AIの活用が進む一方で、それを支える「AI人材」の不足が深刻化しています。専門的な知識や実務経験を持つ人材が圧倒的に足りておらず、企業では導入が進まない、プロジェクトが頓挫するなどの課題が相次いでいます。特に中堅・中小企業では、採用や育成体制の構築に悩む声も多く聞かれます。
そこで本記事では、AI人材の定義から、不足の背景、育成・確保のポイントまでを体系的に解説します。
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AI人材とは?定義と役割

AI人材は、AI技術を活用して課題を解決し、価値を創出する専門人材です。ここでは、AI人材の定義と、それぞれが担う具体的な役割を詳しく解説します。
AI人材の定義
AI人材とは、人工知能に関する深い知識と技術を持ち、AIの企画・開発・運用までを担える専門人材を指します。
経済産業省はAI人材を以下の3つに分類し、それぞれの役割と求められるスキルセットを明確にしています。
分類 | 役割 | スキルセット |
AIの問題を解決する人材(AI研究者) | AIの応用研究や標準化、新たなAIアルゴリズムの提案を行う | 博士号・修士号を取得、高度な数学的知識と学術的基盤が必要 |
AIを具現化する人材(AIエンジニア、AIプログラマー) | AIシステムの企画・設計・実装を担い、周辺技術と組み合わせて構築 | システム設計能力、プログラミングによる具現化能力 |
AIを活用する人材(AIプランナー) | AIの企画・業務設計、社内外との調整を行う | 技術スキルは必須でないが、AIの理解とビジネス活用力が必要 |
従来のIT人材が、人がプログラムした解決方法や判断ルールに基づきシステムを処理することを目指すのに対し、AI人材はAIが問題解決方法や判断ルールを創造することを目指します。
このため、AI開発では事前に完成形を定義するIT開発とは異なり、AIの精度向上のため、求める結果が得られるか予測し、必要な要件を都度判断して開発を進める必要があります。IT人材よりも高いレベルの知識や技能が重要なのです。
AI人材が担う役割
AI人材の役割は、AIの企画から開発・運用までを担い、業務効率化やデータに基づく意思決定、新たな製品・サービスの創出を通じて企業の競争力強化などが挙げられます。
中でもデータサイエンティストには、ビジネス課題を正確に把握し解決へ導く力、情報科学に基づく分析力、そして実用的に実装・運用する力という3つのスキルが不可欠です。
また、AIプロジェクトマネージャーでは、AI技術の特性理解や戦略的思考力に加え、人間関係構築力や継続的な学習姿勢が求められます。
近年では、生成AIの活用拡大により、プロンプトエンジニアが注目されています。適切な入力文の設計を通じてAI出力の品質を高める専門職として、言語モデルの知識や創造性、倫理観など多角的な資質が重要視されている職業です。
AI人材不足の現状と影響

AI人材が不足している現状や、その影響はどのようなものなのでしょうか。ここでは詳しく解説します。
AI人材不足の定義と背景
AI技術の急速な発展により、多くの企業が業務の効率化や新しいサービス創出のためにAIを導入し始めていますが、それを担う専門人材は圧倒的に不足しています。
IPAの「IT人材白書」によると、IT企業のAI人材保有率はわずか14.3%にとどまり、そのうち57.3%は保有も計画もしていないとされています。2025年5月に発表された経済産業省の調査では、2030年には最大12.4万人、2040年には326万人ものAI・ロボット関連人材が不足する可能性があると試算されています。
この人材不足の本質は、単なる数の問題ではなく、AIやIoTといった先端領域に求められるスキルと、従来のIT人材が持つスキルとのミスマッチに起因しています。技術革新のスピードに対して、教育・育成体制が追いついていない構造的な問題が浮き彫りになっています。
AI人材不足が企業に与える影響
AI人材の不足は、企業の競争力に深刻な影響を及ぼします。AI導入を進めたくても、適切なスキルを持つ人材が確保できなければ、システム開発やデータ活用が滞り、プロジェクトの遅延や中断といったリスクが高まります。
さらに、PoC(概念実証)止まりで本格導入に至らないケースも多く、AI活用が経営戦略として機能しなくなる恐れもあります。こうした事態は業務効率の低下だけでなく、新規事業の創出機会の喪失や既存市場での競争力低下にも直結するため、AI人材の確保と育成は企業成長の鍵となっています。
AI人材が不足する理由

