点”として、評価は非常に強力な武器になります。
まとめ|評価設計は「使いこなす組織」への第一歩
生成AIの導入は、あくまでスタートラインです。
本当に重要なのは、「どのように活用され、どのような効果をもたらしたか」を正しく捉え、次のアクションにつなげていくことです。
本記事で紹介したように、生成AIの評価には定量と定性の両軸が必要です。
- 数字で測れる成果だけでなく、現場の空気感や変化を可視化すること
- 評価結果を“伝える”視点で整理し、社内合意を得ること
- 部門ごとの指標を整備し、改善サイクルに組み込むこと
こうした評価の“仕組み”があってはじめて、生成AIは現場に定着し、全社に広がります。
PoC止まりを避けるには、評価の設計こそが鍵です。
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よくある質問(FAQ)
- Q生成AIの評価において「定量」と「定性」はどちらを重視すべきですか?
- A
両方の視点を組み合わせることが重要です。
工数削減や成果物の質など数値で示せる「定量指標」は社内説明や稟議に強みを発揮します。一方で、社員の心理的な変化や業務プロセスの改善といった「定性指標」は、現場定着を見極めるうえで不可欠です。どちらかに偏るのではなく、目的や業務に応じて使い分けましょう。
- Q評価指標はいつ設計すべきですか?
- A
原則として「導入前」、つまりPoCの設計段階で定めるのが理想です。
あとから評価しようとすると、成果の基準が曖昧になり、定着や再投資の判断が難しくなります。導入前に「どの業務で、誰が、どう変わることを期待するのか」を明確にしましょう。
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- Q評価結果をどう社内に伝えれば、再稟議や全社展開につながりますか?
- A
「数字 × ストーリー」で伝えるのがポイントです。
単なるKPI報告だけでなく、現場の声や改善のプロセスもセットで示すことで、社内理解と共感が得られます。導入の成果は、社内共有資料の質で決まります。
📎 関連記事:
🔗 PoC止まりを防ぐ“成果の見せ方”テンプレート付き解説
- Q評価が思うようにいかなかった場合、どうすればよいですか?
- A
評価軸の見直しや、活用目的の再定義が必要です。
生成AIの導入では「最初の想定通りに効果が出ない」ことも珍しくありません。むしろ、それをどう分析し、改善につなげられるかが重要です。失敗は次の成功のヒントになります。評価は“終わり”ではなく、改善サイクルの出発点です。