AI技術の需要が急速に高まる一方で、それを担う人材の育成や確保が追いついていないことが、AI人材不足の根本的な原因です。以下では、AI人材が不足する主な理由を詳しく解説します。
専門知識の必要性
AIや機械学習の分野では、数学や統計、アルゴリズム、プログラミングなど、複数分野にまたがる高度な知識が求められます。特にディープラーニングや自然言語処理といった先端領域では、理論だけでなく実践的なスキルも必要とされ、習得するには多くの時間と労力が必要です。
近年では独学や研修でAIを学ぶ方は増えているものの、企業のプロジェクトで導入から運用まで一貫して携わった経験者は非常に少なく、即戦力人材の確保が難航しています。このように、基礎から実践に至るまでのスキルを備えた人材が圧倒的に不足していることが、AI人材不足の大きな要因の一つとなっているのです。
人材獲得競争の激化
AI分野で即戦力となる人材は各企業で高い需要があり、その争奪戦は年々激化しています。
大手企業や研究機関は、高額な給与や充実した待遇を武器に、優秀なAI人材を確保しています。反対に、資本力や知名度に乏しい中小企業は、同様の条件を提示することが難しく、採用競争で不利な立場に立たされているのです。
こうした構造により、限られたAI人材が一部の企業に集中し、多くの企業が人材確保に苦戦する状況が続いているのが現状です。特に中小企業においては、AI導入を進めたくても人材が確保できないため、業務効率化やサービス高度化が進まず、大企業との間でデジタル格差が拡大する懸念が強まっています。
教育機関との連携不足
AIは急激に発展し、ビジネス現場への普及も進んでいる一方で、それを担う人材を育てる教育体制はまだ十分に整っていません。大学や専門学校などの教育機関では、AIに関するカリキュラムが業界の実務に即しておらず、クラウド環境の活用や最新技術への対応が遅れているケースも見られます。
また、企業側でも「自社にAI人材が何人必要か」「どのような教育を施すべきか」が明確でないまま、育成が後手に回っているのが実情です。その結果、学びの提供側と現場のニーズが噛み合わず、教育と実践のギャップが埋まらないまま人材不足が続いています。
こうした連携不足に対する有効な対策が講じられなければ、業界全体の人材供給力は今後さらに減少していく可能性があります。
AI人材育成の課題と解決策

AI人材の確保が困難な中、ほとんどの企業で自社内での人材育成に取り組もうとしていますが、実際にはさまざまな壁に直面しています。
育成のための体制やリソースが整っていない企業も多く、学習機会の提供やスキル評価の方法にも課題が残ります。ここでは、社内育成が難しい理由や教育体制の整備の重要性、実践的な育成方法を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
社内育成が難しい要因
まず、AIに精通した社内講師やメンターの不在が大きな課題です。AI分野は技術の進化が非常に早く、最新の知識と実務経験を備えた人材がいなければ、育成は座学中心になりがちで、現場で活かせるスキルが身につきにくくなります。
また、継続的な学習のための環境整備も不足しており、学習時間の確保が難しい、演習用の設備が不十分、社内に学びを評価する文化がないなどの理由で、せっかくの意欲ある社員が途中で挫折するケースも少なくありません。
社内でのAI人材育成を成功させるには、業務の中に学習時間を確保する仕組みを組み込み、評価制度にもAI学習の成果を反映させることで、社員のモチベーションを維持するのが大切です。
また、社内に指導者がいない場合は、外部講師や研修サービスを活用し、ハンズオン形式での実践教育を導入することが効果的です。
教育体制の整備の重要性
経済産業省は、深刻なAI人材不足を国家的な課題と捉え、多角的な育成戦略を進めています。AIを使いこなして新たなビジネスを創出できる人材を再定義し、トップ人材の強化に加え、既存の人材のスキル転換やITリテラシー向上、教育現場の底上げを重視していると公表していました。
中でも内閣府の「AI戦略2021」では、数理・データサイエンス・AIの知識をすべての国民が身につけることを目指し、2025年までに大学・高専などの高等教育機関でのリテラシー教育を標準化する方針を掲げています。
また、企業内でのリスキリング支援や、小中高への段階的なAI教育導入も推進されており、国を挙げての人材基盤の強化が進められています。
出典:AI人材育成の取組
企業内での人材育成方法

AI人材不足を根本から解消するためには、外部からの採用に偏らず、社内の既存人材を活かす多面的なアプローチが欠かせません。まず、AI関連資格の取得を支援する制度や、学習成果に応じた報奨金制度を導入することで、社員の学習意欲を高められます。
次に、生成AIや自動化ツールを活用して日々の業務を効率化し、学習や実践に充てる時間を創出することも効果的です。
また、現場のIT技術者だけでなく、マネジメント層もAIの基礎を理解し、DXの方向性を社内全体で共有する仕組みが重要です。
少子高齢化により労働人口が減少する中、限られた人材の価値を高めるには、内製化と外部パートナーの併用、全社的な教育体制の整備、継続的なスキルアップを支援するサポート環境の改善が不可欠です。
AI人材の育て方のポイント

AI人材を効果的に育成するには、知識を習得するだけではなく、実務との接続や社内制度の工夫が重要です。以下では育成を成功させるための具体的なポイントを解説します。
役割に合わせたカリキュラム作成
AI人材育成では、職種やスキルレベルに合わせた柔軟で実践的なカリキュラムの設計が欠かせません。理論の習得だけでなく、翌日から実務で使えるスキルを身につけられるよう、継続的な研修とフォローアップの仕組みを整えることが重要です。
特に教育担当者は、生成AIなどのデジタル技術を活用しながら、社員一人ひとりに合った学習内容を管理・設計できる役割へと進化する必要があります。将来の働き方改革や業務のデジタル化を見据えて、現場での仕事に直結するスキルと、長期的な成長を支える基礎力の両方をバランスよく育てる視点が求められています。
こうした体系的な教育設計により、保守的な働き方から脱却し、幅広い業務に対応できるAI人材の育成が可能となります。
自己学習や外部研修の実施
企業が受験料の補助や学習時間の確保、資格合格時の報奨金制度などを導入することで、社員のモチベーションが高まります。これらの支援は一時的な施策ではなく、継続的に実施することが重要です。
また、外部研修では常に最新の技術や事例を学べるため、社内にない専門性を補う手段としてもおすすめです。実務と結びついた内容を取り入れることで、学んだ知識がそのまま業務に活かせ、学習の満足度も高まりやすくなります。
社員一人ひとりが主体的に学び続けられる環境を整えることが、組織全体のAI対応力を底上げする鍵となります。
政府の取り組みを社内で導入
政府はAI人材不足の解消に向けて、教育改革や社会人へのリスキリング、リカレント教育の推進を強化しています。例えば、「未踏IT人材発掘・育成事業」では、将来のイノベーションを担う若手人材を育成し、実務と研究の両面で活躍できる人材を支援しています。
また、AIモデルを活用した製品・サービスの開発には、業界ごとの専門知識が必須であることから、社会人への学び直しがより重視されるようになりました。
そのため、厚生労働省と経済産業省は連携し、ITスキル標準をデータ活用領域へと拡大するだけではなく、給付金制度の拡充やITパスポート試験の内容強化なども進めています。
こうした政策を踏まえ、企業が自社内に制度として取り入れることで、従業員がリモートワークでも継続的に学ぶ体制を整えられ、より多くの人材がAI分野で活躍できるでしょう。
AI人材に求められる知識やスキル

ここからは、AI人材に必要な知識やスキルをご紹介します。
AI人材に必要なスキルセット
AI人材には、技術的なスキルとビジネス的なスキルの両方が求められます。
<技術的なスキル>
スキル分類 | 内容 |
数学・統計 | 機械学習、ディープラーニング、統計学、数学(線形代数、微分積分など)の深い知識が不可欠 |
プログラミング | Pythonなどのプログラミング言語によるAIシステムの具現化能力が求められる |
コンピュータサイエンス | 2進数、コンピュータ構造、アルゴリズム、通信、サイバーセキュリティの知識が必要 |
モデル選択・チューニング・評価 | 適切なAIモデルの選定・調整・評価を行う能力が必要 |
運用・モニタリングスキル | 構築したAIシステムの運用と監視に関するスキルも重要 |
ハードウェア知識 | インフラ構築やデプロイにおけるハードウェアの理解が必要 |
データ処理・エンジニアリング | データベース管理、ETL、クラウド(AWS等)、ビッグデータ処理ツールの知識が不可欠 |
<ビジネススキル>
スキル分類 | 内容 |
戦略的・批判的思考力 | 情報を鵜呑みにせず、多角的に分析・判断する力が求められる |
文脈翻訳力・プロンプトリテラシー | AIとの対話で創造的なプロンプトを作成する能力が重要 |
ガバナンス思考と倫理判断 | AI導入に伴うリスクや倫理的問題に対応する判断力が必要 |
創造力と適応的問題解決 | 不確実な課題に柔軟に対応し、新たな価値を創出する力 |
共感力と人間関係スキル | 顧客理解やチーム連携などAIに代替できないスキルが重要 |
継続的学習能力(リスキリング) | 最新技術への適応力と学び続ける姿勢が企業競争力を支える |
ドメイン知識とデータ整備力 | 業界固有の知識と、高品質データを整える能力が不可欠 |
AI人材が活躍できる職種
AIの普及により、新しい職種を次々と生み出しています。AI人材が活躍できる一覧表を参考にしてください。
職種 | 説明 |
AIエンジニア | AIを活用したシステムやサービスの開発・実装を担い、機械学習モデルの構築、AIアプリの開発、インフラ整備などを行う |
データサイエンティスト | 蓄積されたデータをもとにビジネスの意思決定を支援し、統計や機械学習の手法を活用して課題の特定や改善策の提案を行う |
AIコンサルタント | 企業の課題に対してAIをどのように活用するかを提案し、導入まで支援する |
AIプランナー | AI導入プロジェクトの企画や進行を担い、事業課題を整理し、社内外の関係者と調整しながらプロジェクトを推進する |
プロンプトエンジニア | 生成AIの出力精度を高めるために適切な入力文(プロンプト)を設計する |
研究・開発職 | AI技術の進化を支える基盤となる職種で、新たな理論やモデルの提案、性能の向上を目指して実験・検証する |
データ探偵 | AIによる分析・統計で算出されたデータからアイデアを出したり、コンサルティングを行ったりする |
AI支援医療技師 | 遠隔操作を用い、病院が少ない地域で医師が診察を行えるようにする業務を担う |
AI人材育成の成功事例

AI人材不足への対策として、社内育成に成功している企業の事例は非常に参考になります。ここでは、実際に成果を上げた企業の取り組みや、業界別の育成モデルについて具体的にご紹介します。
成功した企業の取り組み
<NEC>
NECは2013年からAI人材の育成に注力し、2021年にはグループ全体で1,800名の育成を達成しました。独自の実践型教育「NECアカデミー for AI」を通じて、社員のスキルレベルに応じた段階的な学習機会を提供し、全社的なAIリテラシーの向上と組織的な活用力の強化を実現しています。
出典:デジタル人材を育成する具体的な方法は?~不足するAI・データサイエンス人材をどう育成する~
<東芝>
東芝は2019年からAIを活用した事業推進を見据えた人材育成を本格化させ、2024年までにAI分野の専門人材を2,300名以上に拡充しました。技術研修と現場実践を組み合わせた体系的な育成モデルを構築し、製造・エネルギーなど多様な分野でのAI活用を支える社内基盤の強化に成功しています。
<日清食品>
日清食品ホールディングスは「DIGITIZE YOUR ARMS」のスローガンのもと、ローコードツールを導入し、業務システムの内製化を推進。現場主導で開発を行う体制を整え、事業部門自らが改善を実践することで、デジタル活用の成功体験を積み重ね、組織全体のデジタル対応力を高めています。
出典:「デジタルを武装せよ」をスローガンに全社でデジタル技術を活用した“業務改革”を推進
業界別の育成モデル
<小売業>
ある小売企業では、AIに関する社内研修を強化し、店舗スタッフが売上や購買データを自ら分析できる体制を構築しました。その結果、在庫の最適化や販促施策の精度が向上し、現場レベルでのデータ活用が定着しています。実務に直結するスキル習得が業績改善にもつながる好事例です。
<製造業>
製造業のある企業では、AIによる生産性向上を目的に社員向け研修を実施し、現場での技術活用を促進しました。研修を通じて蓄積したデータ分析を強化し、異常検知システムを現場主導で構築。これにより、設備稼働率が改善され、運用効率の向上に直結する成果を上げています。
<不動産>
不動産業界の一部企業では、生成AIの業務適用を進め、提案書や広告文などの作成時間を大幅に短縮。社内ではSNS発信の効率化にも成功し、営業担当者の負担軽減に貢献しています。さらに、顧客対応の質を高めるために自社業務に特化したGPTsを開発し、提案プロセスの自動化を実現しました。
まとめ:AI人材を活用して会社を成長させよう
AI人材の需給ギャップは年々拡大しており、企業は人材獲得だけでなく育成や外部との連携を含めた多面的な対応が求められています。
人材の育成では、最新動向に応じた教育設計や継続的なリスキリングが欠かせず、各業界の成功事例からは、実務と連動した研修やツール活用が育成効果を高める鍵であることが分かります。
限られたリソースの中で効率的にAI活用を進めるには、信頼できる知見を持った支援先を活用することも重要です。
SHIFT AIでは、AI人材育成・導入支援に関する豊富な実績と専門的なコンテンツを提供しています。社内教育の企画から、業務活用に直結するAIツールの選定まで、貴社の状況に応じた柔軟な支援が可能です。
気軽にご相談いただける専任エージェントも在籍しておりますので、まずはお問い合わせの上、最適なAI活用のあり方をご検討ください。
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